組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第26回:Oracle ULA(包括契約)は、なぜ終了できない?

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

目次
1年~5年 の ULA 契約は、そもそも期間満了で終了する想定の契約だった
包括契約、Unlimited は「無制限」という意味ではない!
IT部門は契約書に弱い
ULA 終了の準備ステップ

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。m(__)m

さて、年があけて、今年も頑張ろう!と思っている矢先に緊急事態宣言の発令で出鼻をくじかれた状況ですが、気温が15度を下回るころからは風邪やインフルエンザも増え、コロナも同様に増加するであろうと予想はしていました。すでに秋口あたり欧州が15度を下回りだしてコロナも増加したあたりからは、こうなるだろうと織り込み済みではあったので、なんとか医療崩壊させずにビジネスや経済とのバランスを取りながら、新しい日常を創り出していくしかないのかなと思う今日この頃です。コロナは不可避であり共生するしかないと観念したのですが、早々に観念してはいけないこともあります。例えば、Oracle監査の結果のULA(包括契約)は、早々にベンダーロックインを観念してはいけません。今回は、ULA の終了がなぜ難しいのか、どのように終了を準備するべきかを解説します。


1年~5年 の ULA 契約は、そもそも期間満了で終了する想定の契約だった

Oracle の契約は OMA(Oracle Master Agreement)/TOMA(Transactional Oracle Master Agreement) から Online TOMA へと変化し、Ordering Document で定義される ULA(Unlimited License Agreement)で利益を享受できるユーザーとそうでないユーザーの差は大きくなる一方です。
「なんだか損している気がする・・・」と思われている組織の問題は、「交渉力が不足している」ということにつきます。
しかも、自ら求めるわけではなくULA を持つ組織にとって、「満期の際に終了してコスト削減はできないのか?」という疑問がULA契約期間中、ずーっと、もやもやとわだかまった状態のユーザーが増えているようです。
そんな皆さまに朗報です。そもそも ULA は満期で終了するのがデザインです!
では、なぜ終了できない組織が多いのか?
実は問題は、なぜ、ULA になったのか?にあるのです。
Oracle ライセンスの契約や使用許諾条件を理解していない、あるいは、その使用許諾条件の解釈を理解していない組織において、Soft-partitioning の仮想環境、共有ストレージ、スタンダード版における OEM(Oracle Enterprise Manager)の エンタープライズ版 有償オプションの無意識での利用は、コンプライアンス違反の致命傷です。これらの場合において ULA によってコンプライアンス違反で発生する違約金や遡及(そきゅう)など含めた監査補正請求に対する「猶予期間」を買う、というのが昨今の実際の適用なのです。(Oracle営業さんにそのような説明を受けた方も少なくないのでは?)もちろん、ULA を望むユーザーにとっては、これから数年間にわたって20%以上のデプロイメントの増加が見込めるので、ULA で交渉して満了時に必要なパーペチュアルライセンスを持って終了し、通常の保守契約に戻すのであればユーザーにとっての利益となります。
しかし、残念ながら多くの組織が「猶予期間」を買うために ULA を余儀なくされています。しかも、本当に必要なライセンスボリュームをよく理解しないままさらに、ライセンスの運用状態が理解できていない状態が継続され、満期でULAを終了できずにULAを更新し続けるケースが多いのです。そして、その原因は、そもそものULA を余儀なくされた原因と全く同じである、「コンプライアンス違反」なのです。
そして、なぜコンプライアンス違反になりULAを終了できないのか? の理由は、至って単純で、「使用許諾条件とその解釈を理解できていない」という理由にほかならないのです。

包括契約、Unlimited は「無制限」という意味ではない!

ULA には様々な制限があり、これらを交渉して解除や必要な定義をしておかないと、永遠にコンプライアンス違反の呪縛から逃れることはできません。

  • ① 使用国:日本
    本当に日本だけでいいのですか?パブリッククラウドでバックアップのため2ndリージョンを使いませんか?グローバル組織で他国からの利用はありませんか?拡大する予定はありませんか?
  • ② 使用許諾組織:ライセンシーとサブライセンシーの定義
    交渉して定義しておかないと、購入者として登録された組織の社内利用でしか利用できません。
  • ③ Unlimited の対象製品
    どの製品がUnlimited なのかを把握して運用していますか?対象製品は仮想環境での消費や、共有ストレージ、承認されたパブリッククラウドなどで利用されますか?
  • ④ オプション:OEM (Oracle Enterprise Manager)は無償だと思い込んでいませんか?

