アジア、世界を牽引しつつある中国の現在や如何に?

第2回 ITと生活

概要

「スマホ決済」「キャッシュレス」「顔認証」など、近年、中国では、ITが人々の生活に大きな影響を与えています。現金レス(買い物時にスマホ決済、顔認証決済)、交通移動、銀行・病院・役所の手続き、仕事など、ほとんどスマホで済ませており、日常の生活と仕事にとってスマホが切り離せない存在になっています。しかし、便利な面がある一方、スマホへの過度依存にリスクがあり、アプリを使えないと、何もできなくなってしまいます。今回の連載内容では、こういった利用状況などを紹介します。

近年、世界的なAIブームの中で、中国においても政府の推進政策と企業の技術進化で、AIの研究と実用化が進み、各領域へ徐々に拡大しています。ニュースでは、顔認証、自動運転などはよく耳にしますが、それ以外の分野でも、AIは経済・社会・生活に影響しつつあります。今回の連載内容では、こういった社会現象を紹介します。

目次
中国のAIの歴史
AIが増えた背景
さまざまな利用シーン

中国のAIの歴史

まず、中国のAIの歴史について触れてみます。最初は、2014年あたりからコールセンターでAIロボットが導入され、問い合わせなど自動回答機能が使われました。2018年以降、大量データの蓄積、クラウド技術の活用、アルゴリズムの進化でAI利用が拡大し、金融、教育、医療、流通、製造などの領域でAI応用が増えました。さらに、最近では、オープンソースのAI技術活用とクラウド技術の進化で、多くのAI企業に開発環境が提供され、もっと広い領域でAI技術が生まれつつあります。

中国のAI市場規模ですが、データによると、世界のAI市場規模は2018年の713億ドルから、2022年に1,997億ドルに増加し、2023年に2,496億ドルに達すると予想されています。その中で、中国のAI市場規模は2018年の84億ドルから2022年には319億ドルに、2023年には388億ドルに、2027年には1,150億ドルに成長する見通しです。

 

AIが増えた背景

ここまで一気にAIが増えた背景には、主に下記4つの要因があると考えられます。
国が産業推進のため、補助金・税金優遇などの奨励政策で支援しています。
キャピタル資本が豊富に活用されています。Baidu(百度)・テンセント・アリババ、など、自身のAI研究に投資するだけでなく、他社のAI研究にも熱心に投資しています。
 ※Baidu(百度)とは、百度公司が運営する中国最大の検索エンジンです。
技術者・研究者を増やしています。統計上では、200以上の大学にAI関連の教育科目か学部を設けています。
産官学の研究連携で、AI研究成果が増えています。世界知的所有権機関(WIPO)データでは、2022年中国AI特許出願は29,853件、世界的に4割強です。

現状では、AI利用範囲は下記のようなところです。
・顔認識/画像処理:空港、鉄道駅、オフィスビル、銀行窓口、役所窓口、スーパーの買物決済
・小売:スーパーの自動精算、データ分析、入店の顧客層分析、無人店舗など
・カスタマーサービス:コールセンターの自動応答、クレーム処理など
・医療:診断、治療、リハビリ、健康管理、医学知識の提供など
・金融:機械学習とビッグデータ分析に基づく違約リスクの予測、ローン承認の判断
・教育:学習アシスタント、学習管理、オンライン教育、教育訓練など
・音声認識:スマートホーム、音声情報が文字への変換、音声で機械コントロールなど
・知能ロボット:清掃、付き添い会話、医療看護など
・自動運転:百度をはじめ、複数の会社が自動運転車を開発しています。
・機械学習とデータ分析:大量データ分析による予測で、業務決定と最適化方案を特定します。

 

さまざまな利用シーン

上記の利用シーンとは別に、生活の中で私が経験した中国のAI利用事象について説明します。

・コールセンター
銀行、電話会社、製造メーカ、役所など、窓口への問い合わせは、人工回答(人が出て答える)が少なく、ほとんどAIロボットが答えてくれます。どうしても緊急の時だけ人工回答に繋げられます。

・顔認証
スーパーマーケット・コンビニ・鉄道駅・空港・ビルの出入りなどに利用されています。
例えば、スーパーで買い物をする時の決済は、自動決済機械の画面に、QRコード提示と顔認証のどちらにするかを選べます。顔認証の場合は、画面に電話番号を入力して、画面に顔を合わせれば、認証が取れて決済されます。メガネをかけても外しても認証は取れます。
また、店の入り口や売場にカメラが設置され、顔認識で入場者数・男女別・年齢層別などの識別を行ったうえ、顧客分析などをします。

・無人店舗
上海では、数は不明ですが多くあります。私もたびたび使います。コンビニと同じくらいの大きさで品揃いも豊富です。
無人店舗では、入り口で「顔認証」か「QRコード認証」を選択して入り、物を選んでQRコードか顔認証で決済し、最後はQRコード認証で店を出ます。私は数回入店した事がありますが、特に不便を感じた事はありません。普通のコンビニと同じ感覚です。

