組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第17回:最悪のシナリオ!? Oracle監査からの包括契約

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

目次
仮想環境はコントロールして交渉しなければ大きなライセンスコスト増加の原因となる
Oracle ベンダーマネージャの育成とアウトソーシングのハイブリッド化

新型コロナウイルスの感染が広がり、ついに市中感染が確認されました。私は、慢性アレルギー性鼻炎で30年近く抗アレルギー剤とステロイドにお世話になっています。冬の外出時は喉の乾燥を予防するために、常にマスク着用なので、在庫も90日分は確保していましたが、1月半ば過ぎに、マスク不足が不安になり在庫を増やそうと思って近所のドラッグストアに買いに行くと、2-3日前にはまだ山積みされていたマスクの棚が空っぽになっていました。会社によっては、既に集合教育の中止や在宅勤務など、影響も出てきているようです。なんとか感染の拡大を抑制し、「東京オリンピック中止」という最悪のシナリオは避けたいところです。私もマスクを着用し、人混みをできるだけ避けて、キャリアとして感染を広げたりしないように努めたいと思います。

さて、欧米のOracleコンサルのコミュニティではよく知られている最悪のシナリオとも言われる「監査の結果、受け身的に包括契約(ULA: Unlimited License Agreement )を契約する」というパターンが日本でも増加しているようです。今回は、なぜ、受け身的に監査の結果として包括契約をしてはいけないのかについて解説したいと思います。


仮想環境はコントロールして交渉しなければ大きなライセンスコスト増加の原因となる

監査請求額が100倍になる、というお話を第15回コラムで解説しました。Oracle ライセンスの最も危険な環境は、Soft Partitioning の環境、特に VMWare の環境です。vCenter 6.0 以降では、どの vCenter のクラスタにある VM でも、Live Migration によりどこにでも移動が可能です。これにより、今日のOracle プロセッサライセンスの消費環境は大きく変化しました。つまり、vCenter 下にあるすべての CPU コアの総数に対してライセンスが要求されるのです。監査報告書においては、「このように是正や契約交渉をするとユーザーにとっての最適化が可能となります」というユーザー視点での是正改善提案は行われません。是正改善や最適化は、あくまでユーザー主導で実施するもので、自己責任のもとOracle との「契約交渉」を実施するプロアクティブな契約コントロールの実践が求められるのです。受け身的に監査報告書を受け入れた結果として、VMWare の環境では、すべてのCPU コアの総数にCore Factor Table のコア係数を乗じたライセンス数が監査是正請求の基本額となります。この額が数十億円になり、そこからディスカウントの方法として3年間の包括契約やクラウドサービスの購買などの提案が行われます。これは欧米のOracleコンサルの一般的な常識となっています。日本でも、昨今のユーザーのご相談を受けると、欧米と同様の傾向が見受けられます。

「100億円の監査是正額に対して、ディスカウントの結果30億円の支払いになった。」

それでも支払額が大きすぎると感じていませんか?
なぜそのような額になったのですか?明確な理解ができていますか?納得できましたか?
そもそも、母数がおかしいと感じていませんか?
どうやって母数を少なくしたらよいのでしょう?

Oracle ベンダーマネージャの育成とアウトソーシングのハイブリッド化

これらの質問に答えるためには、Oracle ベンダーマネージャという専門家が必要です。社内育成をするのであれば専門家教育を、社内でコントローラだけおいて専門家をアウトソースするのであればハイブリッド化をして、プロアクティブにOracleライセンス契約を理解し、コントロールし、契約交渉を実施して、継続的改善ができるようにしなければなりません。

SE(Standard Edition)は、仮想環境では使用不可ですので EE(Enterprise Edition)を購入して是正するよう求められます。EEは、VMWare 環境であれば vCenter 下のCPUコアの総数に係数を乗じたライセンス数が要求されます。VMWareや共有ストレージ環境により、その母数は数百~数千になることも少なくありません。しかし、対象環境を制限し、VLAN、LUN などで定義し、契約交渉することで制限を設けたULA で母数をコントロールすることが可能です。ただし、プロアクティブに自らコントロールし、契約交渉を主体的にできる状態を作らなければいけません。しかしそれが可能であれば、契約交渉により、場合によっては数億円から数十億円のコスト削減も不可能ではないのです。

一般社団法人日本ベンダーマネジメント協会では、Oracleベンダーマネージャを含むメガベンダーのベンダーマネージャ育成などを支援しています。4月から「Oracleベンダーマネージャ研究会」も活動を開始します。この機会に日本ベンダーマネジメント協会の活動をチェックしてみてください。

ベンダーマネージャの社内育成とアウトソーシング
グローバル市場では、特定のベンダーに特化したベンダーマネージャのアウトソーシングサービスやコンサルテーションなどが多数存在しています。特にOracle社の契約は複雑で、専門的知識が要求されますので、この分野の専門コンサルティング会社の増加が顕著です。しかし、サービスの品質はまちまちですので注意も必要です。

これらの課題を経営層に対して理解を促し、現場の取り組みを支援する組織としてベンダーマネジメントの啓蒙から教育、ベンダーマネージャ同士の横の繋がりをもって、より良いベンダーとの関係性を構築するためのパートナー戦略や、契約交渉力を身に着けるために「一般社団法人 日本ベンダーマネジメント協会」(https://www.vmaj.or.jp)が発足されました。
日本ベンダーマネジメント協会では「Oracleライセンスたな卸しサービス」などもグローバル市場のOracle専門コンサルティング会社との連携サービスなどをご紹介しています。自社のOracleライセンス契約の状態に不安がある方は、日本ベンダーマネジメント協会に問い合わせることをお勧めします。

日本ベンダーマネジメント協会では、ベンダーマネージャ育成や、新時代に求められるVMOの定義を可能とする「ソフトウェアライセンス契約管理講習:SLAM(Software License Agreement Management)」(https://www.vmaj.or.jp/archives/member)(Oracleライセンス契約管理オプションあり)を、 VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の教育などを講習としても提供していますので、ご利用ください。

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筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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