アジア、世界を牽引しつつある中国の現在や如何に?

第1回 コロナ流行の前後でのIT動向の変化

概要

「スマホ決済」「キャッシュレス」「顔認証」など、近年、中国では、ITが人々の生活に大きな影響を与えています。現金レス(買い物時にスマホ決済、顔認証決済)、交通移動、銀行・病院・役所の手続き、仕事など、ほとんどスマホで済ませており、日常の生活と仕事にとってスマホが切り離せない存在になっています。しかし、便利な面がある一方、スマホへの過度依存にリスクがあり、アプリを使えないと、何もできなくなってしまいます。今回の連載内容では、こういった利用状況などを紹介します。

近年、日本でも報道されていますが、中国では、インターネット技術の進化によって、「スマホ決済」「キャッシュレス」「スマホン認証」「顔認証」が急速に広がり、日々の生活に浸透し、依存度が高くなっています。増えていく電子化の中で、便利性はあるものの、逆に操作の煩わしさ、情報漏洩などが発生しています。今回、こういった社会現象の中で、特に話題になっている「スマホ決済」と「顔認証」について話をします。

目次
スマホ決済
いろいろなシーンで利用されています。
顔認証

スマホ決済

中国のモバイル利用状況ですが、ガラケーの携帯は見なくなり、ほぼスマホ一色に普及しています。最近のスマホは、本来の電話機能以外に豊富な機能が付随していて、生活と仕事の便利な「インフラ」となっています。
生活の面では、インターネット閲覧、ゲーム・動画、WeChatなど会話に利用されています。
仕事の面でも、メール、日程管理、グループチャット、ネットミーティング、勤怠管理、ワークフロー、データ可視化など、幅広く利用されています。

その中で、もっとも広く頻繁に使われているのは、スマホ決済です。中国統計局のデータでは、2022年時点で、買い物時の決済方法として、86%がスマホ決済を選んでいます。今後も増えていくでしょうから、スマホ決済が支払いの主流となりつつあります。
私個人の経験では、役所窓口や郵便局だけは現金が必要ですが、それ以外は、ほぼキャシュレッスでスマホ決済になっています。
この1年間で郵便局に2回出向いてEMSを出す時だけ現金を使いましたが、それ以外は、一度も使った事はありません。日頃、予備のために、100元(2000円)ぐらいの現金を手元に持っているだけですが、ほとんど使う場面が出てこないのです。

スマホ決済が進んできた背景には、日本のようにクレジットカードを使える環境が普及していないことが一番大きな原因ではないかと思います。地方都市に行けば、クレジットカードはほぼ使えず、上海のような大都会でも、大きいスーパー・レストラン以外は使えません。また、現金の場合では、持ち歩きの不便さ、偽札の問題もあります。こういった弊害を解消するために、スマホ決済が進んだのだと思います。そして、スマホ決済には、日々の消費記録、家計簿の機能があり、分析・統計しやすく、家庭の財務管理・可視化もできるという利点があります。

ビジネスチャンスを捉えて、決済サービス提供の業者は増えてきています。
モバイル決済サービス提供の会社は、支付宝(AliPay)、微信支付(WechatPay,)、銀聯支付(UnionPay)、 京東支付(JindongPay)、招商銀行Pay、美団Pay、など、計10社です。
社数は多く、今後も増えるでしょうが、今、主にAlipayとWechatPay、この2つのサービスがスマホ決済のサービスを支えています。

Alipayは2004年に「淘宝」(通販プラットフォーム)の決済手段として始まったものですが、その後のQRコードの普及により、徐々に中国で広がっています。
アリババの発表では、2019年6月時点でAlipayのユーザー数が12億人を超え、そのうち、中国国内では7億人がユーザーで、中国モバイル決済市場1位です。
現在、AliPayはただの決済ツールだけではなく、乗り物の運賃チャージ、信用スコア、運動管理など多くのアプリ機能を追加し、大きなプラットフォームとして、ユーザーとの密着度を増やしています。
WechatPayは「WeChat(微信)」(もともとはチャットツール、2011年開始)の決済ツールとして、2013年に誕生しました。中国国内ユーザー数が6億人で、中国モバイル決済市場2位です。WeChatの利用者数増加に伴って今後も増える見込みです。

AliPayとWechatは、クレジットカードや銀行カードにリンクすれば決済、送金に使えます。送金・振込が必要な際、少額なら手数料が発生しませんので、利用者にとっては便利で経済的です。振り込み手数料無しで、銀行と競合にもなっています。

 

いろいろなシーンで利用されています。

決済:クレジットカード、銀行カード、現金の代わりに、支払い・決済ができます。またバス・電車などの交通機関利用時にQRコードで対応できます。
送金:銀行カードにリンクし、個人間の送金、銀行口座への振込ができます。ただし、毎日の無償送金額20000元(40万円)の上限があり、額を超えた分は、0.1%送金手数料がかかります。
水道代・電気料金・ガス代の支払い:APPに請求通知が来ますので、そこから支払えます。
貯金:Alipayの「余額宝」にチャージしてお金を預ければ、銀行より少し高い利息が付きます。
個人のお金のやり取り:お年玉や、家族・友達間の金銭のやり取り、飲み会の割り勘などもできます。

