DX時代のアジャイルITSM変革アプローチ

第4回:ITILv3/2011のプロセスを導入している組織でのITIL4活用アプローチ

概要

デジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流の中、デジタル化の真の目的である「顧客への新たな価値創造」を効果的かつ効率的に実現するためには、ITサービスマネジメントをDXに合わせてリ・デザイン(再設計)する必要があります。 そこで、このコラムでは、今年の2月にリリースされた最新版のITIL® 4の概要と、ITIL® 4を活用してITサービスマネジメントをリ・デザインするための、デザイン思考を用いたアジャイルITSM変革アプローチをご紹介します。 これまで、ITIL® v3/2011 editionのプロセスを適用してきた組織において、進化したITIL® 4をどのように活用できるのか、具体的な実践方法を含めてお伝えしたいと思います。

今回は、ITILv3/2011とITIL4の比較、ITIL4の活用方法についてご紹介したいと思います。

目次
ITILv3/2011とITIL4の比較
ITILv3/2011のプロセスを導入している組織でのITIL4活用アプローチ
まとめ

ITILv3/2011とITIL4の比較

ITILv3/2011とITIL4の主な特徴を比較したのが図9です。

図9. ITILv3/2011とITIL4の比較(独自に作成)

 

「全体的な視点で考え行動する」という指針となる原則のもと、サービスを取り巻くエコシステムへと観点が拡がり、サービスライフサイクルからサービスバリューシステムという概念に変わりました。

 

また、4つのPの観点に情報とバリューストリームという新たな観点が加わり、さらにそれら観点に影響を与える6つの外的要因にも視座が広がりました。
更に、サービスによる価値提供という静的な考え方から、サービスによる価値提供に至るまでのすべての活動を通じた価値連鎖という動的な考え方に進化しました。
その結果、ITILが提供するレディメイドプロセスの活用というアプローチから、各組織固有のバリューストリームをテイラーメイドするというアプローチに変わりました。

 

この比較から、ITILv3/2011がプロセスを中心にしたベストプラクティスという位置付けであったのに対して、ITIL4はサービスマネジメントに必要な観点を抜け漏れ無く取り入れ、各組織のビジネスモデルに合わせてエコシステム全体を最適化するための参照アーキテクチャに進化したことが分かります。

 

ITILv3/2011のプロセスを導入している組織でのITIL4活用アプローチ

これまで、ITILv3/2011のプロセスを導入してきた組織においては、まずそれらのプロセスのさらなる改善のためにITIL4を活用することが有効であると思います。

 

第1回でご紹介した「ITILv3/2011が抱えている問題」で取り上げた、これまで多くの組織において実際に導入したプロセスは、すべてITIL4のプラクティスに含まれますので、以下の順番で適用を進めるアプローチをお勧めします。

 

既に導入済みのプロセスに該当するITIL4の「プラクティス」に記述されていることから新たな改善の糸口を探る(※2)。
SVSの「指針となる原則」を参照し、自社に有効であると判断される原則を、導入済みのプロセスを含むITサービスマネジメント業務全般へ適用する。
SVSの「ガバナンス」を参照し、自社のエンタープライズガバナンス強化に有効であると判断される活動を適用する(※3)。
「サービスマネジメントの4つの側面」の「4つの側面」と「6つの外的要因」の観点に関して、自社のITサービスマネジメントで有効であると判断される観点を取り入れ、導入済みのプロセスを含むITサービスマネジメント業務全般へ適用する。
導入済みプロセスをベースに、ビジネスモデルをSVCとバリューストリームのモデルにデザインし直す(※4)。
デザインしたSVCをベースに、自社のSVS全体モデルをデザインする(※4)。

 

※2:ITIL4 Foundationに記載されているプラクティスの粒度では、ITILv3/2011のコアブックに記述されている内容以上の新たな気づきは少ないので、後続のITIL4書籍を参照する必要があります。また、ITIL4ではITILv3/2011で明示的に定義された24のプロセスは無くなりましたが、例えばインシデント管理のプラクティスは、有効性と効率性の観点から、標準化されたプロセスとしてバリューストリームをデザインすることが、「指針となる原則」と「ガバナンス」、「継続的改善」、および「サービスマネジメントの4つの側面」のいずれからも妥当であると判断できますので、ITILv3/2011のプロセスの一部は、ITIL4のバリューストリームというモデルに変換してデザインすることができると考えられます。

※3:ITIL4 Foundationに記載されているガバナンスの粒度では、自社での活動に落とし込むことは難しいので、後続のITIL4書籍を待つか、あるいはITIL4の執筆においてエンタープライズガバナンスに関して参照した、COBIT® 2019を活用することをお勧めします。

※4:ITIL4 Foundationに記載されているSVCとSVSの粒度では、自社のモデルをデザインすることは難しいので、後続のITIL4書籍を参照する必要があります。

 

まとめ

ITIL4は、もはや「サービスマネジメントのベストプラクティス」ではなく、ビジネスの変化に対するアジリティとベロシティに対応した「サービスマネジメントの参照アーキテクチャとガイダンス」という位置付けになったようです。

 

現時点では、今後出版されるITIL4書籍の具体的な内容に関する情報はありませんが、これまでのITIL®バージョンを活用してきた組織のために、ITIL4 Foundationに記述されている「何をすべきか(What)」に対する「どのように実践すべきか(How)」にあたる以下のコンテンツが、後続の書籍の中で「ガイダンス」として網羅されることを期待しています。

 

ITILv3/2011の各プロセスおよび主要文書(SDP、SLP、SLR、SLA、OLAなど)とITIL4のバリューストリームとのマッピング
他のフレームワークとの補完関係(IT4IT™、COBIT®、VeriSM™、SIAM®、TOGAF®など)。特に、エンタープライズアーキテクチャの観点に関する補完が必要
実践的なSVCとバリューストリームを整備するためのガイドラインと、典型的なビジネスモデルに対応したテンプレートとサンプル
組織の課題(DevOps、ITガバナンス強化、リスク最適化、2025年問題、クラウド化 等)に対するITIL4プラクティスの適用方法
ITIL4のFoundationを読み解く中で明らかになったことは、これまでのITIL®バージョンを活用してきた主にサービス運用に携わる方にとっても、これまでITIL®が不得意としていたエリアであるサービス戦略やサービス開発に携わる方にとっても、デジタルトランスフォーメーションという共通の課題への対応に役立つITIL4のリリースは朗報であり、活用する価値があると思われるということです。

 

ただし、どのフレームワークや知識体系でも同じですが、その価値あるフレームワークや知識体系を自分たちの組織にとって価値あるものにできるかどうかは、「各組織に適した使い方」を見つけることが重要成功要因ですので、外部の専門家やコミュニティの支援を得つつ、まず社員の皆さんがITIL4の活用に向けた活動に着手されることをお勧めします。

 

次回は、ITIL4のコンセプトをベースにした「アジャイルITSM変革アプローチ パート1」をご紹介したいと思います。

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筆者紹介

株式会社JOIN 
代表取締役社長
小渕 淳二

国内大手電機メーカ、外資系ICTサービスプロバイダ、国内コンサルティングファームを経て、2018年にITコンサルティング会社を創立。

ITIL®やTIPA®、IT4IT™、COBIT®、VeriSM™、SIAM®、IT-CMF™、TOGAF®などのフレームワークと、ドラッカーやポーターのマネジメント理論、「7つの習慣」の普遍的な原則などのベストプラクティスを組み合わせた、革新的で実践的なマネジメントアプローチとデザイン思考による組織変革やイノベーション創生を得意とする。

【連絡先】
support@join-inc.com

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