組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第10回:デジタル時代のパートナー戦略とベンダーマネジメント

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

目次
武内冷蔵庫製造㈱ のデジタル時代のイノベーション
デジタル ビジネス サービス インテグレーション =
システムインテグレーション x サービス契約インテグレーション
ITのパートナー戦略は、すなわち「冷蔵庫サービス製品」を製造する企業戦略上重要なパートナー戦略となる

「夏が来た!」
春夏秋冬で一番好きな季節は?と問われれば、暑いのですが、やはり「夏です」と答えてしまう私はまだ子供でしょうか?
海、プール、花火、お祭り・・・やはり熱く盛り上がる夏はいい。

熱いのは季節だけでいいと思っている皆さん、デジタルビジネスへの期待は、ますます高まり、ITサービスの連携による市場への「対応力」や「スピード」、IT部門への期待も熱く盛り上がっています。ITILも4になり、よりサービス連携を意識したITビジネスの体系へと進化しているようです。
今回は、そんなITIL®4やサービス連携の参照となるSIAM (Service Integration And Management) 、VeriSMが述べるサービスバリューチェーンやサービスインテグレーションとIT資産管理がどのように関係するのか、という観点から解説したいと思います。


武内冷蔵庫製造㈱ のデジタル時代のイノベーション

先日のセミナーで例え話としてお話したところ、「分かりやすかった!」と受けが良かったので、ここで披露したいと思います。

“私の会社は冷蔵庫を製造している製造業です。私の仕事は冷蔵庫を設計している設計者です。近頃、「デジタルビジネスや、ITをもっと使ったイノベーティブなサービス製品を考えろ!」と言われて困っています。冷蔵庫とITの融合と言われても、そもそも私はあまりITには詳しくないので・・・そこでIT部門にいろいろと相談に乗ってもらいました。”

IT部の新人A 「なるほど。少し突拍子もないこと言いますよ。例えば、冷蔵庫にセンサーやカメラを仕掛けて、牛乳のパックが何本あるかとか、にんじんなど野菜の在庫や、冷凍庫の中の在庫もスマホのアプリから分かるようにするのはどうでしょう。お買い物に行ったときに、『あれあったかな?』ということがありますよね。家のWi-Fiでネットに繋げばスーパーからアプリで分かる」
IT部の新人B 「センサーで在庫数管理するなら閾値設定しておいて自動発注しちゃえば?」
IT部の新人A 「発注先のスーパーのシステムと連携して、ある一定の数量と金額以上なら自動的に発注してデリバリしてもらう!」
IT部の新人B 「いいね!近所のスーパーやデリバリしているサービス業者を選択できるようにして、アプリで選択して、自動発注金額の下限と上限設定とかできて・・・」
冷蔵庫開発者 「冷蔵庫にそんなことできるんですか?」
IT部の重鎮A 「デジタルビジネスの時代だからね、サービス連携を実現するためのテクノロジーはあるし、既にそのようなデリバリサービスの業者やシステムもある。あとは、実際に冷蔵庫の在庫管理システムとのシステム連携とサービス契約をいくつか束ねてユーザーに提供するアプリのアクセスするサービスと自社システムを連携し、他社のシステムとの連携をサービス契約でシステムとデリバリサービスを含んだ連携を設計して契約することで実現性はあるな」

このような話になった場合、IT部門としては、以下のようなケイパビリティが必要となります。

① ユーザーアプリがどこからでもアクセス可能でエラスティックなキャパシティを備えている必要があるためAWSやAzure などパブリッククラウドに実装し、冷蔵庫の出荷台数とユーザー数に応じて従量課金されるサービス契約をコントロールする。事業コストになるので、月次でのサービスに直接関係するITコストの管理が必要。
② 自社システムをサービスインテグレーションのシステムとしてユーザー情報と冷蔵庫からあがってくる在庫情報などを管理し、発注先のシステムとの連携を図り、ユーザーの発注を処理するために必要なユーザーとの契約および連携先サービスとシステムの契約とオープンスタンダードな連携インターフェースの実装。個人情報の考慮やセキュリティ、発注、決済システムとのアプリ連携。

サービスが連携することで新なサービスを創造し、価値を創造する。
そのためには、新しい組み合わせをコントロールするケイパビリティが必要となります。
コントロールするのはシステム連携だけではなく、サービスとして定義されユーザーに提供される結果です。そして、これらを定義して連携させるために、サービス契約でシステム連携の定義やサービス連携の定義をし、契約を管理することが重要となります。誰がこのような契約を管理することができるでしょう?
IT部門以外に、システム連携やサービス連携を理解した上で契約を管理する主体となる部門はないでしょう。

デジタル ビジネス サービス インテグレーション =
システムインテグレーション x サービス契約インテグレーション

AWSやAzure はエコシステムの一部となり、新しい「冷蔵庫サービス製品」というサービス製品の一サービスコンポーネントとなります。つまり、今までの製造業にとってのBOM(Bill of Material)が、ITインフラの契約までも含んで品質管理をしなければならなくなります。しかし、それができるのはIT部門だということです。

ITのパートナー戦略は、すなわち「冷蔵庫サービス製品」を製造する企業戦略上重要なパートナー戦略となる

複数のサービス契約が組み合わさりユーザーへと提供されるサービスとなるわけですから、ユーザーへ提供する「冷蔵庫サービス製品」を定義し、サービス契約をユーザーと締結するのであれば、そのサービスを構成する契約との整合性を担保する役割と責任も持たなければなりません。ユーザーに対する可用性は自社システムのみでは決定できず、他のサービスのサービスレベル契約を考慮していなければなりません。

システムを理解し、サービスを理解し、契約の条件や連携に必要な条件やシステムのインターフェース、可用性、セキュリティの考慮などなどを管理するために、パートナー戦略をコントロールし、契約をコントロールし、運用状態と契約の整合性をコントロールする仕組みが不可欠となります。
ベンダーマネジメント/サプライヤマネジメントとは、そのようなパートナー戦略をコントロールするための不可欠なケイパビリティであると言えるでしょう。
さらに、ベンダーマネジメントにより契約から読み取られた「管理メトリクス」を実際の運用環境で監視対象として測定し、管理する運用チームとの連携、つまり対象となるIT資産の管理がベンダーマネジメントにおける契約をコントロールするケイパビリティとなるのです。
さて、IT資産管理にもいよいよ夏がやってきそうです。楽しみですね!

国際IT資産管理者協会が提供するCSAM講習では、アウトソーシングを管理するために必要なケイパビリティを獲得するための基礎的な教育を行っています。また、「ソフトウェアライセンス契約管理講習」など、特に VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の詳細などをCSAM資格者のためのフォローアップ講習としても提供していますので、ご利用ください。

以下に、IT資産管理システムのRFI/RFPのポイントをまとめた資料ダウンロードサイトをご紹介しますので参照してください。

再配布の際は出典を「国際IT資産管理者協会:IAITAMより」と明示して利用してください。

IT資産管理システム RFPたたき台 基本要求事項http://files.iaitam.jp/2017ITAMAutomationSystemRequirement.pdf

IT資産管理システム RFP項目と機能項目概要http://files.iaitam.jp/2017RFPItemAndDescription.xlsx

国際IT資産管理者協会 フォーラムサイト
メール会員登録だけでフォーラムサイトのホワイトペーパー、プロセステンプレート、アセスメントシートなどダウンロードが可能!
http://jp.member.iaitam.jp/

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コメント

筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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