幸福度を向上させるサービスマネジメント ~ISO/IEC 20000-1:2018 の国際規格について~

第十九回 ISO 20000-1:2018で進化!「価値の共創」を実現する サービスポートフォリオの力

概要

これからのサービスマネジメントは、企業価値を確実に高めるものでなくてはなりません。そのためには顧客価値や社会価値の創造が必要であり、これには企業や組織のパーパス、その組織に集う個人の「パーパス」そのものが問われているのです。企業が社会にその存在を認められ、その企業に集う一人ひとりの存在意義や参画意識を高めることこそ、幸福度の向上につながります。既存のビジネスにとっても、DX をはじめとしたビジネスイノベーションにも 「変革」 は必要ですが、この実現には組織や個人のカルチャーを「変化したい」という方向にチェンジした行動変容のマインドとサービスの最適化のためのフレームワーク=サービスマネジメントシステムが重要です。まさに「価値の提供」 から 「価値の共創(co-creation)」 へ進化したサービスマネジメント国際規格(ISO/IEC20000-1:2018)をご説明します。

 今回は幸福度を向上させるサービスマネジメント=ISO/IEC20000-1:2018の箇条8運用における8.2項のポートフォリオについて確認していきます。サービスマネジメントシステムの箇条8 SMSの運用は、図1のとおり、運用の中でも顧客向けサービスの提供に関する重要な箇条となります。


図1.ISO/IEC20000-1:2018の箇条構成

目次
1,箇条8.2 サービスポートフォリオとは
2.箇条8.2 サービスポートフォリオを構成する下位条項の求めているもの
3.箇条8.2 サービスポートフォリオを構成する下位条項の活動をわかりやすく説明すると
4.まとめ

1,箇条8.2 サービスポートフォリオとは

 幸福度を向上させるサービスマネジメント=ISO/IEC 20000-1:2018の箇条8.2「サービスポートフォリオ」は、組織が提供するすべてのサービスのライフサイクルを効果的に管理することを求めています。具体的には、計画中のサービス、開発中のサービス、現在提供中のサービス、そして廃止予定のサービスに至るまで、すべてのサービスを一貫して管理する仕組みを持つことを求めています。この要求を満たすことで、組織は事業目標に合致した適切なサービスを適切な組み合わせで提供できるようになります。このための具体的な活動として、サービス提供にかかわる外部供給者や内部供給者を適切に管理し、サービスの内容を正確に記載したサービスカタログを作成・維持すること、さらにサービスの提供に必要なIT資産や構成情報を把握し管理することが含まれます。つまり、組織が提供するサービスの全体像を可視化し、計画から提供、そして終了に至るまで、すべての段階で管理が行き届いている状態を作り出すことが求められます。この要求を適用するためには、まず、サービス提供に関わるすべてのステークホルダー、例えば顧客、外部・内部の供給者(社内の関連部署など)を明確にし、それぞれの役割と責任を定めます。次に現在提供しているサービスだけでなく、将来的に提供を検討しているサービス、開発中のサービス、そして終了を予定しているサービスも含めて、すべてのサービスを洗い出し、サービスポートフォリオとして一覧にまとめます。この際、各サービスがどのようなビジネス価値を提供し、どのようなリソースを必要とするのかを明確にすることが重要です。このポートフォリオ情報に基づき、顧客に提供するサービスの具体的な内容、利用条件、提供に関するサービスレベルなどを正確に記載したサービスカタログを作成し、常に最新の状態を保ちます。さらにサービスの提供に不可欠なIT機器やソフトウェア、ライセンスなどの資産を特定し、その導入から廃棄までの全ライフサイクルを通じて適切に管理します。加えて、サービスを構成する部品や設定情報(構成アイテム)とその関係性を明確にし、構成管理システムで記録・管理することで、変更が生じた際の影響範囲を正確に把握できるようにします。これらの活動はサービスのライフサイクル全体を計画的に管理し、提供するサービスの品質と価値を継続的に改善していくための基盤となります。例えば、新しいサービスを開発する際には、サービスの設計・移行プロセスを明確にしてサービスポートフォリオに追加します。既存サービスを見直す際は、ポートフォリオ内の情報を活用して、サービスのビジネス価値や収益性を評価し、継続か廃止かを判断することができます。そしてサービスの廃止が決まった場合は、顧客への影響を最小限に抑えながら、計画的にポートフォリオから削除するプロセスを実施します。これらの活動を継続的に行うことで、組織は変化する事業環境や顧客のニーズに対応しながら、提供するサービスを最適化できるのです。

