国際会計基準の適用視点から「企業の内部統制(リスク管理)」を考える

第3回 国際会計基準と内部統制の関係(3)

概要

内部統制対応(財務諸表が正しく作られていることへの保証)と国際会計基準への対応(世界中の企業が同じ基準で決算報告を行うこと)は、日本企業がグローバル化する世界で今後も確かに存在し、成長/拡大するために不可欠なものである。しかしながら、この活動が企業に与える負担も看過することはできない。  本稿では、企業において意思決定の役割を担う方々が、この状況を「解決できる問題」としていただけるべく知識や情報の整理、関連性の明確化を行う。

 

目次
内部統制に関連する新たな動き
内部統制制度見直しの議論(1):見直し案(2010年5月21日)
内部統制制度見直しの議論(2):見直し案に関する議論(2010年6月10日)
国際会計基準の適用に際する内部統制のメンテナンス

内部統制に関連する新たな動き

  前回の記事を公開させていただいた以降(6月月初)で「内部統制」に関連した動き(情報)がありました。今回は、本題(これまでに構築した内部統制のメンテナンス)に入る前に、先ずその内容に関して、要約を行いたいと思います。

 

ここでの「動き」とは次の二つとなります。

① 金融庁企業会計審議会内部統制部会による内部統制制度見直しの議論(5/21、6/10)

② 公認会計士協会による【IT委員会研究報告第31号『IT委員会報告第3号「財務諸表監査における情報技術(IT)を利用した情報システムに関する重要な虚偽表示リスクの評価及び評価したリスクに対応する監査人の手続について」』Q&A】(6/9)

 

 今回の連載においては、①に関する要約/整理を行います。②に関しては、次回の連載(第4回:国際会計基準の情報システム(IT統制)への影響)にて、情報の整理を行います。

内部統制制度見直しの議論(1):見直し案(2010年5月21日)

 2010年5月21日に金融庁の企業会計審議会内部統制部会が内部統制制度の運用簡素化・明確化を見据えた見直し案を提示しました。この見直し案の策定に際しては、経団連、銀行、インターネットアンケート、新興市場状況企業向けアンケートなどから寄せられた360件にのぼる要望・意見が見直しの観点となっています。

 

見直し案には主に次のことが記されています。

<1>中堅・中小上場企業に対する簡素化・明確化

 ・中堅、中小上場企業の場合に、内部統制の記録として利用できる社内作成文書としては、メモや引継書等で足り、よりフォーマルな文書は不要であることを例示

 ・会社の規模等に応じた手続の合理化、代替手続の容認

 ・全社的な内部統制の評価方法の簡素化(大きな変化がない場合の省略など)

 

<2>制度導入2年目以降可能となる簡素化・明確化

・内部統制の評価対象範囲について、前年度の評価の状況が良好であった場合、評価対象範囲の更なる絞り込みを可能とする(現行基準は売上高等の2/3程度の事業拠点を評価することになっている)

・持分法適用会社に係る評価・監査方法の明確化

・対象とする統制やサンプリング方法等の緩和(経営者や内部監査人等の実施した手続きの積極的な利用)

 

<3>その他の明確化

・「重要な欠陥」の判断指標(現行は税引前利益の5%等が例示)の事例の追加

・全社的な内部統制の評価範囲の明確化(現在の僅少基準(5%)に縛られない判断)

 

<4>「重要な欠陥」の用語の見直し

・「重要な欠陥」の用語は、企業自体に「欠陥」があるとの誤解を招くおそれがあるとの指摘があり、見直しを検討

 

 内部統制対応に関する企業負荷の軽減については、これまで、

1)作業ベースでの軽減(文書化、評価) 

2)対象選定ベースでの軽減(拠点、プロセス、キーコントロール) 

の双方が言及されてきましたが、今回の見直し案は、このいずれに関しても目配せをしたものとなっている様に思われます。

内部統制制度見直しの議論(2):見直し案に関する議論(2010年6月10日)

