ITSMスキルを世に活かす~SEは死滅しない!

第2回:サービスマネジメント思考で業務課題を発見する(1)

概要

「脱情報システム部門」「SE不要論」などが騒がれ始め、私たちIT人材を不安にさせている。しかし、過剰な心配は無用。たとえ情報システム部門がなくなろうとも、SEという職種が消滅しようとも、私たちが培ったスキルは、非ITの現場で間違いなく活きる。 この連載では、SEおよびシステム管理者のスキルがIT以外の現場でどう活きるのか? ひいては、IT業界のブランド価値をどうあげていくかをお話しする。「大丈夫。SEは死滅しない!」

目次
ITサービスマネジメントは、非ITの業務改善に役立つ
「ITサービスマネジメントから「IT」を取ってみよう
ITサービスマネジメントから「IT」を取ってみよう

1.ITサービスマネジメントは、非ITの業務改善に役立つ

 
最初に断言します。
 
「皆さん、ITサービスマネジメントができるって凄い事です。自信もって下さい!」
 
私たちにとっては当たり前の、IT運用管理のお仕事。
そこで日々培っている考え方や、ものの見方は、非ITの業務の課題発見や改善にも大いに役立ちます。
 
私自身、アミューズメント業界、住宅業界、建材メーカー、製造業など多岐にわたる非ITの現場で、ITサービスマネジメントを使った業務改善を進めており、日々ITサービスマネジメントの有効性を実感しています。
 
「え、本当にIT以外の現場で役に立つのか?」
 
信じられない?
 
では、話を分かりやすくするために、一つ例え話をしましょう。
 

2.もしもあなたがハンバーガーショップの店長だったら

 
たとえば、あなたがあるハンバーガーショップの店長だったとします。
オーナーの意向に沿い、お店をマネジメントして収益をあげなければなりません。

まず第一に、どんなお店にしたいのか? これをオーナーと会話しながら決めなければいけないですよね。
 
・どんなお客さんをターゲットにするか?
・ハンバーガーだけで行くか?スイーツも揃えるか?
・テイクアウトのあり/なしは?
・平日のみ?土日も営業する?
 
オーナーの思いを捉えて、サービスの方向性を決めないといけません。
これは、すなわち「サービスストラテジ」です。
 
そして、営業時間はどうするか? どんなメニューを揃えるか? スタッフは何人必要か? お客さんから注文を受けてから商品を出すまでの目標時間は? ピーク時と閑散時間のサービスレベルは?
などサービスの具体的な内容を決めなくてはなりません。
どんな食材をどこから調達するか? 仕入先の開拓や管理もはずせませんね。
ITサービスマネジメントで言うところの、「サービスデザイン」が重要です。
 
また、店長は日々発生するトラブルにも対応しなくてはなりません。
 
・お客さんからのクレーム
・調理器具の故障
・在庫切れ
・仕入先とのいざこざ
・「明日、台風来るらしいけれどどうしよう?」
 
ここは「インシデント管理」「問題管理」を代表選手とする、「サービスオペレーション」の出番です。
 
ある日、あなたはオーナーからこう言われました。
 
「そろそろ冬だね。冬にウケそうな、新しいメニュー始めようよ。そうだ、『おでんバーガー』なんでどうだろう?」
 
オーナーの思いつきにつきあうのも、店長の仕事。
あなたは頭をひねって、新メニュー『おでんバーガー』を開発しました。
しかし、開発しただけではダメですよね。
 
実際に店頭で売るには、さまざまな準備が必要です。
 
・調理器具の準備
・スタッフへのトレーニング
・メニュー表への追加
・キャンペーン
・チラシ、インターネットサイト、SNS、のぼりなどでのPR
 
もっとあるかもしれません。
どれか一つでも漏れていたら、新メニューはリリースできません。
 
サービスの変更を、トラブルなくスムーズに実現する。本番稼動できるようにする。そのためには、「サービストランジション」の観点が役立ちます。
 
そして、ハンバーガーショップの運営がきちんと回っているかどうかを測定して→記録して→オーナーに報告する(あるいはスタッフと意識をあわせる)。「継続的サービス改善」をしっかり行いたいものです。
 
 
いかがでしょうか?
 
この5つのアプローチ、私たちシステム管理者はITの世界でごくあたりまえに行っています。
ところが一歩、非ITの仕事をのぞいて見ると。
 
意外とできていない!
 
世の中を見回してみてください。この5つのうちのどれかができていなくて、あたふたしている現場、結構あることに気づきます。
そこにあなたが「ITサービスマネジメント」で手助けしたら? 感謝されること間違いナシです。
 
<図2:ITサービスマネジメントの5つのアプローチ>(クリックすると拡大します。)

3.ITサービスマネジメントから「IT」を取ってみよう

このように、ITサービスマネジメントは、非ITの業界でも役立つ業務改善フレームワークであると断言できます。
 
え、まだ信じられないですか?
では、「ITサービスマネジメント」から「IT」って頭文字をとってみましょうか。
どんな言葉になるでしょう?
 
「サービスマネジメント」
 
そうです。ITサービスマネジメントって、サービスを管理・改善するための仕組みなんです。
それが、たまたまITの世界で生まれて普及しただけ。そう考えてみてはいかがでしょうか?
考えてみれば、いまや私たちの生活はITなしでは成り立ちません。
電気、ガス、水道、金融、物流、航空、鉄道、最近では農業まで。
それらのインフラを毎日「当たり前」のように使えているのは、ITサービスマネジメントがあってこそ。
そのフレームワークが、素晴らしくない訳がない!
 
このマネジメントフレームワーク、IT業界の中だけでとどめてしまったらもったいないと思いませんか?
システム屋、もっと世の中に貢献できると思いませんか?
 
そして、私たちシステム管理者のプレゼンスをもっと上げませんか?
 
 
それは、私たちシステム管理者、一人ひとりにかかっています!
 
 
今回はここまでです。
第3回目以降では、「サービスレベル管理」「インシデント管理」「問題管理」などITサービスマネジメントの具体的な管理項目に着目し、実際に非IT業界の改善にどう役立つかについて、実例を交えてお話します。
 
 
最後に、もう一度繰り返します。
 
「皆さん、ITサービスマネジメントができるって凄い事です。自信もって下さい!」

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筆者紹介

沢渡 あまね(さわたり あまね)
1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表。業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。


日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演・コンサルティング・執筆活動などを行っている。NTTデータでは、ITサービスマネージャーとして社内外のサービスデスクやヘルプデスクの立ち上げ・運用・改善やビジネスプロセスアウトソーシングも手がける。


現在は複数の企業で「働き方見直しプロジェクト」「社内コミュニケーション活性化プロジェクト」「業務改善プロジェクト」のファシリテーター・アドバイザー、および新入社員・中堅社員・管理職の育成も行う。これまで指導した受講生は1,000名以上。趣味はドライブと里山カフェめぐり。

【ホームページ】
あまねキャリア工房

【ブログ】
・はたらきかた「プチ」改善
・業務改善娘

【主な著書】
「新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!」
「新米主任 ITIL使ってチーム改善します!」
「新入社員と学ぶ オフィスの情報セキュリティ入門」(共著)
「職場の問題地図」
「「草食系」社員のためのお手軽キャリアマネジメント」

【連載】
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