システム管理者が知って得するDX推進に役立つIoT・AIの技術と運用③

第3回 DX=IoTが全てではない!?DX推進についての誤解と3つの必須事項

目次
IoTのシステムを導入したら現場が混乱する?
「IoT化してもDXは完成しない」という真実
真の目的は何か?
DX推進するためにシステム管理者が行う3つの必須事項
IoTを導入してDX推進するための近道
最後に

IoTのシステムを導入したら現場が混乱する?

昨今、企業にDXが必要だと各方面より叫ばれています。コロナ禍を通してテレワークや脱ハンコ・脱FAXが一般的となり、身近な場面でもDXしたケースが見られるようになりました。
一方で社内業務を見渡すと、未だにアナログ対応や自動化できていない業務が残っているケースもあります。紙の書類対応はもとより、数値管理をエクセルのファイルでやりとりしていたり、社内で文書を共有するにもメールしかコミュニケーションツールがなかったりする会社もみられます。
これらでのやりとりを行うことで煩わしさを感じるのでしょう、テレワークになったことも相まって「生産性が下がった」という声も多く聞かれます。

この現状を打開しなければ…と思った矢先に、取引先の企業がIoTをつかったシステムを売り込んできた。これは最新のデジタル技術でよさそうだ、IoTのシステムを導入すれば社内業務も改善されるだろうと考え、社内稟議へ。稟議も無事に通り、導入にこぎつけました。

しかし現場は混乱。社内では不便になった、使えない、わからないとブーイングが続出。システム管理者が社内でのトラブルシューティングにひとつひとつ対応しなければならず、しまいには別の部署の上長よりクレームをつけられる始末に…。
そうこうしているうちにシステム導入後1カ月、

・納期遅延が発生
・社員による総労働時間・残業が全社的に増えてしまう

状況に陥り、経営層からIoTシステム自体の運用中止を求められてしまいました。
最新のIoTのシステムを導入したのに、いったいなぜこういった事態に発展してしまうのでしょうか?

 

「IoT化してもDXは完成しない」という真実

先程の例は笑ってしまうほど極端な例かもしれません。ですが「あー、あるある」と少しでも似たようなケースを経験されていたり、他社の話を聞いたことがあったりする方もいらっしゃるでしょう。
実際に経営層が恐れていることはこれです。決して安くない投資でIoTシステムを導入したのに、社内の状況が変わるどころか悪い結果になってしまった…ということを経営層はいちばん危惧しています。

ではいったいなぜ、先程のような混乱が発生するのでしょうか。
これは
・目的と手段が混同している
・段取りの合意形成が取れていない
の2点が起因しています。

先程の例を挙げますと、紙書類の対応や社内でやり取りの多いファイルでの管理を改善するためにデータの取得からデータ分析が行えるようにIoTシステムを導入したとしましょう。紙書類の対応や社内でやり取りの多いファイルでの管理が煩わしいから生産性が下がるから導入しました。

ここで2つ質問です。
・「煩わしい」と感じているのは「誰」でしょうか
この「誰」が抜け落ちているそもそもの原因であるケースもあります。ご自身の部署内では不便と感じている人が多いかもしれませんが、別の部署や営業所などでは全くそんなことを感じていないケースも多々あります。人間なので一度決まったやり方に慣れてしまうとそのやり方のほうが便利・スムーズだと感じ、そのやり方を突然変えられてしまうことが逆に不便に感じられてしまうものです。

・生産性が下がっているのはこれだけが原因でしょうか
「生産性が下がった」とは具体的に何が、どれくらい、なぜなのかが曖昧になっていませんか?本当に紙書類やファイル管理だけが原因なのか、部署を横断したらファイルや書類はどのように管理・活用されているのかを確認が取れていますでしょうか。

往々にして「DXしなければならないから」という曖昧な目的からは「IoTを導入しないといけないから」に目的が変わり、目的と手段が混同してしまいます。さらに部署間や社内全体で導入の段取りやそもそもの合意がとれていないと、先程のように社内が混乱してしまいかねません。

「現場はDXしていない」ことから安易にIoTシステムを導入してもDXは完成しないのはこういった理由があるからです。

 

真の目的は何か?

もそもDXとは、ITやデジタルツールの浸透によってビジネスや生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる変革全体のことを表します。
IoTはDXを達成させるための手段であって、目的ではありません。極端に言うと企業によってはオールアナログからIT機器を導入し、スプレッドシートで数値管理するだけの、いわゆる「IT化」だけでもDXしたとも定義づけることもできるのです。なぜならDX推進における目的がデジタルを利活用することであり、デジタル化・IT化・DX推進の段階的な適用だからです。
・デジタイゼーション(アナログからデジタルへ)
・デジタライゼーション(データ活用によるプロセスのデジタル化)
・デジタルトランスフォーメーション(企業や社会全体をデジタルを使って変革する)

DXの本質は企業によってさまざまです。では本当にDXを推進するためには何が必要でしょうか。
それは「真の目的は何か」がキーワードになります。
あなたの会社においてDXの真の目的は具体的に何でしょうか?これが言語化されていないと、そもそも目的が曖昧なゆえに達成は難しく、DXとは言えません。

上記図はDXにおけるフローです。現状、社内にはさまざまな課題や問題があると思います。それらの課題や問題に対してIoT化すれば、RPA化すればDXできるのは半分正解ですが、すべてが正解ではありません。
図のようにIoTはDXを推進する上での手段・プロセスの一部分であり、目的ではないからです。会社によってはRPAが必要かもしれませんし、もしくはIoTですら必要ない場合もあります。

IoTをはじめデジタル技術を導入したら何ができてどのような未来が実現できますか?
そしてそれは企業経営層の意向とマッチしていますか?

