(新)組織の活性化

第8回 自分の持味を管理するリーダーシップ

概要

組織タイプ、モチベーション(心理学の視点)、チーム力の強化、変革のリーダーシップ、社員のマネージメント等、キーワードの解説や組織の活性化をはかるための手法について、事例を交えながら理論や実践方法を述べていきます。

多くのリーダーは、優れたリーダーを真似してリーダーシップを発揮しようとする。しかし、実際はうわべだけを取り繕うことになるので、まがい物のリーダーシップを周囲から見抜かれ、結局はリーダーシップへの不満が吹き出ることになる。このようにならないために、本当の自分を表現することが求められる。誠実、正直、高潔等が本当の自分に裏付けられていることが大切である。こうした本物のリーダーを具現化する資質は、先天的な資質であると捕らえていることが、それは誤解である。本物かどうかは他人が判断すべきことなので、本人には認識できないはずである。
 
 本当の自分を表現するには、下記のようなことができることが求められる。
 

自分の個性を表現しつつ、自分に従わせるか、影響を及ぼしたい相手の個性に上手に対処する。(至難の業であろう)

個人として独自性を失うことなく、企業や社会の中で評価を得る方法や、それらの一部を足がかりに抜本的改革を進める方法を心得ている。

己の人格特性のうち、どれを、いつ、誰に見せるのかについて、極めて良く承知している。

将来に向けて全力投球を続けながらも、自分の原点を見失うことは無い。

自分の置かれた状況に相応しく、かつ部下達の期待に添うように適応できる。

本当の自分らしさを自己管理することができる。

 
 自分らしさを自己管理する方法を理解すれば、本物の自分を管理する術が上手くなり 忠実な部下を鼓舞することも、やる気を促すことも長けるようになる。
 
 他人の物まねではなく、自分の持味を有効に管理・発揮する具体的な方法について、以下に述べていく。
 

自分を知り、他人や部下を知る。

様々な人生経験、特にリスクを冒すことで得られる経験は、人間関係を理解する上で重要である。とりわけ窮地に陥った時は、その人の本心、人間性、人間関係の姿が表れるので貴重な経験となる。

目標を追求し、目標を他人や部下達に伝えようとする情熱を通じて、自己開示が無 意識に促され、様々な自分について理解を深めていく。

リーダーは周囲から祭り上げられようとされることが多くなる。そのような時に、 親しい同僚、友人、家族に頼んで、現実を直視するような進言や素直な意見を具申 してもらう。こういうことを通じて、自分をより良く知る。

生い立ちを通じて部下との共通基盤を探す。

 

自らの生い立ちを話のネタにして、自分と過去の結びつき、部下とその生い立ちの結びつきを上手く活用して、部下達との共通基盤を構築する。

部下達が考えそうなことを先読みしてから、その状況に身を置くように心がけな がら、相手に応じて異なる顔を使いわける。(欺瞞のにおいを察知されないこと)

例えば、アメリカ社会では「生得性地位」(生まれながらにして持っている地位) よりも、「獲得的地位」(努力して獲得した地位)を重視するの。こうした社会通念 を上手く利用する術も必要である。
様々な印象を演出する

 

多自分の内面のどの部分を誰に見せるのかを決めるに当たって、社会規範と社内規範にどの位従うべきかを正確に判断しなければならない。これにより部下達の目に自分が特別で魅力的な存在として映るように、規範と程よい距離を保つ。一方ではほんのわずかの間でも、その組織の一員として受入れてもらうな努力をする。

複数の自分を使いこなすのは、「自己認識」及び「自己開示」する意思と能力が必要である。本物のリーダーは「自己表現」や「自己開示」をしている自覚は殆ど無くなり、様々な人生経験を経て、多彩な役割を演じられるようになる。

誤った第一印象を与えないように気をつけ、感性とこれまでの経験で他者との距離感を調整する。そして、他人の心を掴むきっかけとなるような人間関係の微妙な綾を知り、経歴、生い立ち、家族状況、あるいはこだわり等を心得ながら接する。

 こういう話をしても、リーダーシップを期待している側(会社の経営陣、部下達など)の期待と噛合わないと現実にはリーダーとして評価されない。ともするとリーダー側の自己満足に終わってしまうことになる。
「リーダーたる者、周囲から何を期待されているか」を観察した結果、特定の振る舞いがリーダー人材と部下の生産性を高め、良好な関係を生み出すことが明らかになった。
 経営陣がリーダー人材に期待することの最重要な資質は、リーダーシップを発揮すべき時期をいち早く察知する能力であった。優れたリーダーは、部下達に権限を委譲する術を心得ている。しかし、自らが介入するのが効果的であると判断されるタイミングは個人の主観によって異なりケースバイケースである。とは言え、優れたリーダー人材は、次の場合、すぐさま行動を起こす。
 

部下達が仕事に集中していない。

人事上の深刻な問題、特に争いごとが持ち上がる。

何らかの危機的状況に陥ってしまった。

 こういうタイミングで素早く介入するには、いつも状況を予測・観察し、リスク対策を考えて置くことが必要不可欠であることは言うまでも無い。
 経営陣と同じく、部下達も上司に多くのリーダーシップを期待している。リーダーがそれを理解した行動を示せば、部下達も最大限の力を発揮する。部下が上司に期待する重要な事項を下記にしめす。
 

目標達成を具体的な数値で示し、課題を部下の一人一人に与える。

タイミングを見て支援し、具体的なフィードバックをすぐに与える。

公平な評価制度を提示する。

ところが、困ったことに部下は上司の助けを敬遠する。上司に頼れば無能と受け取られるようで嫌なのである。泣きついてくるのは、対策の選択肢が絞られたギリギリの状況になってからである。場合によっては土壇場の対策も効果がなく、時期を失した結果にもなりかねない。こういうケースを救うためには、部下との共通基盤を探し、意思疎通が正確かつ遠慮無くできる仕組を構築することが重要である。
 
 自分の持味を理解し、自分らしいリーダーシップを発揮することは、1面では相手を従わせることを上手く誘導し、もう一面では相手に合わせることになる。このことを自然に表現するには、強い意志と実践による様々な経験を積むことに他ならない。リーダーシップを発揮するための楽な方法は無いようである。

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筆者紹介

佐野詔一(さのしょういち)

1945年生まれ。

富士通㈱(OSの開発&大規模ITシステム構築に従事)および(株)アイネット(大規模ITシステム構築&ITシステム運用に従事)において、大規模ITシステム構築&大規模ITシステム運用経験を経て、現在はITプロジェクト・マネジメント関係を専門とするITコンサルタント。産業能率大学の非常勤講師(ITプロジェクト・マネジメント関係)を兼任。当サイトには、「IT部門のプロジェクト・マネジメント」ついて研究レポートを12回にわたり掲載。

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