システム管理者が知って得するDX推進に役立つIoT・AIの技術と運用⑧

第8回 IoTプラットフォーム

IoTは、AI、ロボティクス、ビックデータなどの第4次産業革命を支える技術として注目を浴び、それらが連携し合って、新たな社会を創り出す役割を担っています。そんな期待感も、いまでは様々な実用例も出てくることで、ごく一般的なシステム構成の一つになってきています。
IoTをシステムとして利用するには、センサデバイス、ネットワーク、データ分析、セキュリティなど多彩な技術要素を組み合わせて実現する必要があり、そのすべてをスクラッチで一から構築していくには限界があります。スピードが要求される現代において、いかに迅速に、かつ安定的なIoTシステムを構築していくためには、「IoTプラットフォーム」の活用が必要不可欠になっています。今回は、IoTプラットフォームについてみていきましょう。

目次
■IoTシステムの構成技術は、多岐にわたる
■IoTプラットフォームを活用しましょう

■IoTシステムの構成技術は、多岐にわたる

IoTはSociety5.0(超スマート社会)の実現を目指すために第4次産業革命の柱となる他の技術とともに用いられます。その働きは、私たち人間が生活する現実世界の事象をセンサなどでデジタル化し、それをコンピュータの世界で分析、解析した後、再度現実世界にフィードバックすることで私たちに何らかの価値を提供してくれます。(図1)このような仕組みをCPS(Cyber Physical System)と呼び、IoTでシステムを構築するということは、CPSでシステムを構築すると言っても過言ではありません。

図1.IoTシステムの全体像とCPS(Cyber Physical System)

では、このようなシステムを構築するには、どのような技術要素が必要になるでしょうか?主なものをあげると以下のとおりです。

①デバイス技術(センサ)
私たちが生活するこの現実世界において、対象となる様々なデータを把握することから始まります。取得したいデータに応じたセンサを用いて、データを収集する制御装置が必要となります。一般的には組込み系のデバイスを用意します。屋外に設置して利用することが多いため、雨や埃などの自然環境を考慮したり、消費電力を考慮したバッテリー運用などに注意をする必要があります。

②ネットワーク技術(特に無線ネットワーク技術)
多数設置したデバイスで収集したデータは、インターネット上のクラウドに用意したサーバに一元管理され、分析します。そのため、デバイスからサーバに対して、ネットワーク経由でデータを送受信する必要があります。センサを搭載したデバイスは、屋外に設置しているケースが多いため、ケーブルを接続した有線ネットワークを用意することが困難です。そのため、IoTでは無線ネットワーク技術が特に重要です。

③クラウド技術
センサデバイスで収集したデータは、一元管理し、データ分析等で活用します。様々な場所に設置されたセンサデバイスのデータを、どこからでも簡単に一か所に集中管理できる環境を用意する必要あります。現状では、クラウドが一般化されていますので、クラウドサービスを利用したIoTシステムの構築が容易に行えます。クラウド上では分散処理技術などが重要です。

④データ分析技術(AI・ビッグデータ)
クラウド上のサーバには、多種多様なセンサデバイスから絶えずデータが届き、蓄積されていきます。これらの大量なデータから、傾向を分析したり、特徴を見つけ出したりすることが求められます。そもそも大量なデータを効率的に、かつ効果的に利用するためには、ビッグデータの技術が不可欠です。また、データの分析にあたっては、人間が探索的に特徴などを見つけるには限界があるため、機械学習などAI技術を活用し、コンピュータに分析や解析を実行させることが重要です。

⑤セキュリティ技術
IoTシステムに限らず、現在私たちが日常的に利用しているシステムは必ずセキュリティ対策が施されています。IoTでは、多数のセンサデバイスからインターネットを介してデータが届きますが、悪意のあるユーザからのデータをセンサで収集した値と勘違いすることで、分析結果が誤り、異なった対応を実行してしまう危険性があります。そのため、データの送信元を確認するための認証技術などセキュリティ技術が重要です。

