複雑化するデータセンターのIT資産管理システム構築への挑戦

第11回:クライアント環境のインベントリ収集と活用

さて、第11回は「クライアント環境のインベントリ収集と活用」と題して、クライアント環境のソフトウェアライセンス最適化に必要となる、「インベントリ収集ツール」の要件と収集に関わる注意点や効率的な活用方法について解説します。

目次
① ライセンスの総数管理で事足りる
② ライセンス(デバイス/ユーザー)の割り当て管理の必要がある
③ ユーザーを識別しユーザーライセンスを管理する必要がある
④ ライセンスリクエストを自動化する必要がある
⑤ ソフトウェアを自動配布する必要がある
⑥ インベントリ情報をライセンス割り当て情報と自動突合する必要がある
⑦ ライセンスハーベストを自動化する必要がある

まず大切なことは、目的を明確にすることです。

組織の規模、クライアント環境、ソフトウェアライセンス契約の状態により、何をどこまで管理するべきかが異なります。 ツールには「IT資産管理ツール」、「ソフトウェア資産管理ツール(SAMツール)」や「ソフトウェアライセンス最適化ツール(SLOツール)」から「構成管理データベース(CMDB)」などが存在し、いくつかのジャンルでは国内と海外で呼び方が違います。

国内のIT資産管理ツールと言われている製品の多くは「エンドポイントセキュリティ」を主な目的としてSAMに付加的に対応しています。一方で、海外製品でSLOツールと言われるものは、主にライセンス契約の利用規約条件や購買記録からライセンスの割り当てやハーベスト(回収)、再利用などライセンス消費の最適化を目的としているもの、CMDBのように構成を管理することを主たる目的としているものなどがあります。そのため、何を目的とするのかにより既に導入済みのIT資産管理ツールはエンドポイントセキュリティを目的として残し、ライセンス契約をコントロールする目的でSLOツールを導入する方が効果的な場合もあります。 また、インベントリ収集目的のエージェントツールは、 Microsoft社の SCCM (System Center Configuration Manager)のようなインベントリ収集やソフトウェア配布を主な目的とする製品を使用し、正台帳をコントロールするSLOツールとのデータ連携を自動化することで、効率的なシステム構築が可能になります。

「SAMをより効率よく実施するためにIT資産管理ツールを置き換えてみたものの、なかなかやろうとしたことが実現できない・・・」というユーザーの苦労話をよく聞きますが、これは、明確な目的とツールの要件定義があいまいな状態でツールベンダーの提案を受け入れた結果として発生する「IT資産管理ツールあるある」です。 IT資産管理、ソフトウェア資産管理、ソフトウェアライセンス最適化は、「何を、何のために行うのか」という目的を明確にし、その対象となるライセンス契約を含む契約や購買情報をどのように組織横断的なプロセスで改善し必要となる情報をシステムに集約するのかを理解して取り組むことが大切です。必要な教育を受けて理解を高めていくことが成功への近道と言えるでしょう。

ツール選定の際には、以下にあげる要件ポイントに注意しましょう。

① ライセンスの総数管理で事足りる

総数管理ができるレベルの機能があれば十分であり、いわゆるIT資産管理ツールに付加的に提供されているSAMの機能でまかなえる。
(※①に該当するケースは、ライセンス契約の統合によりライセンスモデルが統合されている場合や、ライセンス数が少ない場合です。)

② ライセンス(デバイス/ユーザー)の割り当て管理の必要がある

デバイス/ユーザーライセンスなどが混在し、同一製品であっても複数のライセンス契約やライセンスモデルのライセンスが存在するため、1ライセンスごとに割り当て先を管理する必要がある。デバイスを一意に識別し、当該デバイスのユーザーを識別する必要がある。

③ ユーザーを識別しユーザーライセンスを管理する必要がある

ユーザーを一意に特定し、ユーザーに割り当てるライセンスを管理する必要がある。

④ ライセンスリクエストを自動化する必要がある

ライセンスの在庫をコントロールし、リクエスト時に割り当て可能な在庫引き当ての処理とリクエスト承認を自動的に実施する必要がある。

⑤ ソフトウェアを自動配布する必要がある

ライセンスリクエストが承認された後に在庫引き当てが可能な場合は、即座にソフトウェアを対象のデバイス/ユーザーに自動配布して自動的にインストールする必要がある。

⑥ インベントリ情報をライセンス割り当て情報と自動突合する必要がある

インベントリ収集した情報をライセンス割り当て管理している正台帳ツールとひもづけし、定期的、自動的にインベントリを突合しコンプライアンス状態を把握する必要がある。

⑦ ライセンスハーベストを自動化する必要がある

ライセンスが割り当てられたデバイス/ユーザーが廃棄/退職などによりライセンスが不要になった際に自動的に検出し、ライセンスを在庫として再割り当て可能にする必要がある。

ここでは、インベントリ収集のためのクライアントエージェントを含むソフトウェアをインベントリツールと定義したとします。 例えば SCCM をインベントリツールとして考えた場合、前述の要件ポイントをSCCM のみで充足することは不可能です。この場合は、ライセンスをコントロールするための正台帳を作成、管理するSLOツールとSCCM を連携させて必要となるインベントリ情報を取得し、ソフトウェア配布の自動化を実現させます。欧米の大手組織の多くがインベントリツールとSLOツールの組み合わせで複雑なライセンスのコントロールを実現しています。 自社環境がAD(Active Directory) を使用している環境であれば、ADに登録している共通認証IDを用いたSCCM インベントリ情報のラストログインユーザー名などを利用して、クライアントPCのユーザーを特定するために最初のPCのユーザーリストを作成します。そのリストを用いてユーザーライセンスの割り当て処理を行い、実地たな卸しの際に利用するリストを作成します。たな卸しの際の確認は、各ユーザーが使用するPCの資産管理番号やロケーションを確認するだけで、実地たな卸しで確認すべき最も重要な情報「PC(資産管理番号)-ユーザー-ロケーション」を確認することができます。PCのインベントリ情報はSCCMの情報をシリアル番号などでSLOツールと自動連携させ、発注情報から資産管理番号を割り当てて登録済みの資産レコードとひもづけることで、たな卸しの際に確認するべき対象から除外することができます。

ソフトウェア資産管理やソフトウェアライセンス最適化は、「インベントリツール」と「正台帳を作成、管理するツール」の組み合わせで実現されますので、要件ポイントを実現するためにインベントリツールがどのように正台帳ツールと連携し自動化が高まるのかを見極める必要があります。一つの例としては、SCCMとFlexera社のFNMS(FlexNetManagerSuite)などとの連携が目安となりますので要件定義の参考にするとよいでしょう。

以下に、IT資産管理システムのRFI/RFPのポイントをまとめた資料ダウンロードサイトをご紹介しますので参照してください。 再配布の際は出典を「国際IT資産管理者協会:IAITAMより」と明示して利用してください。

IT資産管理システム RFPたたき台 基本要求事項
http://files.iaitam.jp/2017ITAMAutomationSystemRequirement.pdf

IT資産管理システム RFP項目と機能項目概要
http://files.iaitam.jp/2017RFPItemAndDescription.xlsx

国際IT資産管理者協会 フォーラムサイト メール会員登録だけでフォーラムサイトのホワイトペーパー、プロセステンプレート、アセスメントシートなどダウンロードが可能!
http://jp.member.iaitam.jp/

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筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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