資格取得への道 中小企業診断士への道

第2回 中小企業診断士って?(その1)

概要

60歳手前のリタイヤ間際のオヤジが、ITコーディネーター資格に飽きたらず、どうして更なる難関資格である中小企業診断士の取得に取り組むことにしたのか。勉強の効果を上げるためにどんな工夫をしたのか、またモチベーションを保つために何をしたのか等など、私が経験した試行錯誤の連続を飾らずに、つたない文章ですが書かせていただきます。皆様にとって何か一つでも参考になることがあれば幸いです。

 まず、中小企業診断士の制度や役割などについて、ご紹介させてください。概略としては、次のようなものです。

 

目次
(1) 中小企業診断士制度
(2) 中小企業診断士の業務とその役割について
中小企業診断士の試験から登録までの概略
各科目を勉強すると

 

(1) 中小企業診断士制度

 中小企業診断士は、中小企業の経営課題に対応するための診断・助言を行う専門家です。


 法律上の国家資格として、「中小企業支援法」第11条に基づき、経済産業大臣が登録します。国が認めた唯一の「経営コンサルタント資格」ということになります。


 中小企業診断士制度は、中小企業者が適切な経営の診断及び経営に関する助言を受けるに当たり、経営の診断及び経営に関する助言を行う者の選定を容易にするため、経済産業大臣が一定のレベル以上の能力を持った者を登録するための制度です。


 中小企業基本法では、中小企業者が経営資源を確保するための業務に従事する者(公的支援事業に限らず、民間で活躍する経営コンサルタント)として位置づけられています。

 

(2) 中小企業診断士の業務とその役割について

 中小企業診断士は、中小企業の経営課題に対応するための診断・助言を行う専門家です。


・中小企業診断士の業務とは?; 中小企業診断士の業務は、中小企業支援法で「経営の診断及び経営に関する助言」とされています。「現状分析を踏まえた企業の成長戦略のアドバイス」が主な業務ですが、その知識と能力を活かして幅広く活躍しています。


・中小企業診断士の役割とは?; 中小企業診断士は、まず企業の成長戦略の策定について専門的知識をもってアドバイスします。また、策定した成長戦略を実行するに当たって具体的な経営計画を立て、その実績やその後の経営環境の変化を踏まえた支援も行います。 このため、中小企業診断士は、専門的知識の活用とともに、企業と行政、企業と金融機関等のパイプ役、中小企業への施策の適切な活用支援まで、幅広い活動に対応できるような知識や能力が求められています。
【中小企業診断協会のホームページより抜粋・編集】

 

中小企業診断士の試験から登録までの概略

 中小企業診断士になるには、試験に合格して、その後実務補習を受ける必要があります。


 試験は年1回実施され、1次試験と2次試験からなっています。


 1次試験はマーク(シート)式で8月初旬に実施されます。数年前から1次試験は科目合格制度が導入され、3年間で7科目を合格すれば良いことになりました。ハードルが少し低くなったと言えるかも知れません。


 科目合格制度が適用されるのは、全体では不合格(7科目の平均が60点未満か、40点未満の科目がある)でも、60点以上の科目がある場合で、該当科目を合格とする制度です。不合格科目については、次年度以降で60点以上が必要となります。


 1次試験に合格すると、2次試験の受験権利が与えられます。なお、2次試験の受験権利は2年間有効で、2回受けられるということです。

 

 2次試験は記述試験と面接試験からなっています。記述試験は10月下旬で、面接試験は12月中旬に実施されます。


 記述試験に合格した人にのみ、面接試験の受験権利が与えられます。因みに、2次の記述試験には科目合格制度はありません。


 2次試験全てに合格すると、実務補習を受ける権利が与えられます。


 中小企業診断士試験の合格率は5%前後と言われています。1次試験は、毎年12,000人程度が受験し、2,500人程が合格します。2次試験は、当年度の1次試験の合格者と、前年度の1次合格者を合わせて、4,500-4,800人程度が受験し、800人程が最終的に合格します。

