組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第4回:VMOおよびSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

目次
1.現状の課題認識
2.アウトソーシング分野の識別と要件定義
3.VMO およびベンダーマネージャ
4.ライフサイクル管理プロセスにおける要求事項
5.SLO管理ツールの運用

国際IT資産管理者協会では CSAM(Certified Software Asset Manager)講習という教育・認定資格プログラムを世界的に提供しており、欧米を中心に数万人の資格保有者がいます。私は日本にてオープン講習やプライベートオンサイト講習、および豪州時間とインド時間のオンライン講習を担当しています。先日は特別に、インドでのオンサイト講習があり、インドに何社かあるIT技術者の派遣が10万人規模の企業のうちの1社の教育センターへ伺い、2日間のCSAM講習を実施してきました。正直、インドでのオンサイト講習はトランジットを含めて旅行時間が20時間以上、2日間、往復の旅行時間だけで合計4日間もかかるのであまり行きたくありません。

しかし、どうやら世界的に社内でのケイパビリティが不足しており、アウトソースする企業が多いです。そして、同社の派遣エンジニアでITAM/SAMの専門家を増やそうという傾向にあり、人材育成に力をいれだしたためオンサイトの要望が強くなったようです。受講者は、さまざまな企業に派遣されITAM/SAM に関わり社内提案や実際の運用に携わっている人たちで、とても熱心に授業を受け、さまざまな質問を受けました。モチベーションが高く教える方もとても面白いのですが、いかんせん、遠いのが…。
少し愚痴っぽくなりましたが、今回はITAM/SAMやソフトウェアライセンス最適化に必要となるアウトソーシングのRFPのポイントを解説したいと思います。

前回のコラムでも触れましたが、社内でベンダーマネージャを育成することができる組織と難しい組織があり、社内でVMO(Vendor Management Office)を設立しても、実際に要求されるベンダーマネージャのケイパビリティを獲得し、内部留保することは継続的な教育投資計画なども必要となり困難な場合もあります。そのような場合はアウトソースすることも選択肢となりますが、アウトソースする場合にどのようなRFPを作成し、どのようなケイパビリティを要求するべきかがアウトソーシングの成功を左右する重要なポイントとなります。

以下に、RFPのアウトラインを示します。

1.現状の課題認識

  • 1-1 現在の課題
  • 1-2 課題分野の識別
  • 1-3 変更管理プロセス
  • 1-4 ライセンス割り当て
  • 1-5 インベントリ情報の収集
  • 1-6 組織横断的な業務プロセス
  • 1-7 ハイブリッドSAMプロセス

2.アウトソーシング分野の識別と要件定義

  • 2-1 2つの対象分野と目的
  • 2-2 対象組織
  • 2-3 対象ライフサイクル管理プロセス

3.VMO およびベンダーマネージャ

  • 3-1 VMO に要求される能力
  • 3-2 ベンダーマネージャに要求される能力
  • 3-4 VMO によるベースラインの構築
  • 3-5 リクエスト者の識別
  • 3-6 リクエスト処理者の識別
  • 3-7 ライセンス契約書の管理者の識別
  • 3-8 購買情報管理者の識別
  • 3-9 ライセンス割り当て情報
  • 3-10 正台帳の生成

4.ライフサイクル管理プロセスにおける要求事項

  • 4-1 ライセンスリクエスト
  • 4-2 リクエスト処理
  • 4-3 在庫の引き当て
  • 4-4 ライセンスの新規調達
  • 4-5 ライセンス契約交渉
  • 4-6 契約交渉に基づく発注
  • 4-7 発注に基づくライセンス割り当て
  • 4-8 契約条件に基づくコンプライアンスの確認
  • 4-9 システムへの変更依頼
  • 4-10 変更依頼に基づく BIA の実施
  • 4-11 変更の実施
  • 4-12 必要に応じてライセンスを調達し割り当て
  • 4-13 各国調達プロセスの文書化による可視化
  • 4-14 各国調達プロセスの再設計提案