 2010年6月10日に金融庁の企業会計審議会内部統制部会にて、「見直し案に関する議論」が行なわれました。

 

その論点と議論内容(検討の方向性)は次のとおりでした。

<1>内部統制監査の「レビュー」化の是非

・現在の内部統制報告制度の枠組みの全面的な見直しが必要となり、コスト削減の視点からみても効果は見込めない。

 

<2>「重要な欠陥」の用語の見直し

・重要な(or著しい)不備、重要な(or著しい)弱点、重要な(or著しい)弱み、重要な(or著しい)要改善事項といった用語への変更

 

<3>「事業規模が小規模」な会社の定義

・定義を設けることは困難

 

<4>評価手続等に係る記録及び保存の簡素化・明確化

・利用できる証憑として、「メモ」という表現がそぐわない。「覚え書」ではどうか

 

<5>持分法適用会社に係る評価・監査方法の明確化

・(対象企業の)親会社が上場企業である場合には親会社等から何らかの確認書面を入手すれば足りることを実施基準で明示

 

<6>評価対象範囲の絞込み(省略できる範囲の拡大)

・数値基準は削除しないことではどうか

・評価範囲の絞込みができるのは、(決算財務報告プロセスを除く)業務プロセスであり、全社統制及び決算財務報告プロセスについては別途であることを明示することとしてはどうか

 

<7>対象とする統制やサンプリング方法等の緩和

・(前年度において内部統制の評価が良好であった業務プロセスなどは)監査人は経営者や内部監査人が抽出したサンプルを活用するまだ効率的な手続きの実施に留意する

 

 金融庁は今後この議論内容を踏まえて、制度見直しに関する公開草案を発表し、パブリックコメントを受け付けた後に、正式な制度の変更へと作業を進めるものと思われます。

  内部統制制度が施行されてから3年目を迎え、これまでの成果が十分に認められることを踏まえての今回の見直し案検討となっている様子です。国内上場企業における内部統制対応がしっかりと根付いた証拠かと思われます。

国際会計基準の適用に際する内部統制のメンテナンス

 これからは今回分の連載における本題である「これまで構築した内部統制のメンテナンス」に関してご説明いたします。

 内部統制(J-SOX)における業務プロセスとは、「決算・財務報告に係わるもの」と「それ以外のもの(販売、購買、在庫管理など)」に大別されます。

 

 業務プロセスと国際会計基準における主要論点を関連付けると概ね次のとおりになります。

 ・決算・財務報告に係るもの:決算早期化、開示、外貨換算

 ・販売プロセスに係るもの:収益認識(認識時期、複合取引、収益測定)

 ・購買・在庫管理プロセスに係るもの:棚卸資産評価、原価計算

 ・固定資産プロセスに係るもの:有形固定資産(取得原価の範囲、コンポーネントアプローチ、残存価額の見直し)

 ・研究開発プロセスに係るもの:無形固定資産(開発費の資産化)

 

この中から、国際会計基準の適用に際して、現行の国内基準と比して大きな差異が発生することが想定される二つの論点(収益認識と有形固定資産)に関して、内部統制への影響を考えます。

 

【収益認識】

・収益認識に関する論点(国内基準との差異)

2010年6月24日において国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が公開草案として「顧客との契約における収益認識」を公表しています。これに伴い、今後、国際会計基準(IAS)文書、国際財務報告解釈指針委員会(IFRIC)文書などにおいて内容の更新が発生することになります。(最終基準の公表は2011年6月とされています)

※IAS第11号:工事基準、IAS第18号:収益、IFRIC第13号:カスタマー・ロイヤリティ・プログラムなど

 

今回の連載においては、この公開草案内容を反映する準備が整わないことから、従来の基準内容(IAS第18号)に沿った記述とすることをお断りしておきます。

現在の国内会計基準では収益認識に関して詳細な会計基準は存在していませんが、IAS第18号においては(物品販売の)収益認識においては、次の五つの要件が挙げられています。

