強いチームを育てる

第2回 チームを育てる三つの学習 ~計画立ての場~

概要

組織の「タテのマネジメント」に対し、チームマネジメントは「ヨコのマネジメント」と言えます。タテのマネジメントについては世の中で様々に謳われていますが、実際の職場で働いているのは人であり、各々の職場の「チーム」です。知的で快活なチームは、解くべき課題を正しく見つけ出し、集合知を発揮します。知恵とノウハウは自然に伝承され、応用進化を繰り返し、ひいては事業の発展に貢献することができます。チーム本来の力を取り戻す、チームマネジメントの方法論をご紹介します。

前回は、「職場のタテとヨコ」「チームのありかた」について触れました。 タテとは組織であり仕事そのもの、ヨコとはチームを指し、タテをうまく活かし  ヨコを高める。 チームへのマネジメントはヨコで見てタテで解決する、チームのリーダーは監督者  ではなくキャプテンであり自分も含めてチームメンバーである、メンバーシップとは  「借りをつくる、対立を避けない、失敗を話す」という難しい会話から逃げない関係  である。 今回は、チームを育てる学習の場についてお話しします。

目次
3、チームを育てる三つの学習

3、チームを育てる三つの学習

 チームがチームとして学習する場は、三つあります。
 
・計画立ての場
 仕事の計画立てをチームで行うことで計画と問題の見える化を進め、大日程計画、中日程計画、小日程計画の各々から問題を発見する方法と解決策を学習します。

 

・集合知発揮の場
 発見した問題や課題を、チームとしての形式知と暗黙知の発揮によって解決することを学習します。

 

・自律的なプライオリティの設定の場
 問題発見や課題形成の後に、チームでプライオリティを設定することで、チームが成長すべき道筋について学習します。
 

図3:チームを育てる三つの学習の場
 
 この三つの学習の場を通して、力(知恵と時間)の貸し借りを大いに行い、相互依存と相互研鑚を高めることでチームは成長します。
 
 今回はこの三つの学習の場のうち、計画立ての場についてご説明します。
 
 
1)計画立ての場
 【計画とは未来に対する現在の決定である】(ピーター・F・ドラッカー)
 
 計画立てをチームメンバー全員で行う目的は、計画の見える化というよりも「問題の見える化」です。
 
 マネージャやリーダーが計画を立て、メンバーはそれに従うというような場面をしばしば見かけます。そして、詳細な計画立てを個々人で行い、計画が出来上がっても個人で管理し共有しないことも多いのではないでしょうか。チームの計画を立てることは、チームがこれから行うことを決めていくわけですから、チームの未来を描くことでもあります。マネージャやリーダーのみで計画を立てるということは、チームメンバー全員の未来を一部の人間が決めるということになりますし、チームの運命がチームの手から離れていくことを意味するかもしれません。また、偏った見方でしか問題の見える化はされませんから、問題が山積したまま物事が進んでしまいます。加えて、個々人で計画を立て共有しないとなれば、皆がバラバラな方向へと進んでいく恐れがあります。
 
 仕事とは、「チームで引き受けて完成させる」「そのために知恵と時間の協力を大いに行う」もので、チーム全員で計画立てを行うことが不可欠であり、それでこそチームの力が掛け算で発揮されます。そして「良い計画」とは、「必ず達成できる計画」ではなく「何かあれば迅速に修正ができる計画」です。
 
 計画立てには「大日程計画(数カ月~数年)」「中日程計画(数カ月)」「小日程計画(一週間)」があります。これらはすべて、チームミーティングでチーム全員が一緒に検討、議論すべきことです。決して個人で計画立て作業を行い、提出するというようなものではありません。また、「見える計画」は模造紙と付箋で作るなど、全体を俯瞰できると同時に必要であればその場ですぐに修正できる手軽さが必要です。
 

図4:計画立てと集合知
 
 
i )大日程計画 ~事業とチームを繋ぐ~
 大日程計画とは、文字通り一番大きな粒度の計画で、プロジェクトのスタート~エンドや、職場の年間計画などです。この大日程計画をいきなり詳細化するというのは無理なことで、ゴールイメージが大切だと言いつつも、たとえば一年後の今日の3時間を何に費やすべきかというようなことは考えられません。
 
