組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第42回:Oracle Javaライセンス価格表の改定。
Employeeライセンス?!

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

The Only Constant is Change” 「唯一不変は変化だ」
この業界ではよく聞くフレーズですし、私も自分によく言い聞かせていますが、本当に目まぐるしい。
2023年1月23日の Oracle社の発表によると、同日の価格表「Oracle Java SE Universal Subscription Global Price List」により大きなJavaライセンス販売体系の変更がありました。

過去のコラム 「第38回:Java有償ライセンスの分界点に要注意!?
で説明したプロセッサやNUPのライセンスは、基本的には販売終了となり、追加のライセンスや新規のライセンスは、前述の Universal Subscription に置き換わりました。
詳細は、以下のOracle社公開の価格表を参照ください。
https://www.oracle.com/assets/java-se-subscription-pricelist-5028356.pdf

さて、ここで注意すべきは、販売体系に大きな変化があったことと、ライセンス契約書には変化がなかったことです。つまり、ライセンス契約の使用許諾条件は前述のコラムで説明したまま、ライセンスの販売体系のみが変更されたということです。したがって、ライセンスの要・不要の分界点については変化がありません。

 

ライセンスを購入するメトリックは?

上記の価格表の「Definitions」によると、Employee ライセンスの定義は、「全てのフルタイム、パートタイム、テンプスタッフを含む、および、すべてのエージェント、コントラクター、アウトソーサー、コンサルタントのフルタイム、パートタイム、テンプスタッフ」と明示されています。Java を使用しているシステムを使用していようが、いまいが、関係なく、すべてのワークフォースの人数をEmployee数と定義しているようです。
さらに、これらは組織が利用する全システムのプロセッサ(コア数)が50,000プロセッサまで、という制限がついています。それ以上の環境である場合は、「全従業員数」+「プロセッサライセンス」が合算されると定義されています。
例えば、10,000人規模の組織の場合は、
US$8.25/月 x12 x 10,000 = US$ 990,000
ドル円を130円で計算すると、990,000 x 130円= 128,700,000円
年間 約1億3千万円のサブスクリプション費用が発生します。

注意するべきポイントは、
① 本当に必要なOracle Java JDK はどれだけありますか?
② 正確に Java ライセンスが必要なシステムを識別していますか?
③ オプションの検討はしましたか?
④ 実質的に必要となるプロセッサライセンスと比較し、交渉する準備がありますか?

この価格体系を考察するに、まったく新しいコンセプトの価格体系であることは明らかです。
しかし、根底にあるべきは、「対価は、享受するメリットと等しくあるべきである」ということです。
そして、「ライセンス契約書」は、ビジネス契約であり、ビジネス契約とは「Agreement」であり、合意形成には「交渉」が前提である、ということです。
正確に、実際の状況を把握し、価格体系など過去の事例も参考にしながら、実際に享受するメリットおよびオプションを検討し、しっかりと「交渉」する、今こそその能力が問われています。

 

日本ベンダーマネジメント協会では、ベンダーマネージャ育成や、新時代に求められるVMOの定義を可能とする「ソフトウェアライセンス契約管理講習:SLAM(Software License Agreement Management)」(https://www.vmaj.or.jp/archives/member)(Oracleライセンス契約管理オプションあり)を、 VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の教育などを講習としても提供していますので、ご利用ください。

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筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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