DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力⑳

第20回 DX推進のためにイノベーションを起こすには

概要

「DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力」で紹介した内容について、 DX推進する上で欠かせない知識とマインドを8人の専門家がお伝えします。

 

目次
はじめに
DX推進に向けてイノベーションを起こす
連携のステップ
連携の注意点
社内でイノベーションを高めるには
最後に

はじめに

日本の中小企業は、大企業と比較するとDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが遅れていると言われています。その背景には、IT人材や資金力の不足に加え、既存事業に対する保守的な姿勢があります。しかしながら、DXの波はビジネス環境の変化とともに中小企業にも押し寄せており、業務プロセス改革や新ビジネスモデルの創出による競争力強化が求められています。

 

DX推進に向けてイノベーションを起こす

デジタルトランスフォーメーションは変革を起こすことが大切です。この変革を起こすためには、新しい取り組みや社内にイノベーションを起こすと言う風土が必要です。
この風土を醸成するために、中小企業にとって有効なアプローチがオープンイノベーションです。大企業やスタートアップ、大学といった外部組織との連携を図ることで、自社だけでは困難な技術やアイデアの獲得が可能となります。

オープンイノベーションの取り組みとしては、

  • 大企業と共同研究や人材交流を通じて最新技術を学ぶ
  • 大学との産学連携により革新的な技術シーズを活用する
  • スタートアップや中小企業同士で組んで新しい製品を生み出したり新ビジネスモデルを取り入れる

などの取り組みがあります。

それぞれを具体的に見てみましょう。

 

大企業と共同研究や人材交流を通じて最新技術を学ぶ

当社が支援する小さな部品加工業者は、大手車両メーカーの技術者たちと手を組み、車両部品の共同研究に熱心に取り組んでいます。この精密な仕事をこなす企業は、大手では見過ごされがちな独自の高度な技術力を秘めていました。初めは大手メーカーの技術者も、彼らの能力に疑問を抱いていましたが、熱意あふれる社長のアプローチと、3次元測定器や非破壊検査を駆使した品質の証明、そして実際の製品や加工方法を目の当たりにしたことで、その卓越した技術力を認めざるを得なくなりました。少し古い例ですが、「下町ロケット」のような情熱の物語です。今では、その技術をさらに磨き上げるために、大手メーカーの技術者と肩を並べて新たな部品開発に挑戦しています。この連携により、一企業では難しいとされる革新的なイノベーションを実現することができているのです。

 

大学との産学連携により革新的な技術シーズを活用する

大学との連携では、基礎研究の段階から関わり、長期的な視野を持つことが重要です。
松本機械工業と金沢大学は、共同研究や技術相談、人材育成などの様々な形で協力しています。金沢大学のほか、石川県工業試験場を含めて、ブレーキシャフトの表面改質によるクランプ力高機能化などにも取り組んでいます。
(出典:https://jgoodtech.smrj.go.jp/en/web/page/corp/-/info/JC0000000000605/appeal/jpn)

 

スタートアップ企業や中小企業同士で組んで新しい製品を生み出したり新ビジネスモデルを取り入れる

中小企業同士の連携もイノベーションには効果的です。異業種であることが新たな化学反応を生む場合もあり、共通の課題意識を持つ同業他社と手を取り合うことで、業界全体のDXを加速させることもできます。
例えば、株式会社フツパーという製造業向けのAIサービスを提供するスタートアップ企業は、既存の工作機械に振動センサを設置するだけで、加工条件の可視化・刃物の破損検出を実現するIoTサービス『振動大臣』を開発しました。これは、フツパーが異常検知のAI開発とIoTシステムを開発、株式会社浪速工作所が製造現場のノウハウの提供、IMV株式会社が振動・測定器を提供、有限会社ヒサミツが基板設計・筐体開発を行い、4社共同で開発を行ったIoTソリューションです。また、単純に製品を開発しただけでなく月額課金制のビジネスモデルを取っています。
(出典:https://lp.shindo-daizin.com/)

 

連携のステップ

では、このように 連携を進めるためには、どのようなステップで進めればよいでしょうか。大学や他企業との連携を進めるステップとしては、以下のような流れが考えられます。

