- 目次
- 1.世にはびこるDX化・DX導入との言い方
- 2.DX化・DX導入、用語の誤用の「実害」
- 3.DX(デジタルトランスフォーメーション)ではなくDX(ダメバツ)?
- 4.DX化やDX導入との用語は定着?誤解は二度と解けない?
- 5.実害の実相
- 6.真に正しいDXの理解
- 7.DX(ダメバツ)ユーザーにどう向き合うか
1.世にはびこるDX化・DX導入との言い方
DXとはデジタルトランスフォーメーション。トランスフォーメーションには変革という意味が含まれている。つまりデジタルを活用した企業の一大変革である。これを単に英語の翻訳違い、あるいは用語の間違いとして片付けてしまうのは簡単だ。
仮にDX化なる呼び方を英語に直すとすると、デジタルトランスフォーメーショナイズなどと大変ややこしいことになる。これを日本語化すると、デジタル変革「化」など、重複表現になってしまい、用語・訳語上正しくない。そういった間違いの指摘はさておこう。所詮、言葉は記号であり、DX化が正しくDXを指していて、万人の共通理解になっているなら、それでも良い。
しかし、看過できない問題は、DX化・DX導入なる言い方は、DXに対する大きな誤解を含んでいることであり、実際、救いようのない実害を生んでしまっている。
2.DX化・DX導入 用語の誤用の「実害」
「DX導入」なんて用語を身につけてしまうと、 DXとはある種のIT機器やクラウドサービスのような、何らかのデバイスやサービスを導入して終わるもの、という風に信じ込んでしまわないか?
大企業の花形部署は、かつては証券会社の営業や自動車会社の開発部門であったかもしれないが、今や業種に寄らずDX推進室、などが花形部署のようになっている。
DX化も同じ。社用車全てをEV化する、と言うのとは本質的にレベルが違う。自らが変わらないといけないのだ。何かを道具や手段を変えるのではない。
社長のツルの一声、「わが社も全社的にDX導入する!そのための専門部署であるDX推進室を設置する。」の号令一下、IT技術に長けた優秀な人材を集めるのだが、彼らは全ての業務プロセスを熟知しているわけではない。むしろ、IT以外の知識はスッカラカンかも知れない。
彼らが、全社横断的にあらゆる部門のデジタルを用いた経営判断フローの変更をはじめ、細部に渡るプロセス変更やカイゼン、ができるだろうか?いや。業務プロセスや業務を実施する現場の実情を知ることの方が大切で、そこがわからないと業務フロー洗い出しや「課題分析ができず、システム全体を再構築して何をめざすのか?目的や全体の要件すら固まらない。いや、その前に、DXは、企業の在り方の変革である。企業で使っている大きなシステムを再構築、「はい完了!」と行くはずがない。
3.DX(デジタルトランスフォーメーション)ではなくDX(ダメバツ)?
ウチワの話なら、まだ良い。しかしこの言葉を真に受けて、財界の方や政治家や経営者など一流と言われる方々が平気で誤用を再生産し、自社の社是や経営理念(ここに誤用のまま書くところは少ないであろうが)少なくともキャッチコピーやTVCMにしっかり書き込んでいるところは、ある。SNSの広告などでは顕著である。IT(イット)革命に取り組む、と高らかに宣言した政治家がいたように思うが、比べてもはるかに恥ずかしい誤用であり、経営者がこのような間違いをやっていることは企業のブランド価値を毀損し、経営者の評価、組織の実力に甚だしい悪影響を与えかねない。
名だたる企業でもこうした間違いが多く、ちなみにDX化、DX導入でGoogle検索をかけると、「DX化とIT化は違う?」などと題した記事を掲げているITベンダーが存在するし、名だたる通信事業者の関連企業が「DX化を進める日本企業は増加しています」などとご高説を垂れている。DX化の定義まで説明してくれるところすらある。根源は誤用であるのに、である。
全社でDX化を進めます!などとアピールするところは、自らDX企業であることをアピールしているつもりで、実はDX(ダメバツ)企業のレッテルを自らに貼っているのと同じことになる。企業・ブランド価値の毀損ですらある。
4.DX化やDX導入との用語は定着?誤解は二度と解けない?