 大日程計画では、ゴールとそれに至るマイルストーン(区切りとなるタイミング。DRなどのイベントや、出図などの大きな納期(※))の設定をしっかりと行うことが大切です。しかしそれ以前に、プロジェクトや年間計画テーマの「背景」「目的」「目標」「大課題」を共有することが必要です。
 
 「背景」とはなぜそのテーマが必要なのか、「目的」は何のために必要なのかということです。例えば、製品開発の目的が、あるマーケットのシェアの拡大であった場合、背景はそのマーケットでは競合に対して競争力が劣っていたり、シェアが伸び悩んでいるなど、目的の裏腹となる事情のことです。つまり、プロジェクトやテーマと事業との関係を語るものです。「背景」「目的」を発信するのはマネジメントの大きな役割の一つであり、チームのメンバーはそれを受け止め、咀嚼する役割があります。
 
 「目標」は当然ながらQCDの形で掲げられますから不明瞭であることは珍しいでしょうが、「背景」や「目的」については、まったく語られなかったり、語られていても抽象的すぎて個人によって解釈が異なっている場合が多いものです。「背景」「目的」について、チームメンバーが全員で、個々人の解釈や知見が見える形でディスカッションし、納得いくまでの共有が必要です。そうすることで、各マイルストーンで中間の目標とすべき姿や、実行したことへの完成度の判断がぶれることなく行えます。これは、「中間の目標へは何がなんでも計画通りに進めるべきだ」と言っているわけではありません。その時々の状況で緩急はあるでしょうし、プロジェクトの途中で環境が変化することもあります。その際に、共有された「背景」「目的」を踏まえた判断が行われることで、チームのベクトルが整ったままに先へ進むことができます。
 
(※)DR:デザインレビュー 出図:試作や量産のために、機械部品や回路図を他部門(生産技術や製造部など)へ発行すること
 
 
ii )中日程計画 ~チームとチームを繋ぐ~
 中日程計画は、「次のマイルストーン」までの日程計画を指します。粒度としては、1~3ヵ月程度の期間を週単位で、かつ仕事を1~3日分くらいに分解したものです
 
 中日程計画を立てるには、次のマイルストーンのアウトプットイメージの共有と、それを達成するために解決すべきことや心配事を抽出する「課題バラシ」、そして課題を解決するための作戦立てが必要です。これについては「2)集合知発揮の場」で詳しくお話します。
 
 中日程計画を立てるときは、前回述べた通り、マネジメントの役割として「心理的に安全な場」を作り上げる必要があります。心理的に安全な場とは、懸念や心配事が遠慮なく発信できる場を指します。個々人が、問題と思うことや心配事を抱えたまま作業だけを展開したところで、それが実行できるか否かはわかりません。
 
 事前に懸念や心配事を解決することで、計画が担保されます。個々人から発信された懸念や心配事はその場で解決し、解決策を中日程計画に反映させたうえで実行に移ります。例えば、初めて行う業務がありそこが不安であるならば、事前のレクチャーの日取りや立ち会う人を決める、試作評価の結果に不確定要素があるのなら、考察を複数の人で行うとして日程に組み込む、負荷が過剰であるならば応援体制を組むか納期の調整を行うなど、解決策を盛り込んだ計画を立てます。
 
 また、ここまで議論してもチーム内で解決できない問題に関しては、見える化された中日程と見えてきた問題点をマネジメントへエスカレーションし、タテを使って解決することができます。
 
 これでこそ、計画を立てた後の進捗を確認し議論する価値のある日程計画となります。中日程計画は、チームの中心にあるもので、他チームにも同様の中日程計画があれば、チーム間の連携や、プロジェクト全体の進捗確認と対応が迅速に行えます。つまり、中日程計画はチームとチームを繋ぐものでもあるのです。
 
 
iii )小日程計画 ~チームとチームメンバーを繋ぐ~
 小日程計画は一週間単位で立てます。中日程計画で決まった各週に行うべきことを、個人毎に、2~4時間単位くらいに仕事を分解し、月曜~金曜までの一週間の間に進める内容を見える化します。
 
