今回のテーマは禁断のISO
ISO9001を知っていますでしょうか。国際標準化機構(ISO)が、製造業を中心に品質保証の国際的な基準を策定したのが始まりですが、このISO9001が日本にハマり、いろいろな会社へ苦しみを与え、一部の昭和な高齢者たちに「審査員」という新たな職種を与えております。今回は、この摩訶不思議なシステムについて語りたいと思います。
【参考】日本産業標準調査会の国際標準化のページ
(https://www.jisc.go.jp/international/)
そもそものISO9001
ISO 9001は、以下の7つの品質マネジメント原則(*1)に基づいています。
・顧客重視(Customer focus)
・リーダーシップ(Leadership)
・人々の積極的参加(Engagement of people)
・プロセスアプローチ(Process approach)
・改善(Improvement)
・客観的事実に基づく意思決定(Evidence-based decision making)
・関係性管理 (Relationship management)
これらの原則は、ISO9001(品質マネジメントシステム規格)の序文(*2)に記載されており、効果的な品質マネジメントシステムの運用に必須で、これらの原則に従って組織の運営ルールを定めることにより、品質マネジメントシステムが効果的に機能します。まぁ、何を言っているかよくわからないところもありますし、「きれいごと」しか言っていない気もしますが、これが原則です。
そして、ISO認定を取得するにはそれなりのパワーが必要ですし、さらに認定を継続するには、取得後も3年間の有効期限内に「毎年1回の維持審査(サーベイランス審査)」そして「3年目には更新審査(再認証審査)」を受ける必要があります。これらの審査に合格することで、認証が継続され、有効期限がさらに延長されます。審査を受けなければ、認証は失効です。
まさに、継続させてチャリンチャリン進んでいく、
日本でのブーム
このISO9001ブームは「国際競争力」「品質文化」「取引条件」「認証ビジネス」という4つの要因が重なった結果です。
ISOは国際規格であり、日本では「品質=企業の誇り」という文化、俗にいう「モノつくりは品質絶対」主義もあります。さらに、ISO9001の認定が入札条件に含まれるようになると、大手メーカーが下請け企業にISO取得を要求。「ISOを取らないと取引できない」という状況が広がり、中小企業も一斉に認証取得へ動きます。それによって、業界全体のブーム化が加速します。そして、それ(認証するアクション)を推奨する周辺企業、つまり「認証させるためのコンサルタント」「文書作成のノウハウをインストラクションする方々」が後押しします。このような流れに乗っかり、狂乱のISO9001ブームが花開いたのでした。
ISO9001のデメリット
しかし、2000年代後半には、「書類作りのためのISO」という批判も発生しました。「認証維持のためのコスト」や「書類作成の負担」が目立ってきたのです。そして、ISO9001を取得することによる品質基準の保証よりも、ISO9001の維持自体が目的となり、維持審査や更新審査を行う「審査員の傾向と対策や特徴」を事前にリサーチしたり、「審査員対策」のみに終始したりするような傾向も見られました。
特に以下のようなデメリットが指摘されています。
・膨大な書類作成と記録: 認証維持のために必要な手順書や記録の作成・管理に、膨大な労力と時間がかかります。
・形式主義的な運用: 本来の業務改善ではなく、審査員に見せるための形だけの運用になってしまうことがあります。
・実務との乖離: テンプレートをそのまま流用するなどして、自社の実際の業務プロセスと合わない非効率なルールができてしまうことがあります。
・担当者への負荷集中: ISO事務局や担当者に業務負担が集中し、通常業務との両立が困難になります。
ISO9001の本質が品質マネジメントの構築であったとしても、それを維持(前述しましたが、維持にも審査が必要なのです)するために、毎年莫大な書類や専任の人的コスト、兼務の場合は兼務者への負荷、がかかります。また、時代はどんどん移り変わり、加速度的にITが使われ、今はAIの活用も必須です。しかし、それを「文書」に反映する手間もコストもありません。ISO9001の維持のために、IT化できないという逆転現象も発生しています。
vs審査員
ここで、実際の現場で繰り広げられている“審査員との攻防”をいくつか紹介したいと思います。
