組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第2回:組織横断で取り組むIT資産管理プロセスの構築(その2)

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

目次
ベンダーマネージャに求められるケイパビリティ

IT資産管理の取り組みはIT運用部門が中心となり進めていきますが、IT運用部門が取り組む際の代表的な失敗の原因はなんでしょう?
最も多いのは「インベントリ収集」をすることで資産の見える化ができたような気分になることです。
「そんなことぐらいは分かってるよ。正台帳の管理が必要ってことだろ」と、ご存じの方も多いと思いますが、ここでは、基本の基本に戻って解説したいと思いますのでご容赦ください。

そもそもインベントリ収集を行うことは必要不可欠なのですが、やみくもにインベントリ情報を収集しても「なんとなくこんな資産があるようだ」のレベルでしか見える化はできません。インベントリ収集は「証拠」を収集することが目的ですから、何を立証するために証拠を集めるのかという明確な目的を持って収集する項目を決定し、何を立証するのかというインベントリ収集をぶつける対象が明確に管理されていなければ意味がありません。

例えて言えば、刑事事件が発生した時に、その事件が「暴行事件」なのか、「強盗事件」なのか、あるいは「詐欺事件」なのかにより、何を立証するための証拠が求められているのかが異なります。ただ指紋や残留物などを採取しても、「現場にこれらの人がいた」、「現場にこんなものがあった」までしかわかりません。何を立証するために証拠を収集しているのかが明確になるように、IT資産管理においても立証すべき対象を明確にする必要があるのです。それでは、その立証すべき対象とはいったい何なのでしょう?

それは、IT資産に関係する契約や購入情報、ソフトウェアライセンスの割り当て情報などです。どのような条件の契約なのか、契約には必ずユーザーとしての権利と義務が存在します。その権利と義務を管理することが大切なのです。さらには、契約ベンダーの権利と義務も発生します。当然、これらのベンダーの権利や義務もユーザーとして管理する必要があります。IT資産に関係する契約には以下の契約などが考えられます。

  • ① ハードウェアの購買契約
  • ② ハードウェアのリース/レンタル契約
  • ③ ソフトウェアのライセンス契約
  • ④ ソフトウェアの保守契約
  • ⑤ クラウドなどサービス契約(パブリック/専用プライベートなど)
  • ⑥ 通信回線などのサービス契約

契約情報などは調達部門や契約部門、あるいはプロジェクトチームなどで管理されており、IT運用部門に共有されていないケースが多く、これらの全ての契約をたな卸しして、どのような契約が存在するのか、その全容を洗い出すことが大切です。そして、これらの契約に基づいた「発注情報」を契約とひもづけて管理することで、実際に購入または条件付きサービスとして提供された製品をハードウェアからソフトウェアまで網羅する正台帳を作成します。
これらの契約や購買情報のコントロールを継続的に実施するために重要な「役割」がベンダーマネージャです。

「ベンダーマネジメントなら調達がやってるよ」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、それは従来の取引先管理で終わっていないでしょうか?
複雑化するIT環境に関係する契約の管理は、以下のようなベンダーマネージャのケイパビリティを備えたVMO(Vendor Management Office)がパートナーシップとして、ベンダーとの関係性や提供される製品・サービスをコントロールすることが大切です。

ベンダーマネージャに求められるケイパビリティ

  • ① ベンダーが提供する製品・サービスの全てを把握している
  • ② ベンダーが提供する契約の諸条件を理解し把握している
  • ③ ベンダーが提示する諸条件のユーザーの権利と義務を理解し把握している
  • ④ ベンダーが提示する諸条件のベンダーの権利と義務を理解し把握している
  • ⑤ ベンダーが提示する義務を管理メトリクスとして監視、管理する設計ができる
  • ⑥ ベンダーと過去に契約した諸条件の経緯を理解し、現在の状態を把握している
  • ⑦ ベンダーへの期待値を設定し、パフォーマンスを定量化して測定を実施し、パートナーシップや契約条件(管理性を含)の継続的改善に努め、契約交渉に臨んでいる
  • ⑧ IT資産管理を担当する運用チームと協力し、IT資産をコントロールするための業務プロセスに必要となる管理メトリクスを提供する

前掲の項目を読み進めているうちに「いや、これは大変だよ」と感じられた方も多いかと思います。まったくその通りです。対象ベンダーがマイクロソフトやオラクル、IBMなどであれば、製品やサービスも数多く、契約の種類や契約数、対象となる製品も複雑になりますので、非常に大変です。しかし、このケイパビリティなしでは、対象ベンダーをコントロールすることは不可能となりますので、組織にとって必須のケイパビリティであることは明らかです。

ベンダーコントロールを独りに押し付けることは不可能で、ベンダーマネージャに必要となる教育や情報共有、技術的サポートや契約書の多くの部分を占める法的文言の理解などは法務のサポートなど、ベンダーマネージャを支援するための仕組みや組織体制づくりが重要となります。

特に、複雑化するソフトウェアライセンス契約を管理することは、ライセンスの利用規約や使用許諾契約の条件などがテクノロジーの進化や仮想環境、クラウドなどの普及により製品のエディションやライセンスモデルの多様化でますます複雑になり、ベンダーマネージャの負担は大きくなっています。「ベンダーマネージャに任命したから、頑張って」の一言ではまったくすまされない状況にあることを経営層も理解し、ベンダーマネージャを育成し、支援する体制づくりに真剣に取り組む良い機会でしょう。

前掲のケイパビリティからも理解できるように、ベンダーマネージャはゼネラリストではありません。スペシャリストとしての教育や、ベンダーとのパートナーシップの継続的改善の立役者として位置づけ、ベンダーマネージャが取得する知識を共有可能なナレッジマネジメントシステムなどで組織の資産として引き継いでいくことができるような仕組みづくりも重要な課題です。

以下に、IT資産管理システムのRFI/RFPのポイントをまとめた資料ダウンロードサイトをご紹介しますので参照してください。

再配布の際は出典を「国際IT資産管理者協会:IAITAMより」と明示して利用してください。

IT資産管理システム RFPたたき台 基本要求事項http://files.iaitam.jp/2017ITAMAutomationSystemRequirement.pdf

IT資産管理システム RFP項目と機能項目概要http://files.iaitam.jp/2017RFPItemAndDescription.xlsx

国際IT資産管理者協会 フォーラムサイト
メール会員登録だけでフォーラムサイトのホワイトペーパー、プロセステンプレート、アセスメントシートなどダウンロードが可能!
http://jp.member.iaitam.jp/

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コメント

筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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