ニューノーマルで悩む管理者の夜

第弐拾夜 ニューノーマルで悩む管理者の夜

概要

変化を体言するキーワードが、「ニューノーマル」。珍常態を、システム管理者目線でゆるーく語っ ていこうと思います。

目次
定着しなかったニューノーマル
ニューノーマルが大活躍?
ニューノーマルはネットな社会
反ニューノーマル派閥との対立や詐欺
オールドノーマルに配慮したニューノーマル
迷子のニューノーマルの明日はどっちだ

定着しなかったニューノーマル

今回は第20回、キリ番です。第10回では、「第十夜 PPAPで悩む管理者の夜」として、特にキリ番を意識したテーマにしませんでした。しかし、今回のテーマは、コラムタイトルであるニューノーマル。さて、ニューノーマルって定着しているのでしょうか? 結論を言いますと、定着なんてしていません。「定着した」といっているのは、お役所や政府ぐらいです。ICT(*1)と一緒です。では、ニューノーマルがどこにいったのかを一緒に考えてみましょう。

ニューノーマルが大活躍?

「ニューノーマル」で、いま一番有名なのは、馬です。2019年4月10日生まれで、ノーザンファーム出身。武幸四郎調教師。2022年4月24日の福島三歳未勝利Rで勝ちました。

<図表20-1 ニューノーマル”馬”>

馬なんですよ。ウマ娘(*2)ではなく、リアルな馬です。でも、しっかりニューノーマルです。頑張ってほしいものです。そう、ニューノーマルは競馬場で走っています。

ニューノーマルはネットな社会

ニューノーマルという言葉は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を契機に発生したものです。一部ではSDGs(*3)とかDXを含めてニューノーマルという言葉を定義している向きもあります。さらに、企業というかニューノーマルビジネスを展開しようとする企業によってニューノーマルの範囲が異なっています。といっても、通常は「3密」の回避をベースにした生活スタイルの移行をニューノーマルとすることが多いようです。
以下に代表的なニューノーマルスタイルを挙げて、その反対であるオールドスタイルと比較してみました。新旧比較です。

どうでしょうか。ニューノーマルな社会と以前の社会の比較。要するに、オンラインでネットを介して、いろいろやりましょう、なだけです。たいしたことはやっていません。でも高齢者やIT弱者にとっては、ネットというだけでもう無理な世界になります。田舎(*4)ですと、まだまだ固定電話がメインですし、FAXも使われることが多いです。さらに昭和の遺物ともいわれるフロッピーディスクがまだ生息しています(*5)。
さらに、ネットが必須となっているため、ネットが切断されたら何もできなくなる世界になります。リアルな引きこもり、リアルなステイホーム(*6)が達成できます。となると、ニューノーマルのために、ネットなインフラを整備することは、反ステイホームになってしまう?

反ニューノーマル派閥との対立や詐欺

ニューノーマル=IT化・ネット接続社会という前提になりますと、それらに適合できない人たちはどうするのか、という反論も出てきます。ワクチン接種に対する反ワ団体(*7)や、ノーマスク市議(*8)と同じですね。
そのような方々からは、反ニューノーマル、以前の日常を返せなどの叫びが上がります。「No More IT」とか「手作業は正義」とかいう標語で、国会前でデモをしそうです。いくらデジタル庁がデジタル化を推進しようとも、企業がDX推進しようとも、分からないものは分からないのです。

情シス係長K「こんな遠くに来てもらって悪いね。うちの会社では対面でのコミュニケーションを重視しているから」
営業マンD 「いえいえ、大丈夫です。しっかり説明をさせていただきます」

営業マンD 「どうでしょう。当社のパッケージを導入していただきますと、すぐに御社がDX化されます」
情シス係長K「よく分からないけど、これでDXができるのかい」
営業マンD 「できます。業務のデジタル化がDXです」
情シス係長K「わかったよ。こんど社長に話しておくよ。また、来てもらうことはできるかい」
営業マンD 「よろこんで」