 

 実務補習は、年2回、冬(1-3月)と夏(7-9月)に行われています(2008年度実績)。3年以内に15日以上(3社の診断)受ける必要があります。中小企業を訪問し、経営診断などを行う実地研修です。補習(研修)となっていますが、実際の中小企業に対する本番の経営診断・助言です。


 この実務補修を終了すると、中小企業診断協会に登録でき、晴れて「中小企業診断士」として認定されることになります。


 上手く最短で出来たとしても、1次試験から中小企業診断士になるまでは、1年近く掛かるということです。

 

1次試験
は、次の7科目となっていて、90分の科目と60分の科目があり、2日間(土日)で実施されます。1日目は①~④、2日目は⑤~⑦です(2008年時点)。


経済学・経済政策(60分)
財務・会計(60分)
企業経営理論(経営理論、組織人事、マーケティング含む)(90分)
運営管理(生産管理、店舗運営など)(90分)
経営法務(60分)
経営情報システム(60分)
中小企業経営・中小企業政策(90分)


 2次試験を考慮すると、1次試験の中では、財務・会計、企業経営理論、運営管理、経営情報システムが特に重要な科目になります。


2次の記述試験
は、診断及び助言に関する実務の事例として4科目です。それぞれ次のような内容で、各科目80分で1日(日曜日)で実施されます。なお、経営情報システムは単独の科目ではなく、各事例のなかで設問として出題されることが多いです。


組織(人事を含む) を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
マーケティング・流通を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
生産・技術を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
財務・会計を中心とした経営の戦略および管理に関する事例


 1次試験は、科目数も多く勉強する範囲は、メチャメチャ広いです。それぞれの科目の知識範囲も広く、またかなり深いです。試験では、結構細かな所まで問われます。
 2次の記述試験は1次の知識に加えて応用力、まとめ力、文書力が求められます。記述式の対策として、特別な書く訓練も必要となります。


 1次試験は2日間、2次の記述試験は1日で、朝から夕方までの長丁場です。長時間の緊張を強いられ、知力だけでなく、体力も必要なテストです。脳味噌がヘトヘトになりました。


 私の場合、年齢的な事もあり勉強に時間をかけましたが、若い方でも、合格ラインに到達するまでには、膨大な勉強時間が必要だと思われます。忙しいサラリーマンをやっていて、2年で取れればスゴイ、3年でも御の字ではないでしょうか。


 中小企業診断士試験は難関試験と言われていますが、私も体験してみてその通りだと思います。最終的に800人程度を選抜するための試験で、落とすための試験と言われています。難問だけで無く、引っ掛けのような意地悪な問題もありで、一瞬も気を抜けません。本当に大変でした。


 統計資料からも、試験場を見回した範囲でも、受験者の年齢層は幅広く、30歳台,40歳台が多いようです。若い方も居られますが、50歳代も結構多いようです。中には私より年上の方(見た目です)も居られるようでした。そのような中で受験すると、自分も負けていられない、もっとやれると、元気になって来ます。

 

 

各科目を勉強すると

 受験のための勉強は確かに大変です。ですが、1次科目を勉強すると、社会人として知っていて損はない一般的な知識や、基礎的な知識だけでなく、より高度な専門的な知識も習得できます。


 また、2次科目では、短時間で自分の考えをまとめて、簡潔な文章で自分の主張したい事を記述する訓練が出来ると思います。


 経済学・経済政策は、テレビや新聞などで、個々の単語を見たり聞いたりする程度でした。馴染みのない領域で難解でしたが、経済関連の新聞記事やテレビ報道などで出てくるマクロ経済、ミクロ経済、GNP/GDP、貿易・為替といった言葉の意味、それらが何によって動くのか、などが理解できました。経済学が、我々の日常生活にどのように関わっているのか、も解ってきました。


 財務・会計もやると、PERやPBR、企業価値などの意味も解りますので、テレビなどで経済学者などの専門家が言っていることや、会社四季報、経済専門誌などが、苦痛なく読めるようになりました。


