主流であるクラウドの内側で働くエンジニアの声

あるクラウドエンジニアからの私信 第一便

概要

クラウドの内側では、どのようなことが繰り広げられているのかという点をわかりやすく説明することで、ITエンジニア同士の架け橋となることをテーマとして掲げております。

去年、会社を辞めた。
その辞めた理由は個人的なものでもあり、だからこそ、その理由をここで書くことはしない。
しかし、その辞めるとの情報を聞きつけ連絡をしてくれた人がいた。
以前、一緒に働いていたエンジニアだった人だった。
どこでどう繋がっているのだ? 世間は広いのか、狭いのか?


こちらで連載されたコラム担当者もそうだ。
やっと自分でコラム連載を終えホッと一息つき、自分の転職等を考えアクションをとっているときに連絡が入った「コラムを書きませんか?」
ここでも、どこでどう繋がっているのだ? 世間は広いのか、狭いのか?


以前の会社を辞める際、それでもなんとか一言をひねり出すのであれば、やり尽くした、といってもよかった。
その時に使用し、運用し、構築もしていたオンプレミス環境の否定はしない。
一方、徐々にクラウドという単語が年々、日々、多くなってきていたのも事実だ。
聞くところによると、このクラウドという言葉、概念は2000年代後半に出てきたそうだ。
よく考えられた言葉・概念であると。
雲というクラウドは、使用しているユーザー、顧客からみたら具体的な作業を見せない、意識させない。
そう、「なんかよくわからないけど、要は、その雲にアクセスしたら使い始められるでしょう」という長ったらしい説明を省略するには打ってつけの言葉だ。
そう、意識させない。
気づけば使っていて、いつのまにか使っていて、使っているからこそ当たり前で使用できなくなったら問題発生。
そう、それがクラウド、インフラを担うクラウド。
個人的には日本語に訳すのであれば雲というより、忍者が使う煙幕と表現したいくらい。
権威的アカデミズムを持っている誰かにクラウドの具体的体系や学術的定義はお願いするにして、なぜ、このコラムを書こうとしたのか?というFAQが生じるであろう。


(FAQ) このコラムを書こうとしたのか?


一言でいえば、同じITエンジニアとして、より良いシステムを作り上げていこう
そのためにはコミュニケーションが必要だ
クラウド側の現場からの声をダイレクトに伝えることで、お互いを分かり合おう。


久しぶりにコラム担当者との会話中、このクラウドの中で作業しているエンジニアとしてコラムを書きませんか?というアイデアがあった。
実は自分なりに、別のアイデアはあった。
しかし、考えてみれば、思い返してみれば、前職で使用し、運用し、構築もしていたオンプレミス環境でもクラウドが浸透し、気づけばいつの間にかクラウド側とエンジニアとのやりとりが発生していた。
そこでは、テクニカルな質問はもちろん、料金、技術的支援や助言等、多岐にわたる。
それらは基本的にケースとして管理され、ケースは履歴として記録され処理される。
そして、ケースを閉じるとき、そのケース対応についての評価が求められる。
もちろん、よい作業にはよい評価で返し、「うーん」という内容にはそれなりの評価を返していた。


以前、あるお客様でネットワークデバイスが物理的に壊れてしまったときのことだ。
そのお客様は金融系のお客様、そう、インターネットがダウンしてしまうというのは一秒ごとに億単位損失発生を意味するという表現があっても、大袈裟ではない。
幸運にも保守契約を充実にされていたおかげで、最小時間でその問題は解決に至った。
(ましてや、このまだ続くパンデミックの中、今にして思えば自分ではどうすることもできない、コントロールできない幸運もあったなと思う)
インシデントレポートは最終的に本社IT部門に提出しなくてはならなかったにせよ、それは形式的儀式としてで、大きな問題にはならなかった。
問題はその後であった。
ネットワークデバイスが物理的に壊れてしまったケースの評価のお願いがやってきた。
その対応には頭が下がる思い、藁にもすがる思い、感謝の言葉しか思いつかない。
しかし、何を勘違いしてしまったのか、最低評価を出してしまったことが発覚してしまった。
その問題対処から3週間ほどたった時のこと、見知らぬ番号から電話があり、恐る恐る出ると、身構え電話しましたという態度がわかるくらい、それは丁寧な日本語で「この前のケース番号xxxでこの対応に最低評価をつけられておりました。お詫び申し上げるとともに、その理由を聞かせてください。」という内容だった。
寝耳に水だった。
「まったくもって、お詫びします。そのケースの対応は最高でした。御社のサービス、そのケース担当になったかたのサービスは最高でした。思うに、わたくしのまったくもって誤解で、最高点をつけようとしたところ、最低点をつけてしまいました。このお電話にてお詫び申し上げます。大変申し訳ございません。正式にその評価を撤回し、最高点であったとアップデートしてください。そのケースを担当してくれた方の評価を上げてください。なんなら、その方の給与も上げてください」と。
電話されてきた担当者からは「あぁ、本当にこの人は悪気もなく、クレーム等もなく、単純に評価入力を間違ってしまったんだな」という反応がわかる雰囲気が今度は伝わってきた。
それでも、最後まで丁寧な言動で話しをされ、その電話は平和に終わった。


思う、電話してくれてよかったと。
思う、コミュニケーションは大事だと。
思う、その後にやってくる理解というのは、悪意がない限りは尊いと。

煙幕の中を伝えたい、企業秘密はつきものだ。
煙幕の中を伝えたい、実はそこで働いている人間の声、エンジニアの声を伝えたい。
煙幕の中を伝えたい、時として血が通わないと思われるこのクラウドは、いやいや、血が通い感情が交差している。

 

前の会社を辞め転職し、偶然にも、とあるクラウドのポジションにつき、エンジニアとしてまた仕事が始まった。
その仕事において、今までの内容の半分は既に経験してきたものであったが、残り半分は新鮮なものであった。
その新鮮な中の一つにチケットシステムとしてのチケットを閉じたときに顧客へ送られる「評価」が挙げられる。
その「評価」システムの講義を受けていた時、あのネットワークデバイスが物理的に壊れたときの評価を思い出していた。
今度は、コメントはもちろん、数字としてもその評価が現れる。


縁あってクラウドのエンジニアになれた。
縁あってコラムを書く機会を再度、与えられた。
であれば、その縁でコラムを書いてみよう。
作成されたケース、評された内容ではない第三の方法として、このコラムを通し、クラウド側のエンジニアとして私信に近い意見を書いてみよう、発信してみよう。


前の会社に別れを告げ、縁あってクラウドエンジニアのポジションと役割を与えられた筆者は、このコラムを通しクラウドエンジニアの声を届けます。
その声を聞いてもらい、クラウドに問い合わせをする際、そのもやもやした感情、その言い表せないFAQに少しでも応えられたらなと。
なぜなら、もっとより良いIT環境を作るために。
対立することはいつでもできる。
共存しよう。
次号から少しずつ、煙幕の中を話していきたいと思います。
お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。


2022年3月吉日

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筆者紹介

藤原隆幸(ふじわら たかゆき)
1971 年生まれ。秋田県出身。
新卒後、商社、情報処理会社を経て、2000 年9月 都内SES会社に入社し、主に法律事務所、金融、商社をメイン顧客にSLA を厳守したIT ソリューションの導入・構築・運用等で業務実績を有する。
現在、某大手クラウド運用会社の基盤側でサポート業務に従事。

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