システム管理における人材育成

第5回 システム管理における人材育成 チームリーダーのリーダーシップ

概要

システム管理における人材育成を、チームリーダーの役割、リーダーシップの視点、組織とコンピテンシーの関係から12回に渡って連載レポート。

今回と次回は、リーダーの役割の一つであるチーム作りについて検討していきます。
 
「チーム作り」とは、チームの活動を効果的に進められるように、運営上の決め事や人間関係、職場の雰囲気などを創り上げ、改善していくことです。
「チーム」とは、何か共通の目的を達成するための集団です。チーム活動は、この目的達成へのかかわり方の違いにより幾つかの活動分野に分けることができます。まず、目的を達成するためにしなければならない課題や業務を設定し、課題や業務の目標や計画、進め方を決め、計画書や手順書、マニュアルを作るなど、直接的に目的に関わる活動があります。この設定された課題や業務を、チームの各メンバーが分担し、協力体制をどうするかなどを取決めることになります。このように役割分担を決めるとか、協力体制などさまざまな取決めを設定するという活動もあります。メンバーには担当した仕事を行える知識、能力、意欲がなければなりません。必要に応じて、教育や話し合いが行われます。また、各メンバーが効果的に仕事を進めるためのマネジメント、組織(職場)の文化、雰囲気、人間関係などを醸成していくことになります。
「チーム活動」とはこのような事柄を進めることです。このような事柄をうまくやっていくためのチーム作りですから、「チーム作りはこの手法一つでOK」というような便利な手法はありませんが、今回は、職場の問題解決をステップに従って進めていく手法を紹介していきたいと思います。(他にチームの人間関係の改善、メンバーの行動様式上の悪いクセを改善するなどに対する手法については、次回紹介いたします。)
 
どの職場にも必ず何かの問題がありますが、「問題」としてあるわけではなく、現象があるだけです。チームの問題解決は、この現象を見て問題を発見するところから始まります。ですから、第1ステップは、「問題発見のための職場診断」です。チーム活動で述べたように、
 
    • 仕事自体に関すること
    • 仕事をやっていくための決め事に関すること
    • 仕事をやっていく分担とメンバーの能力に関すること
    • 仕事をやっていく雰囲気や人間関係に関すること
について、「職場でうまくいっていること、うまくいっていないことは何か?やってみたいことはなにか、それをやる上で障害になることはなにか?」を見極めることから始めます。
直感で、これだなと分かるリーダーもいると思いますが、この段階から、メンバーと一緒にやっていくことがチーム作りになります。ちょっとした時間でミーティングを行い、上の各項目について話し合いをしてみてください。ここで各メンバーのいろいろな思いを共有化することが大切です。このような話し合いは、チームに「職場のことについて建設的な意見を言う」という雰囲気を作る効果もあります。
留意点としては、必ずうまくいっていることも出してもらうことです。崩壊寸前の職場以外、うまくいっていることは必ずあります。出にくかったら少々時間を取るか、日を改めてもう一度ミーティングをするとか、うまくいっていることを出してみてください。うまくいっていることを更に良くするための改善も効果的です。うまくいっていないことだけを出そうとすると、チームの雰囲気は重くなり、防衛的になり、発言は大きく減少してしまいます。
次に第2ステップとして、うまくいっていること、うまくいっていないこと両方含めて検討し、「当面の問題を絞り込み設定」します。容易に手の打てそうな問題から始めるのがよいでしょう。
問題とは、現状と希望する姿(あるべき姿)のギャップであり、問題解決は、そのギャップを埋めることです。チーム作りとして大切なのは、この現状と希望する姿を明確にすることです。いきなり対策を考えるではなく、今どのような状態で、どのような状態になったらいいかをみんなで話し合い明確に記述していきます。この段階でメンバーの納得が得られれば、おおむね成功したと言えるくらいに大切な段階です。
 
後は第3ステップとして、「ギャップを埋めるための方策」を考えていきます。ここで2つの考え方があります。一つは、原因を追究し、その原因をつぶすという考え方で、技術的な問題に対しては、この考え方で進めていくことになります。もう一つは、力の場の考え方で、職場など人間集団の問題については非常に効果的な考え方です。これは、現状を希望する姿に変革しようとするとき、現状を押さえつけ希望する姿になることを規制、邪魔する力がいくつか働いています。同様に、現状を希望する姿に向けて推進し支援する力もいくつか働いています。この2方向の力が釣り合って現状が凍りついてしまっている、と考えます。ですから現状を希望する姿に変革するには、先ず、凍りついた現状を溶かすことから始めます。そのためには、現状に働いている色々な力を変化させる必要があります。ある規制力を取り上げ減少させる手立てを打つ、ある推進力を増大させる手立てを打つなどを実施していくことになります。凍結が溶け、変革し、希望する姿になったら、その状態で再凍結します。この考え方は、クルト・レビンによるものですが、レビンは推進力を増大させる手立てより、規制力を減少させる手立ての方が、望ましいと言っています。例えば、「ミーティングが生産的でない」という現状に対して、希望する姿が、「みんなが発言し、刺激のある楽しいミーティングが行われている」と設定したとします。規制力は、「発言しても無視されるのではないかという恐れがある」「大勢なので緊張してしまう」、推進力としては、「会社からミーティングをしっかり実施するよう指導されている」、「みんなが楽しいミーティングを望んでいる」などが挙げられたとします。この状況で、推進力である会社からの指導を強化しようと「ミーティング記録を充実する」ように指導を強化すると、書類が増えるなど「記録を書くのが面倒だ」という新たな規制力が出現してしまい、結果として緊張状態が強まるだけで希望する姿には到達しないことが考えられます。ですから規制力に焦点を当てた方策を実施するのが望ましいと言うわけです。そこでミーティングの運営を「全員で話す」だけでなく、3人組の小グループに分けて話したり、大勢で話したりを組み合わせて進めることで、規制力「大勢なので緊張してしまう」を減少する方策を実施するのがいいというわけです。
 
次のステップは、この改善の方策を実現するための「具体的活動計画を作る」ことになります。やるべきことを決め、役割分担し、スケジュールを決めます。このステップでのポイントは、全員の合意(コンセンサス)で決めていくことです。計画策定に参画していない人がいると、またやらされている、また仕事が増えたなどと、ネガティブな心理的抵抗を引き起こしてしまいます。決めたことを実行に移すミーティングでは、コンセンサス方式で決めることが望ましいのはそのためです。コンセンサスは、初めは全員が納得するまでに時間が掛かることを覚悟しなければなりません。一人でも賛成でない人がいる間、討議は続けられます。慣れるまでは時間的に余裕のある問題を扱う必要があるでしょう。(慣れれば、多数決とそう変わらない時間で決めることができるようになります。) そして、取引や安易な妥協を極力避け、リーダーはメンバーの発言を誘うなど、全員が意見をオープンに発言できる雰囲気を作ることです。
 
最後のステップは、「具体的活動計画の実施、フォロー」です。特に大切なのが、終わったときの振り返りです。前回述べた体験学習と同じで、振り返りにより各メンバーの成長が確実なものとなっていきます。
 
以上が、職場の問題解決をしながらチーム作りを行っていく基本的な流れです。
問題がはっきりしているときは、現状と希望する姿を明確にするステップから始めて構いません。職場状況に応じて柔軟に適応してみてください。
 
次回は、チームの人間関係の改善、チームメンバーの行動様式上の悪いクセを改善する手法について紹介していきたいと思います。

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筆者紹介

株式会社 ビジネスコンサルタント
総研部長 岩澤誠

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