 それまでは、テレビなどの経済ニュースは、難しい専門用語が出てきて、正直分からないことも多く、殆んど右から左の状態でした。


 しかし、解るようになってくると、経済学者や専門家と呼ばれる人達が、難しい言葉(殆んど横文字)を平気で使うのが気になります。本当に、一般の人に理解して貰おうとしているのか(一部の専門家を相手にしているのか。それとも、それまでの私のレベルが低かったのか)疑問が湧いてきます。


 私もIT関連の話などをする場合でも、相手のレベルを考慮して、独りよがりの3文字略語を連発しないようにしようと、改めて肝に銘じました。


 ニュースなどでマクロ経済に関連する用語などが良く出てきます。これが国(政府や日銀など)の経済政策などに深く関わるもので、国を動かす重要なキーワードだということが、解るようになりました。ニュースの見方や聞き方が変わってきました。


 財務・会計は、まったくと言って良いほどの初心者でした。簿記の2級レベル程度が必須とのことで、会計の入門書の類から始めました。基礎が無い私にとっては、本当に大変でした。時間が掛かりましたが、今では、経営分析なども出来るようになりました。


 合理的な論理思考をするIT系の人には、財務・会計は合っているのではないでしょうか。
 簿記(商業簿記・工業簿記)、財務諸表作成、財務分析、キャッシュフロー、損益分岐点計算、直接原価計算、投資期待値・リスク評価、DCF・企業価値、デリバティブなど等が、一通り理解できましたし、計算もできるようになりました。


 財務・会計は1次、2次ともに計算問題も多く、理解度・習熟度によって、点数が大きく差がつく科目です。合否のキーポイントだと言われています。財務・会計の知識が無い(少ない)方は、特に勉強時間が必要です。


 私もそうでしたが、IT系の人は、財務・会計が苦手という方が、多いのではないでしょうか。
 しかし、財務・会計の知識は、社会人として知ってて当たり前と言っても、過言では無いと思います。(受験する/しないに関わらず)自分への投資として勉強することをお勧めします。


 企業経営理論では、経営戦略論(SWOT分析、5フォース、3C、成長戦略、経営資源戦略、競争戦略、技術経営(MOT)など)、組織論(経営組織の形態・構造と運用、人的資源管理に関わる関連法規、雇用管理、能力開発など)、マーケティング論(マーケティングの基礎、顧客分析、製品戦略、チャネル政策、プロモーション、応用マーケティングなど)など等、企業経営に必要な基礎的な知識とプロセスなどが学べました。


 中小企業でどこまでやっているのか、とも思いますが盛りだくさんです。中小企業を支援する場面では、全てを適用できなくても、常に経営戦略の観点を忘れずに、個別の課題への対応や支援策を考える必要があります。


 ITコーディネータ(ITC)でも同じキーワードが幾つも出てきますが、ITCに合格した当時の私は単語を知っている程度でした。
 弱かった経営戦略などの、知識レベルを高めるという目的は、一定度達成できたと思っています。また、マーケティングの重要さ面白さ、そして大変さも少しは分かって、もっと勉強したくなりました。


 運営管理は、生産管理と、店舗・販売管理とから成っています。  生産管理では、製造業で必要な工場レイアウト、製造ライン、生産管理の基本機能(QCD)や生産形態、生産計画・統制、在庫管理、設備管理、生産情報システムなどを一通り勉強できました。製造に関連する廃棄物等の管理や原材料、加工方法なども勉強範囲に入っています。
 生産管理のQCDだけでなく、生産計画や5S、4E、IE、品質管理、作業研究等など、考え方や管理手法は、IT関連でも参考になりそうです。製造業界を先輩として、IT業界でも開発・運用面などで、大いに学べる所があるのではないでしょうか。


 
店舗・販売管理
では、小売業などの店舗施設に関する法律知識、店舗立地と出店、店舗施設、仕入・販売・プロモーション・価格設定、輸配送管理、物流センター管理、流通情報システム、商業集積の問題などが理解できました。