田舎で交わされているIT企業とお客様の会話です。このユーザー企業、ベンダーにぼったくられるぞ、と思うのは非常に良心的な方。でも、IT弱者にとって、ITの話をされるのは苦痛なのです。急激なIT化やデジタル化などのムーブに対して、反対の動きが起こるのはこのコロナ禍で分かってきたことでもあります。本当に、ニューノーマルは、どこにいってしまうのでしょう。

オールドノーマルに配慮したニューノーマル

いまだにどこにいるのかわからないニューノーマル活動。そのため、最近ではオールドノーマルとの折衷案がいくつか見られます。

・上座席があるzoom~とりあえず上座を薦めておこう
Web会議の代名詞ともなったzoom。そのzoomに、オールドノーマルな席次機能が実装されたという話です。2020年9月とやや古い情報になりますが、「カスタムギャラリービュー」という機能によって、参加者の画面表示を自由に移動・変更が可能になります。つまり、エライ人の画面を真正面に置くことも可能です。すっごく見づらいこと間違いありませんが。
【参考】FNNプライムオンライン「zoomの新機能は日本の『上座』マナーに配慮した?日本法人に本当の狙いを聞いた」(https://www.fnn.jp/articles/-/82999

・オンライン研修の後の居酒屋でリアル飲み会~飲みゅにけ―しょん好きを逆に囲う
いまは研修自体がオンラインという形式が非常に多くなりましたが、一部のオールドノーマル信者たちからは、研修の後の飲み会がないのが寂しいという声が挙がっています。だから集合形式にしようという極論まで言っているオールドノーマル強硬論者もいます。そのような昔を懐かしむ系と「こんなのオンラインで済むじゃん」系の折衷案として、二次会だけは居酒屋で集まろうという試みがあります。勇士(有志)は居酒屋に集まり、ネットを介して「密」を回避している賢者たちと繋がり、パーティ(宴会)モードになる。このようなパーティでドラゴンを倒せるかは疑問ですが。

・通年対応された基本情報技術者試験~大量受験者にはCBT
資格試験のオンライン化については、「第二夜 試験で悩む管理者の夜」でも書きました。
基本情報技術者試験と情報セキュリティマネジメント試験は、令和2年(2020年)から年2回(上期、下期)の一定期間、CBT方式で実施ということになっています。そして、2024年4月からは、一定期間ではなく通年でのCBTによる受験が可能となりました。
高度試験などのように会場実施の場合には遅刻が可能でしたが、CBT実施による会場になるため遅刻がNGになります。また、あの一部で悪名が高い個別プログラム言語(C、Java、Python、アセンブラ言語、表計算ソフト)による出題が普遍的・本質的なプログラミング的思考力を問う疑似言語による出題に変更されます。なるべくしてなった変更といえるかもしれません。試験はいつでもどこでも実施可能、としたいところですがCBTでの試験会場への移動はまだまだ必要です。そして、高度試験はまだまだ会場での実施なんですよね。

<図表20-2 情報処理技術者試験 変更内容>
https://www.jitec.ipa.go.jp/1_00topic/topic_20220425.html から)

・普及するタッチパネル~コミュニケーションを代替
コンビニ大手のセブンイレブンの支払機、外食チェーン店でのタッチパネルメニューなどのように、「密」や客と店員とのコミュニケーションが発生する場所に、ITを介在させて「密」を回避しようという試みが多数みられます。人手不足を解消し、注文のミスも削減できる非常にITらしい取り組みです。しかし、いままで可愛い店員さんとの会話を楽しんでいた中高年の方々にとっては、それを阻害し、わけのわからない機器の操作を押し付けるモノとなっています。「どうやって操作するんだ」「いいから注文を取れ」などの怒号が起きることもあります。コンビニの支払機についても「客にパネルを押させるなんて失礼だ」との声もあります。しかし、ニューノーマルの時代では、客は神様ではありませんし、店員は特定接客業でもありません。ITを介在し、コミュニケーションをとらなくてはいけない時代なのです。ITが嫌いな方々は、そういう専門店に行けばよいのだと思います。

