強いチームを育てる

第6回 チームの成長度の評価

概要

組織の「タテのマネジメント」に対し、チームマネジメントは「ヨコのマネジメント」と言えます。タテのマネジメントについては世の中で様々に謳われていますが、実際の職場で働いているのは人であり、各々の職場の「チーム」です。知的で快活なチームは、解くべき課題を正しく見つけ出し、集合知を発揮します。知恵とノウハウは自然に伝承され、応用進化を繰り返し、ひいては事業の発展に貢献することができます。チーム本来の力を取り戻す、チームマネジメントの方法論をご紹介します。

前回は「業務の特徴からみたチームのタイプ」についてふれました。

  • ルーチンな業務
    サイクルで仕事が回るので、個々のサイクルの中での気づきを日々のミーティング等の中で共有し、次のサイクルですぐに試す等の「サイクルアウト」の考え方を用いることが必要となります。
  • 複雑な業務
    業務環境 のIT化が進んだことで、一人当たりの情報量や関連する部門も増しています。ほとんどのチームに「複雑な業務」は存在し、多いチームでは仕事の8割が「複雑な業務」となっている場合もあります。
  • イノベーションな業務
    イノベーションな業務で仕事がうまく進んでいない場合、「課題が見えないまま、とりあえず計画を作り(内容の無い作業計画)進めてしまう。」「事前の準備に時間を割かずとにかく動き始める。」「先を急ぐあまり検討不十分なまま、次ステップに移る。」などが起こっています。

筆者は、これまでしてきたお話を、「強いチームを育てる」ということを目的に、「実務」を対象とした「仕事の計画立てと実行」を通して1年間のチーム活動としてコンサルティングを行っています。

最終回の今回は、チームの成長度評価についてお話します。これは成長度の評価でもあり、成長したチームの姿でもあります。評価は大まかな場合は3段階、細かい場合は25段階で行います。図10「チームの成長度ガイド」は5段階で評価している例です。

 

目次
5、チームの成長度の評価
さいごに

5、チームの成長度の評価

ここでは、解り易いように3段階での評価を説明します。水準1が一番低く、水準3が一番高い状態を表します。水準1にも満たない場合はチームとして成り立っていない状態です。

 

5-1)コミュニケーションの状態

チーム内でのコミュニケーションの質に関する評価です。

水準1:定期的なチームミーティングがある。

定期的にチームミーティングの場が設定され、相互に情報交換がされている場合です。リーダーからの一方的な連絡の場では、ミーティングとはみなされません。

水準2:チームミーティングでメンバー同士の意見交換が豊富になる

リーダーとメンバーの間だけではなく、チームメンバー同士で意見交換やアドバイスがされている状態を指します。これによって、チームメンバー間の相互支援が自律的に行えるようになります。

水準3:チームミーティングでチームや仕事のあるべき姿が議論される

定期的なミーティングの場の中で、その時々の業務に関する話題だけではなく、チームのとしての成長像や、仕事を通じてのスキルアップなどチームと個々人の成長に関することが議論されている状態です。

 

5-2)見える計画づくりの状態

本稿第2回「計画立ての場」で述べた「見える計画」に関する評価です。

水準1:計画で負荷の総量が見えている。

見える計画を立てる過程で、チームメンバー各々の負荷の状態と、チームとしての負荷の総量が把握され、負荷の偏りについて問題視できる状態です。例えば、チームリーダーが仕事を抱え込んでいるとします。チームリーダーの仕事がチームの中では最も多忙になっている状況が見える化され、負荷分散することで、チームリーダー本来の役割に時間を割くことができるようになった状態などを指します。

水準2:課題バラシ→見える計画→問題の事前解決のサイクルが回っている。

開発のデザインレビューや2~3ヵ月後までに達成すべき目標など、次のマイルストーンに向けた課題バラシにもとづいて見える計画が立てられている状態です。計画立ての場で問題や心配事の解決にむけた検討が事前に行われたのちに、日程計画として確定するというサイクルが定着していることを指します。 想定された問題が解決された状態から計画がスタートできるので、よりスムーズに仕事が進みます。

水準3:急ぎの課題と長期的な課題の双方が計画に盛り込まれている。

急ぎの仕事がスムーズに進められるだけでなく、成長に向けた課題が実務の中に位置づいて、計画的にチームが成長している状態です。
例えば、スキルアップというものはすぐには出来ませんし、オンジョブでなければ成り立ちません。(座学の受講では知識はついてもスキルが上がるところまで至らないことがほとんどです)仕事を通してチームメンバー各々にスキルアップの機会が設定され、全員が確実に成長できるような計画を実行している状態を指します。

 

5-3)合意形成と納得の状態

仕事では、合意は出来ても納得はできないということがしばしばあります。合意は「わかった、言うことに従おう」というだけです。一方、納得とは、「その合意に満足している」状態です。チームの中で様々が議論を経て、納得できる状態にすることです。

水準1:リーダーがチームの現状を認識できる

見える化が進む過程で、チームリーダーがチームの現状を踏まえ各メンバーへの負荷の平準化を進めるなど量と質の偏りを是正し、チームメンバー全員が納得して日々の仕事に取り組める状態です。