審査員「この記録は、誰が、いつ、どのように、なぜ作成したのですか?」
担当者「改訂履歴に書かれています」
審査員「初版以降の日付がありませんが、改訂されていないのですか」
担当者「変更が軽微であるため、改訂は必要なしと判断しました」
審査員「確か組織名が今年の4月に変わったと思いますが、反映しないのですか」
担当者「・・・。次回の定期改訂時にまとめて修正を見込んでいました」
審査員「遅い。これは減点です」
審査員「改善の証跡はどこにありますか?」
担当者「えーと、この証跡とこの証跡の合わせ技で」
審査員「よくわかりませんし、主体的に改善したとは見えません」
審査員「では、この作業はこっちのAシステムに登録されていますか?」
担当者「いえ、この文書に書いてある通りに登録します」
審査員「では、このシステムはなぜ存在しているのですか。位置づけがよくわかりません。どのような役割で使用していますか?」
担当者「(お前の理解力が低いせいだろう)そこにシステムがあるからです」
審査員「AIを使っていますが、その出力が正しいことは、どのように保証していますか?」
担当者「このガイドラインに沿っています」
審査員「では、この作業はAIに作成させている、とのことですが役割分担表はありますか?」
担当者「(AIは人じゃねーんだよ)。今度社員登録しておきます」
まさに、認証を取得/継続するための攻城戦が繰り広げられています。
2026年の改訂版
ISO9001の改訂は、2025年8月にDIS(ドラフト)が公開され、正式版(ISO 9001:2026)は2026年10〜11月に予定されています。最新の国際動向を踏まえると、ISO9001は単なる品質管理の枠を超えて、流行りのサステナビリティやDXなどにも対応し、まさに「次世代QMS」に進化すると思います。また、ISO9001:2015の改訂では「
ISO9001 改版史
| 年 | 版 | 特徴 |
| 1987年 | 初版 | 「品質システム」として、主に製造業の品質標準化を目指す。 |
| 1994年 | 1994年版 | 顧客監査(第二者監査)を視野。 |
| 2000年 | 2000年版 | 大幅改訂。プロセスアプローチとPDCAサイクル。 |
| 2008年 | 2008年版 | – |
| 2015年 | 2015年版 | 「リスクベースの思考」。他の規格(ISO14001など)との統合を視野。 |
ISO9001ビジネスの未来とAIによるPDCA
ISO9001について、その歴史や「なぜ流行ったか」を中心に語ってみました。典型的な資格/認定ビジネス(*3)ですし、改訂がビジネスやITの進化にまったく追いついていないことも事実です。機会があればISO9001の関係者と会話をしてみましょう。「現在のAIをどのように活用するのか」「どのようにAIを管理・品質保証していくのか」という視点を持っているのでしょうか。審査員や関係者の頭の片隅に「生成AI」という文字があれば良いのですが、まだ「機械学習」のままかもしれません。もしかしたら、生成AI
では良き眠りを(合掌)。
「人生という試合で最も重要なのは、休憩時間の得点である」 by ナポレオン・ボナパルト
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- 商標について
*1 最新のISO 9001:2015(JIS Q 9000:2015)における品質マネジメント原則は合計で7つです。以前のバージョン(ISO 9001:2008まで)では8原則でした。もし、8原則と記載されていた場合、最新情報を反映していない可能性があります。
*2 序文 0章は以下の4項で構成されています。
0.1 一般
0.2 品質マネジメントの原則・・・ここに7原則が記載
0.3プロセスアプローチ
0.4 他のマネジメントシステム規格との関係
*3 資格や検定を中心にしたビジネスモデル。資格そのものを提供したり、資格取得のための教材・講座・試験運営・認証制度などを通じたりして収益を上げる仕組み。ISO9001の認定は、その資格がある限り半永久的に収益を上げることが可能なモデルであり、PMP、ITコーディネータなどと同じ仕組みといえます。
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筆者紹介
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。


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