流通・小売業向けITサービスマネジメント

第3回 DXにおける取り組みについて

概要

最近ではインターネットによる買い物や非接触型ICカードによる電子マネーなどが普及し、ITの活用が大きな利便性の向上をもたらしており、ITサービスが社会基盤として不可欠になってきている。 ここ数年、新型コロナウイルスの感染が拡大される中で、一気にDXが加速しビジネス環境が変化している。 こうした変化に即応しビジネス変革を支えるITに対して期待も高まり、ITサービスに対する信頼性が要求される中で、継続的に品質維持・向上するためにはどのようなことをすればよいか?

皆様はお客様や取引先また社内の人とデジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉を使う時に、お互い会話の焦点があっていますか??まずこの問いかけに対して何を言っているのか?当然だ!と思っている人と会話する時は焦点がずれたりしませんか?笑。DXという言葉を分解すると3つの意味があり、もしかしたらそれぞれ言葉を換えて会話した方が焦点が合いやすい、もしくは相手に伝わりやすいかもしれません。ご存じの通りでしょうが、改めて文字にしますと・・・。
(1) デジタイゼーション
既存のビジネスモデルにデジタル技術を取り入れ業務を効率化すること。
(2) デジタライゼーション
何かをデジタル化することによって業務のやり方が変わり効率化が創出できた。「デジタイゼーション」よりも俯瞰的に見てメリットがあること。
(3) デジタルトランスフォーメーション(DX)
その結果として、競争上の優位性を確立し、社会全体に影響を与えること。
総称してDXという言葉で括られてしまいますが、(1)のことを指して、取り組んでいる!やっている!と言っていることが多いのではないでしょうか。皆様はいつもどこを指してお話していますか?以降、DXについて今更周りの人に聞けず、取り組みが進まない原因。それをどうやって推進したよいか?といった一助になればと思いまとめてみます。

① 経営層の認識と役割
そもそも、あるある話の一例として経営層が部下に対してDXの推進指示をするケースがあります。その指示を受けた部下がどのようにしてよいか、どこから手をつけてよいかわからない。もしくはベンダーに事例を持ってこさせるといった行動をとったり、部下が都合よく解釈し、既存の案件の中から「DXっぽい」案件を選び出し「DXやっています!」と報告してしまうといった言葉遊びをしているケースも耳にします。DXとは何か?DXの定義を知りたいという人もいるが今更ながら聞けずこういった文面を見て理解している人も少なくないと思います。あるある。そうそう。と思って読んでいただければ幸いです。そういった言葉も大切ですが本質を極める為の入口にしかすぎず、入口だけで奥に入ろうとせず、分かった気になっただけでは成果が得られません。理想は誰かから与えてもらうものではなく経営陣自らが描き、率先していかねばなりません。企業での業務効率化には、経営陣がDXの重要性を理解した上でコミットし、会社全体で協力し合うことが円滑な進行に不可欠といえます。またDXの取り組みは成功するまで繰り返し行わなければならないため投資はつきものです。経営陣の支持が得られなければ、資金問題で取り組みが頓挫することにもなりかねません。当然リリース以降のランニング費用についてもです。だから経営陣自らが経営方針を明確にし、自らが先導となりDXの必要性を社内に推進していかねばなりません。
まずは経営陣が、あるべき姿・ありたい姿=理想を明確にする必要があります。
理想は仮説です。現状から仮説に寄せていくための問題を取り除いていく一つの手段としてITを用いて解決していくことがDXの一歩といえるのでしょう。
(図1、参照)

(図1:経営ビジョンの策定)

② DXの目的を明確にする
DXの取り組みは他社より優位な立ち位置を確保し、数ある競合他社の中でエンドユーザーの心をしっかりつかむことが目的といえます。そのためには、あらたなビジネスモデルを作り出すことが必要な場合もあります。その際重要になるのは、ビジョンや経営戦略です。何を実現するためにDXを行うのか。ビジョンや経営戦略により、企業として向かう方向を定めなければ、周りの支持は得られず、DXを実現するための行動ができません。 また一定のゴール、中間時点などを決めて取り組まないとエンドレス活動になります。先ほどの図1で示したようにあるべき姿を示されたとしても部下の方は、今やっているIT化が本当に一歩ずつ理想に近づくのだろうか?と思いながら毎日過ごしているのではないでしょうか。(図2、図3参照)

経済産業省のDXレポートも参考にしてみてください。
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html

(図2:DXの取り組み進捗について)