・自動車教習
自動車免許を取るための教育でAI技術が使われています。自動車免許取得の不正を防ぐために、人を介入せずにAIが使われています。教育の時はAIが指導し、試験の時にもAIが採点し、合格か不合格の判断をします。
練習のプロセスですが、最初はバーチャル車(ゲーム機のような物で大きさは長さ2メール・横1メートルのコックピット)で練習します。この機械では、AIがカリキュラムの内容に沿って人の動きをチェックし、操作指示を出します。カリキュラムをクリアして、バーチャル車の試験を合格してはじめて、実物の車での練習に移ります。そこでも、教官は要領だけを教え、次はAIが指導をしてくれます。助手席の正面にタブレットが設置されており、GPS・車のエンジン・他システムと連動していますから、受講者の操作が正しくなかったり、車がコースから外れたりとかすると、タブレットから、AIの注意音声が流れてきます。
試験の時も同じく、助手席に試験係がいなく、AIが車や受験者の動きをチェックし採点します。AIがプログラム通り動いていますから、融通が利かず結構厳しいのです。
こうして自動車教習は少ない教官で、多くの受講者を教育することができるようになりました。

・「ホテルの品物届け」、「レストランの給仕係」
ホテル宿泊の場合、何かホテルの品物を注文したりする場合、ロボットが届けてくれます。
ロボットの胸のところにBOXがあり、ホテルの係員が品物をその中に入れて指示すれば、ロボットが自動でエレベータに乗って指定フロアーに行きます。部屋の前に着いたら、ロボットから部屋に到着の知らせの電話がかかります。ドアを開けてロボットから注文品を受けとったら、ロボットはそのままホテルのフロントに戻ります。上海や地方のホテルでは、このように多くのロボットを導入しています。
レストランの場合でも、同じくAIロボットを活用しています。テーブルにあるQRコードを読み取って注文したら、ロボットがテープルまで運んできてくれます。最近、ホテルもレストランもこういったAIロボットを活用して、効率化と経費抑制を進めています。

・AI掃除ロボット
AI掃除ロボットは、さまざまなところで使われています。大型掃除ロボットであれば、工場・空港・病院などの広い場所の床掃除ができますが、小型の場合は、家の床掃除に使われています。小型なら、5~6万円ぐらい購入できます。掃除の場所と時間は設定可能です。

・「SPD」+AI
SPDは、院内物流システムという意味です。病院で使用する医療消耗品の在庫・供給などを管理するシステムです。SPD+IoT+AIで、もっと省力化・可視化ができ、コスト削減と将来の需要予測ができます。当社パートナーの中には、中国でSPDソリューションがトップクラスの会社もあります。
※「SPD」は、Supply Processing and Distribution」の略称
手術室や処置室などに、冷蔵庫のような透明ガラスBOXが設置され、中にあらかじめ一定数の医療品が入れてあります。使う時に、必要な分だけ取り出しますが、その際取り出す数を自動にマイナスして在庫管理をします。また裏の倉庫では、大きなダッシュボードに各現場の在庫数字が表示され、それを見ながら適切に補給しています。こうして、医療品の補給が適時・適切にできるようになりました。
さらに、AI技術を使うことで、医療品消耗の大量データを分析し、将来の医療品需要予測ができ、購買と在庫管理の効率化とコスト削減を実現しています。

 

このようにAI技術は、今後もより広い範囲で活用されます。
しかしながら同時に、人間との共存、個人情報の扱い方法などさまざまな問題も出てきます。
今後は、こういった課題も解消していかなければなりません。

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筆者紹介

巴音 都仁(バイン トジン)
内モンゴル自治区・オルドス市 出身

学歴
大 学:国立・大連外国語大学日本語学部・観光学科 卒業
大学院:日本亜細亜大学経済学研究科・大学院2年 卒業

職歴
1986年:中国国際旅行社に入社、内モンゴル支社所属、日本人観光客案内のツアーガイド
1994年:ソフトウェア・エージーに入社、企画部所属
2007年:ビーコンIT上海に出向、総経理
2015年:ユニリタ本社営業部に帰任、営業職
2016年:BSP上海に再出向、総経理


<名前について>
モンゴル系で少し変わった名前ですが、地元では4文字5文字の名前が多いのです。

 

<出身地について>
オルドスと言えば、石炭・天然ガス・カシミヤの産地として知られています。
面積8.7万平方キロメートル、人口216万人と人口密度がかなり低いのです
ジンギスカンの陵があり、古くからモンゴル系の人々がよく祭りに来るところです。
産業はエネルギーが多いため、一人当たりのGDPが中国1位(2022年、3.8万米ドル)です。

 

<趣味>
大した趣味はありませんが、読書・水泳・サイクリングが好きです。
毎日仕事帰りに40分くらい水泳をします。
土日も時間があれば、自転車で浦東空港へ往復します。(往復約70キロメートル)

 

<自分が今やっていること>
毎日営業活動が中心ですが、周りの変化が激しいため、お客様の業務を吸収しながら課題解決できるソシューションなどを組合わせて、試行錯誤で市場開拓をしています。

 

<これからやってみたいこと、目指すビジョン>
ビジネスが上海周辺に集中していますが、中国の内陸部へもっと自社製品・ソシューションを広げたいと思います。
また、一日系IT企業として技術力・サービス力・営業力を工夫し、現地の優秀なIT企業に肩を並べられる会社を目指しています。

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