 小売店の業態、例えば専門店やスーパー、コンビニ、八百屋・魚屋などによって店舗レイアウトの違いや品揃え、売り方の違いがありますが、それまでは、気にもしていなかったです。店舗運営を勉強すると、そういう事だったのかと分かりました。流行っている店と、そうでない店との違いが、少しは分かるようになって来ました。
 店舗に入っても見る目が変わりました。レイアウトはどうだろうか、品揃えはどうだろうか、このPOPは上手いなとか、買い物以外でも楽しみが多くなりました。


 経営法務では、事業の開始(個人、法人)、法人の種類、会社・組合の設立・登記、届出・手続等(許認可・届出事業、労働保険・社会保険・税務上の届出)、合併等の手続、組織変更手続、倒産等の手続(会社更生法、民事再生法、会社法)、
特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、知的財産権・著作権等に関する契約、
民法(物権、債権、相続)、会社法(株式、会社の機関、会社の計算)、金融商品取引法、独占禁止法、不正競争防止法、製造物責任法、消費者保護法、トレードシークレット、資本市場へのアクセスと手続、等などです。


 
会社法、知的財産権、民法、取引関係
など企業経営に関わる法律や諸制度、手続きなどが一通り理解できました。


 しかし、毎年のように改定があり、普段なじみが薄い専門用語だらけで、法律特有の難解な文書で、正確に覚える必要がありますが大変です。


 経営情報システムでは、ハードウェア、ソフトウェア、プログラム設計などの基礎技術、 バッチやオンライン・リアルタイム処理、Web コンピューティングなどの情報処理の形態と関連技術、 データベースの構造・種類・管理システム、ファイルの概念・編成など、通信ネットワークの役割・基礎技術、ネットワーク・アーキテクチャ、LAN・VAN、インターネットなど、システムの性能評価・信頼性・経済性、
 経営戦略と情報化(戦略情報システム、企業革新と情報システム)、情報システムの開発(システム化計画、分析、設計、システムテスト・導入支援)、情報システムの運用管理、情報システムの評価、情報システムと意思決定、等などです。


 改めてITに関わる全般の知識、最新技術などのおさらいが出来ました。
 私から見ても、SQLの構文やデータ正規化、DFD、アクセスタイムの計算など、結構細かな知識が求められています。


 ITの歴史から最新技術や利用方法、関連知識など、広範囲で専門用語のオンパレードです。ITに関わりが無い人にとっては、難しい科目かも知れません。


 中小企業経営・中小企業政策では、「中小企業白書」の前年度版からの出題が多く、これの勉強が中心になります。各種統計等にみる中小企業、産業構造と中小企業、大企業と中小企業、中小企業性業種、地域産業等、 中小企業関連法規、中小企業政策の体系と内容、中小企業支援事業の実施体制と政策、中小企業新事業活動促進法の体系と政策、中小企業経営と施策活用など盛り沢山です。
 中小企業を取り巻く環境、中小企業の経営特質、国の政策や地方自治体、金融機関などの支援機関が行っている施策が一通り理解できました。


 中小企業への支援政策・施策がこんなにあるのかとビックリします。それだけ中小企業を取り巻く環境が厳しいということでしょう。


 また、中小企業と言っても、規模や業種も幅広く、とても一括りには出来ません。その上、地域によっても事情が異なる事も、多くの政策になっている理由と思われます。
 実際の中小企業への診断・助言の場面では、対象企業の成長ステージや経営課題に合わせて、これら政策・施策を適切に活用・助言することが求められます。
 普段関わりが薄い上に、統計資料の細かな数字も多く、また政策・施策は毎年のように改定されます。支援内容(例えば、貸付・補助の条件や金額など)が、政策・施策ごとにバラバラで、覚えるのも一苦労です。


 次回は、中小企業診断士って?(その2)と題して、続きを書かせていただく予定です。

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