③ DX推進体制の整備
「新しいビジネスモデルの推進」「システムの刷新」いずれにしても、従来のやり方にこだわっているとDXを成功させるのが難しくなります。既存のやり方に固執せず、新しい人事制度や失敗に対する考え方を見直した教育制度なども必要です。
DXを推進するための体制づくりは「IT部門拡張型」「事業部門拡張型」「専門組織設置型」の3つがあります。正しい役割と権限を頂いた組織なのか?不明ですがおそらく専門部門(専門組織設置型)を作られることが散見されます。デジタルイノベーションを目的とするならば、IT部門の拡張もしくは専門組織の設置が有効ですが、本来その会社の事業を伸ばす為の手段がITであると捉えれば事業部門が主導権を握り、IT部門はそれをサポートする立場で参画していく方が目的達成の近道かもしれません。これも目的ありきの組織構成になります。事業が売上を生むのでIT部門は“縁の下の力持ち“として関わっている場合、事業部門拡張型の中にITが関わる方がうまくいくかもしれません。組織の縦割り化が強い社風の場合は、この辺りも経営陣と一緒に取り組まないと固まってしまうことでしょう
社内に人がいないからといって協力してくれるパートナー会社に声をかけてしまったりしていないでしょうか。今や「内製化」が主流です。なぜかというと事業部門が、事業現場のニーズを発信するからです。売上を生む事業現場の人が主役です。効率化や差別化のアイデアをニーズに変えてIT部門から参画する人と連携し実装していくことがうまくいく秘訣です。協力会社の人で現場を知らない人に任せるには時間がかかってしまいます。さぁここでIT部門のチャンスの出番です。いまや情報システム部門が、ビジネスの最前線から離れてしまっており、基幹業務やシステム基盤に専従するようになっていませんか。ミッションは、「高品質×安定稼働」であり、新しいことは、大きなリスクになるからどうしても慎重になってしまう。「高品質×安定稼働」がデフォルトで、それがどれほど大変なことであっても評価されることはなく、トラブルが起これば直ちに減点評価されてしまう。結果として枯れた「現状」を維持しようとする人が選ばれてしまうとその人、DXプロジェクトにとって辛いものになってしまいます。せっかくのチャンスを生かせるだけのIT技術と情報収集をして準備しておきましょう。

④ よく現状を把握・分析し、評価すること
体制の編成ができたら今度はIT部門の番です。既存のシステムを全体的にチェックし、老朽化・ブラックボックス化したシステムがないか?を再点検してみることが大切です。しかしながら現状について「気づき」がないと次に進めません。与えられた仕事を粛々と疑問に思わず取り組んでいる人には今の仕事を十分頑張ってもらい、それとは別に気づきを感じられる人の人選が望ましいでしょう。そこで見つけた課題が多ければ多いほどやりがいある仕事だと思いましょう。これによって既存のIT資産の改修、維持し続けた場合に必要となるコストの資産ができます。DX実行にあたっては全社にわたってデータを活用するため、データを一元管理する必要があります。あらかじめシステムを廃棄する必要があるか?システム連携がしやすくなるように作り替えていくために、課題を見つけて取り組んでいる姿そのものがもう既にDXの取り組みになります。

➄既存の業務をデジタル技術で効率化
DXの取り組みを行うにあたり、いきなり新しい商品・サービスの開発やビジネスモデルの創出をすることは簡単なことではないです。そこで、既存のビジネスモデルを基に、新しいデジタル技術を課題解決のために利用するところからが一般的です。業務のペーパーレス化など、ムダ・ムリ・ムラをなくすという意味でデジタル化の活用をすることは非常に効果的と思います。最終的には、業務構造全体の見直しを行いますが、その前段階としてデジタル化による業務効率化を行うことは有効です。 まずは組織横断でデジタイゼーションから始める方が実施しているアピールにもなり、今後関係者を巻き込んだ協力を得る際にも有効と思います。

⑥デジタル化で既存業務を拡張・高度化
既存業務の「幅をひろげる」「高度化する」に関しても、デジタル化は有効です。これは従来の組織構造のままではDXの実現が難しい部分が出てくると予想できるため、人材の配置換えなど組織を変革することで業務の拡張や高度化を実現していく一歩になるからです。デジタル化に沿ったワークフローの構築を行うことは、DXに取り組むうえで最初の一歩になる重要な部分です。デジタル化も1度目よりは2度目というように回数を重ね業務負担を軽減できるようになるでしょう。
これもまた試行錯誤です。こうやって推進していることをレベル測定してみるとよいかもしれません。
参考)経済産業省 DX推進指標
https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-3.pdf

ここまで経済産業省ページなども参照しながら今更聞けないDXについておさらいをしてきましたが、皆様の取り組み進捗はいかがでしょうか。なかなかDXの言葉の真なる改革まで取り組まれている企業は少ないような気がします。とはいってもはじめの一歩として、デジタルに置き換えることこそがとても大切です。

(図3:DXの取り組み進捗について)

次回は、今の時代におけるIT人材の必要なスキルについてお話したいと思います。

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筆者紹介

天野 孝 (アマノ タカシ)
株式会社ヴィンクス 営業本部 部長
1992年 株式会社ダイエー入社と同時に情報システム子会社に出向。

ネットワーク管理業務を経てネットワークSEとして大手顧客、及び新規顧客向けインフラ提案・構築に従事。
2009年 某社様の基幹システム全面刷新時インフラPM。構築完了後そのシステム保守・運用に関するプロセスを整備し、運用フェーズの品質を管理するITサービスマネジメントに従事。
2012年 ITサービスソリューション部にてITサービスにおけるインフラ・運用人材の育成やITサービスに関わる新規事業戦略策定に従事。

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