IT部門は契約書に弱い

そもそもITテクノロジーの専門家であるエンジニアは、契約や法律の専門家ではありません。
使用許諾条件が付されたライセンス製品を組織の契約により異なる条件を管理して運用することは、非常に困難なタスクなのです。
複雑化したIT環境に対応したOracleライセンス契約書などはライセンスベンダーの中でも最も複雑です。
エディションの違い、オプションの条件、仮想化(物理/論理)、クラウド(パブリック/プライベート)、本番/開発/テスト/DR 環境の違い、ライセンスモデルなどの要素から、前述の使用許諾組織の範囲、ホスティングライセンス、自社アプリケーションホスティング登録、などなど、専門的な知識が要求されます。
しかし、これらの情報を把握し専門的知識をもとに解釈や判断ができれば、ULA を終了することは難しいことではないのです。そもそもが満期で終了するデザインなのですから。

ULA 終了の準備ステップ

  • ① 現状のライセンス利用状況を正確に把握する
    ライセンス違反やULA を違反している項目があると、3年後に遡及(そきゅう)の対象となり終了するためには莫大(ばくだい)な監査補正請求書の支払いが求められます。デジャブですか?
    ULA の契約条件を正しく理解し、遵守状態を構築します。→ これができていない組織が多いのです。これが終了できない最大の原因です!
    そもそもライセンスの消費状態を正確に把握するのはライセンス契約書をもつビジネス組織としてあたりまえのコンプライアンス確認の行為です。代理店やパートナーがやってくれない!というのは言い訳になりません。ガバナンスは自らがコントロールしなければならない、今こそ自らがコンプライアンスをコントロールできるように体制を構築しましょう。
  • ② 必要な是正を講じる
    ライセンス違反、コンプライアンス違反がULAの終了を妨げる最大の原因であれば、是正してコンプライアンスを維持さえすれば、終了できるのです。
  • ③ 証明プロセスの準備をする
    ULA を終了する際の 証明プロセスを理解し、実際には監査がきても正しくコンプライアンス情報(監査スクリプトデータなど)を提供し、違反がなく問題がないことが証明できる状態を維持します。
  • ④ 必要なパーペチュアルライセンスを維持して保守費用を支払う

これら①~③ は、Oracleライセンス契約の専門家と一緒に対応することで確かな情報をもとに解釈を理解し、対策を講じることが可能となります。そのようなニーズに対応したライセンス分析サービスやアドバイザリサービスなどは欧米では一般的で、日本でも利用可能なサービスがありますので、ぜひご相談ください。

ベンダーマネージャの社内育成とアウトソーシング
グローバル市場では、特定のベンダーに特化したベンダーマネージャのアウトソーシングサービスやコンサルテーションなどが多数存在しています。特にOracle社の契約は複雑で、専門的知識が要求されますので、この分野の専門コンサルティング会社の増加が顕著です。しかし、サービスの品質はまちまちですので注意も必要です。

これらの課題を経営層に対して理解を促し、現場の取り組みを支援する組織としてベンダーマネジメントの啓蒙から教育、ベンダーマネージャ同士の横の繋がりをもって、より良いベンダーとの関係性を構築するためのパートナー戦略や、契約交渉力を身に着けるために「一般社団法人 日本ベンダーマネジメント協会」(https://www.vmaj.or.jp)が発足されました。
日本ベンダーマネジメント協会では「Oracleライセンスたな卸しサービス」などもグローバル市場のOracle専門コンサルティング会社との連携サービスなどをご紹介しています。自社のOracleライセンス契約の状態に不安がある方は、日本ベンダーマネジメント協会に問い合わせることをお勧めします。

日本ベンダーマネジメント協会では、ベンダーマネージャ育成や、新時代に求められるVMOの定義を可能とする「ソフトウェアライセンス契約管理講習:SLAM(Software License Agreement Management)」(https://www.vmaj.or.jp/archives/member)(Oracleライセンス契約管理オプションあり)を、 VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の教育などを講習としても提供していますので、ご利用ください。

連載一覧

コメント

筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


バックナンバー