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超高齢社会をITで克服する知恵 第2回 東日本大震災復興は日本再生の起爆剤
2011年10月31日 17:27

1991年のバブル崩壊から今年で20年を迎える。この間、ずっと閉塞感に悩まされてきた。そこへ、「3.11」の東日本大震災である。いま事態は、少し落ち着いて来るにしたがい、意識は「禍を転じて福となす」という前向きへ変わりつつある。被災を受けた主な3県は、高齢化率の全国平均22.7%(2009年)をかなり上回っている、岩手県(26.8%)や福島県(24.7%)。全国平均を若干下回る宮城県(22.1%)である。これら3県は、農業や漁業の生産額が日本で大きい地域でもある。「高い高齢化率と農業・漁業基地」という日本共通条件を抱えるだけに、ここをモデルとした震災復興計画は、他府県のモデルにもなる。さらに、将来のアジアモデルとしても有効である。こう考えると意外に、日本経済復興への糸口になる可能性が見えてくるのだ。

 

東日本大震災復興は日本再生の起爆剤

正確に言えば、日本経済は過去20年間まったくの停滞でもなかった。1990年代後半からほぼ横ばい状態になったからである。この間約15年、景気刺激政策で230兆円にも上がる財政支出をしてきたが、ほとんど効果は出ずじまいであった。明らかに、財政支出の的が外れていた結果である。雇用維持のための雇用調整金、さらに公共事業などに財政支出の的を絞った結果、過去の産業構造を温存させるという、思わざるマイナス効果をもたらし「閉塞感」を強めたのである。本来ならば、高齢化対策としての医療や介護施設、あるいは高齢者全体が生き甲斐を感じつつ、健康で働ける環境整備の投資にシフトすべきであった。

 

今回の東日本大震災は、これまで日本が見落としてきた高齢化社会に相応しい産業構造のあり方を、抜本的に問い直させる機会になった。とりわけ、大震災の被災地が前述のように、日本でも高齢化率の高い地域である。それだけに、人口高齢化対策を前提にし、そこに若い労働力をいかに誘引しながら、地域経済活性化を実現させるか。こういう、困難なテーマにぶつかっている。この難問には、ITの活用で解決できる見通しが出てきた。つまり、東北の地場産業である農業や漁業を第1次産業の段階に止めることなく、ITの活用によって「第6次化」産業に格上げできれば、付加価値を高めて地元での労働力定着化を実現できるのである。「第6次化」とは、第1次産業の農業や魚業を加工(第2次産業)して、それを流通(第3次産業)まで一貫して手がければ、当然に付加価値が上がって雇用吸収力が高まるのである。図式化すると、1次産業×2次産業×3次産業=6次産業になる。あるいは、1次産業+2次産業+3次産業=6次産業という言い方もある。私は、前者の方が相乗効果を上げられると見ている。

 

ITの活用は、労働密度の軽減化にも寄与する。人間歳を取れば、いつまでも農業や漁業の重労働ができるわけでない。だが、ITはこうした重労働の作業も代替可能であって、現在の生産年齢人口(15~64歳)を、少なくも69歳ぐらいまで延長可能にさせるのである。重労働である第1次産業の労働が省力化されれば、当然、高齢者が第2次や第3次産業面での就業可能へと波及してゆき、生産年齢人口全体の就業増加が期待される。(表1)は、現行の生産年齢人口(15~64歳)を支え手として、(a)70歳以上を何人で支えるか、(b)75歳以上を何人で支えるか、を示している。(表2)は、生産年齢人口を69歳まで4歳延長した場合のそれぞれのケースを示した。

(表1)   生産年齢人口(15~64歳)を支え手とした場合

 

(a)70歳以上

(b)75歳以上

2009年

4.0人

5.9人

2015年

3.2人

4.7人

2025年

2.4人

3.3人

2035年

2.1人

2.8人

【資料】『平成22年版 高齢社会白書』

(表2)   生産年齢人口(15~69歳)を支え手とした場合

 

(a)70歳以上

(b)75歳以上

2009年

4.4人

6.6人

2015年

3.6人

5.3人

2025年

2.7人

3.6人

2035年

2.4人

3.2人

【資料】『平成22年版 高齢社会白書』 

(表2)を(表1)と比較して見ると、(a)70歳以上の高齢者の支え手も、(b)75歳以上の高齢者の支え手も、1割以上増えていることに気づくのだ。つまり、これまでの生産年齢人口(15~65歳)より、(15~69歳)へと労働可能年齢の4年引上げが、より多い人数で高齢者を支えることになる。年金財政も楽になる計算である。それだけではない。健康で働く意欲のある人々に職場を提供できることは、国も個人も「ウィン・ウイン」の関係になる。繰り返せば、この立役者がITである。

 

ITをどのように活用していくのか。農業、漁業、医療という順番に取り上げたい。

 

農業では、太陽光や水力などの再生可能エネルギーを利用する動きが出ている。富士電機では、業界初の太陽電池設置型のビニールハウスを全国農業組合連合会(全農)と共同開発した。農業分野ではこれまで、再生可能エネルギーの利用が目立たなかった。だが、農村には広大な未利用地があるので太陽光発電などに適している。ビニールハウスでの温度調節では、ITが活躍するのは当然だ。富士電機では全農と組んで自社のフィルム型太陽電池を屋根部分などに敷設したビニールハウスを開発した。太陽電池の厚みは1ミリ程度と薄く軽量なため、ハウスの骨組みに設置できるという。2000平方メートル程度のハウスで、発電容量は6~8キロワットとなる。ハウス内の電力を自給するだけでなく、余剰電力は電力会社へ売る道が開けている。これまでのハウスでは石油を利用してきたが、この制約から「解放」されるほかに、余剰電力は販売できるという「おまけ」までつくのだ。

