今更ながらAI
AIが既にブームです。特に生成AIです。各社ではユーザー企業、ITベンダーそれぞれAIを活用し、自社の成果をアピールしています。でも、勘違いしまくっている企業もあります。よくあるのが、AI=DXという勘違いやAI導入=生産性向上、AI=なんでもOKというIT音痴なものもあります。今回は、そもそもAIとは何か、AIで現状どこまでできそうか、などを語ってみたいと思います。
【参考】AI総研 業界別日本企業の生成AI活用事例10選
https://metaversesouken.com/ai/generative_ai/comparison/#AI-12
図表46-1のように、検索やらAIでの業務補助、動画作成などなど。基幹業務ではなくホワイトカラー業務がメインっぽいです。
令和初年発の情報通信白書
まず、国の発表から行きます。総務省が発表した人工知能(AI)と機械学習、深層学習の図です。生成AIがない頃です。
【参考】総務省 商法通信白書 AIに関する基本的な仕組み
(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd113210.html)
白書には「近時のAIブームの中心となっているのは、『機械学習』です」と書いてあります。それから数年後、令和7年(2025年)では、以下のような図に進化しています。AIや機械学習、そしてディープラーニングを突き通して、生成AIが主流になっています。
文字で記すと、AI>機械学習>深層学習>生成AI となります。また、表形式に簡単にまとめると以下になります。
AI(Artificial Intelligence) | 人間の知能や行動をコンピューターで再現した技術やソフトウェア |
機械学習(Machine Learning) | コンピューターがデータから学習して、パターンやルールを自動で発見する技術 |
深層学習(Deep Learning) | 機械学習の一手法で、ニューラルネットワークを用いて大量のデータを学習する技術 |
生成AI(Generative Artificial Intelligence) | コンピューターが学習したデータを基に、新しいコンテンツやアイデアを生成する技術 |
すごくざくっと説明すると、機械学習は「(大量データから)パターンやルールの発見」、深層学習は「多層のニューラルネットワーク(*1)を利用して、データの特徴を判別」、「生成AIは、(大規模言語モデルを基に)新しいコンテンツなどを生成する」ものといえます。生成AIがブームですが、その基盤となっている機械学習や深層学習の知識がないと、やはりエンジニアとしては片手落ちといえるかもしれません。
蛇足ですが、深層=多層=深い層の意味で「ディープ」ラーニングとなります。「図表46-4」のようなニューラルネットワークを介して、インプットされた情報(よくある例は「猫の画像」)を、隠れ層で多層に分析し、出力層で分析結果(例えば「猫」)を出力します。
【参考】図表はNTT東から引用
(https://business.ntt-east.co.jp/content/cloudsolution/column-306.html)
ここまで達したAIの歴史
ここまでで、すでにおなか一杯なエンジニアも多いと思いますが、続けます。
AIの歴史ですが、少しシニアなエンジニアな方々は「エキスパートシステム(*2)」とか「Prolog(*3)」とかを聞き覚えがあるかもしれません。以下の「図表46-5」を見ていただきたいのですが、大概AIは3回のブームがあり、現在は3回目の波である、とするのが多いようです。
【参考】AIsmiley
(https://aismiley.co.jp/ai_news/detailed-explanation-of-the-history-of-ai-and-artificial-intelligence/)
第1回目の波は、「AI」という名称が生まれた1953年の「ダートマス会議」です。この時期のAIは、「推論」と「探索」がメインです。
第2回目の波の代表は「エキスパートシステム」。さらに、日本でも政府による「第五世代コンピュータ」と名付けられた大型プロジェクトが推進されたりもしました。
現在も続いている第3の波は、まず「ビッグデータ」と呼ばれているような大量のデータ、AI自身が知識を獲得する「機械学習」の実用化、さらに深層学習のように機械自身が「特徴量」を取得/判断する技術が起こり、今現在は生成AIという「新規のコンテンツをアウトプットにする」ことも可能になってきました。
【参考】AIsmiley
