システム管理者が知って得するDX推進に役立つIoT・AIの技術と運用④

第4回 IoT関連の産業システム

目次
IoT関連の産業システム
IoT活用の方向性
PoC(実証実験)をすすめます

IoT関連の産業システム

 IoTは、身近な分野で使われています。ここでは、身近な分野から産業(特に製造業)でどのように使われているか解説します。 

家庭で使うIoT からスマートホームへ

 例えば、エアコンが快適な温度を保つのは、センサーがエアコンに組み込まれており、センサーが温度を測定して、指定された温度になるようにエアコンが調整しています。センサーと制御装置の組み合わせというのはIoTの基本です。

 このエアコンがインターネットに接続されていると、外出先からエアコンのOn/Offや温度の設定ができます。例えば夏の暑い日に、自宅に帰る前にエアコンをつけて部屋を涼しくすることや、飼っているペットが部屋の中で熱中症にならないようにエアコンをOnにする、などはスマートフォンで操作ができます。

 IoTの技術を使えば、エアコンだけでなくLEDの照明やテレビなどの家電は、スマートスピーカーを使って音声で操作ができます。料理や育児など手が離せない時に声だけで操作ができるのは、家庭内のちょっとしたストレスを軽減できます
 家庭で使うIoTと考えるとスマートロックという扉の鍵が発売されています。仮に鍵を持っていなくても、スマートフォンを使いドアの施錠や開錠を行うことができます。これを使って家族や親しい友人のために外出先から解錠や施錠を行うことができます。

スマートスピーカー

出典: IoTの仕組みと技術がこれ一冊でしっかりわかる教科書

 私は少し高血圧気味ですので、毎日血圧計を使っています。また健康維持のために体重を測っています。体重や血圧を測るのは良いのですが、紙に書いたりパソコンで入力したりして管理するのが大変です。そのような方のために体重計や血圧計などで測定するとBluetoothと言う無線通信よってスマートフォンに蓄積することができます。

 スマートフォンにはデータが蓄積されます。データを後で見返すことで、体重の増減や血圧が安定しているかなどを自分で確認することができます。

 スマートフォンに蓄積されれば、自分が確認するだけでなく、医療機関での診察時や健康診断の時に血圧や体重増減を診てもらうことができます。

 これらは社会全体で見ると、医療費の増加や医師不足を背景にした健康管理推進につながります。今後は、病気を治すということから病気を防ぐということに変わっていくでしょう。健康状態を見える化することで、生活習慣病の予防や改善に役立てることができます。

生活習慣病の予防や改善の例

出典:経済産業省におけるヘルスケア産業政策について(経済産業省)

 生活習慣の予防ということであればウェアラブル端末が有効な手段です。腕時計やメガネ、ペンダント型などの身に付けるウェアラブルデバイスは、価格が低下していて気軽につけることができます。スマートフォンと連動し、電話の着信通知やSNSやメールの通知機能を備えており、情報を手軽に確認することもできます。また、心拍数や活動距離などの測定や記録ができるため、健康促進のために広く浸透してきました。

 マラソンランナーを始め、ビジネスで日々忙しい方たちもウェアラブル端末をつけることが多くなってきました。

 スポーツをする方には着衣型のウェアラブルデバイスがあります。シャツや靴などの着衣型ウェアラブルデバイスはこれらの用途を拡大し、スポーツ分野でも活用されています。フィルム状の導電素材を使った衣料は、心拍数の他、加速度などを測定して、筋肉疲労度やストレス、緊張度などを把握することで、スポーツ選手の状態を管理できます。
 これらのウェアラブルデバイスは、東京オリンピックを契機に、ますますの進展が期待されています。

 

IoT活用の方向性

 「DX=IoTが全てではない!」ということは前回お伝えしました。
 (https://www.sysadmingroup.jp/kh/p24126/)
 では、DX推進には、どの分野でIoTが活用できるでしょうか。

 最もわかりやすい例としては、製造業の「見える化」と「新サービス」です。「IoTの仕組みと技術がこれ一冊でしっかりわかる教科書」では、プロセス・イノベーションとプロダクト・イノベーションと表現しています。

プロセス・イノベーション

 プロセス・イノベーションとは無駄の削減やコスト削減、またこれまでの仕事のやり方や、生産手法を変えることで業務や作業のプロセスにイノベーションを起こそうとしています。
 製造業ではインダストリー4.0というコンセプトのもとに、あらゆるものをデータ化し、データを活用する仕組み作りを進めています。

