(新)組織の活性化

第9回 変化するリーダーシップ

概要

組織タイプ、モチベーション(心理学の視点)、チーム力の強化、変革のリーダーシップ、社員のマネージメント等、キーワードの解説や組織の活性化をはかるための手法について、事例を交えながら理論や実践方法を述べていきます。

 意思決定は、リーダーシップのなかでとりわけ重要である。意思決定は、あらゆる階層のリーダーに要求される。優秀なリーダー人材はその階層に相応しい意思決定のスタイルを身に付けている。企業人の場合、昇進するにつれて意思決定スタイルを変化させていかざるを得ないのだが、挑戦的であるミドル・マネージャーが豊富な経験を有するシニア・マネジャーのごとく意思決定をすれば、出世コースから外れる可能性が高くなり、逆にシニア・マネジャーがライン・マネジャーのように振舞うと同じはめになる。意思決定スタイルを変化させていくのには、共通点と一定のパターンがありそうである。過去のやり方に固執したり、自分の職位に相応しくないやり方で意思決定をすると、多くの場合に失敗する。意思決定スタイルの変化プロセスを見る前に、意思決定スタイルの種類を分類してみる。
 
決断型(情報が少なく、目標は一つ)
 行動、スピード、効率性、一貫性を重視する。着手した計画がすべて終了するまでは、次の意思決定には移らない。また、部下には正直、明快、忠実、特に簡潔であることを要求する。スピードを最も重視するタイプである。
 

上意下達、効率重視、迅速、毅然とした態度を示す。

実践重視で、仕事優先の印象を与える。

 
柔軟型(情報が少なく、選択肢は複数)
 決断型と同じくスピードを重視するが、柔軟性を合わせて持つ。問題が起こると、必要最低限の情報を収集して迅速に意思決定を下し、必要とあれば方針を変更する。
 

スピードと適応性を重視する。迅速に意思決定することで状況の変化に的確に適応し、方向転換を即決する。

柔軟性を社交性に富んでおり、反応が早い印象を与える。

 
論理型(情報が多く、目標が一つ)
 慎重に意思決定する。膨大な情報を分析し、他人の意見にも耳を傾ける。分析結果や問題点を総合的かつ徹底的に判断して、時勢に左右されない意思決定を下す。
 

焦点を絞り、分析を重ねる。決断したことは最後まで貫く。時勢に左右されない意思決定を下す。

理解するのが難しく、理知的な印象を与える。

 
統合型(情報が多く、選択肢は複数)
 このタイプにとって唯一最善解なるものは存在しない。状況を対極的に判断し、関連する要素全てを考慮する。そのため暫定的な判断を下し、行動方針に複数の可能性を残す。意思決定する前に可能な限り多くの情報を集め、自分とは異なる意見を含め、多様な意見を取り入れる。意思決定は一次的な判断でなく、一つの作業にすぎない。
 

問題を大局的に捉え、周囲の意見に耳を傾ける。状況の変化によって起こり得る可能性を考慮し、複数の選択肢を視野に入れて意思決定を下す。

創造的で、みんなの参加を促す印象を与える。

 
 人間を完全に一つの型に分類することは出来ない。要するに、リーダー人材はこれら全ての意思決定スタイルを適宜使い分けできなければならないということである。例えば、起業したばかりであれば、過去のデータや時間的余裕がない以上、緻密な分析や思案はできない。また、不安定な状況であれば、複数の選択肢を用意しておくべきである。逆に安定した状況であれば、選択肢は一つでも良い。
 
 また、意思決定スタイルは、人に見られている時と、一人で思案にふけっている時(人に説明したり正当化したりする必要がない時)では異なる。同一人物でも、人前で話す時と一人で考える時では一変する。つまり、意思決定スタイルは人前と鏡の前では、異なるということである。その違いは、情報収集、選択肢の検討・説明、最後の決断に至るまで、あらゆる行動に表れる。
 
 ここで、リーダーの昇進とともに変化する意思決定パターンの変遷をみてみよう。
 
 優秀なリーダーは昇進するにつれて、オープンな態度へと変わり、多様性を許容し、協調型のリーダーシップをふるうようになる。そして、上意下達の振る舞いが減る。一方、思考様式はマキシマイザーの傾向が色濃くなり、部門長クラスになると、できるだけ多くの情報を集め、熟慮に熟慮を重ねるようになる。さらに役員クラスでは、一貫性のある行動に努める傾向が見られる。
 
 その変遷過程(成長過程)は、下記のように理論的に説明できる。
 
 職位が上がるにつれて現場から遠のき、社内事情に疎くなるため、然るべき情報を収集して正しく分析するには、オープンな態度で望み、各方面からの情報提供を促す必要がある。したがって、執行役員クラスの多くが柔軟性や統合型のリーダーシップ・スタイルを志向することになる。同時に、正しい選択を下すには、できる限り多くの情報を集め、綿密に分析せねばならない。それが思考様式である。つまり執行役員クラスの場合、公にさまざまな選択肢を歓迎し、より多くの情報を入手し、一人になるとこれらの情報を分析し、選択肢を一つに絞るか、少なくともその数を減らして現実的な戦略を立てる。このような意思決定スタイルの変化は優秀なリーダーほど顕著に表れる。
 
 意思決定スタイルの転換点は、係長クラスの時はバラバラだった四種類の意思決定スタイルが次第に収斂され、係長クラスや課長クラスから部長クラスに至る途中では、それまで有効だったアプローチが通用しなくなったことに気付く。四つの意思決定スタイルが拮抗し始める時期を「収斂期」と呼ぶことにする。能力の高いリーダーは、早い時期に「収斂期」に到達する。その後、職位に応じて意思決定スタイルを変え、新しい方向へと向かう。ところが、能力の低いリーダーは、「収斂期」を境に停滞していく。能力の低いリーダーも、部長クラスになると疑問を感じ始めるようになり、手当たり次第にあらゆる方法を試すようになる。決断型にもかかわらず部下達の参加を促したり、行動志向にもかかわらず論理型の態度で接したりして、この不安定期から抜け出せずに、このままキャリアを終える。この時期、有望視されたリーダーの多くが挫折する。結局、これまでの流儀を曲げられず、意思決定のスタイルを進化させることができないからである。リーダーは意思決定のスタイルを進化させることができなければ、将来の道が閉ざされることを肝に銘じるべきである。たとえ、最初は失敗しても自己変革の必要性に気がつけば軌道修正が可能である。大抵の企業に、何らかのリーダー育成プログラムがあるが、リーダーのスタイルや思考様式が進化していくことが考慮されていない。「優秀なリーダーはいかなる状況にも対処できる」という前提で作られた育成カリキュラムで、有能な社員の発掘・育成をしようとする。米国の或る調査結果と筆者の経験から言えば、職位が高くなるにつれてリーダーのスタイルを進化させていくことが現実的である。組織の活性化するためのリーダー候補を選任する場合に、重要な視点であると思われる。

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筆者紹介

佐野詔一(さのしょういち)

1945年生まれ。

富士通㈱(OSの開発&大規模ITシステム構築に従事)および(株)アイネット(大規模ITシステム構築&ITシステム運用に従事)において、大規模ITシステム構築&大規模ITシステム運用経験を経て、現在はITプロジェクト・マネジメント関係を専門とするITコンサルタント。産業能率大学の非常勤講師(ITプロジェクト・マネジメント関係)を兼任。当サイトには、「IT部門のプロジェクト・マネジメント」ついて研究レポートを12回にわたり掲載。

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