ニューノーマルで悩む管理者の夜

第拾七夜 番外編 三国志で悩む管理者の夜

概要

変化を体言するキーワードが、「ニューノーマル」。珍常態を、システム管理者目線でゆるーく語っ ていこうと思います。

目次
番外編 BookCafe
まずは王道。吉川英治版「三国志」
ベンチャーと大企業と極道の戦い「泣き虫弱虫諸葛孔明」
いちゃラブマンガな「孔明のヨメ」
禁断の孔明周瑜本「私説三国志 天の華・地の風」
乱れる時代に、ぜひ「三国志」本を

番外編 BookCafe

今回も番外編ということで、「システム管理者のためのBookCafe」 のように、各種の本をテーマにしたいと思います。そして、相変わらずマンガやラノベはあっはーん(謎)な本も含めて紹介します。
今回のテーマは「三国志」。なぜ三国志かというと、先日地上波で「新解釈・三国志」が放送(*1)されたからです。それに乗じて、このテーマを選んでみました。 
場所は中国、時代は後漢末期。黄巾党がはびこり、群雄割拠の時代。そのなかを生き抜いた英雄・梟雄・勇士・軍師・策士たち。男は戦いに身を投じ、女は名も知られずに、裏で鬼嫁と化す。義理の子供を託し自ら井戸に身を投げ、優秀な息子の引き抜きに対し、乱世の英雄に硯を命中させようとする。まさに、ドラマです。この乱世を切り取り、様々な群雄を配して描いているのが「三国志」となります。では、各作家の「三国志」をご賞味ください。

まずは王道。吉川英治版「三国志」

「三国志」といえば、吉川英治作の「三国志」です。「宮本武蔵」「新・平家物語」などでも有名で、「宮本武蔵」も多々ある「武蔵」本のスタンダードといえます。

<図表17-1 吉川英治「三国志」>

横山光輝版のマンガ「三国志」もこの本がベースです。吉川版「三国志」では、「三国志演義」などをベースに戦闘シーンなどの冗長な描写を省き、人物像にも独自の解釈を取り入れた格調高い歴史文学として評価されています(wikiなどから)。定番の「桃園の誓い」(*2)から始まって、「徐庶偽名事件」、「三顧の礼」(*3)、「天下三分の計」(*4)、「赤壁」(*5)、「落鳳破」、「七縦七擒」、「泣いて馬謖を切る」、「死せる孔明、生ける仲達を走らす」までお約束のイベントは、この作品から始まりました。この本を読まずして、他の「三国志」本は語れません。
IT業界でもやはり王道は大事です。いくらアジャイルが流行っていても、王道のウォーターフォールは経験していないと駄目なことがあります。そもそもアジャイル自体が、ウォーターフォールの弱点から生まれたようなもの、反ウォーターフォール開発ですから。

ベンチャーと大企業と極道の戦い「泣き虫弱虫諸葛孔明」

著者は、第一回ファンタジーノベル大賞を受賞した酒井賢一氏。この本の孔明は、口喧嘩無敗を誇り、いじめた相手には得意の火計(放火)で恨みを晴らす。まるで、「うらみはらさでおくべきか」や「エコエコアザラク」です。その幼年時代を経て、書籍(竹簡かな)で知識を食いまくり、やがて宇宙を語り(でも引きこもって話し相手なし)、やっと劉備に仕える。
<図表17-2 酒井賢一「泣き虫弱虫諸葛孔明」>

魏呉蜀の色分けが特色です。特に、まんま極道な呉。孫権を「カシラ」と呼ぶ国家です。蜀は、劉備が座長の劇団だし。各国の武将や文官もかなり特徴づけて書かれています。
ふと考えてみると、この本による三国、魏は大企業、蜀は劉備トップのベンチャー、呉は極道。まだ、実績もなにもない口だけの孔明がベンチャー企業に就職し、赤壁でなんとか利益を上げ、最後にはベンチャー企業「蜀」が大企業「魏」に吸収合併されるという現代企業の話にも見えます。そうだよね、伏龍なんて自称しても、軍師というキーマンがぞろぞろいる魏国に就職はきついし、文系の孔明では極道な集団の呉では難しい(でも入ったらなんとかする要領の良さはありそう)。で、劉備座長の「蜀」に新卒入社。ベンチャーは人材も金も土地もないですから、孔明のような新人エンジニアでも、プログラマからプロマネ、運用管理までなんでもやっていくんでしょう。大企業「魏」ではしっかり役割分担(*6)されていますし。孔明はブラック企業蜀から転職できず二代目もぼんくらで、過労死したのでしょう。実際、先輩社員の徐庶くん(*7)はあまりの丸投げな仕事のやり方、酒・宴会の強制に心を病んでいきましたから。

いちゃラブマンガな「孔明のヨメ」

4コママンガです。主人公は、孔明のヨメさんです。黄月英ちゃんです。
<図表17-3 杜康潤「孔明のヨメ」>

こっちの黄夫人はチンチクリン(*8)で童顔なタイプで、工作好き。作れなかったものはき〇たま(男になりたかった)。前述の「泣き虫弱虫諸葛孔明」の黄夫人(黄氏)は、逆に長身茶髪色黒の90年代スーパーモデルタイプ(*9)です。そのヨメさんの婿選びから始まり、まずは「学友」から孔明との付き合いが始まって、お互いの愛がはぐくまれていく。安心して読めるいちゃラブ4コマです。癖の強い三国志本を読んだ後に、読むと心が休まります。映画「新解釈・三国志」を見ながら、ヨメ(黄月英)比較するのも良いでしょう。