 製造業でのデータ活用の第一歩は、生産状況の見える化です。

 IoTを活用して生産状況を見える化し、人と設備の効率的な活用を行い、人材不足の状況において短期間で導入効果を得られる利点があると考えられます。

 これは、モノの作り方を変えていくという視点に立てば、ひとつの DX の形であるといえます。

プロセス・イノベーションの事例

 見える化の簡単な事例は、NC旋盤やマシニングセンターなどの設備からデータを取得して活用することです。新しい設備であればLANケーブルを挿すだけで、その設備が「加工しているのか」「停止しているのか」「機械のメンテナンス中なのか」といった情報が取得できます。これにより何時から何時まで加工していたかということが数値として取得できます。このデータと日報を突き合わせ、どのお客様の何の製品にどの程度時間がかかっていたかということが把握できます。

しかしそのようなデジタルデータを取得できない機器設備の場合はどうすればいいでしょうか。
この時に使えるのが IoT です。

 ここで、古い設備にセンサーを取り付けたA社の事例を紹介します。
 A社は布を等間隔に切断する切断機を持っていました。
 この設備が古いため、切断回数やスピードなどが把握できず、原材料である布の交換タイミングがわからず、作業者が目視で布の交換タイミングを確認していました。

 そこで、この切断機に光センサーを取り付け、切断する刃の上下運動により、光を遮る回数を把握することにしました。これがうまく稼働し、切断機の切断回数を把握することができました。
 この取り組み事例では、光の当たり具合などを試行錯誤して決める必要があります。A社では従業員の改善活動の一つとしてこの取り組みを進め、試行錯誤を従業員が行うことでノウハウを蓄積し改善し続けると言う仕組みを作ることができました。

プロダクト・イノベーション

 プロダクト・イノベーションとは、新しい製品やサービスを開発することで、顧客に新しい価値を提供することです。

 IoTを使った新サービスの例では、コピー機とトナーの関係のような消耗品のメンテナンスサービスがあります。企業が生産している製品によっては、摩耗や時間により部品が消耗する場合があります。このような製品にIoTを組み込み、消耗品交換やメンテナンスを自動的に行う新サービスが実現できます。

 製造業がサービス業も行い、顧客に新しい価値を提供することができるのです。IoTを使い、新しい顧客価値を提供することで自社のビジネスモデルを変えると考えると、これもまた DX の一つの方向性と言えます。

 この新サービスを提供したB社の事例です。
 具体的には、モーターで水や粉を移動させる設備です。このとき、ホースやフィルターが少しずつ消耗したり汚れがついていきます。このため定期的にホースやフィルターを交換する必要がありました。

 利用者は、自社の感覚だけでフィルターの交換タイミングを考え、この企業にフィルターの交換を依頼していました。
 水や粉を使うと書きましたが、ジュースなど飲料を移動させる設備も販売しているため、年間で考えると夏季の使用頻度が多く冬季は少なくなります。

 このためホースやフィルターなどの消耗品の交換は、夏前が最も頻繁に行われます。
 B社からすると消耗品交換は、年間を通して一定である方が交換要員の稼働率が安定します。これらのことから消耗品の交換時期を企業側で知り、「そろそろ交換時期ですよ」という案内を送りたいという要望がありました。

 この要望を受けて、IoTの観点から考え、ホースやフィルターが消耗したことをセンサーで感知し、インターネット経由でフィルター交換時期を予知するサービスを開発しました。

 この新サービスを開発することで、顧客の満足度を向上させただけではなく、自社の交換要員の稼働率も安定するようになりました。

 

PoC(実証実験)をすすめます

 事例企業のように自社で進めることができた背景には、IoTの検証にはPoCという概念があるためです。PoCはProof of Concept(概念実証)と呼ばれ、IoTのサービス提供に於いてアイデアの実証を目的とした、試作開発の検証ツールが様々なメーカーから出ています。

 例えば、部屋の温度や湿度を遠隔で監視し、異常値があった場合にメールやSNSに連絡が届く、「温度・湿度監視IoTシステム」であれば10万円程度で利用できます。プログラムやインターネットの設定など不要で、置けば使えるものがでてきており、比較的容易に実証実験ができます。PoCの概念を持った検証ツールを使うことで、製造業では温度を一定に保つ必要のある部品加工、食品加工の毎日の温度管理、サービス業であれば介護や見守り、農業ではビニールハウスの温度管理など様々な場所での生産性向上のための取り組みができます。

 「IoT = DX」ではありませんが、「IoTはDXの第一歩」であることは間違い有りません。

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筆者紹介

株式会社 エムティブレイン
代表取締役 山口透
http://mt-brain.jp/

「経営とITと人材育成」のコンサルティング業を中心とする株式会社 エムティブレインの代表取締役。現在、経営とITの橋渡しをする社外CIO (社外IT顧問)サービス提供中。

【主な著書(いずれも共著)】
「IoT しくみと技術がしっかりわかる教科書」 技術評論社
「この1冊ですべてわかる ITコンサルティングの基本」 日本実業出版社
「生産性向上の取組事例と支援策」 同友館

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