 この時、突発業務の枠を設定します。例えば、突発業務が平均で20%くらいある人ならば、一日のうち1.5時間は空けて、6.5時間分しか仕事を積み上げません。そもそも、突発業務が何も発生しないことを前提に計画を立てたところで、納期が守れるわけがありません。突発業務が入らなかった日は、翌日に予定していた作業を前倒しして行えばよいし、一週間で平均すれば、結局20%分の突発業務への対応を行っているわけなので、計画の最後日には帳尻があうことになります。
 
 そして、一つ一つの2~4時間相当の業務を付箋などに書き出し、一緒に計画時間(見積もり)と実績を記入していきます。これは、言った時間を守れということではありません。例えば、若手や慣れていない人の見積もりをベテランの人が見ると、違和感を感じる場合があります。見積もりが短ければ、やるべきことが何か欠けていることになりますし、長ければ不要なことを行っている場合が多いものです。小日程計画上の見積もり時間に注目すれば自然と的確なアドバイスができます。仕事は、「急げ」と言われてスピードが上がるものではありません。数時間単位に分解された仕事を実力より速く済ますには、ショートカットか手抜きをするしかないからです。無理から生まれる手戻りをなくすことだけでも、仕事は効率よく進むようになります。
 
 見積もりと実績に差異が出た場合は、仕事を組み立てる論理に抜け漏れ過剰がなかったか否かを振り返ればよいのです。そして、若手はいずれ慣れてきて仕事が速くなるのだから、当初の仕事のスピードはさほど気にする必要がないことに気付けます。
 
iv )振り返り ~人と人を繋ぐ~
 中日程計画や毎週の小日程計画へ「やったこと」「わかったこと」「次にやること」の観点で振り返りを行い、個々人の気づきを見える化して共有することが必要です。この気づきの共有からは、個々人の仕事への取り組み方や、得手不得手、価値観の違いまでもが現れます。共感するところまで行かなくても構いません。気づきの違いを知ることが大切なのです。そうすることで、意見の対立があった場合でも、相手の背景を知った上での議論ができますから、お互いに学んで良いとこ取りが出来るようになります。振り返りを行うことで気づきの共有ができれば、対立を避けずに、むしろ実のある対立から新しい物事を発見することも可能になります。
 
 また、「やったこと」「わかったこと」で小さな失敗とそのリカバーについて語れば、失敗の共有が進みます。通常、個人で解決できた小さな失敗は、あえて言う必要を感じないため埋没していきます。しかし大問題と言われるものの多くは、小さな失敗が偶発的に重なることで発生しています(さすがに大問題となることを放置して計画を組むことはないでしょう)。小さな失敗の発生の仕方やリカバーの方法が共有されれば、未然防止に繋がります。これが所謂「ヒヤリハットの共有」というものです。なによりも、小さなことであれ「解決は成功体験」なのですから堂々と共有する価値があるものです。
 

図5:計画立てから学習すること
 
 「計画の見える化」だけはできても、予測される問題への解決策が組み込まれずに、はなから遅れることが見えているような計画立てをしばしば見かけます。計画の見える化は、問題を見えるようにし、事前に解決することが目的です。失敗や遅延が見えている計画にどんな意味があるでしょうか。そのような計画立てでは、計画を立てる時間が惜しくなり、適当なことを並べてしまうでしょうし、メンテナンスされることもなく、よりどころにもならず、問題が生ずる度にまた一から計画を立て直してウンザリする、まるで疲労の素にしかなりません。
 
 皆さんのチームではどのような計画立てが行われていますか? 頼むに足る、迅速に修正の利く、チームで請けた仕事をチームで進める計画があれば、たとえ環境の変化やトラブルがあっても、スムーズに物事が進み、知的で快活なチームとなれます。
 
 次回は、集合知発揮の場についてお話しします。

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筆者紹介

宮澤 毅(みやざわ たけし) Future Management & Innovation Consulting Inc チーフコンサルタント 1961年生まれ、1985年千葉工業大学卒。

1990年電機メーカーの開発者を経て、日本能率協会コンサルティング(JMAC)に入社 2011年JMACグループであるFMIC社へ移籍、現在に至る JMAC所属時から、プロジェクトマネジメント、開発効率化、商品戦略、商品企画、標準化など、 主に開発部門へのコンサルティングに従事し、50社以上のコンサルティング実績がある。 近年は、場のマネジメント(Ba+)による職場チームの知的生産性向上へ注力している。

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