組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第20回:ニューノーマルでさらにコスト削減が要求される!

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

目次
ソフトウェアのコストは平均で30%削減できる!?
これらの3つのポイントは正しいが、取り組もうとすると一筋縄ではいかない!
ソフトウェアベンダー管理の成熟度が低いとリスクが高いということを経営者は知らない!

ここのところずっとリモート会議で、気分が滅入っている今日この頃ですが、皆さんは大丈夫でしょうか? ニューノーマルに適応し、資本である健康を心身ともに維持するために、私は家でスピンバイクを漕ぎながらYouTubeとAmazonPrimeVideoを見て何とか凌いでいます。(笑)

経済が新型コロナウイルスの影響から立ち直ろうとするなか、さまざまな業界で「ニューノーマル」が生まれようとしています。Microsoft CEO の Satya Nadella氏は、「この2カ月で2年分のデジタルトランスフォーメーションが起こった」と発言しています。これはインフラやセキュリティなど、さまざまな分野におけるリモート化への投資を意味し、IT とビジネスの密接な関係性にさらに拍車がかかることを意味しています。

そうなると、必然的にビジネスのコストとして「ITのコスト」が管理対象となります。
今まで以上にシビアに「ITのコスト」に対する管理要求が高まるということです。複雑化するクラウドやリモート環境に関係するソフトウェアのコストを最適化し、できる限りコストを削減することに加えて、削減したコストをITインフラのニューノーマル新規投資にまわすことが期待されます。相変わらずですが、それを誰かに「やれ!」という号令がかかり、運用現場に落ちてくるのは火を見るよりも明らかです。

このとき、「できないことはできない」「できるようにするためにはこのようにしなければならない」ということを明確に指し示さないと、「なぜ、できない?」と責任追及だけされてしまうので、準備をするために何を理解するべきかを解説したいと思います。


ソフトウェアのコストは平均で30%削減できる!?

大手リサーチ会社の発表によると「3つのベストプラクティスを実行することで平均30%のソフトウェアコストを削減できる」という調査結果があります。
以下に3つのベストプラクティスのポイントを簡単に説明します。

  • ① ソフトウェア構成を最適化する
    メガベンダーの使用権は複雑で高コストです。デフォルトの構成は通常最も高価です。複雑性と高コストであることがコスト削減の可能性を提供しています。特にデータセンターにおけるソフトウェア構成にコスト削減の可能性があります。しかし、億単位の可能性を持っていることは理解できても、どのように実行するかは簡単ではありません。
  • ②ソフトウェアライセンスの再利用
    未使用のライセンスを再利用し、新規購入を回避する。再利用は高いプロセスのコントロール力を要求されます。成熟度の低いIT部門においては、ライセンスの再利用と最適化のプロセスを日々の運用活動に実装するだけでコスト削減が可能となります。
  • ③SAM ツールの利用
    ソフトウェアコストを最適化することは困難です。なぜならば、ライセンスが非常に複雑だからです。複雑なライセンスを手運用で最適化することは困難です。それは専門知識を必要として簡単には拡張できません。大手組織であればSAM ツールのような自動化ツールが必要です。

これらの3つのポイントは正しいが、取り組もうとすると一筋縄ではいかない!

そもそも①の「ソフトウェア構成を最適化する」ためには、組織のニーズを正しく捕捉していなければなりません。さらに、ソフトウェアの構成の選択肢を理解し、ニーズと選択肢を比較して、デフォルト構成を変更してニーズにのっとった構成でコストを最適化できなればなりません。そのためには、現状を正確に捕捉し、評価する能力が必要となります。

すると、対象となるメガベンダーのライセンス契約や使用権、デフォルト構成や選択肢に精通し、現在の運用状態と組織のニーズを理解しているベンダーマネージャの役割を担う担当者が必要となります。まず、この人材が組織内にいません。となると、人材育成するかアウトソースするかの選択肢となりますが、ここでまずコストは上がります。やっていなかった管理をしようとすると、いったんはコストが上昇し、結果としてコスト削減が期待できますが、いくらコストが削減できるのかが明確にならないと投資ができない、というジレンマに陥ります。いつもの「にわとり、たまご」のシチュエーションです。

次に②の「ソフトウェアライセンスの再利用」を実現する場合にも、まずは、現状のライセンスの割り当てと、消費状態の把握ができていないと、未使用のライセンスや使用終了して再利用にまわせるライセンスの識別ができません。つまり、ベースラインが構築されていないと再利用にステップアップできないということです。ベースラインを構築しようとすると① と同様に、ベンダーマネージャが必要となり、初期コストが上昇します。「にわとり、たまご」にはまります。

さらに、③ の「SAMツールの利用」になると、より一層、初期コストが上がるので「コスト削減効果」を明らかにしないことには、また「にわとり、たまご」にはまります。

ソフトウェアベンダー管理の成熟度が低いとリスクが高いということを経営者は知らない!

