システム運用を語る、ITILの活用

第3回 ITシステム運用とサービスレベル管理

概要

ITシステム運用のベストプラクティスとされ、今話題の「ITIL」について、お客様の現状や取り組み、事例などを踏まえ、その活用のための各種情報をご提供します。

目次
サービスレベル管理への注目とその背景
サービスレベル管理によるITサービス品質の向上
SLA(サービスレベルアグリーメント)締結の壁
サービスレベル管理の実現にむけて

サービスレベル管理への注目とその背景

ITILへの注目に加えて、その中心的なプロセスである、サービスレベル管理への期待が高まっています。
「サービスレベル管理」自体は新しい言葉ではありませんが、昨今のITサービスマネジメントの広まりにより、再度注目を集めているものと思われます。実際、お客様から私どもへのお問い合わせやご相談も増加しています。
サービスレベル管理への注目の背景として、アウトソーサなど外部ベンダの利用機会の増大、ITの普及によるユーザ要件の高度化、ITサービスを評価するために品質の評価基準が必要となってきたことなどが考えられます。

ITILにおけるサービスレベル管理の位置づけは、サービスデリバリ(中長期的な改善プロセス)における中核であると同時に、第三者認証であるBS15000/ISO20000の根幹となるプロセスです。
サービスレベル管理に関する動向としては、2004年4月には経済産業省より、「IT政府調達 ITサービス評価政府ガイドライン策定」が公表され、同年10月にはJEITAソリューションサービス事業委員会 SLA/SLM専門部会より、「民間向けITシステムのSLAガイドライン紹介(概要編)」が発表されました。これらはインターネットや書店で入手することが可能です。内容としては、主に技術的なSLAの評価基準が掲載されています。


サービスレベル管理によるITサービス品質の向上

サービスレベル管理への期待は、ITサービスにおける品質の向上、サービス自体の可視化とコストの明確化などがあげられます。
ITサービス品質を向上していくためには、現状の測定と把握をベースに問題点の明確化を行い、それらの改善のために活動を行う必要があります。そのための規定がSLA(Service Level Agreement)です。
ITILにおけるサービスレベル管理の役割は、SLAの維持管理に責任を持つことと定義されています。

サービスレベルを維持管理するために、まずは利用者が希望するITサービス要件を確認し、これに基づくサービスカタログを策定、品質の規定をおこなうSLAを作成、締結することになります。
このSLAを基にしたサービスレベル管理のルールとプロセスを確立し、定期的なレビューを行い、問題点の把握と継続的な改善活動をおこなうことにより、ITサービス品質の向上を図ります。
また、実際のサービスレベル管理の活動においては、明確な目標設定と、締結したSLAのサービスレベルが測定可能であることが重要です。

サービスレベル管理の活動プロセスを以下に示します。
ITサービスにおける、サービス要件とサービスカタログの策定
サービスカタログを基準にした、SLA(Service Level Agreement)の作成および締結
サービスレベル管理のルール、プロセス、会議体の確立。PDCAサイクルによる継続的な改善活動(CSIP※)
SLAを遵守できているかどうかを証明するデータおよびレポートの作成と承認
※CSIP: Continuous Service Improvement Plan 継続的サービス改善プログラム

サービスレベル管理を実現するためには、ITサービスの品質評価のために下記のようなデータを収集、分析、レポートを作成する必要があります。
システムの稼動データ
サービス状況レポート
問題発生時の解決時間、回答時間
パフォーマンス管理レポート
キャパシティ管理レポート  など


SLA(サービスレベルアグリーメント)締結の壁

現状の日本企業においては、SLAの締結はあまり行われていないように思われます。 日本におけるSLA普及の妨げとして、ペナルティを強く捉えるという文化的な面(企業文化、組織文化)の問題があります。 システム子会社などの場合、内部目標は持っているものの、親会社からのペナルティを恐れるあまり、サービスレベルを明文化するSLAを締結していない例も数多く見受けられます。

<SLA締結における課題の例>

サービスレベルの規定が現実的でない場合
当初から技術的(数値的)要素を多く組み込みすぎると、管理が煩雑となり、早期に陳腐化する可能性があります。
ペナルティを避けるために例外条項ばかりが多くなってしまい、契約が陳腐化してしまう可能性があります。
契約当事者の課題
ITILには、SLAはビジネス側のマネージャとITサービス提供者側(システム運用側)のマネージャ間で締結すると定義されています。ここで問題となってくるのが、ITの知識のないビジネスマネージャと、ビジネスの知識がないITマネージャがSLAを締結する作業を行うことです。
これでは、ビジネスの拡大に向けたITサービスの有効活用についてのサービスレベル管理が行われる可能性は低いといえるでしょう。

初期段階のSLA締結においては、ITサービスの測定可能な基準を明確化し、各種データの積み上げによるSLAの構築も必要です。初めから高度なSLAを目指すのではなく、できるところから始めるといった進め方も検討する必要があります。
本来、サービスレベル管理におけるSLA は、ペナルティが目的ではなく、サービスの提供者と委託者が、相互理解のもと、ITサービスを利用してビジネスの拡大を目指すべきものです。
SLAは恒久的なものではなく、締結がスタートであり、定期的に見直し、合意する、サービス品質の向上を図るための道具としての認識する必要があります。
SLA サービスレベルアグリーメントの定義 (ITILサービスデリバリを参考に作成)


サービスレベル管理の実現にむけて

サービスレベル管理によるITサービスの評価は、企業におけるコンプライアンス強化、マネージメントシステムへの取り組みなどの要因によって、避けて通れないプロセスになってきています。
高いコストをかければ高い品質のサービスを提供することは可能かもしれません。しかし、企業のITに対する投資は無限ではありません。限られたコストの中でITサービスの効果を最大限引き出すために、サービスレベル管理は必要といえます。

サービスレベル管理においてもっとも重要なことは、サービスを受ける利用者側(顧客、ユーザ)と提供者側(システム運用)による、「可用性」の相互理解といえます。しかしながら、利用者側は、「可用性」すなわち、利用できるべき時間帯に、適切なITサービスが必ず(100%)提供されていることを要求することも考えられます。
ITサービスの提供者は、ITサービスが多層にわたる複雑なインフラや、人の活動によって提供されているため、可用性を100%にすることは困難なことを理解しています。
しかしながら、システム運用部門は、可用性を100%に近づけるための活動を日々行うことでITサービスの品質向上を図っています。
このITサービスの継続的な改善活動を、利用者に対して啓蒙活動を行い、かつ、協力関係を構築することにより、ビジネスの拡大を図るサービスレベル管理のPDCAサイクルが実現できると考えます。

<サービスレベル管理実現に向けての活動のポイント>

サービスレベルは恒久的なものではなく、定期的に見直し、合意し、システムサポート品質の向上を図る
ITサービスを利用する側の(ユーザ、顧客)の意識改革(可用性の相互理解)を図る
IT運用部門とユーザ部門が参加型で評価を行う
SLAの締結において、ペナルティだけではなく、達成時のインセンティブの発想を盛り込む
次回はITサービスマネジメントのベストプラクティスについて、考察します。

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筆者紹介

株式会社ビーエスピーソリューションズ 

運用コンサルテイングチーム 藤原達哉

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