システム管理者が知って得するDX推進に役立つIoT・AIの技術と運用⑥

第6回 IoTのネットワーク

第3回でシステム運用での品質の概念と定量的評価の重要性について説明しました。第4回では品質を測るツールを説明します。
ツールはいくつかあり、代表格がPDCAとOODAです。個人的な感覚では、運用業務全体の継続的改善を主体に考察する際は、OODAよりもPDCAが向いていると思いますので、ここではPDCA中心で話を進めていきます。但し個人レベルでの自発的業務改善にはOODAが有利とも思いますので、興味があれば調べてみてください。

目次
身近なネットワークの例
IoTで使われる通信技術
IoTネットワークの構成
最後に

身近なネットワークの例

普段よく利用するインターネットの世界では、広範囲のエリアに対して高速で大量のデータをやり取りできることが求められます。使われている通信規格のWi-Fiや4G/LTEも新しい規格が出るたびに高速化が実現されています。一番身近な携帯電話で使われる移動通信システムでは凡そ10年ごとに新しい規格が登場し、通信速度も飛躍的に向上しています。

*図1 移動通信システムの変遷
出典: IoTの仕組みと技術がこれ一冊でしっかりわかる教科書

近年では、次世代の移動通信システムとして5Gが注目を浴びています。特徴は10Gbpsを超える高速通信、多接続、低消費電力、低コストと、自動運転やスマートシティなど身の回りのありとあらゆるモノがインターネットに接続する、IoT 時代に求められる通信システムとして期待されています。

5Gの活用という面で、現在実用化に向けて様々な実証実験が行われています。最近ではラグビーワールドカップ2019で4Kカメラの映像を生中継番組に利用する実験が有名です。東京オリンピックでもAR(拡張現実)技術と組み合わせた観戦方法が企画されていましたが、こちらは残念ながら一般公開は実現されませんでした。これからも様々なところで実証実験が行われていくと思いますので、見つけた際には体感してみて下さい。

この他にも、近距離で1対1の通信に使われる通信規格として、PCとキーボード、スマートフォンとイヤホンなどで使われるBluetooth、どこを向けても操作できるRFリモコンで使われるZigbeeなどの技術があります。これらの近距離通信の技術は、消費電力が小さい特徴を活かして、IoTネットワークでも利用されています。

 

IoTで使われる通信技術

IoTネットワークの場合は、1つのデバイスあたりの通信量が少なく、多数のデバイスと通信を行う特徴あります。そのため電池で動く省電力性や、ケーブルの設置が不要な無線通信、通信コストや通信機器の低コスト化などが求められます。
また電力供給が難しく携帯回線が届かない屋外や地下、山間部などで、広域にわたってモニタリングを行うIoT ネットワークを構築する場合では、長距離の通信が出来ることも求められます。

そんなIoTネットワークで省電力ながら長距離通信が行える通信技術として、省電力広域ネットワークと呼ばれるLPWA(Low Power, Wide Area)の技術が利用されています。通信規格として、LoRaWAN、Wi-SUN 、SIGFOX、NB-IoTなどの種類があり、細かく見るとそれぞれに周波数帯、通信距離、省電力性、通信速度などに差がありますが、電池だけで年単位の長期稼働ができたり、数Km~数十Kmの長距離通信ができたり、通信料が無料または安価であったりと、IoTに求められる特徴を備えています。

これらの通信技術は他にも多くの規格がありますが、どの企画が優れているのかではなく、それぞれに特徴やメリット/デメリットがあります。IoTネットワークを構築する際には、システム全体の目的達成のために、それぞれの特徴を活かしながら適材適所で選択をする必要があります。

*図2 通信規格ごとの位置づけ
出典: IoTの仕組みと技術がこれ一冊でしっかりわかる教科書

 

IoTネットワークの構成

ここからは、IoTネットワークを構築する場合に使われる技術や構成についてお話していきます。

野外での環境モニタリング(温度・湿度・照度・雨量)、店舗やビルの照明や空調の監視など、離れた場所からセンサー情報をモニタリングするセンサーネットワークでは、大量のセンサーデバイスが少量のデータを送信する特徴があります。このようなセンサーネットワークを構築する場合、センサーデバイス間でデータを中継して、バケツリレーのように渡す、マルチホップの技術が使われます。
マルチホップで渡されたデータは、ゲートウェイを通してインターネットへ接続し、サーバーやクラウドサービスにデータが蓄積され、遠隔地の様子を離れた場所からパソコンやスマートフォンでモニタリングすることができるようになります。