 

2.箇条8.2 サービスポートフォリオを構成する下位条項の求めているもの


図2.箇条8.2 サービスポートフォリオの条項群

 ISO/IEC20000-1:2018 サービスマネジメントシステムの箇条8の運用、そのなかの箇条8.2 サービスポートフォリオには、図2のとおり、6つの下位条項が存在し、それらを列挙します。
8.2.1 サービスの提供
8.2.2 サービスの計画
8.2.3 サービスのライフサイクルに関与する関係者の管理
8.2.4 サービスカタログ管理
8.2.5 資産管理
8.2.6 構成管理
となります。
それぞれの下位条項が何を求めているのか、確認してまいりましょう。

(1) 8.2.1 サービスの提供
 ISO/IEC 20000-1:2018の箇条8.2.1では、組織が顧客の要求や期待に応えるサービスを合意された内容と品質で提供することを求めています。これにはサービスレベル合意書(SLA)やその他の関連する合意事項が確実に存在し、その内容が守られているかを確認する仕組みが必要です。またサービスの提供を妨げる可能性のあるリスクや課題を特定し、管理することも含まれます。この要求を満たすための活動として、まず顧客との間でサービス内容や品質、提供時間などを明確に合意し、SLA(Service Level Agreement)、あるいはSLO(Service Level Objective)として文書化します。次にそのSLAあるいはSLOで定められたサービスを滞りなく提供するための手順を確立し、実行します。顧客からの問い合わせやリクエストには、タイムリーかつ適切な対応を確保します。さらにサービス提供状況を監視し、もし問題が発生した場合は、速やかに対応・解決するためのプロセスを設けると良いと思います。これらの活動を通じて、顧客が満足できるサービスの提供を持続的に行うことが求められます。

(2) 8.2.2 サービスの計画
 箇条8.2.2では、新しいサービスを開発したり、既存のサービスを変更したりする際に、その計画を効果的に立てることを要求しています。これはサービスが組織のビジネス目標に合致し、顧客の期待に応えられるようにするために重要なのです。この要求を適用するための活動としては、まず新サービスのアイデアや既存サービスの変更案を検討する段階で、そのサービスのビジネス上の価値、必要なリソース、提供する際のリスク、そして提供方法などを詳細に分析しておきましょう。その上で、新サービスの開発や既存サービスの変更に必要な一連のステップ、例えば、設計、移行、テスト、そして提供開始までの計画を策定します。この計画には、必要な予算や人員、技術的な要件などが含まれ、関連するすべての関係者と連携しながら進めることが必要です。また、計画段階で顧客や関係者からのフィードバックを収集し、サービスの内容を改善していくことも重要な活動となります。これらの活動を通じて、サービスのライフサイクルの初期段階から、サービスが成功するための土台を築き、最終的に顧客へ価値あるサービスを提供できるようにします。

(3) 8.2.3 サービスのライフサイクルに関与する関係者の管理
 箇条8.2.3は、サービスのライフサイクル全体に関わる、顧客、外部と内部の供給者、そして組織内の各部門などのすべての関係者を効果的に管理することを求めています。特に複数の外部供給者がサービス提供に関わる場合、すべての関係者が一貫したサービス品質を維持できるように調整することが重要です。この求めを満たすためには、まずサービスに関わるすべての関係者を明確に特定し、それぞれの役割、責任、および期待される貢献を定義します。外部供給者が再委託先を選定する際には、その能力や信頼性を評価するための明確な基準を設定し、合意事項を契約書に明記しておくと安心です。また、関係者間のコミュニケーションを円滑にするための仕組みを構築し、サービス提供の状況、問題、改善点などを定期的に共有します。例えば、サービスレポートなどによる定期的なミーティングやレビューを通じて、関係者間の協調を促し、問題の未然防止を心がけましょう。これによりサービス提供の全体的な品質と効率が向上することで、最終的に顧客のビジネスに貢献し、顧客満足度の向上につながります。

