ニューノーマルで悩む管理者の夜

第拾一夜 ダイエットで悩む管理者の夜

概要

変化を体言するキーワードが、「ニューノーマル」。珍常態を、システム管理者目線でゆるーく語っ ていこうと思います。

目次
ダイエットの目的は体重を減らすこと
「塗るだけダイエット」を信用するな
健康的な生活?それができれば苦労しない
結果は〇〇の後に
肥満の元凶はアレ

今回は、第三夜「香水」第六夜「OB訪問」のように、あるキーワードにまつわるネタをあれこれと書きつらねていこうと思います。そのテーマは、「ダイエット」。さらさらとダイエットのことを考えてみると、意外に、ITやシステム開発・運用などにも通じるものがあるんですよ。前回の「PPAP」のように、あるテーマを深堀りして、IT業界などの課題を発掘するわけではないのですが、ダイエットという人類の永遠のテーマで、いろいろと考えてみるのも面白いことです。


ダイエットの目的は体重を減らすこと

まずは、ダイエットの目的なのですが、体重を減らすことといえるかもしれません。業界用語でいうところの「体重の生産性管理」、ムダな作業や脂肪を無くすことがダイエットです。それで終わってしまってはつまらないので、システム開発のなかでもソースコードのダイエットについて考えてみましょう。
よくソースコードのダイエットということがいわれます。ムダなコードや同じようなロジックを共通化したりすること。リファクタリング(*1)などともいわれます。
あまりに極端にダイエットすると、コメントなし、関数のポインタ化、ポインタのポインタ(*2)などというような読解に時間がかかるようなコードも生まれます。さらにたまに、自称スーパープログラマが、他の凡庸なプログラマが読めないような省略に省略を重ねたようなコードを披露することもあります(ありました)。でも、他人が読めない(読むのが難しい)コードって、非常に可用性/可読性が低いです。禍妖性/禍毒性は高いかもしれませんが。個人で書いて最後までそのコードの責任を持つのではないかぎり、コードは他人が読んで、メンテして、流用する可能性が高いものです。そもそもソースコードの著作権は、所属している組織や納品先にしていることが多いです。リファクタリングするにしても、あくまでも見やすさやメンテしやすさを心がけて、ダイエットやら非ダイエット(*3)をすべきでしょう。

「塗るだけダイエット」を信用するな

先日、「塗るだけダイエット」というものが流行ったことがありました。冷静に考えると、クリームを塗るだけでダイエットって、どう考えても怪しいです。実際、この製品に対し、消費者庁は景品表示法違反にあたるとして措置命令を出しました。
IT業界でも、怪しいソリューションや宣伝文句が多々あります。

  •  1.PPAPでPマーク取得
  •  2.大規模アジャイル開発が成功
  •  3.失敗したことがないプロジェクトマネージャ

胡散臭さ満載ですね。
1.については前回で、ネタにしました。
2.と3.は、宣伝文句としてはよく耳にする文言です。しかし、冷静に考えてみると、2.については「大規模」の定義が人それぞれで曖昧です。大規模ってどれくらいの金額? 人数? 期間? そして、「成功」の定義も曖昧です。赤字にならないこと? 納期に間に合ったこと? まさかの顧客やメンバー満足度?(*4)。そして、アジャイル自体の定義。本当にアジャイルだったのか。「なんちゃってアジャイル」(*5)ではなかったのか。
3.は2.と同様です。「失敗」の定義は何? 赤字? 納期超過? 顧客満足度? メンバーの満足度?
もし、顧客満足度だった場合、その満足度ってどうやって測ったの? アンケート? ヒヤリング? まさか酒席での雑談? そのプロマネの辞書には、リップサービスや社交辞令という言葉がないのでしょうか?
最近では、こんなのもあります。

  • 4.DXで働き方改革
  • 5.AI失業に注意

胡散臭さは少ないのですが、信頼性についてやはり前提となる条件を調べるべきでしょう。
4.のDX、DXレポートについては第五夜「DXレポート」で語りましたが、DX自体は単なるデジタル化にすぎないので、働き方改革まで行きつくのは、かなりのハードルです。DXだけでは無理でしょう。
5.もよくバズられてきた言葉です。AIによって人間の仕事がなくなる、というSF話です。半分くらいは合っていると思うのですが、単純作業自体はAIというかコンピュータ・ITに代替されるのは確実性の高い話だと思います。いまでも単純な力作業とか繰り返し作業は、機械や制御系のコンピュータに代替されていますしね。そもそも人間をサポートするのがITであり、AIです。AIに代替されるような仕事は早めにチェンジして、スキルアップして別の仕事に移るべきだと思うのですが。
とにかく、IT業界には、「塗るだけダイエット」なみの怪しい都市伝説が山ほどあります。どのような状況か、前提条件かなどをしっかり確認してから、採用しましょう。でも、「社外秘です」「守秘義務で」などで、詳細を語らないことが多いんですよね。そんなときにはしっかり「嘘だッ!」(*6)と指をつきつけましょう。「ホントだ!」と親指を立てられる可能性もありますが、そのときには「ホントにあった怖い話」として、メールください。この熱帯夜が涼しくなるかもしれません。