それでは、①-③ を無視した場合にどのような影響があるでしょうか?

1)オーバーライセンス
まず、不要なライセンスを買い過ぎています。ライセンス消費のメトリックを正確に理解していないことから① の状態でベンダーまたは代理店が提案するデフォルト構成で購入しているため、コスト高になっている状態です。ベンダーは最適化してくれません。ベンダーの提案は構成上、最もコスト高であることを理解することが必要です。最適化の責任はユーザーにあることを理解しなければなりません。億単位のオーバーライセンスの可能性も否めません。

2)アンダーライセンス
ライセンス消費を正確に理解していないことから、ライセンス監査で多額の補正請求を求められる可能性があります。補正請求や、監査を“てこ”にした包括契約は数十億円規模になり、正しくライセンス消費をコントロールできている場合の数千万円の年間保守費用と比較すると多額の損失の可能性を持っています。ライセンス監査からの億単位の包括契約は、会計上の特別損失扱いになり、経営に大きくマイナスの影響を及ぼします。アンダーライセンスの場合、交渉も弱い立場になるために、ベンダーに押し切られて不要なライセンスを多く、さらに、ベンダーロックインの状態ができあがってしまいます。

3)交渉力不足のため、ベンダー主導の契約によるコスト上昇
ベンダーコントロールの能力として正確なライセンス消費状態を管理できないことから、ライセンス契約における交渉力が無く、ベンダーの提案をベースに交渉するしかないため、そもそもの提案規模が大きくなり、ディスカウントが適用されても多額の無駄が発生しやすい状態になります。

これらのリスクを経営層に理解してもらうこと、さらに、これらのリスクを評価して定量化することは可能なので、対象ベンダーのライセンスたな卸しなどを実施し、分析することで経営層に理解を促すというのも一つのアプローチ方法でしょう。

一般社団法人日本ベンダーマネジメント協会では、Oracleベンダーマネージャを含むメガベンダーのベンダーマネージャ育成などを支援しています。4月から「Oracleベンダーマネージャ研究会」も活動を開始しています。この機会に日本ベンダーマネジメント協会の活動をチェックしてみてください。

ベンダーマネージャの社内育成とアウトソーシング
グローバル市場では、特定のベンダーに特化したベンダーマネージャのアウトソーシングサービスやコンサルテーションなどが多数存在しています。特にOracle社の契約は複雑で、専門的知識が要求されますので、この分野の専門コンサルティング会社の増加が顕著です。しかし、サービスの品質はまちまちですので注意も必要です。

これらの課題を経営層に対して理解を促し、現場の取り組みを支援する組織としてベンダーマネジメントの啓蒙から教育、ベンダーマネージャ同士の横の繋がりをもって、より良いベンダーとの関係性を構築するためのパートナー戦略や、契約交渉力を身に着けるために「一般社団法人 日本ベンダーマネジメント協会」(https://www.vmaj.or.jp)が発足されました。
日本ベンダーマネジメント協会では「Oracleライセンスたな卸しサービス」などもグローバル市場のOracle専門コンサルティング会社との連携サービスなどをご紹介しています。自社のOracleライセンス契約の状態に不安がある方は、日本ベンダーマネジメント協会に問い合わせることをお勧めします。

日本ベンダーマネジメント協会では、ベンダーマネージャ育成や、新時代に求められるVMOの定義を可能とする「ソフトウェアライセンス契約管理講習:SLAM(Software License Agreement Management)」(https://www.vmaj.or.jp/archives/member)(Oracleライセンス契約管理オプションあり)を、 VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の教育などを講習としても提供していますので、ご利用ください。

連載一覧

コメント

筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


バックナンバー