DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力①

第1回 DX推進の必須条件!デジタルより大事なたった1つのこと

概要

「DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力」で紹介した内容について、 DX推進する上で欠かせない知識とマインドを8人の専門家がお伝えします。

目次
「デジタル」が付くのにデジタルより大事なことがある?
わからない・使えない…職場を壊す間違ったDX
間違ったDXをしない唯一の条件
「DX推進リーダー人材」に求められる役割
DX推進リーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力
最短でDX推進リーダー人材を育成するための2つのカギ

「デジタル」が付くのにデジタルより大事なことがある?

ここ数年、バズワードになって久しいDX(デジタル・トランスフォーメーション)。DXが叫ばれ、経済産業省が発表している「DXレポート」でも「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開を求められてきました。しかし、我が国のDXの進捗は必ずしも順調とは言えません。ただ、奇しくもコロナ禍によりテレワークが一気に浸透したこともあり、DXを実感したビジネスパーソンが多くなったのは事実です。 
とはいえ、まだ日本のビジネスシーンにおいてDXは道半ば。2025年まで残りわずかである背景を鑑みてもDX推進を急がなくてはいけない状況になっています。

「じゃあ、我が社もデジタル・トランスフォーメーションしなくては!」

と決意されることは素晴らしいです。
ですが、ちょっとお待ち下さい。実際に現場でDX推進するために、貴社ではいったい何をどのように実行しなければならないと思いますか?
この質問に対して

「最新システムへの刷新やデジタル機器を導入することだ」
「大手企業で話題のシステムの記事を読んだ。そのシステムを導入したら解決できるのでは」

と連想された方は要注意です。もしかしたら「DXの落とし穴」が待っているかもしれません。

DXはデジタルの冠がついた名の通り、ITやシステムなどテクノロジーが必要になります。しかしあくまでそれは手段のひとつであって目的ではありません。また、企業・業界・現場のITの浸透度によって課題が違うため、隣の会社やライバルの会社と同じ答えは通用しないケースがほとんどです。

なのになぜ、このような回答になるのでしょうか。実はデジタルより大事なことが見落とされているからです。
デジタルより大事なことが1つだけあるのですが、このたった1つのことを無視してシステムだけを導入すると大変なことになってしまいます。

わからない・使えない…職場を壊す間違ったDX

これからお話しすることはとある架空の会社でのシーンです。

新年度になり、DXに対して予算がつくことになりました。「今年こそ社内のDXを完成させるぞ!」と息巻くのは情シス担当者。以前から目星をつけていたT社の最新システムの見積もりを獲得。予算がついたこともあり、社内で話がトントン拍子に進み、稟議が降りることに。

そしてついに念願の最新システムを導入しました。設置が完了し「ようやくDXで会社の業務が効率化できる!」と情シス担当者が達成感に浸った…。その直後、

「この機能、画面のどこにあるの?」
「東北支店です。このシステムにつながらない!」

わからない、使えない、と各部署や遠方の支店から社内電話が殺到。あいにく情シス担当者は一人だけ、相次ぐ問い合わせに振り回されてしまいます。

「おかしい…部課長に説明会を行って、オンラインでマニュアルを共有したのに。」
と嘆いていたところにまた電話。「Y部長が、まったくわからん!とお怒りで…」と参加した部長までもがわからないと怒り出す有様。
「あぁ、Y部長、説明会のときに居眠りしていたような…」

さらにこの混乱が引き金となり、ある部署で納期遅れが発生して顧客から大クレームを浴びることに。情シス担当者までもが顧客先にお詫び行脚する羽目になりました。

…これは架空のストーリーですが、似たようなケースをなんとなく聞いたことはありませんか? さて、この会社はどこで間違ったのでしょうか? これは「DX=デジタル機器や最新システムを導入したら解決」が誤っていた最たる例です。

デジタル機器を導入することは最終的に必要です。しかし、先のストーリーのようにデジタル機器を導入することが目的になってしまっていることが問題なのです。
「DXはデジタルありきだから」と単純に考えてしまうと目的と手段が混同してしまい、大きな失敗を招いてしまいます。

また、
「DX推進していそうな企業に問い合わせてDXについての相談をしていたはずなのに、気がついたら相手先のシステム導入の商談へと進んでいた」
「いつの間にか社長が薦めてきた会社のシステムの見積もりが進んでいた」
となった場合も要注意です。職場を壊す「間違ったDX」の序章が始まってしまうかもしれません。

納入してもらったシステムに問題がないはず、としたら
・どこに落とし穴があったのか
・本当にシステムは会社の未来のためになったのか
・会社のビジョンや目的にあっているのだろうか。 

間違ったDXをしない唯一の条件

職場を壊してしまいかねない間違ったDXには、さらに決定的な問題があります。社内人材がDXについて理解できないままDX推進してしまうことです。
先のストーリーでは、情シス担当者だけがDX推進や最新システムを理解できていた状態で、肝心の現場の社員への浸透が進んでいなかった状態でした。マニュアルを渡して説明会を開いて終わり…ではDXはおろか導入するシステムに対応できる人材すら育成できません。

結論から言うとDXに対応できる「DX推進リーダー人材」を育成することが間違ったDXをしない唯一の条件です。もちろん手段と目的を混同させないことも重要ですが、それ以上に現場の社員がDXに対応できない人材ばかりでは、たとえ目的・手段に整合性がとれていたとしても現場が混乱してしまいます。