昨年、コロナ禍で、多くの都市部ではロックダウンが繰り返されました。その期間中は、現金が使えず、ほぼアプリを使って物資を調達したり、決済したりしてきました。
現金・クレジットカード・銀行カードを持ち歩く必要がなく、財布盗難の心配もありません。仮にスマホを無くしても、ログインバスワードなどがバレないかぎり問題ないかと思います。

メリットとしては、現金の持ち歩き、特に出張時の現金を幾ら持つかの計算が不要、お釣りや小銭の処理が必要なくなります。また、会計簿を付けなくても、使った分が記録され、計算しやすいのです。
時々、還元キャンペーンがあり、アプリを使えば安く買うことができます。例えば、本来100元の物をAliPayで支払うと、30%Offの場合もあります。その30%の差額はAlipayから、補助金として店に補填しています。

デメリットは、すべてスマホに集約されますから、スマホの電池が切れたり電波が届かなかったりした際、またスマホ盗難が発生した際はリスクが大きいのです。
一部の店では現金支払いを断ってスマホ決済のみの事象もあり、銀行から指導を受けたりする騒ぎがありました。年配の方、スマホを使いきれていない方は困ります。
また、セキュリティー上の注意が必要であり、スマホの不正利用やデータ漏洩などのリスクに対して十分な対策を取ることが大切です。

 

顔認証

次は、顔認証を説明します。
スマホ決済をするための個人情報登録時に、最初の段階では、個人情報の入力と同時に顔の認証も必要です。これは行政が管理している個人情報に照合するためです。
買い物時の支払いは、店のQRコードを読取って支払う方法、こちらの支払いQRコードを店の機械にタッチする方法、また顔認証で支払う方法があります。顔認証で本人確認を行い、支払いの認証をします。顔認証は電話番号と同じように、AliPayとWechatPayにバンドルされていますので、支払いが可能となっています。
顔認証は、個人の認証(身分証明)にも使われています。
中国の鉄道では、紙の切符は廃止され、バーチャルの電子切符が使われています。身分証明書が切符の代わりになっていて、駅に入る際、身分証明書の読み取りをし、始めて入ることができます。上海の駅では、身分証明書と顔認証の両方でチェックします。身分証明書を認証機械に乗せると同時に、顔認証を行い、2つが一致した場合入場の扉は開きますが、一致しない場合扉は開かず、警報鳴ります。
また、一部のオフィスビルに入るときも顔認証のシステムがあります。事前に受付で手続きを済ませた方だけ、ゲートを通るときに顔認証で通過することができます。会社や施設の出入り口のセキュリティー強化のため、従業員や来客者の顔を認識し、入退室管理を行います。

今後、利便性を維持しながら、また、個人情報保護などを工夫しながら、試行錯誤の先に「スマホ決済」や「顔認証」の応用はますます進化するでしょう。

連載一覧

コメント

筆者紹介

巴音 都仁(バイン トジン)
内モンゴル自治区・オルドス市 出身

学歴
大 学:国立・大連外国語大学日本語学部・観光学科 卒業
大学院:日本亜細亜大学経済学研究科・大学院2年 卒業

職歴
1986年:中国国際旅行社に入社、内モンゴル支社所属、日本人観光客案内のツアーガイド
1994年:ソフトウェア・エージーに入社、企画部所属
2007年:ビーコンIT上海に出向、総経理
2015年:ユニリタ本社営業部に帰任、営業職
2016年:BSP上海に再出向、総経理


<名前について>
モンゴル系で少し変わった名前ですが、地元では4文字5文字の名前が多いのです。

 

<出身地について>
オルドスと言えば、石炭・天然ガス・カシミヤの産地として知られています。
面積8.7万平方キロメートル、人口216万人と人口密度がかなり低いのです
ジンギスカンの陵があり、古くからモンゴル系の人々がよく祭りに来るところです。
産業はエネルギーが多いため、一人当たりのGDPが中国1位(2022年、3.8万米ドル)です。

 

<趣味>
大した趣味はありませんが、読書・水泳・サイクリングが好きです。
毎日仕事帰りに40分くらい水泳をします。
土日も時間があれば、自転車で浦東空港へ往復します。(往復約70キロメートル)

 

<自分が今やっていること>
毎日営業活動が中心ですが、周りの変化が激しいため、お客様の業務を吸収しながら課題解決できるソシューションなどを組合わせて、試行錯誤で市場開拓をしています。

 

<これからやってみたいこと、目指すビジョン>
ビジネスが上海周辺に集中していますが、中国の内陸部へもっと自社製品・ソシューションを広げたいと思います。
また、一日系IT企業として技術力・サービス力・営業力を工夫し、現地の優秀なIT企業に肩を並べられる会社を目指しています。

バックナンバー