 

自社ニーズの明確化

オープンイノベーションの第一歩は、自社が直面している課題と必要とするイノベーションの種類を特定することです。これには、市場調査、競合分析、内部のSWOT分析(Strengths, Weaknesses, Opportunities, Threats)を行い、自社の強みを活かし弱点を補うイノベーションを特定する作業が含まれます。また、短期的な製品開発から長期的な技術革新まで、目的に応じたニーズを明確にすることが重要です。

 

適切な大学や企業との連携

次に、自社のニーズに最も適合する研究分野を持つ大学や他企業を見つける必要があります。これは、科学的な研究論文、特許データベース、研究成果発表、展示会、異業種交流会などを通じて行われます。大学や他企業との連携を成功させるためには、その大学が持つ専門知識、研究実績、技術移転の経験を評価し、自社の戦略との整合性を確認します。

 

契約内容の詳細化

具体的な契約を結ぶ際には、プロジェクトの範囲、期間、予算、それぞれの役割、成果物の所有権、利用権、知的財産権の取り扱いについて詳細な取り決めを行います。特に大学との連携では、研究成果の公開性と商業的な秘密保持のバランスを取る必要があります。また、将来にわたる研究成果の実用化や収益化に関する条項も、双方にとって公平になるよう慎重に交渉します。

 

市場導入とフィードバックの活用

開発した技術や製品を市場に導入する際には、市場のニーズに応じて迅速に反応し、継続的な改善を図ります。消費者のフィードバックや市場動向を注意深く分析し、それを次のイノベーションサイクルにフィードバックします。これにより、大学の研究成果や他企業の課題を実際のビジネスの成果に変え、中小企業の成長に結びつけることができます。

 

連携の注意点

では、大学や他企業との連携を進めるときの注意点はどのようなものがあるでしょうか。

 

知的財産権のクリアな取り決め

中小企業が大学や他企業と連携する際には、研究成果の知的財産権の取り扱いに特に注意を払う必要があります。例えば、研究開発により生み出された新技術や特許について、発明者と企業間で所有権をどう分配するか、事前に明確にしておくべきです。商用化の際には、利益の分配方法やライセンス料の支払い条件も契約に含める必要があります。

 

予期せぬリスクへの対策

さらに、予期せぬリスクへの対策として、連携契約には細かいリスクマネジメント条項を設けることが重要です。例えば、研究プロジェクトが予定通りに進まなかった場合や、期待された成果が得られなかった場合の責任の所在を明確にしておく必要があります。 例えば、複数の企業が関係している場合は、1つの企業が抜けた場合は、どうするかなどの取り決めも必要です

 

組織文化の違いへの理解と対応

大学や大企業と中小企業では組織文化が大きく異なるため、互いの文化を尊重し、適応する努力が必要です。例えば、大学は基本的にオープンで知識共有を重視する文化がありますが、企業は情報の秘密保持やセキュリティを重要視します。これらの違いを理解し、適切な情報共有の範囲とプライバシーポリシーを設定することが不可欠です。

 

コミュニケーションの透明性

プロジェクトの進行においては、透明性のあるコミュニケーションを保つことが重要です。プロジェクトの目的や期待される成果についての認識の違いがないように、定期的なミーティングや報告を通じて、両者の理解を同じレベルに保つ必要があります。

 

プロジェクト管理と適応

プロジェクト管理においては、柔軟性が求められます。例えば、研究開発の途中で新たな発見があり、プロジェクトの方向性を変更する必要が出てきた場合、これを柔軟に取り入れることができるように、プロジェクト計画を常に見直し、適応する体制を整えるべきです。特に大学との連携の場合は、この点が重要です。新しい発見が出た場合に、短期的な成果を求めるか、長期的な視点に立つかをあらかじめ決め、両者とも有益な方向に向かう取り決めが必要です。

これらの注意点を踏まえ、中小企業は大学や他企業との連携を有効に進めることができます。

 

社内でイノベーションを高めるには

社長主導でイノベーションを進める例は多いでしょう。中小企業は、ここに従業員がついてくるかが重要なポイントです。
では、従業員が自社内で創造性を高めるためにはどのようすればよいでしょうか。

