DX時代のアジャイルITSM変革アプローチ

第3回:ITIL®4 概説 パート2

概要

デジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流の中、デジタル化の真の目的である「顧客への新たな価値創造」を効果的かつ効率的に実現するためには、ITサービスマネジメントをDXに合わせてリ・デザイン(再設計)する必要があります。 そこで、このコラムでは、今年の2月にリリースされた最新版のITIL® 4の概要と、ITIL® 4を活用してITサービスマネジメントをリ・デザインするための、デザイン思考を用いたアジャイルITSM変革アプローチをご紹介します。 これまで、ITIL® v3/2011 editionのプロセスを適用してきた組織において、進化したITIL® 4をどのように活用できるのか、具体的な実践方法を含めてお伝えしたいと思います。

第5回までで、運用業務での品質管理に価値を生み出すために使うツールについて説明しました。最終回である今回は、自ら始めてみんなで効果を出す品質管理のストーリーについて説明します。

目次
指針となる原則
ガバナンス
ITIL4の全体構成

指針となる原則

第2回でご紹介しましたサービスバリューシステム(SVS)のコンポーネントの1つである「指針となる原則」は、アジャイル開発手法を採用して開発する人たちが持つべき価値観をまとめた「アジャイルソフトウェア開発宣言」に付随する「アジャイルソフトウェアの12の原則」と同等の位置付けのもので、自社のSVSを実現させるために必要となる、自律的に腹落ちして行動するための共通の価値観(クレド)です。

 

図6はITIL4の「指針となる原則」と「アジャイルソフトウェアの12の原則」を比較したものですが、アジャイルソフトウェア開発で採用された原則の多くがITIL4でも取り入れられていることが分かります。

図6. ITIL4の「指針となる原則」と「アジャイルソフトウェアの12の原則」の比較

 

唯一、ITIL4の「現在あるものから始める」という原則は、「アジャイルソフトウェアの12の原則」には直接的に含まれていませんが、ITIL4という全く新しい概念を組織が採用し適応する上で、最も重要な原則であると私は思います。

ITIL4という新しく大きく広がった概念と観点に対して、いま自分たちの組織がどこまでできているのか、どこができていないのか、目指すべきゴールはどこなのかを明らかにし、その上で価値があるものは残し、不要なものは捨て去り、必要な変更を加えるというアプローチが必要であることを、この原則は示しています。

また、他の原則についても、1つ1つ組織の現状にあてはめて深く考えてみると、新たな気づきや改善の糸口が見えてくると思います。

 

ガバナンス

もう1つのサービスバリューシステム(SVS)のコンポーネントである「ガバナンス」は、「評価」「方向付け」「モニタリング」で構成されています。「価値」「リスク」「リソース」の3つの観点で、組織内に整備したSVSが組織の戦略やポートフォリオなどと整合性が取れているかを評価し、必要な方向付け(意思決定)を行い、サービスバリューチェーン(SVC)と、その中で実行されるプラクティスとバリューチェーンが、デザインした通りに機能し、期待する価値を出しているかを継続的にモニタリングする機能を定義しています。

 

このように、これまでのサービスマネジメントという視点に対して、組織レベルのガバナンスという経営者の視点が加わったことが特徴と言えます。

 

ITIL4の全体構成

サービスバリューシステムと、サービスマネジメントの4つの側面および6つの外的要因をまとめたのが図7です。

図7. サービスバリューシステムと4つの側面および6つの外的要因
<出典:ITIL4>

 

ITIL4では明示していませんが、ITIL4の重要な概念である、「サービスバリューシステム(SVS)」「サービスバリューチェーン(SVC)」「サービスマネジメントの4つの側面」「プラクティス」「バリューストリーム」のそれぞれが、実際の組織においていくつ存在することになるのか仮説を立ててみました。

 

SVSは、組織全体の戦略との整合性と最適化の観点で、1つの組織で1つ存在するのが自然だと思います。別の言い方をすると、1つのサービスポートフォリオに1つのSVSが存在するイメージです。

 

同様に、サービスマネジメントの4つの側面に関する観点も、組織全体の戦略との整合性と最適化の観点で、1つの組織で1つ存在するのが自然だと思います。

 

SVCは、プロダクトまたはサービスの顧客を含むステークホルダーや、サプライチェーンの形態により変化しますので、ビジネスモデルごとに1つのSVCが存在すると思います。

 

プラクティスは、ITIL4が提供する汎用的なナレッジですので、各組織はそれを参照するのみだと思います。

 

バリューストリームは、SVCのEnd-To-Endの活動を網羅する必要がありますので、1つのSVCに複数のバリューストリームをデザインすることになります。

 

上記を踏まえて、ITIL4のSVS全体構成をイメージ化したのが図8です。

図8. ITIL4のSVS全体構成イメージ(独自に作成)

 

1つの組織には、1つの「SVS」と、1つの「サービスマネジメントの4つの側面」と「6つの外的要因」による観点があり、その中に複数の「SVC」が存在し、各SVCの中に複数の「バリューストリーム」が存在する、というイメージです。

これを前提とし、各組織の現在のサービスとサービスマネジメントの仕組みをベースにして、SVSとSVCおよびバリューストリームがどのようになるかをイメージしてみると理解が深まると思います。

 

次回は「ITILv3/2011のプロセスを導入している組織でのITIL4活用アプローチ」として、ITILv3/2011とITIL4の比較、およびITIL4の活用方法についてご紹介したいと思います。

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筆者紹介

株式会社JOIN 
代表取締役社長
小渕 淳二

国内大手電機メーカ、外資系ICTサービスプロバイダ、国内コンサルティングファームを経て、2018年にITコンサルティング会社を創立。

ITIL®やTIPA®、IT4IT™、COBIT®、VeriSM™、SIAM®、IT-CMF™、TOGAF®などのフレームワークと、ドラッカーやポーターのマネジメント理論、「7つの習慣」の普遍的な原則などのベストプラクティスを組み合わせた、革新的で実践的なマネジメントアプローチとデザイン思考による組織変革やイノベーション創生を得意とする。

【連絡先】
support@join-inc.com

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