(https://aismiley.co.jp/ai_news/detailed-explanation-of-the-history-of-ai-and-artificial-intelligence/)
ここでAI(生成AI)のリスクを考える
生成AIのリスクを考えましょう。「AIの進化によって、仕事がなくなる」はリスクではなくメリットです。AIではできない仕事をするのがエンジニアです。では、一般的に言われているAIのリスクは以下の表の通りです。
NO. | リスク | 詳細 |
1 | コンテンツ生成による知的財産権の侵害 | データ検索して、著作権を侵害するようなコンテンツを作成 |
2 | 情報流出 | データ検索して、機密情報や個人情報を出力 |
3 | 思考プロセスがブラックボックス化 | どのような判断で出力しているかが不明 |
4 | バイアスのある出力 | 特殊データや偏見あるデータの読み込みによる偏見あるデータを出力 |
5 | 「ハルシネーション」 | 事実と異なる回答を出力 |
6 | AIの使用によるエネルギー使用量の増大 | これはIT全般の課題 |
他にもたくさんあると思います。各種課題/リスクに対して、各AIベンダーは対処策などを検討している最中ですし、技術の進化で対応も可能だと思います。上表の詳細を見ると、1.2.4.5は InputData/検索元に起因するものです。そのため、データの整備/前処理などを担当するエンジニアの腕の見せ所かもしれません。
こんなモノは作れる?
最近多い生成AIセミナー/生成AI初級講座などで紹介されていた「業務で活用する」アプリですが、次のようなものがありました。
・契約書チェックアプリ
要するに「文言チェック」と「内容妥当性」がポイントなんでしょうが、前者は簡単、後者もプロンプトエンジニアリングで対応可能です。
・議事録アプリ
「音声→文字」は既にサービス化されており可能。「要約」も生成AIの代表的な機能です。ただし、音声ツールを参加者で共有することが前提だが、今のWEB会議主体の構成ではかなり楽です。
・提案書作成アプリ
よく生成AIのサンプルで提供される機能です。事前に読ませるデータの量と、プロンプトエンジニアリングを繰り返すことで提案書の内容が良くなります。しかし あくまでも一般的な提案書となりますので、独創的なものはできません。まぁ、少しテクニックを使えば独創性も発揮でしますが。
さくっと考えただけで、少し生成AI(というかプロンプトエンジニアリング)を学習しただけで、作成可能です。それくらい簡単なものだと思ってください。
AIの基本って必要?
今回は、生成AIやAIの基本について語ってみました。エンジニアであれば、もっと深いところまで関わっているかもしれません。昔むかしの「エキスパートシステム」とかちょっと前に流行った「ディープラーニング」、今旬な生成AIなどはいきなり発生したものでもなく、それが載せられるハードやミドルウェア、ニューロネットワークや各種理論が整備されて、稼働しています。そのような前段階の知識やノウハウも勉強してから、しっかり生成AIを使いこなしましょう。単に使うだけであれば、パンピーです。パリピ(*4)にはならなくても構いませんが、スペシャリストの尻尾ぐらいにはなりましょう。
では良き眠りを(合掌)。
「ぼくは生きた。そして消える…!(I am.I was)」 by映画「A.I.」から
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- 商標について
*1 ニューラルネットワークは人間の脳の神経回路を模した機械学習モデルです。
*2 専門家(エキスパート)のように、知識についての推論によって複雑な問題を解くよう設計された人工知能。通常のプログラミングのように論理的な手続きに従うのではなく、専門家の経験則などに基づくルールに従って回答する。
なお、「エキスパートシステム」にその経験則などを導入するエンジニアを「ナレッジエンジニア」と呼んでいたりする(らしい)。
*3 Plologは、LISPの流れをくむプログラミング言語であるが、人工知能言語と説明されることが多い。「エキスパートシステム」で使われている(らしい)。
*4 パリピの語源は「パーティー・ピープル」。①大勢で盛り上がるのが好きな人、②ノリが良い人、③すごい、ヤバい などの意味に派生しています。
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筆者紹介

大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。
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