組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第34回:デジタルビジネス時代に経営者が理解するべきITマネジメント ~後ろ向きでリアクティブな「IT管理」からガバナ・・・

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

第34回:デジタルビジネス時代に経営者が理解するべきITマネジメント ~後ろ向きでリアクティブな「IT管理」からガバナンスコントロールを実現するプロアクティブな「ITマネジメント」への進化が不可欠です! ~

 

目次
デジタルビジネス時代のITマネジメントは、製造業にとってのサプライチェーンマネジメント
エコシステムの実現に必要なものとは?
管理ではなくマネジメントへの進化が求められている

明けましておめでとうございます。2022年は寅年。正月のテレビ番組によると寅年は例年、変化の年になるのだそうです。
IT業界では有名な “The Only constant is Change.” 「唯一不変なものは変化である」ですが。2022年はさらに変化に富んだ年になるかもしれません。しかし、人間というものは永く慣れ親しんだものの変化を嫌います。特に年齢を重ねれば、変化は体力的にも精神的にも辛くなります。私も還暦の声が近づいてきているので、どうしてもその傾向は否めませんが、しかし、やはり「The Only constant is Change.」と自分に言い聞かせて変化対応力を衰えさせないように、新しい挑戦を続けていきたいと思っています。なーんて、かっこ良い感じですが、実際は流石に寄る年波、インターネットバンキング、証券、クレカポイントなど新しいサービスの説明を読んだり、YouTube などで勉強するのも面倒くさいし、うんざりして嫌気がさしている今日この頃です。それでも無様に最後まで新しい事にはチャレンジしていこうと思います。変化に対応できずに進化が止まれば、待っているのは絶滅だけですから。
今回は、そんな変化が求められる寅年に、今、最も変化が求められているであろう「IT管理」からの「ITマネジメント」へのトランスフォーメーションについてお話します。


デジタルビジネス時代のITマネジメントは、製造業にとってのサプライチェーンマネジメント

デジタルビジネスにおいて必要となる「5つの要素」として以下が挙げられます。

  • ① ITシステム
  • ② モノ(IoT)
  • ③ 顧客(カスタマーエクスペリエンス)
  • ④ エコシステム
  • ⑤ インテリジェンス(データとアナリティクス)

ここで述べられているエコシステムとは、つまりは、連携するパートナーやサービスを構成する製品やサービスを提供するサプライヤーと、どのように効率的、効果的なパートナーシップを構築しスムーズに連携すれば、IoTを構成することができるのかという、独立・分断されたサイロシステム、また、組織を乗り越えた先に見える最適化を可能とするための可視化されたパートナーとの連携を示しています。さらに、サービスバリューチェーンを構成するパートナーへのリスク転嫁を明確に契約の条件において合意することで、社内ユーザー事業部門の製品・サービスにとっては、リスクコントローラーとしてのシステム部門の役割を果たすことが可能となります。そもそもサービスモデルとは「リスク転嫁モデル」であり、サービスバリューチェーンにおける重要な価値要素の一つは「リスクコントロールのためのリスクの転嫁」だからです。

例えば、ソフトウェアやクラウドサービスを提供する事業者が、予期せぬコストの計上原因となるようなライセンス監査や、ユーザーの利便性や戦略、ロードマップ、優先順位などを無視した、サービス事業者都合によるクラウドへの移行戦略を強要する場合、これはエコシステムとも、バリューチェーンともいえるものではありません。本来であれば、そのようなベンダーがエコシステムのメンバーを構成することを排除すべきです。

対象となるベンダーが排除すべき対象として扱われるのか、あるいは、今後の共創のパートナーとなるべき対象なのか、そのいずれであったとしても、対象となるベンダーとの現在の状態を正確に把握し、ベンダーとの関係性の“あるべき姿” をビジョンに描き、社内ユーザー事業部門やシステム部門、さらには対象となるベンダーとも共有し、めざすべき目標を設定して「継続的な関係性の改善活動計画」が共有されなければなりません。また、排除すべき対象とするか否かの基準を設け照らし合わせて、必要とあらば排除すべきなのです。
なぜならば、デジタルビジネスにおいては「エコシステム」は競争力の根源であり、不可欠だからです。

しかし、ここで「あれっ?」と気が付きませんか?
「これって、サプライチェーンマネジメントだよな?」
そうなんです。完全に新しい事ではないのです。変化は不変ですが、新しいと言っても多くの場合は、「順列と組み合わせ」により新しいと認識されているだけで、実は完全に初見のものは少ないのです。同世代の諸氏よ、そう思えば少しは気が楽になりませんか?

エコシステムの実現に必要なものとは?