5.SLO管理ツールの運用

  • 5-1 SLO管理ツール運用に要求される能力
  • 5-2 SLO管理ツールのベースラインの構築
  • 5-3 SLO管理ツールを運用したコンプライアンスの維持活動
  • 5-4 SLO管理ツールを用いたBIA情報の提供
  • 5-5 SLO管理ツールに変更を反映
  • 5-6 定期内部監査資料の生成

本コラムのシリーズにてソフトウェア契約の体系を理解し、利用規約の内容を把握し、それに基づいて対象の管理メトリクスを設定し、ライセンス割り当てを行い、実際の必要管理メトリクスをインベントリ収集システムにより収集、その収集データをライセンス割り当て管理のデータに突合することでライセンスの消費状態を検証し、コンプライアンスを維持、あるいはライセンス割り当て状態の最適化を行い、コスト最適化やライセンス契約の交渉にこれらの情報を使用する、という説明をしてきましたが、これらの業務プロセスをアウトソースしようとした場合に求められるケイパビリティやプロセス能力は、前述にあるようなポイントでまとめることができます。

各ポイントを定義し明文化することで、アウトソーシング先のベンダーとの共通の理解と、要求しているビジネスプロセスのアウトソーシングのインプットやアウトプット、期待される結果などが、より明確に定義されます。明確な定義をすることで、後の期待値のすり合わせ不足によるすれ違いやボタンの掛け違いなど、戻り工数を最小化し、よりよいSLAを策定することが可能となります。

また、RFP には以下のような説明も含まれていると良いでしょう。

① 現状から認識する課題と、課題を前提としたアウトソーシング分野の識別、およびアウトソーシング分野の識別に基づく基本的な要件定義です。必要となるプロセスの詳細やワークフローは定義していません。要件定義を基に、アウトソーシングにおける前提条件(提供するべき情報や環境など)とプロセスのインターフェースをご提案ください。

② 現状から理解できる不足するケイパビリティとプロセスを補うために識別される機能とプロセスについて、要求に対する提案と、契約情報などが網羅的に集約できない場合の対応策としてのリセラーの売買情報を基にしたベースライン構築など、具体的な選択肢を含んで提案書を策定し提案してください。

ソフトウェアをコントロールするためには、まずはライセンス契約を理解し、管理対象として識別して管理下にまとめることが重要です。これらの対象を組織横断的、また網羅的に統合してシンプル化するための準備と、集約した情報を使用した契約交渉がより良い管理性をもたらしてくれます。しかし、これらのケイパビリティを社内で育成するには時間もコストもかかります。社内での人材育成が難しい場合は、少なくともアウトソースする先のプロセスをコントロールするケイパビリティだけは社内での育成を行い、必要となるケイパビリティやプロセスを補う形で、段階的な改善を含むビジネスプロセスのアウトソーシングを提供可能なパートナーにアウトソースすることがITAM/SAM の成熟度を高める一つの選択肢となります。

国際IT資産管理者協会が提供するCSAM講習では、アウトソーシングを管理するために必要なケイパビリティを獲得するための基礎的な教育を行っています。また、「ソフトウェアライセンス契約管理講習」など、特に VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の詳細などをCSAM資格者のためのフォローアップ講習としても提供していますので、ご利用ください。

以下に、IT資産管理システムのRFI/RFPのポイントをまとめた資料ダウンロードサイトをご紹介しますので参照してください。

再配布の際は出典を「国際IT資産管理者協会:IAITAMより」と明示して利用してください。

IT資産管理システム RFPたたき台 基本要求事項http://files.iaitam.jp/2017ITAMAutomationSystemRequirement.pdf

IT資産管理システム RFP項目と機能項目概要http://files.iaitam.jp/2017RFPItemAndDescription.xlsx

国際IT資産管理者協会 フォーラムサイト
メール会員登録だけでフォーラムサイトのホワイトペーパー、プロセステンプレート、アセスメントシートなどダウンロードが可能!
http://jp.member.iaitam.jp/

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筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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