この2つが両立することこそDXにおける「真の目的」です。経営層はビジョンやミッションに基づいて経営しています。ビジョンやミッションは会社によってそれぞれのためDXにおける真の目的も会社によって違ってきます。
したがって、会社ごとにDXを推進することで具体的にどんな未来を達成したいのかを明確にしなければなりません。

ここで問いですが、「あなたの会社のDXとはなんですか?」

 

DX推進するためにシステム管理者が行う3つの必須事項

では、社内DXを推進する当事者であるシステム管理者は、DXを推進していくために具体的にどういった事を進めていけばよいのでしょうか。

1つ目は課題の整理と課題解決の必要性の言語化です。
社内における現状の課題を具体的に洗い出ししましょう。残業時間や仕入れコストなど数字で表せることがベストです。課題を洗い出して整理して「真の目的」を達成させる上で何が必要なのかを具体的に言語化していくことが大事です。
IoTなどのシステムが必要であれば、具体的な成功事例を添えたら自身や第三者に伝える際もよりイメージが湧きやすくなります。

2つ目は合意形成・スケジューリングです。
短期・中期の時間軸で段取りやロードマップを明確にしていくことはもちろん、それらが現場に無理のないスケジュールなのかどうかヒアリングを行い、現場レベルで「Yes」をとる合意形成が欠かせません。そのためには最低でも「いつ」「どの部署で」「誰が」「何を」「どのように」の4w1hは必ず明示しましょう。

合意形成のポイントとしては経営層と現場の2軸で行うことです。
まずは経営層の「Yes」を獲得しましょう。これがDX推進におけるセンターピンとなるからです。上記で挙げた「課題の整理と課題解決の必要性の言語化」を行い、成功事例をプレゼンテーションすることによって経営層からの現場へのトップダウンを獲得しましょう。
会社組織においては、経営層からの現場へのトップダウンがなにより強い効果を発揮します。

同時に、現場レベルでもある程度のYesを獲得していくことも忘れてはなりません。経営層は現場の実作業までは把握できません。生産するのは現場ですので現場が対応できないと生産性が下がってしまいます。現場レベルでの意見を吸い上げ、概ね合意が取れるよう動いていきましょう。

3つ目は導入前後のフォローアップです。
実際に導入の準備に入る時からがシステム管理者の本格的な役割になります。社内で共有したロードマップのとおりに動かしていきますが、その段階でも現場には経営層によるトップダウンによる不安と疑念が残ります。こういったところへのフォローも全体を俯瞰して行っていきましょう。
導入後はなにかとシステムのトラブルや機器に不慣れな現場へのフォローが入りがちです。不満が起こらないようにあらかじめマニュアルを作成しておく、現場のマネージャーには導入前にテスト教育をするなど入念なコミュニケーションを欠かさず行いましょう。

以上3点は面倒ですが必須事項ともいえる段取りです。急がば回れ、DX推進に拙速になりすぎず着実に進めていきましょう。

 

IoTを導入してDX推進するための近道

 IoTはDX推進する上で欠かせない強力な武器(ツール)となります。一方で現場が使いこなせず混乱する、それは「諸刃の剣」になることだって有り得ます。経営層の目的・現場の目的を両方達成させ、変革させることが真のDXです。
DXには社内文化を変えるほどの大きな変革をもたらすため、社員全員まで浸透するのにはどうしても時間がかかります。階段を一段ずつ上がっていくようにプロセスを進めて、経営層や現場へのフォローを行うことが真のDX推進への近道なのです。

 

最後に

私はポッドキャスト(音声配信)で『DX企画書のネタ帳』という番組を毎日配信しています。経営層から現場の方までDX推進におけるヒントや現場の問題解決、「ぶっちゃけ話」まで、聴けます。370回コンテンツが無料・聴き放題ですのでぜひご視聴ください。

 

参考資料
経産省「DXレポート2」
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-3.pdf

DX企画書のネタ帳
https://www.himalaya.com/album/2446900

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コメント

筆者紹介

近森 満(ちかもり みつる)
DX時代の人材育成・教育支援を行う株式会社サートプロ代表取締役CEOとして、IoT検定制度委員会 事務局長、経済産業省地方版IoT推進ラボ・メンターとして、中小企業・製造業向けにIoT人材育成の啓蒙活動を行う。

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