組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第23回:墓穴を掘るな!Oracleライセンス分析でコスト削減!

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

目次
運用環境の情報をご提供ください
仮想環境の情報をご提供ください

9月になったというのに台風の影響で南風が入り暑い日が続いています。数か月間引きこもり生活を続けて、さすがに体力の衰えが顕著になったので、外出自粛生活にも限界を感じ、久しぶりにもともと通っていたジムに行きました。

ほんとに数か月ぶりでした。ジムでは、感染対策が採られ、あちこちに壁ができ、消毒薬や個人で持つ掃除用の雑巾などの準備がありましたが、人はまばらでした。

人が集まる場所の経営は本当に厳しそうです。

それでも感染予防に気をつけながら、少しでもジムに通って体力を戻し長期戦に備えねばと、改めて気を引き締めている今日この頃です。

さて、1990年台から「経済が悪くなるとライセンス監査が増える」と言われてきましたが、コロナの影響で監査活動が活発になったり、ライセンス体系の見直しが必要になったりと、ユーザーにとってコスト増になる動きが見えてきました。

今回は、いまだにベンダーを信用しきってしまい、無防備にも自社情報を提供し、結果として無駄なコスト増を招いてしまうという「墓穴を掘る」パターンとその回避方法について解説したいと思います。


運用環境の情報をご提供ください

「ライセンス最適化のお手伝いの一環です」などの甘い言葉で、ベンダーがユーザーに「運用環境の情報共有をしてもらうことでライセンス最適化をお手伝いさせていただきます」の体でアプローチすることがあります。

それは信用してはいけません。そもそもベンダーに提供する情報は自社で正確に把握し、ライセンスの消費や購買情報、契約情報に基づき、現在のライセンス消費状態と将来の要求などを理解しておかなければなりません。

それができていないとどうなるのか?多くの場合、不要に多額のライセンスを購入させられることとなります。

「ディスカウントがいいから」という理由で、Pool of Fund や ULA(Unlimited License Agreement)などを選択する。もちろんこれらのすべてを否定はしません。特定のユーザー条件下においてベネフィットがありますが、そのベネフィットを正確に理解して選択したユーザーではない場合、その多くは無駄なコストを多分に支払っています。

そもそも運用環境におけるライセンス消費を正確に把握していないと、「この環境ではライセンス監査が入ると何十億もの追加ライセンスが遡及される可能性があります。

しかし包括契約にしておけば大幅なディスカウントがききます」など、わかっていないことを良いことに拡大解釈されたスコープで膨大なライセンス消費が計算されます。

「手伝ってくれる」、「最適化してくれる」などあまい期待でガードを下げないようにしましょう。

残念ながら、色々なソフトウェアベンダーの営業さん(あるいは代理店の営業さん)は、自社ソフトウェアライセンスの使用許諾条件、つまりコンプライアンスをよく理解していません。

物理的な仮想環境と論理的な仮想環境によるライセンス消費の違いといった要求ライセンスの説明を、ユーザー環境に基づいて正しくすることさえできない人が多いのです。

ある特定のユーザー運用環境において、ライセンス違反になるのかという問い合わせに対する担当営業の回答が、「・・・に遵守いただいているなら問題ありません」という条件付きの場合、多くは「ライセンス違反になるかわからないのでユーザーさんが判断してください」という意味です。

信じることができるのは自分だけだ、ということを重々肝に銘じてください。色々と自社情報を無防備な状態で提供することは「墓穴を掘る」ことになりますので、決して行わないでください。

仮想環境の情報をご提供ください

ライセンスコスト増大の一番の大きな問題は仮想環境。Oracle環境では「Soft partitioning 」と定義されるvCenter 環境などです。

仮想環境の情報も安易に提供すると、「仮想環境にあるすべてのプロセッサをライセンスしてください」となります。

そもそもOracle社監査チームはユーザーの運用環境には入りません。ユーザーに情報リクエストをして、提供された情報をもとにライセンス消費などを算定します。

しかし、なぜか膨大なライセンス消費が計算される事態が発生します。これはすなわち、「ユーザーが自らにとって不利益となる情報とわからずに、情報を提供している」にほかなりません。つまり「墓穴を掘っている」わけです。

「なぜ、うちはこんなに多額の包括契約をしているのだ?」の回答は、前述の「自らの不利益になると知らずに運用環境情報を無防備に提供している」からです。

情報を提供する際は、ライセンスの消費状態や自社のライセンス運用戦略を把握し、仮想環境、ネットワークセグメント、オプション利用などをコントロールした上で意識的に情報提供し、よりよい契約条件を勝ち取るための交渉に役立てるようにしましょう。

Oracle ライセンス分析でコントロールを獲得し、コストを削減する

Oracleライセンス分析とは、ライセンス契約、発注情報、ライセンス割り当て情報を用いて、実際の運用環境でどのように運用されているのかを分析することです。

運用されている製品のバージョン、エディション、ライセンスタイプおよびオプションなどを識別し、割り当てられた購入済みライセンスとの整合性をチェックします。

また、物理システムにおけるエディションの条件確認や、仮想環境におけるエディションの条件確認、ライセンス消費などを正確に把握し、コンプライアンス状態を明確にすることで、監査対策や契約交渉にこれらの情報を用い、コストの最適化を図る、あるいは無駄なコストの上昇を抑制、削減することが可能となります。

自社でライセンス分析をすることが難しい、という場合はそのようなライセンス分析サービスをご紹介することもできますので、ご相談ください。

一般社団法人日本ベンダーマネジメント協会では、Oracleベンダーマネージャを含むメガベンダーのベンダーマネージャ育成などを支援しています。4月から「Oracleベンダーマネージャ研究会」も活動を開始しています。この機会に日本ベンダーマネジメント協会の活動をチェックしてみてください。

ベンダーマネージャの社内育成とアウトソーシング
グローバル市場では、特定のベンダーに特化したベンダーマネージャのアウトソーシングサービスやコンサルテーションなどが多数存在しています。特にOracle社の契約は複雑で、専門的知識が要求されますので、この分野の専門コンサルティング会社の増加が顕著です。しかし、サービスの品質はまちまちですので注意も必要です。

これらの課題を経営層に対して理解を促し、現場の取り組みを支援する組織としてベンダーマネジメントの啓蒙から教育、ベンダーマネージャ同士の横の繋がりをもって、より良いベンダーとの関係性を構築するためのパートナー戦略や、契約交渉力を身に着けるために「一般社団法人 日本ベンダーマネジメント協会」(https://www.vmaj.or.jp)が発足されました。
日本ベンダーマネジメント協会では「Oracleライセンスたな卸しサービス」などもグローバル市場のOracle専門コンサルティング会社との連携サービスなどをご紹介しています。自社のOracleライセンス契約の状態に不安がある方は、日本ベンダーマネジメント協会に問い合わせることをお勧めします。

日本ベンダーマネジメント協会では、ベンダーマネージャ育成や、新時代に求められるVMOの定義を可能とする「ソフトウェアライセンス契約管理講習:SLAM(Software License Agreement Management)」(https://www.vmaj.or.jp/archives/member)(Oracleライセンス契約管理オプションあり)を、 VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の教育などを講習としても提供していますので、ご利用ください。

連載一覧

コメント

筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


バックナンバー