(4) 8.2.4 サービスカタログ管理
 箇条8.2.4では、顧客が利用できるサービスの選択肢を明確にし、その内容を正確に伝えるためのサービスカタログを適切に管理することを求めています。サービスカタログは、顧客にとってのサービスの窓口であり、提供されるサービスの範囲や詳細情報などを明確に記載する必要があります。この求めを適用するための活動として、まず提供可能なすべてのサービスをリストアップし、それぞれのサービスについて、その目的、利用できる顧客、提供される機能、SLA(SLO)、費用などの情報を整理します。次にこの情報を分かりやすい形でサービスカタログにまとめ、顧客に提供します。このためサービスカタログの情報は、常に最新の状態に保つことが重要であり、新しいサービスが追加されたり、既存のサービスが変更されたり、廃止されたりした際には、速やかに更新を行います。また顧客と直接やり取りする部門があった場合には、カタログ外のサービスを勝手に約束しないように、カタログの利用ルールを明確化し、関係者への周知を図り、組織内に徹底します。これにより顧客は自分が利用できるサービスを正確に把握でき、組織は提供するサービスの範囲を明確に管理できます。

(5)8.2.5 資産管理
 箇条8.2.5は、サービスを提供するために必要なIT資産(ハードウェア、ソフトウェア、ライセンスなど)を効率的かつ効果的に管理することを求めています。資産管理はサービスの安定的な提供を支える基盤であり、資産のライフサイクル全体を通じて、資産を把握し、維持管理する仕組みが必要です。この要求を満たすための活動として、まずサービス提供に不可欠なすべての資産を特定し、資産台帳なるものを作成することが必要です。この台帳には、資産の所有者、所在地、取得日、保有/利用の区別やリースや保守契約の情報、廃棄日などの詳細を記録します。次に資産の取得、使用、保守、廃棄といった一連のプロセスを確立し、資産が適切に管理されていることを確認します。例えば、ライセンスの期限切れや保守契約の更新時期を管理し、サービスに影響が出る前に対応できるようにします。また物理的な資産の所在を追跡し、紛失や盗難を防ぐための対策も講じることが求められます。これらの活動を通じて、資産の無駄なコストを削減し、資産がサービスの要求を満たしている状態を維持することで、サービスの信頼性を高めることにつながります。

 (6) 8.2.6 構成管理
箇条8.2.6では、サービスを構成する個々の要素(構成アイテム)とそれらの関係性を明確に把握し、管理することを求めています。この管理には構成管理データベース(CMDB)を用いることが多いと思います。サービスに影響を与える変更が発生した際に、その影響範囲を正確に特定するために利用できるので便利です。この要求を適用するための活動として、まずサービスを構成する主要な要素(サーバー、ネットワーク機器、アプリケーション、ドキュメントなど)を構成アイテムとして定義します。次にこれらの構成アイテム間の論理的な関連性を特定し、CMDBに記録します。例えば、あるサーバーで動いているアプリケーション、そのアプリケーションが使用するデータベース、そしてそのデータベースが接続されているネットワーク機器といった関係性を記録していくわけです。また構成アイテムに対する変更は、必ず変更管理プロセスを通じて実行して、CMDBの情報は常に最新の状態に保たれるように意識して対応します。これにより問題が発生した際に、関連する構成アイテムを迅速に特定して原因究明を効率化したり、変更作業が予期せぬサービス停止を引き起こさないように影響を事前に評価したりすることが可能になります。ここまでくるとかなりハードルが高くなりますが、構成アイテムの範囲を絞るなど、スモールスタートしながら、ステップアップすることが良いと思います。

 