健康的な生活?それができれば苦労しない

ダイエットのためのサプリ、器具などのコマーシャルを見ますと、だいたい「並行して、適切な食事、運動、睡眠などを行いました」などの注意書きが下の方に小さく書かれていることが多いです。いや、それを否定するつもりも全くないのですが。でもでも、特定のダイエット製品などを使わなくても、適正な食事や運動などをすれば、そもそも健康的な体重を維持できるのではないでしょうか?それでも、一般人の社会生活では仕事のストレスや現在のコロナ疲れなどによる暴飲・暴食・睡眠不足などが発生します。なので、ダイエットしたいのです。でも、ダイエットには、健康的な生活が必要。無限ループ(*7)しています。
うん、こういうのはシステム開発プロジェクトでもよくあります。というか、ありありです。ありありでマシマシ(*8)です。PMBOK(*9)を基本とするモダンプロジェクトマネジメント(*10)。その根底は、計画とコントロールです。特に計画が重要視されます。しっかり計画して、その計画通りに実施していく。計画から外れそうであれば、コントロールしたり、計画を修正する。まさに、きれいごとです。健康的な生活です。でも、できないケースが多々あります。それでも計画をしっかり立てろといってくる。しっかり立てる時間もないし、計画通りにすすまない。いやー、ストレスで太りそうです。

結果は〇〇の後に

ダイエット商品などの広告などを見ますと、「結果は1年後」として、ダイエット前と1年間ダイエット作業を継続した結果のみを提示することが多々あります。使用前-使用後のような感じです。当然、いきなり体重が10キロ減ったりするのはおかしいですし、確実に病気です。でも、いきなり結果を提示されて、「ダイエットが成功しました」といわれてもね。中間報告が欲しいわけです。最近よく見かける某感染症の新規感染者のグラフ、あのグラフみたいにだんだん増えて行ったり、減っていったり、リバウンドのピークったりしている状況がみたいわけです。期間が1年としても、そのなかで苦労したり、山があったり谷があったり、順調に体重が減っていったり、急に減っていったり。いろいろな状況があります。その推移が知りたいと思うのは変でしょうか? 結果も重要ですが、過程も知りたいな、と思う次第です。
システム開発のプロジェクトでも、終了した後に反省会や完了会議、終了報告などの名目で、いろいろとまとめることが多いです。

リーダーX「終了報告会議の資料、まとめたか」
メンバーY「まだです。面倒なんですよ。だいたい数字がいろんなところにあるし、あいつらは現場の忙しさもしらんと、要求するものだけはたくさんだしてくるし」
リーダーX「そういわずに、なんとか作ってくれ」
メンバーY「適当でいいですか」
リーダーX「適当はまずいから、それなりに辻褄が合うような数字にしてくれ」
メンバーY「んじゃ、生産性はこの数字で、実績規模はこんな感じで割ってみます」

んー、数字を作る人はたいへんです。計画時と最終的な数字、予算時のコストと実績、もし数字に大きな乖離がある場合は、しっかりと理由をつけなくては、ツッコミが入ります。また、開発途中のいろいろなトラブルによっては、進捗や生産性なども、工程毎に報告したほうがいいかもしれなしですし。でも、開発が終わってやっと落ち着いているのに、そんなクソ資料なんて作るのに疲れたくない。そして、あいつらという怪しいキーワード。どいつらなんでしょうか。そいつらについては、別途コラムで語りたいと思います。まさか黒くて油っぽいGとかじゃないですよね。

肥満の元凶はアレ

さて、ダイエットについていろいろ語ってきましたが、肥満の原因って肥満遺伝子という説があります。食べても太らない人がいるとか、親代々肥満の家系とか。本当に肥満遺伝子というものがあり、それが影響しているものかどうかわかりませんが、これこそがまさに企業風土に当たります。某銀行では、10年に1回システム障害が発生(*11)するし(=障害遺伝子)、何もしていないのにトラブルが起こらない会社もあります。まさに、よくわからない遺伝子的なモノが阻害原因となっているのでしょう。昔から企業ではそのような遺伝子を無くそうと、改善活動やらQC活動(*12)などが行われています。でも…ここで時間となったようです。この話の深堀りは次回以降に。
では良き眠りを(合掌)。

