DX時代のアジャイルITSM変革アプローチ

第1回:ITIL®の歴史とITILv3/2011が抱えている問題

概要

デジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流の中、デジタル化の真の目的である「顧客への新たな価値創造」を効果的かつ効率的に実現するためには、ITサービスマネジメントをDXに合わせてリ・デザイン(再設計)する必要があります。 そこで、このコラムでは、今年の2月にリリースされた最新版のITIL® 4の概要と、ITIL® 4を活用してITサービスマネジメントをリ・デザインするための、デザイン思考を用いたアジャイルITSM変革アプローチをご紹介します。 これまで、ITIL® v3/2011 editionのプロセスを適用してきた組織において、進化したITIL® 4をどのように活用できるのか、具体的な実践方法を含めてお伝えしたいと思います。

 

目次
はじめに
ITIL®の歴史
ITILv3/2011が抱えている問題

はじめに

今年の2月22日に「ITIL® Foundation ITIL 4 Edition」(以降、「ITIL4」)の英語版がリリースされ、既に多くの方がレビューや意見をSNSや研修、セミナーなどを通じて発信されています。

 

私自身、ITIL®やTIPA®、IT4IT™、COBIT®、VeriSM™、SIAM®、IT-CMF™、TOGAF®などのフレームワークを複合的に活用し、お客様の組織におけるITガバナンスおよびITサービスマネジメントの最適化を支援している立場として、ITIL4のコンテンツと活用アプローチに大変関心があります。
特に、これまでITIL® v3/2011 edition(以降、「ITILv3/2011」)をベースにお客様の組織を最適化してきたことが、ITIL4によりさらに改善を進めることができるかがレビューすべき重要な観点です。
さらに、どのようにITIL4を活用すべきか、逆にこれまでとは全く違ったアプローチに変える必要があるのか、なども確認すべき観点です。

 

そこで、本コラムの第1回から第4回までは、以下の流れでITIL®の過去を振り返りつつ、ITIL4のコンテンツをレビューし、活用アプローチを考えてみたいと思います。

 

 1.ITIL®の歴史とITILv3/2011が抱えている問題
 2.ITIL4の知識体系パート1
 3.ITIL4の知識体系パート2
 4.ITILv3/2011のプロセスを導入している組織でのITIL4活用アプローチ
 
なお、本コラムは、現時点での限られた情報と、私の個人的な経験に基づく考察と仮説であり、AXELOS社の意向や関係者の皆さんの考えとは異なる可能性があることをご理解ください。
また、ITIL4の英語版に掲載されている情報を、私の見解で日本語に翻訳しておりますので、今後リリースされる正式なITIL4の日本語訳とは異なる可能性があることをご了承ください。

*ITIL® is a Registered Trade Mark of AXELOS Limited

 

ITIL®の歴史

英国発祥のITIL®の歴史は、30年ほど前の1990年前後にさかのぼります。
製造やサービス提供の効率化と標準化を推し進める、第3次産業革命の流れの中、IT運用の効率化・標準化を目的として、先進的な組織の「プラクティス」を整理し40冊もの書籍にした最初のバージョンであるV1がリリースされました。

 

その後、2000年前後に40冊もの書籍を7冊に再編成したV2がリリースされ、サービスサポートとサービスデリバリの領域での「プロセス」と「機能」という概念が生まれました。

 

2007年には、「サービスライフサイクル」の概念とともに、「サービスストラテジー」「サービスデザイン」「サービストランジション」「サービスオペレーション」「継続的サービス改善」のステージごとに体系化した5冊のコアブックに集約されたV3がリリースされました。
さらに、2011年に、V3の基本構成と概念はそのままに、明瞭さ、一貫性、正確さ、網羅性に関して改善をほどこしたITIL2011がリリースされました。

 

そして、V3リリースから12年後となる今年、いわゆるデジタルトランスフォーメーションと言われる第4次産業革命に必要となる、ビジネスの変化に対するアジリティとベロシティ(開発速度)に対応したITIL4がリリースされました。