「IT調達をIT部門内に発足したが、あまりうまくいかなかった…」
「VMO を設置はしたが、VMOへの期待ばかりが高くなり VMO のメンバーは苦境に立たされてしまう…」

エコシステムを実現するためには、ベンダーコントロールが不可欠なことは火を見るより明らかです。しかし、対象となるベンダーを、サービスプロバイダーとしてさまざまな条件を含めて契約から関係性をコントロールするための管理は、旧態依然とした与信管理やアカウント管理を行う調達管理では実現不可能です。グローバルでの取り組みは、VMOによる「ベンダーマネジメント」が進化していますが、国内の状況は非常に遅れていると言わざるを得ません。その原因は、不足する「体制」、「役割と責任」の定義、そして、「組織横断的な協力体制」があげられます。さらには、経営層の「管理ぐらいはできているよな」という理解レベルの低さです。

今までは、「システムのプロジェクトチームがシステムに必要となるソフトウェアをリクエストする」とSIer やベンダーの代理店パートナーが、調達するべきライセンスを示唆してくれました。例えば、提供された見積もり情報に基づいて調達部門に発注依頼し、プロジェクトが契約し、調達部門から発注を行うといったことから、プロジェクトとインフラチームが実装し、運用チームにハンドオフされると運用管理対象として、運用を担当するインフラチームの実行部隊がなんらかのシステム管理表をもって管理を行うということのように、組織でサイロ化され分断、分散された「契約・発注・導入・運用管理」というプロセスが存在することが多くありました。そこには「ライフサイクルを通した役割と責任の定義」は存在しておらず、コンプライアンスにおける説明責任を取るべき責任者もいないのです。

つまり、誰も契約されたソフトウェアライセンスやクラウドサービスのガバナンスやコントロールの責任を持っていないのです。当然のことながら、そのような環境は常に「一触即発」、「空中分解」という危険性をはらんでいます。ベンダーの外部監査が来ても、誰も明確に責任を持っていないので、結果としてリアクティブな対応にならざるを得ない。リアクティブな対応は、ベンダーにとっては好都合であり、ベンダーの優位性をもって戦略的な移行を推進することが可能となります。これはユーザーにとっては悲劇です。

管理ではなくマネジメントへの進化が求められている

デジタルビジネスの時代では、ベンダーマネジメントのケイパビリティが無い状態で複雑化するIT環境をコントロールすることは不可能といってよいでしょう。
管理対象となる複雑なライセンスやクラウドサービスの情報は、すべて、契約書にあります。

各ベンダーの契約書を網羅的に、正確に、実際の運用環境と合わせて理解しコントロールするためには、ライフサイクルを通じた取り組みが不可欠であり、当該ベンダーの専門家としてのベンダーマネージャが必須となります。
グローバルな取り組みではベンダーマネージャというスペシャリストの育成を社内で取り組む場合に数年という時間を投資して行います。ベンダーマネージャといってもIT環境のインフラを構成する製品ベンダーであれば、IT部門に人材がいる場合もあり、また、ユーザー事業部門の専門性が要求されるようなソフトウェアの場合は、ユーザー事業部門にその人材がいる場合もあるでしょう。

ところが経営者の中には「ライセンス契約ぐらいは調達で管理している」、「使用しているソフトウェアはIT運用部門が管理している」として、サイロ化され責任の所在が明確でない状態を黙認しているのです。このような経営者のもとでは「契約順守」というビジネスにとっての重要なコンプライアンスへの取り組みを後回しにしている組織も少なくないでしょう。しかも、結果としては組織の当該ベンダーとの関係性においてビジネス優位性を失うという経営責任が問われるようなことになっていることを知らされてもいないのです。

今、経営者が自問自答するべきは、
「ライセンス契約やクラウドサービス契約といった、今後ますますデジタルビジネスにおいて重要な要素となるエコシステムを構成するパートナーとの関係性を左右する契約は、責任の所在が明らかに定義され、その役割が理解され、コントロールが実現されるような組織横断的な取り組みとシステム化が進められる状態にあるのか?」
ということです。

ただライセンス違反や、ライセンスの購入金額を交渉しコスト削減することを目的としてソフトウェア管理を扱うのは時代遅れです。次世代のデジタルビジネスにおけるエコシステムの成否を左右するのが「ベンダーマネジメント」の能力であると理解を改め、今こそ、経営者が取り組みを支援する時なのです。

ベンダーマネージャの社内育成とアウトソーシング
グローバル市場では、特定のベンダーに特化したベンダーマネージャのアウトソーシングサービスやコンサルテーションなどが多数存在しています。特にOracle社の契約は複雑で、専門的知識が要求されますので、この分野の専門コンサルティング会社の増加が顕著です。しかし、サービスの品質はまちまちですので注意も必要です。

これらの課題を経営層に対して理解を促し、現場の取り組みを支援する組織としてベンダーマネジメントの啓蒙から教育、ベンダーマネージャ同士の横の繋がりをもって、より良いベンダーとの関係性を構築するためのパートナー戦略や、契約交渉力を身に着けるために「一般社団法人 日本ベンダーマネジメント協会」(https://www.vmaj.or.jp)が発足されました。
日本ベンダーマネジメント協会では「Oracleライセンスたな卸しサービス」などもグローバル市場のOracle専門コンサルティング会社との連携サービスなどをご紹介しています。自社のOracleライセンス契約の状態に不安がある方は、日本ベンダーマネジメント協会に問い合わせることをお勧めします。

日本ベンダーマネジメント協会では、ベンダーマネージャ育成や、新時代に求められるVMOの定義を可能とする「ソフトウェアライセンス契約管理講習:SLAM(Software License Agreement Management)」(https://www.vmaj.or.jp/archives/member)(Oracleライセンス契約管理オプションあり)を、 VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の教育などを講習としても提供していますので、ご利用ください。

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筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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