3.箇条8.2 サービスポートフォリオを構成する下位条項の活動をわかりやすく説明すると

(1) 8.2.1 サービスの提供における活動のポイント
 この活動のポイントは、組織が提供するサービスを計画的に、かつ計画とおりに提供し、管理する仕組みをきちんと動かしましょう、ということです。具体的には組織が現時点でどんなサービスを提供しているか、これからどんなサービスを始めるか、あるいは、停止・廃止するかをすべて把握し、全体のバランスをよく考えて管理するものです。この管理の仕組みを冒頭で述べたとおり「サービスポートフォリオ」と呼んでいるわけですが、顧客に対して一番良いサービスを提供するための方向性を導くものとなります。
この仕組みを回すためには、以下のことを行う必要があります。まず、新しく始めるサービスや現在提供しているサービス、将来的になくなるサービスなどをすべてリストアップして、全体像をはっきりとさせましょう。次にそれぞれのサービスについて、提供するために必要な人や物をきちんと揃え、連携がうまくいくように調整します。提供するサービスの詳細内容や費用などをカタログとしてまとめ、顧客に分かりやすく連携します。また、サービスを提供するために使っているシステムやインフラといった組織の財産をきちんと管理することも大切です。さらに、サービスに関わる各部署や担当者、顧客など、関係者全員がスムーズに連携できるように、連絡や調整をしっかり行います。こうすることで、サービスが生まれてから終わるまで、全体を滞りなく管理することができ、顧客に満足してもらえるサービスを安定して提供できるようになります。

(2) 8.2.2 サービスの計画における活動のポイント
 私たちが顧客のビジネスのために、新しいサービスを始めるとき、今あるサービスを変えるとき、あるいはやめるときには、まず「顧客が何を求めているか」「会社としてどうなりたいか」「顧客に対する向き合い方」をしっかりと把握し、それを満たすための具体的な計画を立て、記録に残すことが大切です。これは顧客や会社の関係者、そして会社自身のニーズを丁寧に聞き取り、話し合い、何が一番大切かを決める重要な作業です。また、会社や組織には複数のサービスがありますので、それぞれのサービスが互いにどんな関係性にあるのか、あるいは同じような内容で重なってしまっていないかを確認し、無駄がないように整理する必要があります。もし、今提供しているサービスの内容が、会社全体で定めているサービスに対する考え方や事業と合わないものなら、顧客とともに問題点やリスクをきちんと洗い出した上で、より良いサービスにするための活動も必要です。そして、サービス内容を変えるための案や、新しいサービスを始める案がいくつか出てきたら、組織全体の目標や限られた資源(お金や人の手間)を考え合わせて、どの案から手をつけるべきか、優先順位を明確にすることが重要です。そうすることで、顧客にとっても、組織にとっても、最も効果的なサービスの提供ができるようになります。

(3) 8.2.3 サービスのライフサイクルに関与する関係者の管理における活動のポイント
 サービスの企画から始まり、実際に提供して、やがて終了するまでのすべての段階(サービスライフサイクル)で、内部のメンバーだけでなく、外部供給者や顧客自身など、多くの関係者が関わって、サービスを提供しています。この要求は、こうした様々な関係者をきちんと管理し、サービスが円滑に進むようにコントロールすることが大切であることを伝えています。まず、サービスに関わるすべての人々、たとえ社外の人であっても、サービスをきちんと提供する最終的な責任は私たちにある、という心構えを持つことが出発点です。そして、外部の供給者を選ぶ際には、「どのような基準で選ぶか」を事前に決めておく必要があります。例えば、どのような技術や経験を持っているか、信頼できるかといった点を力量として評価します。また、顧客の重要なサービスやその一部となる仕組みを、外部にすべて任せきりにすることはできません。必ず自分たちも関わり、コントロールできる範囲を確実に残しておく必要があります。いわゆる丸投げの禁止です。どの部分を外部に任せるのか、どの部分を自らが担当するのかを明確にして、文書で記録しておくことが求められます。次に自分たちが提供する部分と、外部が提供する部分がスムーズにつながり、一つのサービスとして顧客に届くように、全体をうまく調整していくことが重要です。サービスの計画を立てる段階から、実際に動かすまで、すべてのプロセスで供給者間の連携を密に行い、活動のズレが生じないようにします。最後に外部の供給者が期待どおりの仕事をしているかを定期的に確認し、評価する仕組みを作ることが大切です。例えば、サービスの提供スピードが約束とおりか、サービス品質は保たれているかといった点を幅広にチェックします。これにより、顧客に対して安定した質の高いサービスを提供し続けることができます。つまり、すべての関係者がサービスというワンチームとして、責任を持って役割を果たせるように、しっかりと管理していくことが活動のポイントです。

