品川海外システム運用研究会

第12回 データセンターのエネルギー事情

概要

海外のビジネス市場でどのようなITシステムがトレンドとなっては廃れていくのか

311日の東日本大震災が約半年。未曾有の震災は、私たちが消費するエネルギーへの意識をより一層強くしました。電力の使用限界を目の当たりにし、新しいエネルギーへの切り替えを余儀なくされてきた今、私たちはエネルギーについて、もっと学ばなければなりません。

グリーンITの考え方が浸透し始めた頃から、データセンターが取り組んできた、エコロジーなエネルギーを使用する動機と、利用事例についてまとめます。

なぜエコロジーなエネルギーを使うのか

実際のところはデータセンターごとに異なる事情を抱えていると思われますが、主要な動機としては以下のものが挙げられます。

● 長い目で見るとコストが下がるから

● 電気の変換効率が良くなるから

● メインで使っている電源が使えなくなった場合の非常用電源(二次電源)として

新しいエネルギーを使うには初期投資が必要です。その初期投資を行っても、5年後なり10年後なりに投資額を回収できてコストを下げられるのであれば、使うメリットがあるわけです。

では、新しいエネルギーを使うとコストが下がる理由は何なのか? その答えは、電気の変換効率にあります。現在、私たちの生活の中で、電力会社が供給している電力は「交流」であり、IT機器も基本的には交流電源と接続されることを前提として作られていますが、サーバ内部では「直流」に変換されて使用されています。一方、太陽光発電などは「直流」の電気が発生しますが、普通のIT機器と接続する場合、交流に変換してから接続する必要があります。しかし、直流/交流変換を繰り返すと変換ロスが生じて、エネルギーは失われていきます。太陽光発電の直流電力をそのままサーバ内部に届けられれば、無駄な変換を行わずに電力を供給できますし、無駄な処理を省くことで信頼性も向上します。データセンター向けに、このような直流での電力供給を行うソリューションが既に展開されています。

また、電源を複数所持していれば、1つの電源が使えなくなっても、他の電源で稼働を続けられます。これを無停電電源装置(停電時に少しの間だけ電力を供給する装置)と合わせて使うことで、システムダウンの発生率を下げることができます。

 

続いて、エネルギーの使用例を種類ごとに見てみましょう。

使用例1:太陽光発電

アメリカ・カリフォルニア州の都市バスの運用データセンターは、センターの再構築を行う際に、環境への配慮とグリーンITへの対応を行うため、60万ドルを投資して、30のソーラーパネルと、サーバの仮想化環境、空調設備を新設しました。

サーバの8割を仮想化することで、物理的なサーバの数を減らし、消費電力が減ったところを太陽光発電で補おうというものです。カリフォルニア州では日本と同じく、太陽光発電で余剰の電気が出た場合に、それを売って電気代を下げることが認められています。5年後には、交流電源を相殺する計画でいます。

使用例2:ガス発電

ニューヨークのシラキュース大学のデータセンターで使われているのはガス発電です。ガスの力でタービンを回して発電する仕組みです。
このデータセンターでは電力だけでなく、発電時に発生する熱も有効活用しています。冬場は、寒い外気を装置に取り入れて、発電熱を加えて室内に送風することにより、暖房として利用しています。

この例では、ニューヨークの地理的条件がガス発電にマッチしていて、メリットが出せたと言えます。ニューヨークは他の都市よりもガス料金が安いので、コストメリットが出やすいのです。また、もっと暖かい地方だったら暖房の必要がなくなり、熱の有効活用はできなかったかもしれません。

使用例3:燃料電池

オマハ(アメリカのネブラスカ州の最大都市)の第一国立銀行で使われているのは、燃料電池です。

燃料電池とは、市販の乾電池や充電電池とは異なり、燃料を入れ続ければずっと電力が得られる特殊な装置のことです。最も基本的な燃料電池は、水の電気分解(水に電極を入れて電気を通すと、水素と酸素が発生する)の逆反応(水素と酸素から電気と水を生成する)の原理により、高温(801000℃:燃料電池の種類により異なる)の環境下で水素と酸素を燃料として電気を生成します。従来の発電方法よりも発電効率が高く、騒音や振動もなく、有害な物質が発生しないことから、新しいエネルギーとして注目されています。

ただし、燃料電池は現状ではコストが高いので、導入してもコストの削減効果は期待できません。この銀行の場合、電力を交流電源で供給する場合と比べると、建設費は1.5倍に、日々の電力のコストは2.5倍になっています。では、なぜこの銀行では燃料電池を採用しているのでしょうか。

それは、エコロジーなエネルギーを使用するメリットのひとつ、「信頼性の向上」を主目的としているからです。近年ではクレジットカードによるオンライン取引などで、銀行のシステムは24時間稼働し続ける必要があります。システムが1時間止まると、6億円の損害が出ると言われています。この銀行では、燃料電池と無停電電源装置を併用することで、99.999%の信頼性が得られると謳っており、それによってシステムダウンを極力回避しようとしているのです。現在の設備では、年間当たりの平均システムダウン時間は23秒に抑えられています。

 

これからのデータセンターでは、普段電力会社から供給される交流電源を単に使うのではなく、立地条件を生かしつつ様々な種類の電源を組み合わせて、安定稼働と低コストを両立するように電源構築することが主流になっていくでしょう。絶対にダウンしないデータセンターの実現も、そう遠くないのではないでしょうか。

 

参考:

Data centers experiment with alternative power

http://www.computerworld.com/s/article/9205883/Data_centers_experiment_with_alternative_power

データセンター改善マニュアル 第2回 電源は高効率化,クリーン化へ進化する(日本語記事)

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080603/305837/

NTTファシリティーズ、地球環境に優しい直流給電システムのソリューションを強化 | データセンター完全ガイド(日本語記事)

http://www.impressrd.jp/idc/news/2009/01/30/698

燃料電池 – Wikipedia(日本語記事)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%87%83%E6%96%99%E9%9B%BB%E6%B1%A0

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在学時と就職後に海外プレゼン経験あり。
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