 

野菜工場システムも一段と普及する気配が濃厚になってきた。太陽光や風力などの発電設備と蓄電池を、ITを用いて作物に与える水や肥料に最適化するシステムが整備されると、高能率な生産が可能になる。例えば、光合成に必要な太陽光が足りない場合、蓄電池から電力を供給して発光ダイオード(LED)で光を補い収穫を高めるという「ミラクル農業」が実現する。現在、国内の太陽光発電コストは、火力や水力に比べて3~5倍高いといわれている。2015年、つまり後4年もすれば、太陽電池のコスト低減によって、電力会社の商用電力並みになると予想されている。

 

被災地自治体では、岩手県の大船渡市、陸前高田市、住田町が連携して壊滅的な打撃を受けた海岸部に、太陽光パネルや蓄電池を大規模に整備する構想が持ち上がっている。これが実現すると、前述の通り2015年には太陽光発電コストが現行の電力会社並みになって、競争力のある野菜工場などが進出する可能性が大きくなろう。野菜工場は、言うまでもなく、天候に左右されずに清浄野菜が生産可能である。ここでは、これまでの野菜作りと違って、重労働から解放される。高齢者も立派に勤められる環境が生まれるのだ。

 

宮城県や岩手県は全国屈指の「水産県」である。全国の漁業者のうち65歳以上が全体の約3分の1を占めている。宮城県では、60歳以上が半数強を占めており、一段と「高齢化」しているほど。これに今回の大震災が加わって、漁業者の3割が廃業したいという危機的状態に直面している。三陸漁場は世界三大漁場と言われながら、肝心の漁業者が先細り状態では、せっかくの水産資源が眠ったままになりかねない。

 

宮城県では、漁業復興を目指して漁協以外に民間からの参入を認める「水産業復興特区」を創設する方針を決めた。被災した142の漁港を3分の1程度に再編・集約した上で、復興させるという計画だ。漁業は、漁業者だけで成り立つものではない。水揚げ岸壁や産地市場、後背地の加工団地がワンセットで整備されていなければならない。この過程でITが活躍する。水揚げから加工までのIT化による計量、作業の完全自動化、高度衛生基準施設などの高付加価値加工業を導入した、最先端の水産基地建設の提案がすでにされている。魚から抽出するドコサヘキサヘン(DHA)などが、認知症、高血圧症の改善に役立つとされるので、宮城県や岩手県が医療関連産業の集積地へと変貌する可能性も出てくるのだ。

 

今回の被災で医療機関も軒並み大きな被害を被っており、診療機能が著しく落ちている。このなかで、地域医療でクラウドが導入されて威力を発揮し始めている。患者宅でデータをクラウドへ送信して、大病院に治療方針を問い合わせるという使われ方がされている。こうしたクラウド形式で、医療機関同士が診療情報を共有できる仕組みは、実用化され始めているのだ。これまで医療機関の診療情報のIT化は院内での電子カルテルなどが主な使われ方であった。それが大震災をきっかけにして、一挙にクラウド形式へ発展している。小規模の医院や診療所が大型診断装置などを持たなくても、患者の状況に応じ迅速に大病院との連携によって、対応できる目途がついてきた。これは予想外の「成果」であり、高齢者を抱える地域医療に貢献するであろう。「禍を転じて福となす」。もう一度、この言葉を噛みしめたい。

 

次回は、『府県別に課されたプロジェクト概要』について。

 

運用研究レポート
超高齢社会をITで克服する知恵
今回の連載では、日本がすでに突入している「超高齢社会」を、ITを用いてどのように克服するかを追う。人間誰でも高齢者入りする65歳を過ぎると、しだいに健康面での不安を抱えてくる。特に、70歳を過ぎてくると足腰に「故障」がでるもの。ここで初めて、「ああ自分も歳を取ったな!」という実感がわくのである。この連載では、いかにITを活用しながら、「超高齢社会」を克服するか。その知恵を探すことにする。
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筆者紹介

勝又壽良(かつまた ひさよし)

1961年 横浜市立大学商学部卒。同年、東洋経済新報社編集局入社。『週刊東洋経済』編集長、取締役編集局長をへて、1991年 東洋経済新報社主幹にて同社を退社。同年、東海大学教養学部教授、教養学部長をへて現在にいたる。当サイトには、「ITと経営(環境変化)」を6回、「ITの経営学」を6回、「CIOへの招待席」を8回、「成功するITマネジメント」を6回、「ITで儲ける企業、ITで儲からない企業」を8回にわたり掲載。

著書(単独執筆のみ)
『日本経済バブルの逆襲』(1992)、『「含み益立国」日本の終焉』(1993)、『日本企業の破壊的創造』(1994)、『戦後50年の日本経済』(1995)、『大企業体制の興亡』(1996)、『メインバンク制の歴史的生成過程と戦後日本の企業成長』(2003)

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