<図表20-3 セブンの支払機>        <図表20-4 日高屋タッチパネル式メニュー>

迷子のニューノーマルの明日はどっちだ

第20回ということで、ニューノーマルという言葉を再考してみました。IT業界にとっては、テレワークへの移行やWeb会議、オンラインでのセミナーなどは以前からありましたし、それほど違和感のないノーマルだったのですが、ITに弱い方々にとっては、さっさと戻りたいという苦痛以外なにものでもなかったようです。その結果が、着地点不在で迷子になったニューノーマル。そして、まだまだ終わらないロシアのウクライナ侵攻やそれに乗じて侵攻の気配がある周辺の他国。予断は許さない状況ですが、余談はここまで。
では良き眠りを(合掌)。

「言葉を紡ぐべき時間もあれば、眠るべき時間もある」 by ホメーロス

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*1 ICT(Information and Communication Technology)は、ITの代替用語として2010年代後半から使われてきている用語。ITとの違いは、ITは情報技術の活用であり、ICTは利活用による共有やそのための技術というらしいですが、あまり違いはありません。ICTという言葉を多用している企業・個人は政府や公官庁のお仕事系が多いヒトと思ってよいです。
ちなみに、ICTという言葉自体は、1997年にデニス・スティーヴンソンによるイギリス政府への報告書の中で使用された後、2000年にイギリスの教育カリキュラムで使用されたことで広く知られるようになりました。しかし、2012年に王立学会が「あまりに多くの否定的意味合いを含む」として、イギリスの学校における「ICT」という用語の使用を中止すべきであると勧告しています(Wikiから)。

*2 ウマ娘プリティダービー。2021年2月に配信された爆発ヒットしているソシャゲーです。有名人もはまっている人が多く、プロ野球の田中将大さん、タレントの中川翔子さん、SnowManの佐久間大介さんは有名です。マンガ家の夕月光さんもウマネタをたまにTwitterに挙げています。

*3 Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)。2015年9月に、「国連持続可能な開発サミット」で決定。2015年から2030年までの長期的な開発指針で、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指している。「17の目標」と「169のターゲット(具体目標)」から成り立っている。
この手の目標は、SDGsの前身であるMDGsのように前々からありますし、ニューノーマルと関連づけるのは牽強付会かと思います。また、「16.平和と公正をすべての人に」はもう遵守されていないですよね。ロシアのウクライナ侵攻によって。

*4 「田舎」という山本直樹の青年漫画(東京都の不健全な図書類に指定され、結果書店での完売が続出した作品)がありますが、まったく関係ありません。

*5 2022年4月8日に山口県阿武町で発生した「4630万円誤送金騒動」。フロッピーディスクがまだ現存していたことにネットが騒然となりました。給付金の送付ミスのほうも大事ですが。
参考までに、阿武町が山口銀行に振込依頼書を渡す際に使用したのが、「フロッピーディスク」であり、その媒体には正しい金額が記載されていました。添付された「紙の振込依頼書」に誤記載があったらしい。さらに、「フロッピーディスク」の使用指定は銀行側の都合。振り込む前に紙とデータの数字の突合をしなかったのが原因ですね。
近々では、振り込まれた人が返金に応じず、阿武町役場が被害届を提出するという事態になっています。被害届はこちらが出したいわ、これが被害者面という実例です。
さらに、5月21日には、振込先である24歳男性は、振り込まれた金はネットカジノで使い切ったとの発言。さらに、役場では訴状にて24歳男の本名を公開。泥沼化しています。

*6 「ステイホーム(stay home)」は、2020年のコロナ禍で呼びかけられたキャッチフレーズ。外出せずに家に居ろという意味です。簡単に言えば引き籠り。

*7 反ワクチン派。ワクチンの非効果性や陰謀論を根拠としてネットを中心に活動。2022年4月に、神真都Q(やまとキュー)という団体が、ワクチン接種会場での妨害を行うなどの過激な行為で、問題化しました。

*8 2022年4月に、飛行機内でマスク着用を拒否し出発を遅らせた広島県呉市の市議がいました。この人も「感染まん延を見せかけるためにマスクが推奨されている」という陰謀論を展開しています。

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筆者紹介

司馬紅太郎(しば こうたろう)
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。

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