「睡眠不足はダイエットの敵」 by ダイエットことわざの1つ

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*1 ソフトウェアの外部的振る舞いを保ちつつ、内部構造を改善すること。機能追加とかに関係ないので、エンドユーザーからはあまり好まれません。本当に内部的な整理整頓作業なので。

*2 C/C++言語。ダブルポインタともいいます。 int **i; みたいなもの。ポインタ=アドレスなので、アドレスを格納するアドレスですね。 ポインタのポインタのポインタなども可能です。int ***i; です。ポインタはアドレスなので、アドレスのアドレスのアドレスを指定すれば、トリプルポインタ(ポインタのポインタのポインタ)になります。 ポインタの理解がC/C++言語に直結するのですが、ここ(ポインタ)で挫折する方が多いです。

*3 非ダイエット、難しいですがデータベースの正規化などに対する非正規化のようなものをイメージしてください。データベースの正規化を徹底的に追求すると、重複がなくなり理論上かなり整理されることは間違いないのですが、処理の都合上、意図的に正規化をしないケースもままあります。あくまでも意図的に、です。うっかり忘れではありません。

*4 「成功=メンバーの満足度」については、「IT業界の病理学」の「CASE4-5 プログラマのモチベーションが一番大事病」で病気認定されています。興味のある方は是非。

*5 なんちゃってアジャイルについては、「IT業界の病理学」の「CASE1-6 なんちゃってアジャイル症候群」を参照。

*6 嘘だッ!」「ひぐらしのなく頃に」竜宮レナの名セリフ。日本3大「嘘だ」のひとつです。他の2つは「嘘だと言ってよバーニィ」、「嘘だろ承太郎!」です。(←嘘)

*7 無限ループは基本、プログラミング用語なのですが、一般人が日常でも使うこともあるというレアな用語です。ある手順が、最終的に振り出しに戻ってしまうこと、その繰り返しのことを意味します。

*8 ありありマシマシなどは、二郎系ラーメン(*1)の注文のお作法。店員さんが「ニンニク入れますか」と聞いてきたときに、ニンニク・ヤサイ・アブラ・カラメの情報も一緒に端的に伝える方法。

*9 PMBOK(Project Management Body of Knowledge) 、プロジェクトマネジメント知識体系の略で、プロジェクトマネジメントの体系化・標準化を行ったもの。PMI(Project Management Institute)が発行しています。最新版は2017年に発行された第6版。基本、オリンピックの年に最新版が発行されます(4年に1度)。でも、お約束として毎回1年くらい発行が遅れます。
PMBOKガイド第7版(最新版)は、2021年8月1日にリリース(https://www.pmi.org/-/media/pmi/documents/public/pdf/pmbok-standards/pmbok-guide-public-faqs-29-march-2021.pdf?v=9c15e470-5218-41d9-ac9f-223206220d16)。日本語版は、2021年11月1日リリース予定らしいです。今回の変更は、なかなか大きいので、PMP試験受験の方は、第6版対応のバージョンで受験したほうがムダにならないかと思います。

*10 PMBOKのようなマネジメント体系より前には、KKD(勘・経験・度胸)でのプロジェクト管理が主流でした。冷静に考えると、度胸って何? 勘というのも怖い発想です。ただ、PMBOK自体も、過去のプロジェクトの経験則などを体系化してまとめたものなので、経験というのはやはり重要なのかと。

*11 10年に1回については、第七夜「みずほ障害で悩む管理者の夜」を参照。

*12 Quality Control(QC:品質管理)に関わる活動のこと。工場などの製造業で現場の社員が自ら、継続的に、製品・サービス・仕事などの質の改善を行うこと。QCサークルという小集団ベースで行うことが特徴。

*13 二郎系ラーメンは、ジロリアンというマニアが誕生するほどのラーメン店。本店は三田で看板は黄色。豚骨ベースの醤油味なのだが、それよりもその量が特徴。あまりにもマニアが多く、かつ注文の仕方などが独特なこともあり、初心者が1人で入店することが困難なため、「レンタル二郎食べる人」というサービス(@hakumaimosukiyo)が提供されているほど。

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筆者紹介

司馬紅太郎(しば こうたろう)
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。

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