 

デザイン思考を取り入れる

自社内の創造性をたかめるには、従業員が新しいアイデアを自由に発想し、実験する文化を育むことが重要です。デザイン思考は、創造的な問題解決プロセスであり、ユーザー中心のアプローチを特徴とします。このプロセスは、エンパシー(共感)を通じてユーザーのニーズを深く理解することから始まります。次に、定義フェーズで得た洞察をもとに問題を明確にし、アイデア発想フェーズで多数の創造的解決策を探求します。その後、プロトタイピングフェーズでアイデアを形にし、テストフェーズでこれらの解決策をユーザーに試してもらい、フィードバックを集めます。これらの段階は繰り返し実施され、洞察を深め、解決策を改善し、ユーザーの実際のニーズに適した最終的なソリューションを創出します。これにより従業員に顧客の実際のニーズに基づいた革新的な解決策を生み出す力を与えます。

デザイン思考の例では、日本のある中小家電メーカーが、高齢者向けの新しい簡単操作のリモコンを開発した例があります。この企業はまず、高齢者の日常生活を観察し、彼らが既存のリモコンの多機能性や小さなボタンに困惑していることを発見しました。エンパシー(共感)マップを用いて顧客の感情や困難を明らかにした後、問題を「高齢者が直感的に操作できるリモコンをどう設計するか」と定義しました。ブレインストーミングを通じて多くのアイデアが提案され、その中からいくつかのプロトタイプが製作されました。ユーザーテストを実施し、高齢者からの直接的なフィードバックを受け取ることで、最終製品は大きなボタンとシンプルな機能に絞り込まれました。この製品は、高齢者にとって使いやすく、同時に彼らの自立性を高めるものとして市場で大きな成功を収めました。デザイン思考を取り入れることで、この中小企業は顧客の深層のニーズを理解し、製品開発においてそれを形にすることができたのです。

 

社内ハッカソンを実施する

このような創造的な思考を促進するために、社内ハッカソンの開催や社内インキュベーションプログラムの設立も有効です。社内ハッカソンは、従業員がチームを組み、限られた時間の中でアイデアを出し合い、プロトタイプを作成するイベントです。これにより、創造性を発揮しやすい環境を提供し、新製品やサービスの開発を促進します。一方、社内インキュベーションプログラムは、従業員が新規プロジェクトやビジネスアイデアに取り組むための資源と支援を提供し、成功したプロジェクトは会社の新たな事業として展開することができます。

ある製造業の中小企業は、社内ハッカソンとして定期的にデザイン思考ワークショップを開催しました。従業員は顧客の視点から問題を再定義し、市場のニーズに合わせた顧客自身の潜在的なニーズを汲み取り、製品を迅速に開発することができました。これにより、企業は売上を大幅に伸ばしました。

このような創造的な取り組みを進めるためには、まず、市場や顧客のニーズを深く理解し、達成すべき具体的な目標を設定することが重要です。次に、必要な人材、技術、資金を特定し、それらのリソースを適切に配分する必要があります。そして、パイロットプロジェクトを実施して実際の市場環境でテストし、結果を評価してフィードバックを取り入れ、改善を行います。成功したプロジェクトは、より大きな市場に展開していきます。

 

最後に

オープンイノベーションを成功させるためには、明確な目的を持ち、相手の強みを理解した上でWin-Winの関係を築くことが不可欠です。また、社員の意識改革も重要であり、外部との連携を支える企業文化を育てることが必要です。具体的な制度設計を通じて挑戦を促し、イノベーションを持続的に生み出す環境を中小企業が整えることが求められます。

 

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筆者紹介

株式会社 エムティブレイン 代表取締役 山口透

http://mt-brain.jp/
「経営とITと人材育成」のコンサルティング業を中心とする株式会社 エムティブレインの代表取締役。現在、経営とITの橋渡しをする社外CIO (社外IT顧問)サービス提供中。
主な著書(いずれも共著)
「IoT しくみと技術がしっかりわかる教科書」 技術評論社
「この1冊ですべてわかる ITコンサルティングの基本」 日本実業出版社
「生産性向上の取組事例と支援策」 同友館

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