*図3 マルチホップ通信のイメージ図
出典: IoTの仕組みと技術がこれ一冊でしっかりわかる教科書

マルチホップの技術を活用すると、ゲートウェイと直接通信することができないセンサーノードと中継するセンサーノードを経由して、通信を行うことができます。また、1つの経路で通信障害が起きた場合に、別ルートを経由することで通信を行うことができますので、通信の信頼性を向上させることができます。

またIoT では、例えば監視カメラの映像などの画像データや、機械の稼働情報などのデータなど、センサーデータよりも多量のデータを取り扱い、多数のデバイスと通信することがあります。また取得したデータをAI(人工知能:artificial intelligence)で処理し、自動的に稼働している機械で停止させるなど、瞬時に判断するような活用方法があります。

このように多量のデータを通信する場合、全てのデバイスが直接インターネットに接続すると、ネットワークやサーバーの負荷が大きくなるといった、IoT ならではの課題が出てきます。そこでインターネットに接続する前に、処理能力の高いコンピューター(エッジ)を設置してデータを処理する、エッジコンピューティングやフォグコンピューティングの考え方が利用されています。

*図4 エッジコンピューティングとフォグコンピューティング
出典: IoTの仕組みと技術がこれ一冊でしっかりわかる教科書

エッジコンピューティングとは、デバイス側にエッジ端末を設置しIoTプラットフォームにデータを送る前にエッジ側でデータ処理を行います。エッジ端末でデータを処理することで、ネットワークやサーバーの負荷を低減、データ処理のリアルタイム性を確保、通信料やクラウドサービス利用料金などのランニングコストの低減といったメリットがあります。またインターネットに出す前にデータを加工し、必要なデータだけをインターネットで通信することができるため、セキュリティの観点からもメリットがあります。

フォグコンピューティングとは、米Cisco Systems 社が提唱した、複数台のエッジを利用して分散処理を行う考え方をいいます。クラウド= cloud(雲)との位置関係からフォグ= fog(霧)という表現が使われています。メリットの面ではエッジコンピューティングと同じですが、エッジコンピューティングより大量のデータを扱うことができたり、複雑な解析などを行うことができたりと、大規模なネットワークを構築する際に用いられることが想定されています。

このようにネットワークの構成についても、利用シーンやシステムの目的に合わせて、適したネットワークの構成を組む必要があります。また将来的な拡張性を見据えながら検討していくことも大事になります。

 

最後に

ネットワークは機器同士を通信させ、システムとして動かすための手段になります。様々な手段があるなかで、利用シーンや目的に合わせて、適切に選択することが求められます。しかし、IoT時代では新しい技術が出てくるスピードも早く、情報だけで理解していくことは難しい部分もあると思います。

そんな時は、まずは触れてみて自分が体験することで理解を深めることも大事になると思います。私もLPWA(Low Power, Wide Area)が注目され始めたとき、本当に数十キロの通信ができるのか疑問だったので、自分で実験をしてみたことがあります。通信距離以外にも、雨が降っていたらどうなのか?直線距離ではなく街中ではどうか?ビルの上下階では通信出来るか?など、体験をすることで気づきを得ながら理解を深めていきました。

新しい技術が出ると壁を感じてしまうこともあるかもしれませんが、IoT時代は安価で試せる環境が整っていることが多いので、まずは色々と試しながら様々な技術に触れてみてはいかがでしょうか。

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筆者紹介

田代 博之(たしろ ひろゆき)
アクシアパートナー代表。
中小企業診断士。

商社、SIerなどで営業のキャリアを積みながら、製造業を中心としたITやIoTの導入に関わる。現在では中小企業に向け、多様な営業経験を活かした営業戦略策定や営業力強化、販路拡大、IT/IoT/WEBの活用を中心に活動中。ミャンマーでのオフショア開発やビジネスプロセスアウトソーシング事業も支援中

主な著書(いずれも共著)
「IoT しくみと技術がしっかりわかる教科書」 技術評論社

【主な著書】

「IoT しくみと技術がしっかりわかる教科書」
技術評論社

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