DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力⑮

第15回 中小企業における革新性::未来を拓く新たな可能性を見つけるために

概要

「DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力」で紹介した内容について、 DX推進する上で欠かせない知識とマインドを8人の専門家がお伝えします。

 

目次
革新性とは
推進ステップ
1.技術探求
2.経営者から「自己変革力」をつける
3.ビジネスモデルや業務プロセスでの、変革に対する開放性と適応性
最後に

1. 革新性とは

デジタルトランスフォーメーション(DX)における革新性は、現代の中小企業が持つべき最も重要な特性の一つです。しかし、この概念についてはしばしば誤解や混乱が生じることがあります。一体何をもって「革新性」を評価するのでしょうか?そしてその要素は、我々の組織や業務にどのように反映されるのでしょうか? ここでは、これらの疑問について明確にするとともに、中小・中堅企業がDXの革新性を追求する上でのアプローチを提示します。

革新性とは、何かを「新しく、または異なる方法」で行う能力です。この概念は、ビジネスモデルの創出、業務プロセスの改善、新製品やサービスの開発、あるいは顧客エクスペリエンスの向上といった多くの側面に関連します。DXの観点から言えば、革新性は新しいテクノロジーを使ってこれらの変革を促進することを意味します。

 

推進ステップ

では、革新性を推進するためには、どのようなステップで進めればよいでしょうか。

 

1.技術探求

第1に、技術探求が必要です。新しい技術、特にAIやクラウドコンピューティングなどの新しいテクノロジーを評価し、それらが私達のビジネスに経営の視点からどのように役立つかを理解することが重要です。これらの最新技術が我々のビジネスにどのように影響を与え、また利益をもたらす可能性があるかを理解する必要があります。

たとえば、AIは顧客データの分析から予測メンテナンス、ChatGPTに代表される生成型AI(Generative AI)、各種自動化されたカスタマーサービスなど、企業の多くの業務を効率化し、最適化することができます。また、クラウドコンピューティングは、中小企業にとって大きな価値を持つ技術です。これは、ITリソースを必要なときに必要なだけスケールアップまたはスケールダウンして利用できます。これにより、中小企業は大規模なITインフラを自社で保有・管理する必要がなく、運用コストを大幅に削減することが可能となります。また、クラウドはリモートワークやフレキシブルな働き方をサポートし、企業の業務連携を強化します。データとアプリケーションがクラウド上にあるため、どこからでも安全にアクセスし、共有することができます。

 

2.経営者から「自己変革力」をつける

第2に、革新的な組織を作るために経営者自身が変わること、また、革新的な技術を理解する態度を示さなければなりません。

日本の中小企業が革新性に対するアプローチが弱い背景には、伝統的なビジネス文化や保守的な経営スタイルがあります。

コロナ禍の2年間では、中小企業に対してさまざまな支援策が行われました。持続化給付金や一時的な資金支援、事業再構築補助金など、緊急時の支援が行われました。しかし、これらは一時的な対応策であり、ポストコロナ時代では中小企業の経営力そのものが大きく問われることになります。現在はコロナ以前に戻ったのではなく、コロナ以降の変化を経営者自身が環境の変化を冷静に見極め、迅速かつ果敢に対応する「自己変革力」が求められます。

経営者には、困難な壁にぶつかっても最後まで諦めずに取り組む意志や、柔軟に状況に対応する能力、組織全体を統率するリーダーシップが求められるのは、コロナ以前と変わりません。これに加えて、ポストコロナ時代では、経営改善や成長に取り組む際には、経営者が直面するのは既存の解決策ではなく、マインドセット自体を変える必要があります。

経営者が自らの考えや行動を変えるためには、自身が納得できるような深い理解が必要です。経営者が十分に納得すると、自ら積極的に行動を起こすことができます。経営者の内発的な動機づけが得られることで、困難な状況でも最後まで取り組むことができます。これにより、企業や事業者の潜在的な力が引き出され、最大限の成果を生み出すことができます。

経営者がこのような状態に達すると、経営課題を自ら解決するための自走化が可能になり、自己変革力を身につけたと言えます。経営改善や成長を目指す取り組みは、経営者や社員など当事者自身によって実行されるものです。

一方で、経営者が独力で腹落ちに至ることは容易ではありません。多くの中小企業や小規模事業者では、自己変革を妨げる障壁が存在しています。例えば、過去の成功体験に固執し現実に向き合えないケースもあります。このような経営者は、客観的な状況認識や最適な選択肢の選択が困難なため、中小企業診断士や公的機関などの外部の専門家から課題設定やプロセス実行の支援を受けながら取り組み、腹落ちすることが必要です。

 

3.ビジネスモデルや業務プロセスでの、変革に対する開放性と適応性

第3に、我々のビジネスモデルや業務プロセスが革新的な解決策を受け入れることができるように、全員が十分な柔軟性を持つことが重要です。技術の進化は速く、我々のビジネスがそれに追いつくためには、変革に対する開放性と適応性が必要です。

上記の経営者が「自己変革力」を身につけると同時に、組織全体で開放性と適応性を身に着けなければなりません。この柔軟性は、組織文化、構造、および業務プロセスのレベルで育成されます。

例えば、組織文化のレベルでは、新しいアイデアを試すことを奨励し、失敗から学ぶことを恐れない環境を醸成することが重要です。これにより、従業員は新しいアプローチを試す自由と信頼感を感じ、組織全体が革新により素早く対応する能力を持つことができます。

また、業務プロセスのレベルでは、適応性の高いフレームワークや手法の導入を検討することが役立ちます。例えば、アジャイル開発手法は、素早く反応し、プロジェクトの方向性を必要に応じて調整する能力を提供します。このような手法を用いることで、新しい技術や市場環境の変化に対応する能力を強化することができます。

具体的な取り組みとしては、定期的な技術トレンドのレビューやスキルアップトレーニングを実施し、チーム全体の技術的な理解と能力を向上させることが考えられます。また、新しいプロジェクトやイニシアチブにおいては、リスクをとって新しいアプローチを試すことを奨励し、成功した場合にはそれを業務プロセスに組み込むことも重要です。これにより、組織全体が技術の進化とビジネス環境の変化に対応する柔軟性を育てることができます。

 

最後に

革新的なソリューションを開発し、導入するための計画と戦略が必要です。新しいテクノロジーや手法をただ追求するだけではなく、それが我々のビジネス目標にどのように貢献するかを理解し、その実現に向けた道筋を描くことが重要です。

革新性の追求は、しばしば困難で時間とリソースを要します。しかし、その価値は計り知れません。新しい技術や手法を用いて業務を革新することで、我々は顧客価値を高め、競争力を維持し、持続可能なビジネスを構築することが可能となります。革新性は、我々が新たな可能性を追求し、未来を拓くための鍵となります。だからこそ、DXにおける革新性は、我々全てにとって最重要なテーマなのです。

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筆者紹介

株式会社 エムティブレイン 代表取締役 山口透

http://mt-brain.jp/
「経営とITと人材育成」のコンサルティング業を中心とする株式会社 エムティブレインの代表取締役。現在、経営とITの橋渡しをする社外CIO (社外IT顧問)サービス提供中。
主な著書(いずれも共著)
「IoT しくみと技術がしっかりわかる教科書」 技術評論社
「この1冊ですべてわかる ITコンサルティングの基本」 日本実業出版社
「生産性向上の取組事例と支援策」 同友館

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