組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第22回:コスト削減のためのサードパーティ保守はあり?!なし?!

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

目次
サードパーティ保守はいつ検討するべき?
安心してサードパーティ保守へ移行するには?
メリットとデメリットを正確に理解しているか?
サードパーティ保守移行後の選択肢はあるのか?

8月まで続いた長い梅雨がようやくあけました。一方で、新型コロナの第二波は着実に広がりを見せ、再度、気を引き締めて感染拡大を予防する生活意識を持つことが余儀なくされています。引きこもり生活にもだいぶ慣れてきましたが、確実に私の老体の体力は低下しています。(涙)各社さんでのリモート会議などの充実により、仕事への影響はありませんが、リモートばかりの打ち合わせが続くと、多少現実感が薄れていくような気がしています。(笑)
直接会って講習がしたい!直接反応を見ながらコンサルしたい!やはり話しす相手の目を見て、生の反応を感じながらお話するのとは違いがあるなぁ、と実感している今日この頃です。
さて、新型コロナの影響は当然メガベンダーの売り上げにも大きな影を落としています。各社での内部コスト削減のためのレイオフなどもベンダーによってはすでに実施されていますし、ライセンス監査も活発化しているようです。ユーザー組織としては、ますますコンプライアンス状態を維持するため、コスト削減のため、最適化のために何ができるのか?が問われる状況になっています。今回は、「コスト削減のためのサードパーティ保守はありなのか?」をテーマに、どのようなケースで選択肢として考慮するべきか、など具体的なシナリオにおいての活用パターンを解説したいと思います。


サードパーティ保守はいつ検討するべき?

契約交渉力を向上させる方法として、必ず競合製品やサービスを検討し既定路線にしない、という原則があります。これは保守においても同様で、製品・サービスを購入したベンダーから保守サービスを受ける、は既定路線であっては交渉の余地はなくなります。必ず、サードパーティ保守を検討対象に入れて、対象のベンダーの特徴、関係性の現状などを考慮し、適切なタイミングで競合の選択肢として交渉力に用います。ベンダーやタイミングによっては、ベンダーの監査のトリガーとなったり、交渉において強硬にでてきたりするなど、悪影響となる可能性もあるので交渉カードとして出すタイミングには十分な理解が必要です。

安心してサードパーティ保守へ移行するには?

現時点でのコンプライアンスの状態を正確に把握することが大切です。パーペチュアルライセンスは、保守契約を終了しても永続的にライセンスとして運用が可能ですが、コンプライアンスを順守する義務も永続的に発生します。したがって、サードパーティ保守であってもライセンス監査権をもつベンダーに対してのコンプライアンス証明がいつでもできるように準備が必要です。しかし、コンプライアンスさえ遵守していればパーペチュアルライセンスの保守契約終了時点で保有する使用権は永続的に使用することが可能です。
そのためにはライセンス契約分析などを実施し、コンプライアンス状態を正確に把握し維持することが、最も安全にサードパーティ保守でコストを削減することを可能にします。

メリットとデメリットを正確に理解しているか?

オリジナルライセンスのベンダー保守からサードパーティ保守に移行する場合は、必ずそれに伴うメリットとデメリットがあります。例えば、パッチの提供が受けられない、特定のバージョンからのクラウドへ移行するさいのクレジットが受けられない、など。メリットを享受した場合のコストと、デメリットによるマイナスがサードパーティ保守によるコスト削減効果に対して相殺した結果、プラスとなるのかマイナスとなるのかの財務影響を正確に理解することで、サードパーティ保守によるコスト削減効果を正しく理解することが可能となります。

サードパーティ保守移行後の選択肢はあるのか?

サードパーティ保守へ移行したから追加でライセンスが買えないということはありません。さらに、サードパーティ保守からベンダー保守へ戻ることも可能です。すべては自社にとっての交渉力を獲得する戦術でしかありません。これらはすべて交渉次第ですが、交渉において重要なポイントは、「正確に自社のライセンス契約の状態、コンプライアンスの状態、将来のライセンス戦略を理解して中長期ビジョンに基づいた交渉にあたる」ということです。より正確に状態をコントロールすることで、正確な情報をベースに交渉にあたることが可能となります。そして、中長期的にベンダーとの関係性のパワーバランスを最適化することで改善することが可能です。一方で、不正確な情報やライセンス違反の可能性を抱えたまま交渉にあたっても、足元をみられてしまい、かえって高額なコストを請求される可能性もありますので注意が必要です。

サードパーティ保守を受けるにせよ、受けないにせよ、一度はしっかりと検討し、契約交渉の際のレバレッジとして利用することが大切です。

一般社団法人日本ベンダーマネジメント協会では、Oracleベンダーマネージャを含むメガベンダーのベンダーマネージャ育成などを支援しています。4月から「Oracleベンダーマネージャ研究会」も活動を開始しています。この機会に日本ベンダーマネジメント協会の活動をチェックしてみてください。

ベンダーマネージャの社内育成とアウトソーシング
グローバル市場では、特定のベンダーに特化したベンダーマネージャのアウトソーシングサービスやコンサルテーションなどが多数存在しています。特にOracle社の契約は複雑で、専門的知識が要求されますので、この分野の専門コンサルティング会社の増加が顕著です。しかし、サービスの品質はまちまちですので注意も必要です。

これらの課題を経営層に対して理解を促し、現場の取り組みを支援する組織としてベンダーマネジメントの啓蒙から教育、ベンダーマネージャ同士の横の繋がりをもって、より良いベンダーとの関係性を構築するためのパートナー戦略や、契約交渉力を身に着けるために「一般社団法人 日本ベンダーマネジメント協会」(https://www.vmaj.or.jp)が発足されました。
日本ベンダーマネジメント協会では「Oracleライセンスたな卸しサービス」などもグローバル市場のOracle専門コンサルティング会社との連携サービスなどをご紹介しています。自社のOracleライセンス契約の状態に不安がある方は、日本ベンダーマネジメント協会に問い合わせることをお勧めします。

日本ベンダーマネジメント協会では、ベンダーマネージャ育成や、新時代に求められるVMOの定義を可能とする「ソフトウェアライセンス契約管理講習:SLAM(Software License Agreement Management)」(https://www.vmaj.or.jp/archives/member)(Oracleライセンス契約管理オプションあり)を、 VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の教育などを講習としても提供していますので、ご利用ください。

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筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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