禁断の孔明周瑜本「私説三国志 天の華・地の風」

この本は、私も全部読んでいないです、すみません。メインキャラクターが孔明と周瑜です(たぶん)。で、孔明と周瑜の、間違えました周瑜と孔明の「複雑な感情はやがて愛に変わり」のヤツです。でも、一部で相当評価が高いアレ本です。小説JUNE(*10)出身の本です。でも、三国志ファンからも「江森三国志」として評価が高いです。

<図表17-4 江森備「私説三国志 天の華・地の風」>

いやー、顧客との間で仕様についてやりあっているときに、「複雑な感情はやがて愛に変わってしまったら、どうしよう。すごい髭面でムチムチのおっさんだったら」と考えると、夜も眠れません。いや、寝かせてくれないという意味ではなく、本当に恐怖です。ガチムチじゃなくて、ショタなら良いのかといわれても、まぁ許すかもしれないこともないです。そういう関係に耽美を感じる方は、ぜひお読みください。顧客との間に、新しい扉が開かれるかもしれません。
私も今年の目標として、本作を読破いたします。

乱れる時代に、ぜひ「三国志」本を

紹介した4冊の「三国志」本の他にも、「大水滸伝シリーズ」で脚光を浴びた北方謙三の「三国志」、蜀が統一しちゃう「反三国志」(*11)、呉を中心とした「呉・三国志 長江燃ゆ」、さらにラノベでは「董白伝~魔王令嬢から始める三国志」(*12)など多々あります。マンガでは曹操が主人公の「蒼天航路」や白井恵理子の「4コマ三国志シリーズ」(*13)があります。

孔明の少年期に起こり、トラウマとなった曹操による「徐州の虐殺」、映画化もされた魏vs呉+蜀の「赤壁の戦い」。三国志の時代には、多々イベントが発生しています。それが、登場人物の行動や性格に影響を与えていたりします。現在のニューノーマルな社会でも、コロナ禍の騒動、みずほ銀行の信じられない三度目のトラブルなど、IT業界にも歴史的なイベントが発生しています。これらのイベントは、少なからずエンジニアの生き方や考え方に影響を与えていることでしょう。「さっさと前の日常に戻りたい」と語るのは、単なるモブキャラです、曹豹(*14)です。そんなモブな人生を歩まず、伏龍鳳雛な人生を歩みましょう。その一助となるのが「三国志」かもしれません。

では良き眠りを(合掌)。

「臥龍、三年眠って天下を逃す」 by 水鏡先生・司馬徽の言葉かも(「泣き虫弱虫諸葛孔明」から)


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*1 2022年1月21日に日本テレビ金曜ロードショー枠で放送。「新解釈・三国志」は2020年12月11日に公開された日本映画。脚本と監督は福田雄一、主演は劉備:大泉洋、孔明:ムロツヨシ、黄夫人:橋本環奈。チョイ役で、広瀬すず(役 貂蝉『真の姿』)や山田孝之(役 劉備が最初に戦う黄巾)が出演。特に広瀬すずは最高の無駄使いとネットで評判になった。

*2 「生まれた日は違えども、死せるときは同年同月同日に!」です。大きなプロジェクトのキックオフで、「出身会社は違えども、最後まで逃げずに頑張ろうね」と誓うのと同じです。最後は、バラバラに抜けていきますが。

*3 「三顧の礼」はフィクションだったらしいです。

*4 「北は曹操の天の時を占むるに譲り、南は孫権の地の利を占むるに譲り、将軍(劉備)は人の和を占むべし」

*5 「赤壁の戦い」は208年に発生。映画「レッドクリフ」として、2008年にpart1、2009年にpart2が公開されました。主人公は、周瑜(トニー・レオン)です。

*6 「孔明のヨメ」あたりから見ても、荀彧と郭嘉の仕事は明らかに違っています。大枠で内政(荀彧)か軍略(郭嘉)かで。

*7 徐庶、字は元直。伏龍諸葛亮、鳳雛ホウ統に比べるといまいちな評価です。三国志では孔明の前座と化しています。「孔明のヨメ」ではなかなかかっこいい兄貴分で、徐兄と慕われております。

*8 チンチクリンは、① 非常に背の低いこと。また、その人やそのさま。すんたらず。② 背たけに比べて着物などが短いこと。です。

*9 90年代の代表的なスーパーモデルであるナオミ・キャンベルをイメージ。

*10 JUNEは、サン出版(現マガジン・マガジン)が発行していた、主に女性向けの男性同性愛をテーマとした漫画小説混合雑誌の名称(Wikiから)。「小説JUNE」は小説をメインにした隔月刊誌。

*11 「反三国志」は著者は周大荒。徐庶が劉備の元を去る直前から始まり(しかし去らず)、伏龍鳳雛徐庶がそろい踏みして、蜀の五虎大将のうちいまいち活躍が少なそうな馬超が大活躍するIFものです。反蜀な武将が悲惨な死に方をしまくります。

*12 悪逆無道な董卓の子供董白(転生済)が主人公です。類似本として、「偽典・演義~とある策士の三國志~」があり、こちらは李儒に転生した話。

*13 「白井式プチ三国志」とか「劉備くん! 阿斗のまつり」とか。戦わない三国志、三国志ギャグバトルと言われています。

*14 光栄(現コーエーテクモ)の「三国志」などで、登場人物中最下位の能力をつけられた将軍。カルトな人気があります。 以下に能力値を。
(【参考】 にくおの部屋:https://www.lhexw.net/san/nouryoku-index.html


参考までに 諸葛亮のデータは


参考までに 曹操はこんな感じ



曹操は、「三国志14」でも 統率98、武力72、知力91、政治94、魅力96という無敵の能力です。

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筆者紹介

司馬紅太郎(しば こうたろう)
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。

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