 

ITILv3/2011が抱えている問題

ITILv3/2011の知識体系には、現在の事業環境において以下の問題が存在していると考えられています。

 

  • プロセスにフォーカスし過ぎている。
  • サービスストラテジーの活動をプロセスとして定義するのは無理がある。
  • サービスデザインの活動を複数のプロセスに分けて定義するのは冗長である。
  • プロセスがサイロになっていてプロセスの相互関係の記述が弱い。
  • サービスライフサイクルを通じたEnd-To-Endのデータや情報の流れの記述が弱い。
  • ビジネスや顧客への価値や成果につながる全体の流れとストーリーが見えない。
  • 複数のサービスプロバイダ環境に対応していない。
  • アジャイル開発やDevOpsの環境に対応していない。

 

これらの問題があるため、多くの組織において実際にプロセスとして導入したのは、サービストランジションとサービスオペレーションのステージに含まれる以下のプロセスが中心のようです。

 

  • イベント管理
  • インシデント管理
  • 問題管理
  • 要求実現
  • 変更評価
  • 変更管理
  • リリース管理および展開管理
  • サービス資産管理および構成管理

 

もちろん、上記問題があってもITILv3/2011の知識体系に価値があることは確かであり、ITILv3/2011の知識体系の有効なエッセンスのみを取り入れたり、組織に合わせてカスタマイズしたりすることで、多くの組織で有効活用されてきました。

以前に私が所属していた組織で、ITILv3のライフサイクル全体を組織に適用したことがあり、そのときは以下のように有効なエッセンスを取り入れカスタマイズを行うことで上記問題に対応しました。

 

  • 各プロセスを静的に建て付けるのではなく、まずライフサイクル全体のデータと情報の流れを整理し、それを具体的なフォームや文書に落とし込む。
  • サービスデザインのプロセスは、サービス開発プロジェクトのフェーズごとのタスクに沿って統合し(サービス・エレメント管理プロセス)、独立した業務として成り立つプロセスは個別に建て付けた(サプライヤ管理プロセス、情報セキュリティ管理プロセス)。
  • サービストランジションのプロセスは、独立したプロセスとして建て付けるが、サービスデザインのプロセスと同様に、サービス開発プロジェクトのタスクとしてプロセスの活動を組み込む。
  • サービスライフサイクル全体と各プロセスの活動を可視化し、モニタリングとコントロール機能を組み込むことで、経営者視点でのガバナンスを実現する。

 

以下は、その組織でのプロセスの建て付けを図にしたもので(図1)、ITILv3のプロセスと対比することでイメージをご理解いただけると思います。

図1. ITILv3のプロセスをベースにカスタマイズして建て付けた例

<出典:ITILv3、K社カスタマイズ版は独自に作成>

 

この2011年前後に行ったITILv3をベースにカスタマイズした実践的なアプローチは、第2回以降でご紹介するITIL4の知識体系で、サービスバリューチェーンとバリューストリームという概念で採用されており、より実践的なフレームワークになったことが分かります。

 

次回は「ITIL4の概説 パート1」として、ITIL4の知識体系をご紹介したいと思います。

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筆者紹介

株式会社JOIN 
代表取締役社長
小渕 淳二

国内大手電機メーカ、外資系ICTサービスプロバイダ、国内コンサルティングファームを経て、2018年にITコンサルティング会社を創立。

ITIL®やTIPA®、IT4IT™、COBIT®、VeriSM™、SIAM®、IT-CMF™、TOGAF®などのフレームワークと、ドラッカーやポーターのマネジメント理論、「7つの習慣」の普遍的な原則などのベストプラクティスを組み合わせた、革新的で実践的なマネジメントアプローチとデザイン思考による組織変革やイノベーション創生を得意とする。

【連絡先】
support@join-inc.com

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