主なものをあげただけでもたくさんの技術が必要であることがわかります。これらをすべて一から準備するとなると、途方に暮れてしまいます・・・

 

■IoTプラットフォームを活用しましょう

IoTで実現したいことは、システムによって様々ではありますが、システムの仕組みとしては共通な部分はたくさん存在します。それら共通部分を個別に開発すると、システムが完成するまでに相当な時間がかかってしまうため、現状の世の中のスピードについて行けず、ビジネスとしても敗退してしまいます。そこで、様々なベンダーがIoTシステムの基盤となる共通部分の仕組みをIoTプラットフォームとして提供しています。ベンダーによって、提供している技術要素の範囲は異なりますが、これらを利用することで、IoTシステムとして提供する価値の部分のみの開発に専念することができます。従来のような業務システム開発においても、コンピュータの構成要素の中でシステム基盤(ハードウェア、OS、ミドルウェアなどアプリケーションを動作させるためのプラットフォーム)や、フレームワークなどのアプリケーション基盤については自らで開発せず、ベンダーやオープンソース等で提供されている製品を利用するのと同じです。(図2

図2.IoTプラットフォームの位置づけ

IoTプラットフォームとして提供されている主な機能は以下のとおりです。

①デバイス管理
IoTでは、センサを搭載した多数のデバイスを利用するケースがあり、それらを1台1台管理していくことは運用上大きな労力が必要となります。そこで、各デバイスの稼働監視、フォームウェア更新、デバイスの停止・再起動などを遠隔から一元的にコントロールする機能が用意されています。

②データ収集
IoTデバイスで収集したデータは、インターネットを経由してクラウドへと渡されますが、その際データを受け渡すゲートウェイの仕組みが必要となります。HTTPだけでなく、データサイズの小さなIoTのデータ転送に最適なMQTTなどを提供しているものもあります。

③クラウドサービスとの統合
クラウドに収集されたデータをクラウド上に用意したアプリケーションに連携し、目的に応じたサービスを実現します。ルールベースの条件を設定して処理を呼び出したり、RESTを用いて自クラウドや他のクラウドなどに用意しているアプリケーションに連携するものもあります。

④データ分析・データ解析
IoTデバイスから収集した多数のデータをビッグデータとして扱い、データの特性を把握したり、データから現実世界の状況を分析、解析します。データ分析や解析には、BIツールによる可視化や、AIを用いた自動判別などの仕組みが提供されています。

⑤デバイス認証
ユーザがクラウドサービスを利用する際に、アクセスが許可された本人からの接続であるかどうかを確認する認証を行います。それと同じように、IoTではIoTデバイスが収集したデータをクラウド接続して送信します。そのため、意図しないデバイスが不正に接続して、悪意あるデータを送信できないように、IoTデバイスについても認証を実施してセキュリティを確保します。

現在、IoTプラットフォームの提供するベンダーはたくさんありますが、代表的なサービス名をあげておきます。

・AWS IoT : https://aws.amazon.com/jp/iot/
・Azure IoT : https://azure.microsoft.com/ja-jp/overview/iot/
・IBM Watson IoT Platform : https://internetofthings.ibmcloud.com/

 

これからIoTシステムを構築しようとお考えの方は、安心、安全で多彩な機能を持つIoTプラットフォームを活用して、スピード感をもってIoTに取り組んでみませんか?その際は、実現したいIoTシステムに必要なサービスを提供してくれるIoTプラットフォームを見つけることが重要です。

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筆者紹介

松尾 圭浩(まつお よしひろ)
1994年大阪府立工業高等専門学校電気工学科卒業。社内業務システムの開発、運用、IT系講習会の講師としてこれまで従事。
現在は、ETロボコン関西・北陸地区事務局局長、IoT検定ユーザー試験開発WGメンバー、ET & IoTカンファレンス委員として、初級組込み技術者の教育支援を行う傍ら、 自らも資格取得を精力的に行い、2021年12月に資格試験通算300勝を達成。これからも、コツコツ「一生勉強」の精神で突き進んでいく。

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