組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第8回:VMOが機能していない組織の課題~海外大手ITベンダーとの関係構築にはベンダーマネージャの専門的知見が不可欠!~

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

目次
VMOは確立したがVMOへの期待値ばかりが高まり、実情がおぼつかない
複雑な利用規約は、単一の契約だけでは定義されていない

さて、10連休の超大型GWも終わり、本格的に新年度の課題へ取り組みを開始する季節がやってきました。

前回は、デジタルビジネス時代のベンダーマネジメントの重要性について解説しました。今回は、ベンダーマネジメントに既に取り組みを開始しており、VMO(Vendor Management Office)を確立しているにも関わらず、海外大手ITベンダーのベンダーマネジメントに苦しんでいる組織のVMOが、なぜ機能していないのかという観点から解説したいと思います。


VMOは確立したがVMOへの期待値ばかりが高まり、実情がおぼつかない

「ベンダーマネジメントは重要である」と、経営者が理解を示していてVMOを確立していたとしても、VMOの「役割と責任」が明確に定義されていないと「IT資産管理」や「構成管理」を成功に導くための十分なベンダーマネジメントの能力がVMOにないというケースが少なくありません。なぜならば、経営者がVMOへ要求する「役割と責任」や「機能」について、理解できる情報が提供されていないことが多いからです。

今までのVMOへの期待は、主に対象がSIerや開発パートナーなど、役務を提供するベンダーとの「調達」、「契約」、「パフォーマンス」に関係する管理を目的として定義されていました。しかし、ソフトウェアを提供してきた海外ベンダーのソフトウェアライセンス契約などは、同じレベルの経験だけでは対応が難しいことを理解してもらう必要があるのです。

これらのソフトウェアベンダーの製品はリセラーや代理店から購入されてきましたが、多くのソフトウェアベンダーがクラウドへと移行するなか、ソフトウェアベンダーはサービスベンダーへと性質を変化させています。ソフトウェアライセンス契約なども複雑なマルチクラウド環境において運用され、製品群も幅広く、ライセンスモデルやクラウドサービスの提供形態も、環境の変化に伴い劇的に変化し続けています。これらを的確に管理するためには、「契約」を理解し、管理することが不可欠です。そして海外では、この「契約」を理解するための利用規約が複雑化していることから、特定のソフトウェアメーカーに特化したベンダーマネージャという専門職が一般的になってきました。

ベンダーマネジメントにおける「契約の交渉と締結」には、特定のベンダーに特化したベンダーマネージャの能力として「当該ベンダーの製品やサービスを網羅的に理解し、自社の既存契約や過去の契約履歴を把握したうえで、契約を統合し、シンプル化しながら戦略的なWin-Winの関係性を継続的に向上していくことができる」という専門職ならではの知識や戦略が必要とされるのです。

複雑な利用規約は、単一の契約だけでは定義されていない

海外ではMicrosoft、Oracle、IBMなど大手ITベンダーが提供する製品やサービスのライセンス契約やクラウドサービス契約を理解するための教育プログラムを提供する専門ベンダーがあります。また、当該ベンダーとの戦略的パートナーシップを実現するためのベンダーマネジメントのコンサルテーションサービスを提供する専門ベンダーもあります。ベンダーマネージャに必要な能力を獲得するためにはそれなりの教育や時間がかかります。

デジタルビジネスや IoT など、エコシステムが不可欠となる次世代IT環境においてサービスを構成するベンダーの契約は最も重要な管理対象です。そのため、海外の組織は投資を惜しまずにベンダーマネージャという専門職を社内で育成したり、アウトソースしたりするという対策を講じています。残念ながら、国内ではゼネラリストに頑張ってもらい、片手間に勉強してなんとか対応しようとしたり、ゼネラリストで構成されたVMOにベンダーマネージャという専門職を置かずに「根性」で対応させたりしようという、旧態依然とした精神論で押そうという悲しい風潮が相変わらず大勢を占めているのが現状といえるでしょう。

現場でできることの一つは、経営者の理解を向上するために「新たな時代に備えたベンダーマネージャ要件の啓蒙と教育」が考えられます。海外ではこのようなエグゼクティブブリーフィングを支援する前述のようなベンダーが数多くありますが、国内でもそのようなサービスが立ち上がりを見せているので、専門家に相談することをお勧めします。

国際IT資産管理者協会が提供するCSAM講習では、アウトソーシングを管理するために必要なケイパビリティを獲得するための基礎的な教育を行っています。また、「ソフトウェアライセンス契約管理講習」など、特に VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の詳細などをCSAM資格者のためのフォローアップ講習としても提供していますので、ご利用ください。

以下に、IT資産管理システムのRFI/RFPのポイントをまとめた資料ダウンロードサイトをご紹介しますので参照してください。

再配布の際は出典を「国際IT資産管理者協会:IAITAMより」と明示して利用してください。

IT資産管理システム RFPたたき台 基本要求事項http://files.iaitam.jp/2017ITAMAutomationSystemRequirement.pdf

IT資産管理システム RFP項目と機能項目概要http://files.iaitam.jp/2017RFPItemAndDescription.xlsx

国際IT資産管理者協会 フォーラムサイト
メール会員登録だけでフォーラムサイトのホワイトペーパー、プロセステンプレート、アセスメントシートなどダウンロードが可能!
http://jp.member.iaitam.jp/

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筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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