システム運用を語る、ITILの活用

第4回 ITサービスマネジメントにおけるベストプラクティスとは?

概要

ITシステム運用のベストプラクティスとされ、今話題の「ITIL」について、お客様の現状や取り組み、事例などを踏まえ、その活用のための各種情報をご提供します。

目次
ベストプラクティスとは
ITサービスマネジメントによって目指すもの
システム運用改善の実践とベストプラクティスの関係
ベストプラクティス(ITIL)の活用方法

ベストプラクティスとは

ITIL(IT Infrastructure Library)はシステム運用におけるベストプラクティスとされています。ベストプラクティスとはなんでしょうか?日本語にするとすれば「最良実践集」と翻訳することができますが、やや抽象的な印象といえます。
ITILは、過去のシステム運用管理における活動の中で、最もうまくいったプロセス(仕事の仕方)を体系的にまとめたノウハウ集、知識ベースと考えるのが妥当と考えます。
先日の新聞に、「航空業界の過去の重要インシデントをデータベース化し、いつでも参照、利用できるようにすることで、問題発生時に過去事象の検索により早期に解決を目指し、かつ、傾向分析等を行なって問題の発生を未然に防ぐ計画がある」という記事が掲載されていました。
これはまさにITILの考え方のひとつに合致するもので、インシデント管理における、「発生したすべてのインシデントや問題を分類、記録し、回避策(ワークアラウンド)や問題解決を行い、関連する情報をデータベース化、参照、利用することによって、ユーザに対して高品質なITサービスの提供を行なう」プロセスと同等といえます。
このようにITILはシステム運用に限らず、日々の業務プロセスに活用することができる知識ベースといえます。


ITサービスマネジメントによって目指すもの

ITILが提唱する「ITサービスマネジメント」は、ITをサービスとして提供することによって、ビジネスの拡大を目指すものと定義されています。従来のシステム運用、あるいは運用管理における情報システム部門のターゲットは「コンピュータシステム」であったと考えます。つまり、ITをいかにうまく管理するかが安定稼動であり、品質であったといえます。
しかし、ITサービスマネジメントにおける情報システム部門の相手は「人間(顧客・ユーザ)」です。
人間に対してサービスとして提供するということは、「感情」や「主観」という容易には測定できない要素が入ってきます。これらを測定するための満足度調査や、定例会議や定期的な情報発信を行なうといった、緊密なコミュニケーションがなければ、高い評価のITサービスを提供することはできません。
従来のシステム運用をITサービスマネジメントへと拡張することによって、従来のIT(ハードウェア・ソフトウェア)だけでなく、「ビジネス・人」に対する「ITサービス」へと変革することを目指すものといえるのではないでしょうか。


システム運用改善の実践とベストプラクティスの関係

システム運用における問題点、改善点について、現場に対してアンケートを行った場合、あまり意見が出てこないという話をよく耳にします。しかし、経験上、現場では様々な問題点を感じており、インタビュー形式でお話を伺うと、数多くの意見が出てきます。これはシステム運用における現場の特徴かもしれませんが、内在する問題は常にあるといえます。
システム運用改善として、現状の問題点を洗い出し、分析、改善計画を策定する活動を行なうと、結果的にITILのプロセスと酷似することが多々あります。これこそがベストプラクティスの本質ではないかと考えています。(図1)
ITILは過去の実績から最も有効な手順、手法を集めたものですから、当然かもしれません。
しかし、システム運用改善の出発点に現状の問題認識無しにはITILの活用はありえないのです。
最初からITILに準拠することを目指し、ITILの知識習得から始めることも間違いではないと考えますが、内在する、あるいは顕著化した問題点を改善する活動において、ベストプラクティス(ITIL)を活用していく手法をお勧めします。


ベストプラクティス(ITIL)の活用方法

ベストプラクティスの活用にあたっては、まずは理論と現場のギャップを埋めることが重要な作業となります。
通常、ITILの推進側(企画側)はメリットをアピールし、活動を促します。
現場からは多忙な業務の中で、これ以上のシステム運用改善や、新しい事に取り組むことに対して「業務が増える」、「現状のやり方を変えたくない」、など、デメリットが提示され、抵抗が予想されます。
このため、ITIL活用への取り組みを開始する時はトップダウンによる取り組みが不可欠といえます。

はじめに、ITサービスマネジメントによる品質やプロセスの改善の目的を明確にし、ベストプラクティス(ITIL)を活用した「小さな成功体験」を積み重ねる活動を行ないます。
改善活動の実施にあたっては、言葉の意味の定義、標準化も重要な要素になります。人によって言葉の定義が異なっていたのでは、意思の疎通を図ることが困難になります。ITILの用語を理解し、共通認識とすることも重要です。

結果として、情報システム部門や提供するITサービスの評価が高まり、現場がメリットを理解した場合にはじめてベストプラクティスを活用した継続的な改善が可能になるのです。
繰り返しになりますが、ITサービスマネジメントは「人間(運用担当者)」がITを「サービス」として「人間(顧客・ユーザ)」に対して提供するものですから、システム運用に携わる人の活動、意識を変えていく必要があります。
ITILに記述されているシステム運用の3要素の「人」の育成が重要であることは誰も疑う余地はありません。これもまたベストプラクティスのひとつといえると考えます。

実際にベストプラクティスを活用するためには、これまでの現場の考え方、仕事の進め方を変えていく必要があります。また、ITをサービスとして提供するためには、ITILだけでなく、いろいろな手法ややり方を取り入れる方法もあります。 ご参考までに、インシデント管理を例としてITILのプロセスを実践するため取り組みを以下に示します。

インシデント管理のプロセス設計を、現状の運用に基づき、ITILを活用して組み立てる。
問題解決の手法として、問題・課題を数値化し、徹底的に解決を図るシックスシグマの考え方を取り入れる。
サービスの成熟度を測るため、インシデント管理プロセスの評価にCMMI(成熟度モデル)を活用する。
ITサービスを提供する「人」のモチベーションやスキルを高めるための指標として、ITSSを活用する。
全員がすべての理論を理解する必要はなく、「何のためにこの作業を行なっているのか、これはどのようなサービスを提供しているのか」という意識を常に持って活動することが重要なのです。

次回はITIL活用の入り口として取り組む例の多い、「インシデント管理」への取り組みについてご紹介します。

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筆者紹介

株式会社ビーエスピーソリューションズ 

運用コンサルテイングチーム 藤原達哉

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