社内に対応できる人材がいれば、DX推進する上で強力なリーダーの役割を果たします。一人では負担が大きくなるため、理想としては社内にDX推進リーダーの役割を果たす人材が数名いることが望ましいでしょう。その人数が多ければ多いほどDX推進のスピードが加速度的に進むからです。

ただ、いきなり社員全員をDXに対応できる人材に育成するのは難しいのが現実です。DXはなにも情シスやマネージャー、経営者だけの問題ではありません。現場の社員まですべて抵抗なく対応できること、合意形成が前提ですから。隅々まで対応できることが求められます。ましてや支店・拠点が複数あると困難を極めるでしょう。

したがって、まずは社内に数名のDX推進に対応できるリーダー人材を育成しましょう。これが間違ったDXをしない唯一の条件となります。

「DX推進リーダー人材」に求められる役割

では、DX推進リーダー人材は何ができればよいのでしょうか。これまでお話ししたとおり最新システムが使えればそれでOKではありません。

そもそもDXの目的は「X」のトランスフォーメーションにあります。現状の状態から会社をどのように成長させたいか、あるいはどう変革させたいかのビジョンを経営者とともに共有しておく必要があります。経営の方向性を決めるのは経営者の役割ですから、ビジョンから逸脱していては元も子もありません。ビジョンに沿って、成長・変革のDX戦略を構築する必要があります。

次に、明確になった方向性をもとに最適なソリューションを選択し、社員に展開できるよう推進していくことが求められます。社内で合意形成した上で、導入するデジタルを社員全員が身につけてもらうように動くことが大事です。特に導入初期は社内が混乱することが予想されるため、混乱を最小限にするために段取りからアフターフォローまで緻密に計画し、実際に遂行していくことまで求められます。

これらの役割を遂行することにより、社員全員がデジタルを意識せずに仕事に集中できる「デジタルの民主化」が達成できるでしょう。DX推進においてデジタルという強力なツールで武装することも大事ですが、現場で働く人達が変革していくことに対して合意形成を行っていくことがなにより欠かせません。

DX推進リーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力

DX推進リーダー人材を育成するには具体的にどのような能力が必要でしょうか。次の5つの能力が必要であると定義します。

1:革新性・創造性
文字通り、DXで新たに変革、創造していく考え方です。変革、創造していく上で欠かせないデジタル・トランスフォーメーションなどの理解、イノベーション、スタートアップ、リーン手法などが必要とされます。

2:実現性・計画性
DXを推進するための考え方や計画、実現するアイデアや構築システムを提示する能力です。PoCなどが該当します。

3:生産性・付加価値
生産性・付加価値なきDXはいわゆる間違ったDXになるため生産性・付加価値は非常に重要です。必要となる技術やサービス(IoTやAIなど)の導入、デジタル化した場合の生産性や原価、人的レベルの考え方などが該当します。

4:継続性・人材育成
変化のスピードが速い昨今、DX推進を通じた事業の継続性や仕様変更など可変性、不確実な未来への対応が求められます。DXを推進する人材の育成として考え方・手法など一定の能力が求められます。

5:共創・顧客視点
社内・社外の連携、パートナーとの共創意識、合意形成など。顧客の価値に立脚した視点でのものづくりなどが該当します。顧客あってこそのビジネスになるため、時に顧客と共に創造していくマインドや顧客視点での考え方が欠かせません。

以上5つがDX推進リーダー人材に欠かせない基礎能力となります。
では、これらの基礎能力はどこで身につければよいのでしょうか。

最短でDX推進リーダー人材を育成するための2つのカギ

DX推進リーダー人材に必要な基礎能力を身につけるにはある程度専門の教育機関で習うことが望ましいですが、誰しもができることではありません。
ただ、これらはポイントを押さえていけばそれほど多くの負荷をかけること無く学ぶことができます。したがって社内で数名単位の勉強会を開いていくくらいから始めるのが望ましいでしょう。リーダーとして育成したい人材を選抜し、同じレベルで育成することができるからです。

ただし、勉強会で学ぶにも時間をかけ過ぎたり、そもそも勉強の方向性が間違ってしまっては元も子もありません。できる限り方向性を間違えずに最短で進めていくには「適切な専門家」「マインド」の2つがカギとなります。

適切な専門家とは、巷でよくあるDX推進アドバイザーを名乗りながらシステム販売をすることが目的の営業担当ではありません。DXを推進するためのDXの専門知識を備えたDX推進専門家のことを指します。また、DX推進する上での正しいマインドも必要となります。これまでお伝えしたとおり、そもそもの考え方が間違ってしまったら最後まで間違ったDXを進めてしまうからです。

適切な専門家やDXコンサルタントによるDX推進の基礎知識とDXにおけるマインドの2つこそが、適切かつ最短でDXを達成させるカギとなります。

このコラムのシリーズでは「DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力」で紹介した内容について、DX推進の専門家によるコラムをお届けします。
DX推進する上で欠かせない知識とマインドを5人の専門家がお伝えしますので、次回からのコラムもどうぞお楽しみください。

参考資料

経産省「DXレポート2」
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-3.pdf

経済産業省「DXリテラシー標準」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/DX_Literacy_standard_ver1.pdf

+DX認定資格(5つのスキルカテゴリ参照)
https://www.iotcert.org/plusdx/

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筆者紹介

近森 満(ちかもり みつる)
DX時代の人材育成・教育支援を行う株式会社サートプロ代表取締役CEOとして、IoT検定制度委員会 事務局長、経済産業省地方版IoT推進ラボ・メンターとして、中小企業・製造業向けにIoT人材育成の啓蒙活動を行う。

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