日本を支えるシステム管理者の君へ -NTTコムウェア- 松田 栄一

第6回 失敗に学ぶ

概要

日本を支えるシステム管理者の方へ、システム管理者の会推進委員より熱いメッセージを送るリレーコラムです。

30数年前に社会人となりオンラインシステムの開発を皮切りに、新規事業の開発や事業立て直しを経験し、私は失敗に学ぶことが極めて重要であると思っています。今回の大震災と震災以降発生した多くの事象や自分自身の学習を通じて、その思いは強くなっています。そこで、システムの運用管理に携われる皆様に、私からは「失敗に学ぶ」という言葉を送らせていただきます。

失敗は、どんなに注意しても発生します。システムの保守運用でお世話になるマニュアルやITILは、どうすべきかどうあるべきかの集大成で、成功事例の積み重ねやベストプラスしか書いていません。なぜそうなのか、過去の失敗に基づいてなぜこういう手順になっったのかの背景や理由までは説明してくれません。

成功に学ぶだけでは、私は危ういと思っています。成功と失敗の両方から学ぶ姿勢が大事です。なぜそうすべきなのかは、過去に遭遇した痛い目の裏返しです。本当のノウハウの多くは、失敗から生まれてくるものです。また、マニュアルに書かれていないトラブルに遭遇した場合も、過去の失敗を分析し失敗の本質を理解している人であれば、どのように最悪の事態を回避するかを、自ら考えて対策を打てる可能性が高まります。

しかしながら、失敗に学ぶことは難しい。失敗は隠れたがるし、隠したがる。システムの運用管理に関わるマネージャーの方にぜひお願いしたいのは、失敗の情報を前向きに共有して、そこから組織として何を学ぶべきなのかという環境を作ることです。失敗からいかに学び、失敗を繰り返さないようにするかの対策を考える上で、特に参考となる本を推薦させていただきます。畑村洋太郎氏の書かれた『失敗学のすすめ』です。畑村氏は、失敗学の創始者で、これまで多くの事故調査活動に関わっておられ、福島原発の政府事故調査委員会の委員長も務めておられます。

失敗にいかに向き合い、そこから何を学び、次にどう生かしていくか、過去の実例を基に分析結果と対策が平易な文章でまとめられており、実務面で大変参考になります。過去の失敗に学び、前向きな姿勢で徹底的に分析し、それを伝承して、次の大きな失敗を繰り返さない。システム管理に携わる皆様にぜひ一度読んでいただきたい一冊です。

また、危機の大小は別にして、危機にどう向き合うかということも、システム管理に携わる方が直面するテーマです。『石巻災害医療の全記録』という本も、危機管理に携わる方にお勧めしたい本です。著者の石井正氏は、石巻日赤病院の外科部長であり、また宮城県の災害医療コーディネーターでもあります。3月11日の大震災により、最大被災地のひとつである石巻地区は、医療システムの崩壊に瀕しました。しかしながら、石井先生が中心となり、全国各地から集まったのべ3600以上の医療救護チームや自治体、自衛隊、消防機関の人々を一つにまとめ、約7ヶ月にわたり同地区の災害医療活動を支えました。そして多くの被災者の方を救い、感染症の蔓延を防ぎました。この本を読むと、次々と襲う想定外の事態の中で、組織や立場を越えてどのようにチームとしてまとめて、危機に対処していったかが、事実だけが持つ圧倒的な重みと緊迫感と共に迫ってきます。また、石井氏がこの過酷な現場で実践された危機管理の生きたノウハウが、要領よくまとめられています。

実はこのコラムの初稿は、昨年3月11日に一度書き上げていました。そして同日14時46分に東日本大震災が発生し、当たり前だと思ってきたことがどんどん崩れていく中で、事務局にお願いしリレーコラムの掲載を休止していただきました。今回、私自身の約一年間の経験も踏まえて、本コラムの内容を見直しました。東日本大震災や電力不足の経験を踏まえ、我々はシステム管理者の立場から今後懸念されることに備えて、非常時にもシステムの安定的な運用にベストを尽くす必要があります。そのためには、過去のいろいろな失敗に学ぶことが、明日への一歩につながることと確信しています。

NTTコムウェア株式会社 松田 栄一

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筆者紹介

松田 栄一(まつだ えいいち)
NTTコムウェア株式会社
取締役
サービス事業本部 サービスプロバイダ部長

1980年に日本電信電話公社(当時)に入社。
大型汎用機を使ったシステム開発や海外勤務後、1995年からはインターネットに関する新規事業開発や海外事業の立て直しに従事し、一昨年6月から現職。
50歳から、仕事人間を改めるべく、登山や弓道、ゴルフをスタート。今年5月の連休に、陸前高田市の震災復旧ボランティア活動に参加。鹿児島県出身。

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