水準2:リーダー、メンバーが手を打ち、チームの問題を事前に解決できる。

チームメンバー全員が、各々の仕事の状態や誰が何に取り組んでいるかを見える化し、メンバー間で自律的に相互支援(助け合い)を行うことで、問題の発生を未然に防いでいる状態です。

水準3:マネージャを巻き込み、チームの未来に向けた課題に取り組んでいる。

チームで解決できない問題を、マネージャへのエスカレーションを行い意思決定や支援を即すなどの巻き込みをしている状態です。例えば、どう考えてもチームの負荷が一杯でこれ以上平準化も出来ない時に、課長や部長へ依頼し、応援や納期調整などを図ってもらうことや、チーム間での協力をスムーズに進めるための他チームへの要請など、チーム側からマネジメントを動かせる状態を指します。

 

5-4)振り返りの力

振り返りとは反省ではありません。「一カ月間を振り返った時に、うまく行ったことも失敗したことも知った上で、もし一カ月前に戻れる ならばどのように物事を進めるか」ということが振り返りです。しっかりとした振り返りを行うことは、チームメンバー個々人の経験や気づきを共有することに繋がります。やったことは何か、そこからわかったことは何か、従って次にやることはなにかというように、シンプルに振り返り、これを共有します。

水準1:振り返りの場がある。

振り返りというのは、きっかけがないとなかなかできるものではありません。チームとしてメンバー全員参加で振り返りを行う場と持つことで、確実に物事を振り返ることができる状態です。ある意味、強制力を働かせて振り返りを行うというぐらいのことが必要です。

水準2:振り返りの場で本音を言える。

いざ振り返りを行っても、なかなか本音を言えるようにはなりません。成功談は言えても、失敗談を話すには勇気が必要です。本音で失敗談ができれば、「失敗を疑似体験する」ことが可能になり、何よりも学びになります。

また、完全な失敗は少ないでしょうが、「ヒヤリとしたが何とかなった」というようなことはあるはずです。このような、「結果としてはうまく行ったが、失敗しかねない状態だった」ということを振り返り、そこから様々な気づきを共有できる状態を指します。

水準3:タテとヨコのコミュニケーションが活発化し失敗を経験ととらえ次に活かせる。

チームリーダーとチームメンバーの間で、振り返りが共有され、さらにこれが 、マネージャへも見える化された状態を指します。すべてのチームメンバーの「やったことは何か」「そこからわかったことは何か」「だから次に何を行うのか」ということが表出され、チームとしての経験として次に生かされる。さらに、これらが、チームの価値観の背景としてマネージャに伝える場を持てば、先々のマイルストーンの設定や事業目標の設定に活かされるようになります。

図11はチーム活動の途中段階での、あるチームへの評価の事例です。これは筆者が行った評価ですが、この他に、チームの自己評価、マネジメント(課長、部長)から行った時の評価なども加えて、この先どのようなチームとしての成長を行うかという議論に繋げます。これによって、マネジメントとチームの間で、仕事の達成とチーム成長の二つの軸で目標の設定と共有が成されます。このことは、「成長し続けるチーム」への変化をもたらします。ぜひ、読者の皆様もご自分のチームへの自己診断を行ってみてください。

図11

マネージャやリーダーに現状の問題を挙げてほしいと問うと、ほとんどの人がその中の一つに「能力不足」をいいます。しかし、あることを進めるにあたって能力に不足があることは、「問題」ではなく「状態」を表しているものですから、ない物を言っても仕方がありません。また、個々人もチームも実力以上のことはできませんから、必ず歪が生じます。なぜ、「成長が課題」とならず、「能力不足」としてしまうのでしょうか。

目標の達成に向けて物理的に出来ないと解っているのであれば、能力頼みだけではなく、応援の体制や、目標の調整などを早期に行うことができるはずです。課題バラシや問題の事前解決がされた計画がり、チームで解決できることはすべて盛り込まれた「チーム全体の見える計画」があれば、マネジメントの意思決定も容易になります。マネジメントは忙しいのですから、チームからマネジメントへ見えやすくする工夫が必要です。それが見える計画でもあります。

能力以上の事は難しいけれど、成長があれば実力を上げ続けることはできるのです。成長し続けるチームであるならば「能力不足」は時間が解決してくれますから、気にする必要は無いのです。

 

さいごに

昨年の4月末から、約1年間にわたる間、本稿を担当させていただき誠にありがとうございました。筆者の遅筆に耐えていただいた事務局の皆様には感謝でいっぱいであります。このような場を与えていただき、1年間にわたって読んでいただいた読者の皆様に御礼を申し上げます。

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筆者紹介

宮澤 毅(みやざわ たけし) Future Management & Innovation Consulting Inc チーフコンサルタント 1961年生まれ、1985年千葉工業大学卒。

1990年電機メーカーの開発者を経て、日本能率協会コンサルティング(JMAC)に入社 2011年JMACグループであるFMIC社へ移籍、現在に至る JMAC所属時から、プロジェクトマネジメント、開発効率化、商品戦略、商品企画、標準化など、 主に開発部門へのコンサルティングに従事し、50社以上のコンサルティング実績がある。 近年は、場のマネジメント(Ba+)による職場チームの知的生産性向上へ注力している。

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