(4) 8.2.4 サービスカタログ管理における活動のポイント
 この活動を簡単に言うと、「組織が提供しているサービスについて、誰もがわかるように、きちんとしたカタログを作り、いつも最新の状態に保ちましょう」ということです。このカタログは、提供側だけでなく、顧客やサービスの利用者、その他の関係者も必要に応じて見られるようにしておく必要があります。具体的な活動としては、まず組織が提供するすべてのサービスを洗い出すことから始めます。例えば、どんな内容のサービスなのか、どのような結果や価値を顧客にもたらすものなのか、サービス同士がどのように関係し合っているのかを整理します。これをできるだけ専門用語を使わずに、誰にでも理解できる言葉で丁寧に説明します。次にこのサービスカタログを必要とする人たちがいつでも見られるように整えます。たとえば、顧客にはホームページの専用ページで公開したり、サービス管理責任者やサービス支援に従事する人々には、顧客に説明しやすい形で情報を提供したりします。この際、提供する情報の内容を、顧客の立場に合わせることが肝要です。そして、サービスの内容が変わったり、新しいサービスが始まったり、逆に古くなったサービスが終了したりする際には、すぐにカタログの内容を更新し、常に最新の情報を保つようにします。この作業を定期的に行うことで、関係者全員が同じサービス情報を共有でき、認識のズレを防ぎ、サービスの提供をよりスムーズにすることができます。カタログは一度作って終わりではなく、常にメンテナンスし続けることが重要なのです。

(5) 8.2.5 資産管理における活動のポイント
 この活動を簡単に言うと、「サービスを約束とおりに提供するために必要なすべての『モノ』を、きちんと把握して管理する仕組みを作りましょう」ということです。具体的な活動としては、まずサービス提供に必要なすべての「モノ」、例えばPCやサーバーといった機器、ソフトウェア、さらには契約書やライセンス、建物や設備などの有形・無形の資産をすべてリストアップします。そして、それぞれの資産がどのような状態にあるのか(誰が使っているのか、どこにあるのか、いつから使っているのか、保守が必要か、契約期間はいつまでか、など)を常に把握できるようにします。この管理は、ただ単にリストを作るだけでなく、サービスのトラブルを防ぎ、安定して提供するために役立つように工夫する必要があります。例えば、特定の機器が故障した場合、すぐに代替機を用意したり修理したりできるよう、資産の情報を整備しておくことをお勧めします。さらに、資産を無駄なく効率的に使うためにも、どの資産がどれだけ使われているかを確認し、リプレースや不要なものの処分といった計画を立てます。このように資産を適切に管理することで、サービスの品質を安定させ、顧客との約束を確実に守ることにつながります。また、無駄なコストを削減し、組織全体の運営をより効率的にすることにもつながります。もし、資産がサービスの構成要素の一部でもある場合は、その資産がどのようにサービスに組み込まれているか、その状態まで含めて管理する「構成管理」と連携させて考えることも大切です。

