システム管理における人材育成

第3回 システム管理における人材育成 チームリーダーのリーダーシップ

概要

システム管理における人材育成を、チームリーダーの役割、リーダーシップの視点、組織とコンピテンシーの関係から12回に渡って連載レポート。

前回は、チームリーダーのリーダーシップを「どのように」開発していったらよいのかの糸口として、習得・学習のレベルで、1.知識レベル 2.スキルレベル 3.心的態度レベル までを検討してきました。今回は最後の4.感受性レベルについて検討したいと思います
 
感受性とは、最近よくテレビでお笑い芸人等が「空気を読め」というフレーズを使っているのを耳にしますが、期待されていることを、一々言われなくても感じ取れる能力のことです。背景となっているさまざまなこと、特にその場にいる一人一人の気持ちを感じ取れる能力がリーダーシップの発揮には大切です。
感受性が働かない原因の一つに、周囲に対して関心がないことがあげられます。例えば技術に関しては面白くて関心があり、放っておいても集中して取組むのに、人に対しては関心がない人もいます。
この人たちには、人とかかわることは面白いことだ、重要なことだという「気づき」を持ってもらうしかありません。その上で周囲に関心を向けることを習慣化していけばよいと思います。また関心が自分を守ることだけに向いてしまって、周囲に向けられないということもあります。心理学では、防衛機制と呼んでいますが、「自分(に対するイメージ)を守る」ために、自分を傷つける嫌な気持ち、感情を無意識のまま押さえつけたり、ねじ曲げたりして意識にのぼらないようにする心の自然な働きです。無意識には周囲を感じて分かっているのに、それを意識しないようにしているのです。防衛機制は、自然な働きですので悪いわけではありませんが、過剰な防衛はリーダーシップの開発には邪魔になります。これをコントロールするには、今、防衛機制が働いているのだということが意識できることが望ましく、それによって解決の糸口が見えてきます。
もう一つの原因は、状況理解が周囲と食い違っている場合です。人間は周囲から与えられるさまざまなデータを解釈して状況を理解するわけですが、このデータ解釈が浅かったり、間違っていたりする場合です。簡単な例でいえば、リーダーがメンバーに対して「のっている?」と声をかけたとき、その相手が「私は今のっていますよ」と椅子にだらしなくよりかかりながら言ったとします。耳からのデータと目からのデータをつき合わせて、その状況や相手の気持ちを解釈する訳です。2つのデータをそれぞれ通常とおり解釈すると矛盾してしまうので、体の動きからの情報を主として「今、私はだらけています」と解釈した上で、言葉に対しては通常の解釈ではなく、体の動きからの「今、私はだらけています」に統合させて、「だらけているけど、それを言うと面倒だから、その話題にはのりませんよ、今の私にこれ以上かかわらないでください。疲れているんだから。」というメッセージとして受け止めるでしょう。そこで「のっているけど疲れていそうだな、仕事で何か行き詰っていないか」とかかわっていくリーダーもいるでしょう。また、「その態度はなんだ、もっと毅然としろ」と活を入れるリーダーもいるでしょう。いずれにせよ何らかの問題の兆候として捉えると思います。
しかし人によっては「そうかのっているか、それならいい」と相手の体からの情報を解釈できずに、言葉をそのまま解釈して、問題の兆候を見逃してしまう人もいるでしょう。
 
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このような状況判断や、心情理解はかなり高度なスキルです。このスキル習得にはマニュアルは使えません。その人の感性も関係してきます。しかしある程度までは習得できるスキルです。それは、自分の解釈と周囲の解釈とをつき合わせて、点検することです。もっとも効果的なのは、ケース討議です。同じケースを読んでも解釈はさまざまです。それを出し合い一つ一つ検討していきます。自分の解釈が誰からも支持されなかったとしたら、感受性が鈍っている可能性が高いと受け止めてください。ケース討議などの討議の場面では、ケースの内容からよりも、メンバー同士のやりとりによって学習できるでしょう。自分で気づくだけではなく、人から指摘を受けることができるからです。 気づかないから感受性が鈍いというわけですから、感受性が鈍いことに気づくというのは、あまり望めないかもしれません。そこで、気づいていないことを他から指摘(フィードバック)してもらう必要があります。フィードバックというのは、自分を知る方法の一つです。宇宙を飛ぶロケットが自分だけでは、自分が目指している目標に向かっているか分かりません。地上の基地がロケットの位置を測定し、その位置や速度に関する情報をロケットに送り返します。それがフィードバックです。ロケットはその情報によって、予定している軌道上にいるか、ずれているかを知り、軌道修正の手だてをとることができるのです。このようにフィードバックは叱責ではありません。情報提供です。また一方的に与える側、受ける側を固定すべきものでもありません。相互に相手に対して感じたことを、できるだけその場で相手に伝えることです。感受性を磨くには、このようなフィードバックが効果的です。慣れるまでは、研修などリスクの少ない場で行い、慣れてきたら日常の仕事の場で行うようにすればよいと思います。あせらずじっくりフィードバックできる環境を作っていくことが大切です。
 
次回は、今回、前回で探ったリーダーシップ開発をどのように進めるかの糸口をもとに、Off-JT(集合形式の研修)の場で実際どのようにリーダーシップを開発するかを検討していきたいと思います。

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筆者紹介

株式会社 ビジネスコンサルタント
総研部長 岩澤誠

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