ただし、私も含めて普及に伴ってこうした誤用に追従している専門家も増えてきているのが悲しい。私もITやDXの事業を出かけ始めた頃には、DX導入と書いてあるが、それは違う。デジタル変化化みたいな重複表現になるので、DX推進としましょうなどと、いちいち厳しくチェックしていたものである。
ところがマスコミでもDXという表現が普及するにつれ、誤用も増えてきた。頻発するようになると、議論を遮ってまでいちいち訂正したのでは、やっていられない。今やもう誤用が正しいもののように蔓延しているのである。
なので、社員や顧客に対して間違いを指摘するときも、気をつけざるを得ない。DX化という言い方もしますけど、トランスフォーメーション、変革ないし、企業の変身、という意味、社会課題の解決や、一回で完了でなくやり始めたらやめない、ところには留意してくださいね。などと補うしかない。
下手に正しい解説をすると揉めるし、失注するかもしれない。
5.実害の実相
「DX化」と言ってしまう人はここの出発点が理解できてないため、DXを導入するとは、どこか1部をデジタルに置き換えると言うことしか考えつかない。そしてその「何を」変えるかと言うと、「アナログ」を思い浮かべる人がほとんどであろう。実は違うのである。CPS=サイバーフィジカルシステムの構築により、フィジカルで動き、管理していた部分をデジタルによる管理・制御に変えるのである。あくまでも動くフィジカルの部分はなくならないので、フィジカル部分を効率的に見える化し、コントロールするために中間部分をデジタル化するのだ、と言うところに留意しなければならない。
DXを導入せよと言われた。IT専門職の方はそれこそ走り回っているわけであるが、その内容は人によって多岐にわたるその内容への理解、どういうことを指しているか、人によって見解が大きく分かれる。ある人は、オンプレミスの基幹システムをクラウドに置き換えることだと言い、ある人は、工場の見える化だと言い、ある人は、バックオフィスのデジタル化だと言う。
実は、方法論はなんでも良いのだ。前述の方法は、すべて正しく、DX推進の要素の一つである。
手作業や、システムに登録されていないマニュアルや在庫、など部分部分のデジタイゼーションを行い、時にシステムとはほとんど関係のない、工場内の動線設定や人動、紙のドキュメントの管理方法までが対象になり得る。フィジカルの部分が見えないとデジタル化できないからだ。
「DX化」にしても、ちょっとした誤解が噴飯物の結果を呼びかねない。化学工場で圧力系などの計器類をIoT化して「DX化」する。「何使ったらできるんや?「ハイブリッド圧力系とPLC、通信ゲートウエイなどが一式となります。」「おお、そら、安いもんや。早速出入りのIT屋さんに頼んでくれ。」「え、いや、1個とちゃうねん。工場全体なんで1358個。合計で1億円でもすまんくらいですわ。」「うーん、1個で済まんのか?そんなめんどうくさい、べらぼうに高いもん、皆目ワヤや。今まで通り人間で見て回れ!」というような光景が、あちこちで繰り広げられているのが現状である。
6.真に正しいDXの理解
誤用の実害は、DXを広く正しく捉えているかどうか、というところにある。
IPAのサイト「笑撃!DXクイズ」が面白くてやがて悲しき。参考になる。
問題:次のうち、DXの「変革」に相当する単語として、一番、適当だと思うものはどれでしょうか? ここでは、正解として(3)が挙げられている。変身である。 |
図1. IPAのサイト「笑撃!DXクイズ」他にも本質をついた多数のクイズが掲載されている。
DXの本質は、企業やビジネスが「変わること」にあるのだ。使用するシステムやツールを変えることもプロセスのカイゼンではあろうし、デジタルも活用しているのであるが、DX導入・DX化と言ってしまうと「ツールを変えるだけで良いんだろう。誰かにやらせよう。私は私のやり方を変えないよ」と言う罠に陥るのである。
デバイスや通信方法などの各論での誤解・認識違いなら、傷は浅いのであるが、DXという概念が、企業活動や社会課題解決をも包含した大きな概念であるだけに、ここを間違えると傷は深い。
図2.
良く例に出される共通認識の欠如、要件や仕様の吐き違えを表すブランコの絵
1と2は数量の違いだからすぐ理解できる。3も解決可能か?しかし4のような極端な誤解「ITベンダーが全部やってくれるはず、走り始めてからもお願いね!」と言った間違いは是正が難しい上に、紛争になりかねない。
図3.
DX化の誤解 道具の選択に振り回され、意識も行動も変わらない。
企業や経営者、社員の「意識と行動の変革」こそ重要。デジタルツールは少しで良い。
オレンジの経営者が強そうに見えませんか?
7.DX(ダメバツ)ユーザーにどう向き合うか
こうした企業では機械化、電子化、などと言うように今までの何かを新しい何かに変える発想になってしまっている。が、DXの本質は「変わる」ことである。IPAの啓発漫画では、DXの最も適切な訳語として、企業の「デジタル変身」との表現をあげているが、DXの本質を突いている。何か借り物の知恵を持ってきても、コンサル会社にDX戦略を立てさせても、行動原理を変えなければ、DXなんて実現しないし、形だけ整えても一過性のものとなり、2025年の崖、VUCAの時代と言われる世の中でどんな荒波の中でも身を交わし、ツールを持ち替えて、身をかわす、変化し続けることによって変化を乗り切る企業に化けることはできないのである。
ITベンダーにとっては、辛い立場に置かれることが増えるが、考えられる対応は、ないわけではない。
しかしお客様であるユーザー企業様の首脳陣の脳みその中まで「DX化」「DX導入」に染まっているところ、正そうとするのは大仕事である。
当然、ITベンダー側もTOPが動く必要がある。そして、TOPからミドルマネジメント、スタッフに至るまで、根気強く、繰り返し次のようなメッセージを発信していく。
「弊社が全力を挙げて貴社とともにDXを技術的側面から考えていきます。しかし、業務の変革が大切。そこは、貴社も全社で業務見直しの体制をとってください。」
「課題を共有しましょう。実情を開陳いただかないとできることは少なくなります。弊社も努力します。」
「要件や仕様の決定が遅れたり、逡巡する時間が増えたりすると、効果が上がるのも遅くなります。遅延の原因には、私どもITベンダー側の責任もありますが、運用をどうするかなどはユーザー企業でないと決められません。ここに責任分解点という考え方が出てきます。その点には十分留意ください。」
など、精神的なアプローチから始めて、プロジェクト管理手法の丁寧な説明、要件や仕様にないカイゼン提案、(コア技術に突いては難しくても、連携仕様や番号管理手法などは、ITベンダーが得意とする分野はある。)をことあるごとにぶつけてみる、そして、業務改善全般を選任とするような「プロセスオフィス」(プロジェクト時の臨時的なものでも良いか?うーん)※の設置を検討してもらうなども有効だと思われる。
※https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00148/062700341/
有料記事で恐縮だが、日経クロステック木村武史氏の連載などが参考になる。
連載一覧
筆者紹介
ITコンサルティング DXpower 代表
◆独立行政法人中小企業基盤整備機構機構 中小企業アドバイザー
◆公益財団法人関西文化学術研究都市推進機構 コーディネータ
◆一般社団法人エコビジネス推進協会事務局長
◆BAC 大阪
◆みせるばやお
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