システム管理における人材育成

システム管理における人材育成 コンピテンシー・組織状況とリーダーシップ(4)

概要

システム管理における人材育成を、チームリーダーの役割、リーダーシップの視点、組織とコンピテンシーの関係から12回に渡って連載レポート。

今回は、主だったコンピテンシー項目に対する向上策について検討してみたいと思います。
 
前回もある会社のコンピテンシー、①安定性、②概念化能力、③行動力、④自己統制、⑤柔軟性、⑥状況感受性、⑦対人関係能力、⑧目標指向を例としてお話しましたが、今回もこの会社の例でいくつかを取り上げたいと思います。各項目の説明は本コラムの8回目(2006年12月)をご覧ください。順序はバラバラです。御容赦ください。
 
概念化能力については、頭の良さに関係しますので、知能指数による測定が出来るかのように思われますが、これはあまり当てになりません。知能指数は、測定項目の中に、記憶力や計算力が含まれており、これらの項目は概念化能力とは関係ありません。言語能力や、推理力などは多少影響すると思われます。一言でいうとモデル化する能力、文章を書く能力ですから変えられないと思われている知能指数を上げようと思わなくていいのです。基礎的な事項を押えながら「自分の頭でしっかり考え抜いた経験量」に比例します。考え付くまでは産みの苦しみもありますが我慢しなければなりません。そして何度か、自分のモデル作りに成功する経験を積み重ねることです。職場でやるには、あることがらの報告書を書いてもらうことが、効果あるようです。ただ概念化能力のある人がチェック、添削する必要があります。そのような経験を積んでいくと、そのうち他者の書いた報告書をみると概念化能力の優れた人か、そうでもない人かが分かってきます。研修では、良くケースを用います。ケースに書かれた内容から何を論じなければならないかを判断することから討議は始まります。いきなり解決策を作らせることでなく、自分が現象をどのように捉えるか、その中で肝心なこととしてどのように捉える傾向があるか、集団で討議するなかで自分の傾向に気づいていくことが学習になります。
 
対人関係能力の向上には、練習・経験が大切です。身に付いたスキルが要求されるわけです。ですからプレゼンや発表の場を多く持つとか、ミーティングや会議で大いに発信、受信を繰り返すことです。しかしただ闇雲に経験しても成長しません。コミュニケーションの理論を勉強することで整理しながら経験をすることが大切です。それと本人が対人関係能力の向上を意識しながら(とくに対人関係能力の基本というべき共感的理解を意識しながら)経験をつむことが大切です。また職場では、上司や同僚から本人の対人関係行動の効果性の良し悪しについて指摘(フィードバック)を受けながら進めることも大切です。(フィードバックについては第3回に解説してあります) このような経験の積み方を身につけるための研修や、フィードバックのできる職場の雰囲気を作るための研修が大いに効果があると思います。
 
行動力の向上は、第8回に申し上げたように状況を判断して自分の出番を感じることと、必要に応じてこだわりなく柔軟に行動できることを習得すればよいことになります。ですから柔軟性と一緒に向上させることを目指します。自分の考え方や行動にこだわっていることが柔軟性を損なっている主な原因である人が多い。そしてやってみもしないで、出来ない又はやらない理由を考えてしまうようです。研修会のようなリスクの少ない場で、今までやらないようにしてきたことに挑戦してみること(研修の内容、進め方にもよりますが、討議や実習のある研修でしたら、「誰よりも先に意見を言う」とか、「人の話しを最後までじっくり聞く」とか、普段出来ないと感じていることを自分なりの目標として設定し、試みることで、やれる自分を認識する。このようにしながら次第に守備範囲広げていけば良いと思います。風船も買ったばかりの新しいものは膨らませるのに骨を折りますが、一度膨らませておけば風船は簡単に膨らませることができるのと同じです。大切なのはどの行動にこだわりをもっているか認識すること、適切な挑戦目標を設定し、適切な場で試みていくことです。
 
目標指向は、目標の捕らえ方をしっかりすることでしょう。職場や業務上の目標と、自分なりの目標とが上手くリンクできれば、諦めずにやり抜くことができると思います。問題は自分なりの目標が見当たらないような人の場合です。これは何とも難しいことになります。アメリカのコンサルタント リチャード チャンは、「パッションプラン」(日本語版 春秋社)のなかで、自分の心を見つめ、自分のパッションを発見することから始まると言っています。本人の将来の夢について話したり、尊敬する人、成りたいと思う人を聴いたり、最も楽しいこと、夢中になれることなどについて色々話してみるうちに、自分のパッションを発見することが出来るでしょう。その後ステップを追って、パッションを実現する目的、そのための行動を明確にし、職場や業務上の目標と、自分の行動とをリンクし、実行しながら成功を積み重ね、維持していくことによって、目標指向は高まってくるでしょう。リチャード チャンの「パッションプラン」(日本語版 春秋社)は、いろいろな人の事例をひいて、素晴らしい人生に向かって邁進していく考え方とステップを紹介した本です。是非一度読んでみてください。心がうきうきしてくると思います。
 
安定性自体を高めることは難しいようです。経営者の中には、修羅場を経験することが経営者にとって大切だと言う方もいらっしゃいますが、修羅場を求めることには危険も伴い、教育という観点からは無理でしょう。そこで安定性を失うきっかけとして何があるか、また安定性を失ったとき自分がどのようになるか、についての理解をしておくことにより、不安定を未然に防いだり、不安定になってしまったときにも、効果的行動が取れたりする可能性が高まります。教育という観点からは、この積み重ねにより安定性が高まるのを待つしかないのではないでしょうか。
 
自己統制も、成功体験の積み重ねが効果あります。10年まえ禁酒ができなかった私は、自己統制には自信がありませんでした。しかし飲みすぎで肝臓を壊し、禁酒をしました。禁酒が続けられる自分を見て、自己統制に自信が持てるようになってきました。このような体験から自己統制を高めるには、やれる自分を発見することに尽きる気がしています。
 
状況感受性は、その意識を持って状況を見ることです。対人感受性は状況感受性の一部と考えられますが、非常に大きな割合を占めたものです。先ず相手の気持ちを受け止める、共感的理解をしようとすることが、状況感受性を高めるために役に立つと思います。感受性を高める目的で行う研修については第4回で既にお話しました。
 
以上、私として効果的で納得性のある方法を紹介したつもりですが、他にもいろいろな方法があると思います。現実の一人一人のリーダーに対して本人を交えて検討、具体化し、実施、振り返りを継続していくことが大切であると思います。
 
次回はコンピテンシーのまとめです。

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筆者紹介

株式会社 ビジネスコンサルタント
総研部長 岩澤誠

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