(6) 8.2.6 構成管理における活動のポイント
 この活動のポイントは、「サービスを形作っている一つひとつの要素(構成品目)を、しっかりと把握し、常に正しい状態に保つように管理しましょう」ということです。この管理はサービスを安定して提供し、変更が必要なときにも混乱が起きないようにするために非常に重要な活動です。具体的には、まずサービスを構成している「モノ」を細かく分け、それぞれの種類(たとえば、メインフレーム、サーバー、PC、ソフトウェア、ネットワーク機器など)を明確に定義します。そして、それぞれの構成品目について、固有の番号や名前、どんな役割を持つか、他のどの部分とつながっているか、今どのような状態にあるか(稼働中、テスト中など)といった情報を詳細に記録します。この記録は、サービスの重要性に応じて、必要な粒度で管理します。次にこれらの情報がむやみに変更されないよう、誰がいつ、どのような目的で情報を変更したかをすべて記録し、管理する仕組みを作ります。例えば、サーバーのOSを新しいバージョンに更新した際には、その変更がいつ行われ、どんな影響があったかを記録します。そして、この記録された構成情報が、実際のサービスの状態と一致しているかを、定期的にチェックする作業を行います。もし不一致が見つかった場合は、すぐに修正して正しい状態に戻すことが求められます。このように、構成品目とその情報を正確に管理することで、サービスに何か問題が発生した際に、どの部分が原因かを素早く特定できるようになります。また、新しくサービスを始めたり、既存のサービスを変更したりする際にも、全体への影響を正確に予測し、スムーズに進めることができるようになります。この構成情報は、サービスの運用を改善したり、障害対応を行ったりする際にも役立てられるよう、関係者がいつでも利用できる状態にしておくことが大切です。

 

4.まとめ

 ISO/IEC 20000-1:2018の箇条8.2「サービスポートフォリオ」は、提供するサービスの全体像を整理し、管理することで、サービスに関わるすべての人々の満足度や幸福度を高めるための土台となる重要な活動です。これは単にサービスのリストを作るだけでなく、顧客や利用者が求めていることに組織全体としてきちんと応え、サービスを提供するメンバーの働きやすさも考慮に入れる、いわば「みんなが幸せになるためのサービスづくり」を整える作業と言えます。具体的には、現在提供しているサービスはもちろん、これから始めようとしているサービス、さらにはいつか終了する予定のサービスまで、すべての情報を一元管理することで、無駄なサービスを減らしたり、顧客にとって本当に価値のあるサービスに資源を集中させたりできます。その結果、顧客は「ビジネスそのものをよく考えてくれている」と感じ、提供者に対する満足度が向上します。また、サービスを提供するメンバーにとっても、組織のサービス全体が明確になることで、自分の担当する仕事が全体の中でどういう位置づけなのかがわかりやすくなり、組織内での連携もスムーズです。これにより、日々の業務でのストレスが減り、やりがいを感じやすくなるなど、働く上での幸福度も高まるのです。この活動を成功させるためのポイントは、サービスを企画する段階から、関わるメンバー全員の意見を取り入れ、サービスが生まれてから終わるまでの流れを管理することです。さらにサービスを提供するのに必要なもの(資産)やサービスを構成する要素(構成品目)についても、サービス全体の中でどのように位置づけられているかを常に把握し、計画的に管理します。そうすることで、サービスの提供が安定し、顧客からの信頼が高まります。つまり、サービスポートフォリオを通じて、顧客・利用者もサービスを提供するメンバーも、みんなが幸せになれるサービス提供の仕組みを作り上げる、ということがこの箇条の核心なのです。

次回は、箇条8運用の箇条8.3関係及び合意について、皆さんと考えていきたいと思います。

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筆者紹介

岸 正之(きし まさゆき)
SOMPO グループ・損害保険ジャパン社の IT 戦略会社である SOMPO システムズ社に在職し、主に損害保険ジャパン社の IT ガバナンス、IT サービスマネジメントシステムの構築・運営を責任ある立場で担当、さらに部門における風土改革の推進役として各種施策の企画・立案・推進も担当している。専門は国際規格である ISO/IEC 20000-1(サービスマネジメント)、ISO/IEC27001(情報セキュリティマネジメント)、ISO14001(環境マネジメント)、COBIT(ガバナンス)など。現職の IT サービスマネジメント/人材育成・風土改革のほか、前職の SOMPO ビジネスサービス社では経営企画・人事部門を歴任するなど、幅広い経歴を持つ。

【会社 URL】
https://www.sompo-sys.com/

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