職場のメンタルヘルス

第1回 メンタルヘルスの現状

概要

各企業におけるメンタルヘルスの取り組みはここ数年かなり熱心になっているように思います。その背景には、うつなどの心の病気で仕事を離れる、もしくは会社を去って行くといった従業員の数が増加しているからでしょう。多くの企業でメンタルヘルスに対する取り組みが熱心になっている一方で、依然として心の病気にかかる従業員の数が減らないという状態が続いています。その理由としてはいろいろなことが絡んでいると考えられますが、今月からの連載では、メンタルヘルスの現状と課題、その対策について紹介いたします。

働く人々のメンタルヘルスの現状としては、61.5%の人が『仕事や職場生活で、強い不安、悩み、ストレスを感じている』と答えています。(2002年度 厚生労働省調査)この数値は、1997年には62.8%でしたので、幾分か減っていますがなおも6割を超えています。その内訳として最も多い理由にあげられたのは、『職場の人間関係』でした。続いて、『仕事の量』、『仕事の質』、『会社の将来性の問題』の順に多い結果でした。この結果を見て多くの人が納得されているのではないかと思います。
 
昨今は、職場の人間関係が希薄化していることに加えて、コミュニケーション不足やコミュニケーション力の低下などが起きていると思われます。職場で隣の席に座っている人に対してもメールでやりとりをして、直接会話をしないといった話はあちらこちらの組織でよく耳にすることです。勿論、メールに残した方がいい伝達事項というのもありますが、ちょっとした挨拶や返事までメールにしてしまい直接の会話をしないというのではコミュニケーション不足やコミュニケーション力の低下を益々招きます。 コミュニケーションは単に文字だけで行われるもの以外に大切な要素があります。このことについては後ほど詳しく紹介したいと思います。
 
『職場の人間関係』に続く理由の『仕事の量』や『仕事の質』については、多くの企業が過去最高益を上げる陰で、より生産性や効率性を求めるためにはできる限り少ない人数で今まで以上の仕事の量や質をこなさなければならなくなっているという影響が大きいと思われます。 2006年に中央労働災害防止協会から発表された報告によれば、実労働時間が増えるほど『仕事や職場生活で、強い不安、悩み、ストレスを感じる』労働者の比率も増えるという結果が示されています。また、客観的な業務量はそれほど変化していなくても、新たな技術や知識を求められるために、それに見合った知識やスキルの修得が追いついていかず、実質的な負荷が増えていると感じている場合も多いように思います。そのような中で、人の負担を減らす新しい仕事のやり方を構築するとか、教育やサポート体制でも真剣に検討されれば、そうした状況は緩和されるのでしょうが、現実はなかなかそのようになっていないと言えます。とはいうものの、これ以上働く人たちが心の病気に倒れるとか、仕事の第一線から離れていくとなれば、そのしわ寄せとして、残る人たちにその分の仕事量や負荷が重くのしかかり、働ける余力のある人ほどぎりぎりの状態で働かざるを得なくなり、病気になっても休めない、休むときには深刻な状態になるまで頑張らなくてはならないといった悪循環のスパイラルに陥ってしまっている一部の企業では、人が働きやすい適正人員の見直しや、従来型の効率追求の組織構造を見直し始めているようです。
 
今やメンタルヘルスケアは企業の社会的責任としても問われる時代になっています。それが強く認識されるようになったきっかけは、2000年6月に最高裁が初めて労働者の安全配慮義務を怠ったことは会社側の責任であるという判決を下し、多額の和解金が遺族に支払われたことがあげられますが、近年、心の病や自殺による労災認定が増えていることも大きな理由となっているようです。ちなみに、1999年の労災認定は僅か14件でしたが、2006年には205件と急増しています。昨年度、財団法人社会経済生産性本部から発表された調査報告によると、2002年~2006年の3年間で、心の病が増加していると答えた企業は61.5%にのぼり、心の病による一ヶ月以上の休職者のいる企業は74.8%と急増しています。この問題に対する厚生労働省の推進も熱心になってきており、2000年8月に発表された『事業場における労働者の心の健康づくりのための指針』に基づいて近年は様々な支援ツールが充実しています。同様に、労働安全衛生法の一部が改正され、2006年4月からは長時間労働者への医師(産業医)による面接指導が追加されました。それだけ国をあげて取り組む重要テーマになっていると考えられます。
 
そのような中で、企業の取り組みといえばこれまでは心の不調を感じた個人への対応やその周辺の対策といったどちらかと言えば消極的なものが中心でしたが、組織環境としての取り組みや職場としての取り組み、個人にしても心の不調を感じる前にストレスをうまく扱ってモチベーションにつなげるといった積極的なものへと移ってきているように思います。厚生労働省からは、メンタルヘルスケアの具体的進め方として、図にあるように、心の健康づくり計画に基づいた4つのケア(セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保険スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケア)の推進が示されています。弊社(㈱ビジネスコンサルタント)では、ストレスへの理解と対処をさらに一歩進めて、ストレスを溜める思考パターンの理解とストレスを効果的なエネルギーに変える心のあり方、支援のあり方をプログラムとして提供しています。
 
 
次回は、ストレスそのものの実態と、それを受け止める人間について紹介します。

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筆者紹介

筆者紹介
伊藤 弘子(いとう ひろこ)

1986年株式会社ビジネスコンサルタント入社。営業職を経て、コンサルタント部門へ移籍。メンタルヘルストレーニング、セルフエスティーム向上トレーニング、モチベーションの高いチーム・部下を支援するマネジャー研修に力を注いでいる。

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