<<IFRSにおける収益認識の五つの要件>>

 ①所有に伴う重要なリスクと経済的便益の買手への移転

 ②物品に対して継続的な管理上の関与・有効な支配を保持していない

 ③収益の額が信頼性をもって測定できる

 ④経済的便益の流入可能性が高い

 ⑤原価の額が信頼性をもって測定できる

 

この要件と国内会計基準の主たる差異ポイントは次のとおりとされています。

<<国内基準との差異>>

 ①収益の認識タイミング

 ②複合取引の分割認識

 ③収益の測定方法

 ④収益の表示方法

 即ち、収益認識の論点から業務プロセスへの影響を考えた場合には、主として販売プロセスおいて、国内基準との差異に関して、従来の内部統制の整備内容、運用内容の変更が必要となります。

 

求められる主たる統制(コントロール)内容は次のとおりと考えられます。

[1]収益の認識時期の適正性の確保

 ・出荷基準から着荷基準へと変更した場合には、標準(積送)日数の設定(類型化)と、着荷日の計算の正確性を継続的に確認する統制(定期的な検証など)

[2]複合契約における構成物の実態に応じた適正な認識

  ※複合契約:物販とサービス、サービスとサービスを組み合わせた契約

 ・構成物における構成要素の識別のための証拠書類(個別見積書、契約書など)の確認、構成物の識別の適性性を継続的に確認する統制(受注データと注文書などの照合等)

 

【有形固定資産】

・有形固定資産に関する論点(国内基準との差異)

有形固定資産に関わる業務プロセスとは、取得、減価償却、減損、除売却を指します。このプロセスに関連する国際会計基準における有形固定資産の主たる論点としては次のとおりです。

<<IFRSにおける有形固定資産の主たる論点>>

 ①従来の日本基準より取得原価の範囲が拡大する

 ②残存価額・耐用年数・減価償却方法について、一律ではなく、各企業の経済的実態に沿った適用 が求められる

 ③残存価額・耐用年数・減価償却方法の定期的な見直しを求めていること

 

 求められる主たる統制(コントロール)内容は次のとおりと考えられます。

[1]解体・除却・原状回復に関する費用の適正な見積 (取得原価の拡大)

 ・取得時に支出する金額だけではなく、将来費用が発生する作業に関する計画策定

 ・費用見積り方法の整備

 ・実績情報を収集し、将来発生額の見積への反映

 ・取得原価に算入される借入費用の適正な計算

 

[2]コンポーネント・アプローチの適切な適用

 ・耐用年数の異なるコンポーネントの適切な識別と適正な耐用年数の設定

 ・コンポーネント単位の取替・修繕計画の策定

 ・実績情報を収集し、取替・修繕計画の見直しに反映

 

[3]残存価額、耐用年数、減価償却方法の定期的な見直し

 ・残存価額、耐用年数、減価償却方法に関する情報を継続的に把握可能とするための資産に関する計画策定及び実勢報告制度の整備と運用

 

[4]これらの報告の適正性を確保するためのモニタリング制度の整備運用

 

次回は、国際会計基準の情報システムに与える影響とIT統制に関する最近の動向について、検討を試みます。

 

=参考文献=

・法政大学大学院教授:石島隆先生作成講演資料「国際会計基準適用の主要論点と対応策」(2010年6月22日 於:日本ユニシス株式会社主催セミナー)

・「完全比較 国際会計基準と日本基準」(レクシスネクサス・ジャパン)

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筆者紹介

日本ユニシス株式会社
サービス企画部 業務ソリューション企画室
担当部長 小岩井毅
ソフトウェアビジネス、Eビジネス、ブロードバンド関連ビジネスに関する商品企画、マーケティング推進を担当の後、新規事業開発に関するコンサルティング業務を担当する。 2006年より、J-SOX(金融商品取引法)に関連するマーケティングプログラムの企画、推進を担当。 2009年より、国際会計基準に関するマーケティングプログラムの企画、推進を担当。

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