AI導入、ホントのとこ ~失敗しないための心構えと実践ノウハウ~

第5回:チャットボット

概要

あらゆるところで目にするようになったAI。しかしAIの恩恵を受けるにはテクノロジーへの理解と、正しいアプローチが必要不可欠です。 そこで数々のAI関連プロジェクト・サービスを経験してきた筆者が、AI関連技術に対する基本的な知識と、ビジョンの描き方、導入時のポイントを具体的な事例を交えて各月でお届けします。

目次
「チャット」は所詮「チャット」にすぎない
「精度」は気にするな
「チャットボット」が答えなくてもよい

「チャット」は所詮「チャット」にすぎない

例によって、「チャットボット」に対して過度な期待を持たれている方が多いが、「チャット」は所詮「チャット」にすぎない。
数あるインターフェースの中で最もシンプルな「テキストでのリアルタイムコミュニケーション」であり、そこに入出力可能な情報量はとても少ない。

筆者は「チャット」の利点を以下の3点と考えている。

① テキストおよびボタンのみでの入力であり、項目が少ないので操作に迷わない
② ユーザーインターフェースがシンプルかつ小さい、設置場所が比較的自由で、既存Web画面などへの埋め込みが可能
③ 新規でWeb画面を開発することに比べるとコストが小さい

であるにも関わらず、FAQ整理を行おうとしたり、ヘルプサイトやマニュアルの内容を表示したり、複雑な業務フローを行わせようと考える方が多いが、それは止めたほうがよい。

『餅は餅屋』である。

FAQ整理ならそのために最適化されたFAQツールを利用するべきだし、ヘルプサイトやマニュアルならば全文検索付きの文書管理ツールで探すほうが早くて確実だし、複雑な業務フローの実現には気の利いたワークフローエンジンを導入するべきだ。

 

「精度」は気にするな

前回、展示会などで必ずといってよいほど聞かれる質問として「このチャットボットは人工無能ですか?人工知能ですか?」を紹介したが、それ以上に聞かれるのが「このチャットボットの精度はどれぐらいですか?」という質問である。一口に「精度」といっても、これといって決まった計測の方法があるわけではなく、どこまでの範囲を指してのことなのかも捉えようがなく、実際なんと答えたものか困ってしまうのだが、ハッキリいって「精度」は気にしなくてよい。

大事なのは「導入効果」のはずである。すなわち、どういった導入事例があるのか、それによりどれほどの効果が出たのか、が関心事であるべきだ。

それに、「精度」を気にしないといけないような使い方は止めたほうがよい。

「精度」を重視しなければならないユースケースとはすなわち、さまざまなパターンの問い合わせが想定される上に、意図を正しく認識し、適切な回答を行う必要のあるケースということになるが、本連載でたびたび述べている通り「AI」に完璧はないし、まるで人間のように振る舞うことは最初から期待しないほうがよい。そして、そのようなケースには、人が担っているからこそ価値のあるポイントが必ずあるはずであり、単純に「チャットボット」に置き換えてしまうのは避けたほうがよい。まずは、問い合わせ内容と業務の整理を行い、「人が対応したほうがよいところ」「ロボットでも対応できるところ」をしっかりと切り分けるべきである。
その上で、頻度の高い問い合わせにはボタン選択肢をうまく使うなどして、「AI」による自然言語認識の必要が極力少ない会話シナリオを構築すれば「精度」は気にしなくても良くなる。

「チャットボット」の導入・運用にあたっては「精度」ではなく「利用率」や「削減工数」をKPIとして設定すべきである。
仮に、まるで人間と同じように100%の「精度」で認識や回答ができる「チャットボット」を導入したとしても、利用者が5人では全く意味がないのだ。
「精度」をKPIにしたその先に待っているのは、終わりのない運用地獄だ。

 

「チャットボット」が答えなくてもよい

ここまでの話を踏まえて、筆者がオススメする「チャットボット」の利用用途は、「アテンド係」としての利用だ。

すなわち、「チャットボット」が何かの問い合わせに対して「自動回答」することを主目的とせず、あくまでも1次受付口として適切なサービスや担当者への誘導を行うことに特化する。
もちろんその中で、簡単な質問や業務フローに対してはわざわざ後続へ誘導することなく、「チャットボット」で対応を完了してしまうのもありだろうが、それも頻度が高いものや後続に引き渡すコストが高いものに限る。
そうすることで、「チャットボット」の運用コストが小さくまとまり、かつ既存システムとの役割分担が明確になり、例えばFAQサイトに載っている内容を「チャットボット」にも登録したためにダブルメンテナンスが発生してしまうというようなことがなくなる。

「アテンド係」だけで効果が出るのか?と思われる読者もいらっしゃるだろうが、実際は「自動回答」よりもその効果はわかりやすい。
「チャットボット」により、問い合わせ内容のカテゴライズと必須ヒアリング項目が収集され、その上で適切な担当者振り分けが行われることで、「聞き漏れ・二度聞き」「担当者のたらい回し」などといったコミュニケーションロスが完全になくなる。

実際のところ、「社内問い合わせ」の場合などには、その内容として「〜を教えてほしい」ではなく「どこに〜〜が書いてあるかがわからない」のほうが多かったりする。例えば、「経費申請の科目リストはどこに書いてあったっけ?」というようなものだ。こういう場合には「〜〜の場合には、〜〜科目を設定してください」などと答える必要はなく、「経費申請の記載マニュアルは〜〜(ファイルURLなど)を参照ください」でよいのだ。

そして、ここまでは、問い合わせを受ける側の効果について述べてきたが、「アテンド係」による一番大きな効果は、問い合わせる側にこそある。

メールや電話といった手段で問い合わせを行う場合は、人によって差はあれどもそれなりの心的障壁を感じるものである。最低のマナーとして、自分なりにあちらこちらを調べたり、「お忙しいところ恐縮ですが…」から始まる丁寧な文面を考え、時間をかけて書いたりしていることだろう。しかしながら、裏側にいるのがロボットだと思えば、そういった気兼ねや手間なく、フランクに尋ねることができる。

また、導入効果を測る際に「問い合わせ業務の効率化」というと、大抵の場合は「問い合わせを受ける側」に目が行きがちであるが、受ける側の人数(工数)は実はたかが知れていたりするものだ。それよりも、「問い合わせる側」への効果にこそ注目すべきである。仮に1,000人の会社で月間1人あたり10分の削減につながった場合、その効果は1人月相当になる。

皆さまも、「なんでも答える問い合わせ担当」ではなく「気軽に話しかけれるアテンド係」として「チャットボット」の導入を検討してみてはいかがだろうか。

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筆者紹介

高田 和弥(たかた かずや)
ブレインズコンサルティング株式会社
AI&RPAサービスグループ こらろぼチーム 統括マネージャー

大手ITコンサルティング会社およびIoTスタートアップでの経験を活かし、プロジェクトマネジメント、新規サービス立ち上げ、多数のプロジェクトへの技術支援、社内開発標準化、等に従事し、現在は同社が展開するAIチャットボットサービス「こらろぼ」のサービス統括を務める。

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